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サルヴィン地下水路の冒険!

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サルヴィン地下水路の冒険!

リアクション

 大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)
 ロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)
 和泉 絵梨奈(いずみ・えりな)
 共に魔獣を相手取って戦う彼らには、ひとつの共通点があった。
 それは、蛸の魔獣を食べるためにこの場に集ったことだった……!
「まずは、刺身であります!」
 剛太郎の連射が触手を横から撃つ、撃つ、撃つ。肉がえぐれ、水路に向かって伸びてくる触手をひるませる。
「せめて、火を通せば……!」
 その隣では、コーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)が光条兵器のレーザーを放ち、表皮をじゅうじゅうと焼いていく。
「まだまだ、分かっていないでありますな。こういうのは、生が一番であります」
 水路の中まで触手を引き込み、銃を捨てて光条兵器に持ち帰る。軍刀型のそれで細切れに触手を切り裂いていく。
「こういうのは、何があるか分からないからな。酢やわさびに漬けて毒抜きと味付けをするんだよ!」
 と、触手が伸び、水路に突っ込んでいくまで潜んでいたロアが言う。
「動きを止めてくれ!」
 共にやってきたパートナー、レヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)に向けてロアが言う。
「まったく……それなら、引きつけてくれ」
 レヴィシュタールが答え、ロアが飛び出す。至近距離から矢を放ちながら、迫る触手に待ち受ける。
「よくこんなものを食う気になるものだ」
 ぽつりと呟きながら、雷を放つ。びしりと触手が痺れ、動きを止める。
「よし、いまだ!」
 ロアがザイルを引きだし、触手に向けて巻き付ける。根元に近い場所を、ぎゅうっとキツく締め上げた。
「まるで、仕込みをさせられている気分だな」
「その通りだよ!」
 レヴィシュタールの魔力が、今度は氷とかし、縛り付けられた箇所を氷つける。とはいえ、あまりの太さのせいで、完全に凍結させるのは難しい。
「それじゃあ、行きますよ! 離れてください!」
 絵梨奈が両手で大口径のエアーガンを構えている。ロアとレヴィシュタールは頷き、縛り上げられ、凍り付いた触手から距離を取った。
「なぜ俺が蛸の相手なんか……」
 彼女の着る魔鎧、ジャック・メイルホッパー(じやっく・めいるほっぱー)がぶつぶつと漏らしている。
「たこ焼き、美味しいじゃないですか!」
 絵梨奈が答えて、集中力で続く愚痴を意識から閉め出した。魔鎧の力と自身の能力を込め、電撃を乗せた銃撃を放つ。
 ばちんっ! と電流が抵抗を突き破って流れる強引な音が響く。さらに斉射を続けると、凍り付いた触手にヒビが入った。
「これで……!」
 強烈な射撃が、ついに触手の繊維を粉々に砕いた。大樹のような触手が、水路に落ちる。
「よし。切り分けて持って帰る。しかる後、調理するであります」
 と、光条兵器を手にしたまま剛太郎が言う。
「よし。腕が鳴るぜ!」
 ロアがぐっとこぶしを突き上げる。
「地球人は、こんなものまで食べるのですね……」
 ぽつりとコーディリアが呟く。
「いや、相当変わり者か、変わった民族だけだ」
 切り分けをはじめている彼らを眺めながら、レヴィシュタールが言った。
「あ、あはは。変わった民族ですみません」
 引きつったような笑顔で、絵梨奈が答えた。
 こうして、蛸の触手は彼らに食されることになったのである。合掌(感謝の気持ちを忘れずに)。


 触手の多くを切り払われ、やがて巨大な影が水面から姿を現す。風船に粘液を流し込んで膨らませたような印象のフォルム。触手の半ばを失った蛸は、ずるずると這いだし、プールの縁に立って契約者たちを忌々げににらみつけた。
「うひゃあ……こりゃあ、思ってたよりずっとでかいな」
 クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)は思わず呟いていた。運悪くも、彼の眼前に蛸が現れたのである。
「一度、引きますか?」
 と、ルルーゼ・ルファインド(るるーぜ・るふぁいんど)が聞く。クドはゆっくりと首を振った。
「いや、もしやつに近づけたら使おうと思っていたとっておきがあるんだ。それを今、試すとするよ」
「とっておき?」
「触手が邪魔しないように守ってくれ」
 魔道銃を抜き放ち、クドがまっすぐに駆け出していく。
「いい加減、私にも何を考えているのか教えてください!」
 叫びながらも、見捨てる訳にはいかない。ルルーゼは二本の刀を縦横に古い、クドに迫る触手を切り払い、あるいは十字に構えて受ける。
「まだだ、まだ……!」
 クドはさらに走る。触手の根元、魔銃の口が覗けるような位置まで、一気に肉薄した。触手に過去舞えれば、もはや逃げ場はない。
「クド!」
「ここでいいよ」
 告げ、クドは無造作に魔道銃を抜く。すでに魔力の充填は終わっている。
「これを使ったら俺は動けなくなるから、そのときは頼むよ」
「何!?」
 ルルーゼが聞き返すより早く、何気ない動作でクドは引き金を引いていた。魔道銃の銃身が弾けそうなほどの魔力……クドの全魔力が本流となって放たれる。空間の大気が大きく震え、魔獣の巨体が浮き上がって水の中にたたき落とされた。
「クド!」
 あまりの威力に驚き、水中に避難する魔獣をそのままに、ルルーゼがクドを抱え上げる。外傷はないが、魔力と気力を全て打ち放ち、まさに虫の息である。
「こんなものをいきなり使わないでください! なぜ何の相談もなく……!」
 一度逃げた魔獣が、いつ戻ってくるか分からない。ルルーゼはその体を抱える手間も惜しみ、両足を掴んで引きずる。物陰まで、一気に。
「いやあ、ははは……まあ、なんとかなったね」
「倒せたわけじゃありません! まったく……!」
 運ばれながら軽口を叩くクドをきっとにらみつけながら、ルルーゼは叫ぶ。
「誰か! 治療を!」
「大丈夫です、準備はしておきましたから」
 影から影に身を移しながら、キリエ・エレイソンが素早く近づいてきた。クドの表情と心音を確かめ、
「精神力の減退ですね。ひとまず、応急処置をしますね」
 キリエはほほえみながら告げ、クドに手をかざした。
「どうも。……あんたが白衣の天使なら、もっとよかったんだけどねぇ」
 治療を受けながら、クドが言う。
「まったく、こんな時まで……」
「何を言いますか。確かに守護天使ではありませんが、白い服は着ていますよ」
 ルルーゼの言葉を遮り、警戒に立っていたセラータ・エルシディオン(せらーた・えるしでぃおん)が、クドに向けて言った。
「……この場合、白衣の天使という言葉は、女性のことを指すのですよ」
 キリエが言う。セラータはきょとんとしてから、
「そうですか。私なら、女性よりもキリエの腕と真摯さのほうがよいと思いますが」
「……調子狂うなあ」
 真顔で言うセラータに、クドは思わず、治療を受けている身の上も忘れて呟いた。