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契約者の幻影 ~暗躍する者達~

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契約者の幻影 ~暗躍する者達~
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第6章「黒き亀の間」

「さて、ここね。敵がいるのは間違いないでしょうけど、どうやって攻めようかしら」
 黒き亀の間の入り口、扉の前でルカルカ・ルー(るかるか・るー)が考える。出来ればこちらの有利になる形に持ち込みたい所だ。そう思っていると、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が一つの提案をした。
「別にわざわざ相手の舞台に上る必要は無いだろう。奇襲で決めてはどうだ」
「どういう事?」
「立て篭ったテロリストの鎮圧と考えて貰えれば良い」
 そう言って思いついた手段を述べる。それによると、自身やパートナー達が持っている爆弾を投擲すると同時にカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)のブリザードを発動。その後自分のバイクを無人で走らせ囮とする事で視界不良の中の敵のあぶり出しを行い、そこにありったけの雷系攻撃をぶつけるという物だった。
「楽しそう……」
 作戦を聞いたルカルカの第一声がこれだった。ダリルも敢えてそれを否定はしない。
「あの、一つ気になったのですけど……」
 篁 光奈(たかむら・みつな)が手を上げる。作戦を遂行するにあたって、重要な点に気付いたからだ。
「万が一、中に傷付けてはいけない物があった場合はどうするのでしょうか?」
 確かにダリルの作戦は先手を取るという点では有効だろう。だが、それはあくまで部屋の内部に攻撃・破壊対象しか存在しないと仮定した場合の話だ。契約者ならともかく普通の人間がいた場合は命の保証は出来ないし、重要な設備があった場合はそれに深刻なダメージを与えてしまう可能性もある。
「ならば一度中を覗き見てから決めれば良いのではないか? 作戦が困難でありそうなら普通のやり方に変えるまでだろう」
 頭数である夏侯 淵(かこう・えん)の意見に皆が頷く。慎重に扉を少しだけ開けて確認した先には水で覆われた地面と亀の形をした足場が見えた。が、肝心の敵と思われる者の姿は見えない。死角となっている場所もいくつかあるので、潜伏されている可能性も無い事は無いが。結局ルカルカ達はダリルに判断を任せる。
「どうする?」
「ふむ……何かしらの機材が置かれているようにも見えんな。ならば作戦を第二段階まで決行。あぶり出しの効果があった場合は第三段階へ、無かった場合は警戒しながら内部に進入と行くか」
「オッケー。それじゃ……やってみましょうか」
 ルカルカの合図で扉が開かれる。同時にルカルカとダリル、それからカルキノスと淵による機晶爆弾の投擲が行われた。続けて創造のプリズムの光を受けて魔力を増したカルキノスのブリザードが室内に吹き荒れる。
「こんなもんか。それじゃ一旦閉めるぜ」
 扉を押さえ込んだ瞬間、内部で多数の爆発音が響いた。小型でも高性能な機晶爆弾連鎖爆発を起こしたのだろう。タイミングを見計らい、ダリルがロボット形態にしたバイクを自走させて部屋へと突入させた。
「さて、釣れるか……?」
 いつでも攻撃出来る態勢を取り、待つ事しばし。予想された相手方の攻撃は起こらず、そのうちに爆弾によって巻き上げられた水とブリザードの効果はほぼ霧散してしまっていた。
「反応無し、か。このまま入っちまった方が良さそうだな」
「カニ、ストップ! 誰かいるよ!」
 踏み込もうとしたカルキノスをクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が止める。それと同時にバイクロボが攻撃され、奥から一人の男が現れた。
「あ、あれは……!」
 相手の姿を見た永倉 八重(ながくら・やえ)が前に出る。あれは因縁の相手。そして今やシャンバラの至る所で名を轟かせている男。その名も――
三道 六黒(みどう・むくろ)……!」
「ぬしらか。縁深き者達が集うと思うてはおったが……深くなり過ぎたようだな」
 出会い頭に何かしらの奇襲があってもおかしくないと行動を予測した六黒によって予め下がらされていた複製体達が前に出て来る。六黒はそれらにこの場を任せると、入れ替わりに部屋の奥へと踵を返した。
「こ奴らを貫く事あらば、再びわしが相手をしよう。まさか紛い物相手に遅れを取るとは思わぬが……ぬしらの力、見せてみるのだな」
「……」
「八重、大丈夫か? 奴の殺気、凄まじい物だったが」
 奥へと消えて行く六黒を見据える八重を心配し、ブラック ゴースト(ぶらっく・ごーすと)が尋ねる。
「大丈夫です。怯む訳には行きません……あの男、三道 六黒が相手なら……!」
 一瞬だけ目を閉じ、再び見開く。その瞳は普段の漆黒から紅へと色を変え、続いて黒髪も、そして制服までもが赤を基調とした魔法少女の服へと変化していった。
「さぁ、行きましょう皆さん! まずはあの偽者達を――」
「ちょい待ち、それはオレらに任せとき」
 意気込む八重を制して七枷 陣(ななかせ・じん)龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)が前に出る。
「本当は誰かしら邪魔する奴が来るだろうからそいつを相手しようと思うとったけど、因縁持ちがいるならそっちは譲るわ」
「あぁ、前座は俺達が片付ける。永倉はあの男を追え」
「は……はい! すみませんが、ここはお任せします!」
 複製体を相手にする者、六黒を追う者、そして独自の行動を取る者。この場に集まった者達がそれぞれに分かれ、一気に動き出した。
 
 
「ふむ、まさかわしの偽者までいるとはのぅ」
 点在する足場の一つに跳び乗り、グラン・アインシュベルト(ぐらん・あいんしゅべると)がつぶやく。彼の目の前には瓜二つの男が立っていた。
「しかし、ここには沢山わしよりほんのちょっとだけ若い者達がおるというのに、そこでわしを選ぶとは分からん奴らじゃ」
 余談だが、グランは爺さん扱いされると怒る。
「こっちは朱鷺の偽者ね……ある意味これも因縁の戦いと言えるのかしら」
「…………」
 隣の足場にはルビー・フェルニアス(るびー・ふぇるにあす)東 朱鷺(あずま・とき)の二人が立っていた。彼女達の正面にはグランと同じく、朱鷺と同じ姿をした女性が立っている。この複製体はセイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)を融合した影響があるのか、本物とは違う若干の狂気が混ざっていた。
「東 朱鷺、それにルビー・フェルニアス……キミ達では無く朱鷺が本物だという事……教えてあげます」
 言うが早いか銃を抜き、こちらへと撃ってきた。二人は素早く回避すると、他の足場へと跳び移る。
「足場が無いと厄介ですね……少し増やしましょうか」
 ルビーは氷術で一部の水を凍らせ、そこを伝ってショートカットする。距離さえ取れれば自分の間合い、弓による攻撃が可能だ。
「おっと、やらせる訳にはいかんのぅ」
 遠距離攻撃を試みた相手を目ざとく見付け、グランがルビーへと迫る。
「させぬでござる! 偽者ごときがグラン殿を真似るなど、おこがましいでござるよ!」
 もちろんこちらもそれを黙って許しはしない。素早く駆けつけたオウガ・ゴルディアス(おうが・ごるでぃあす)が棒手裏剣で牽制する。だがグランは回避行動を取るどころか、むしろオウガの棒手裏剣をカタクリズムで弾き落としてみせた。
「これぞ亀の甲より年の功。貰ったぞぃ」
「偽者に好きにさせるつもりはありません」
 今度は伽耶院 大山(がやいん・たいざん)がルビーの前に立ち塞がり、攻撃を受け止める。グランの攻撃は融合により実力行使でとどめの一撃を喰らわせようとする力強いものだったが、それさえも大山は耐えて見せた。
「上出来じゃ二人共。偽者よ……これで消え去るのじゃな」
 隙が出来た所に本物のグランが斬りかかる。攻撃に特化したグランはその反面、防御が手薄になるという弊害があった。グランはその弱点を突くように自身の力を金剛力とドラゴンアーツで極限まで高め、武器の全重量を乗せた回避不可能な一撃を振り下ろした。
「この力を受けよ。本物はこのわしじゃ……!」
「ぬぅ……! む、無念……」
 大剣での防御も通用せず、グランはあっさりと消え去る。グラン達はその結果に満足せず、すぐにもう一人の複製体へと意識を切り替えた。
 
 そのもう片方、朱鷺との戦いは本人が中心となっていた。遠距離からルビーの支援を受け、互いに足場を転々としながら銃撃戦を続ける。
「やりますね。では」
 埒が明かないと見た朱鷺がブリザードを放つ。跳べないようにしてから狙い撃つつもりだろう。
「……ダゴン」
「ようやく来たわね。真打ち登場よ!」
 避けきれないと判断した朱鷺がブランガーネ・ダゴン(ぶらんがーね・だごん)を召喚した。プライドの高さに反して普段はへっぽこぶりが目立つダゴンだが、下半身や腕が蛸である彼女にとって、水辺での戦いはまたとない名誉挽回のチャンスな為に張り切りぶりも相当な物となっている。
「さぁ、私の動きから逃げ切れる?」
 ダゴンの武器はデリンジャー。押し付ける事で威力を発揮する武器だ。それを回避する為に朱鷺は次々と足場を変えていくが、ダゴンは水上でも速度を落とす事無く追撃してくる。
「かくなる上は……」
 先ほどルビーが作っていた氷の足場を通り、ショートカットを狙う。
「ふむ、我の予測通りですね」
「……では、溶かすぞ」
 だが、それは罠だった。朱鷺が跳んだのを見計らい、ルビーの火術とアーガス・シルバ(あーがす・しるば)のファイアストームが一気に氷を溶かしてしまう。
「――!」
 当然ながら朱鷺は足場を失い、水場へと落ちてしまう。更に追い討ちとばかりにアーガスのブリザードが周囲に吹き荒れ、脱出を困難にしていた。その隙を逃さず、本物の朱鷺が近くの足場に跳び、自身の複製体を狙い撃つ。
「これで……終わり」
 発砲。グラン同様に朱鷺もその姿を消し、この場には本物だけが残っていた。
「ふふん。私がいない事、それが敗因だったわね!」
 ふんぞり返るダゴン。彼女の言い分は過剰ではあるものの、本物と偽者の差、それはパートナーがいるかどうかという事が重要なのも事実だろう。
「さて、次に行くかのぅ。色々と厄介そうじゃが、何事も無いといいの」
「大丈夫でござるよグラン殿、この後も拙者達にお任せ下され」
 オウガ達を筆頭に、他の場所で戦っている味方の援護へと向かう。ここで自分達がやらなければいけない事は、まだまだありそうだった。