リアクション
● 「ウォーエンバウロンが?」 「ええ、そうですよ。『音に限らず、人にとって何かを伝えることこそが言うなれば“魔法”のようなものだ。だとすればそれは、いまだ未完成に過ぎないのだろう』と、ね。そう考えれば、彼にとって魔法というものがどれほど大切にされてきたものか、分かるでしょう?」 とある民家である。 モーラのお師匠は、テーブルの席について紅茶とお茶菓子をいただいている水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)と天津 麻羅(あまつ・まら)に、ウォーエンバウロンのことについて話してくれた。 モーラのお師匠は、ふくよかな女性というのが言い表すときに最も似合う言葉だと思えた。まるで聖母か何かのような包容力を感じさせるのは、彼女が常に柔和なほほ笑みを崩さないからだろうか。 きっとモーラのことも娘のように大切に思っているのだろうと。そんなことを緋雨が思うほどの、温かな印象を持った女性だった。 「だから……あの娘を遺跡に?」 「ふふっ……さあ、どうでしょうか」 そしてたまに、このお師匠様は子供のような笑みを見せることがある。 緋雨はそんな彼女に対してほほえましそうに微笑してから、最後のお茶菓子を食べて、紅茶をぐいっと飲みほした。ちょうど、麻羅もすでに飲み終わっていた頃合いである。 「それじゃあ、そろそろ行ってきます」 「はい。……よろしくお願いいたします」 手早く荷物を纏めた緋雨と麻羅は、お師匠様に見送られて民家を出ていった。 目指すは森。そしてウォーエンバウロンの遺跡。 「――って、こんな時間じゃない!?」 「いまさらじゃのう……」 慌てて駆け出していった緋雨と麻羅が見えなくなるまで、その背中を見届けながら、モーラのお師匠は笑顔でひらひらと手を振っていた。 ● それでもって―― 「フフフフっ! エンドレス・ブルーはオレらがいただくっ!」 「な、なんですとーっ!?」 モーラたちの前に現れた謎の冒険者、七枷 陣(ななかせ・じん)は、ビシッと彼女たちを指さして宣言した。それに対してわざとらしい声をあげる契約者の面々。 モーラは泣き顔になりながらすがる。 「ど、どうしてそんなことするんですかーっ!?」 「…………」 考えてなかったらしい。 沈黙。やがて何事もなかったかのように彼は答えた。 「……ロ、ロマンかな」 「むむぅ……そ、それなら納得できます」 明らかに怪しいのだが、モーラは素直にうなずいた。 改めて、勢いをつけて言い放つ陣。 「と、とにかく――エンドレス・ブルーはオレたちが先に頂く! 先にオレらが手に入れたら、お師匠さんはさぞ失望するやろうな〜」 「ひ、卑怯です! そんなの横暴です! なんて性格の悪い人なんですかっ! 諸悪の根源とはあなたのための言葉ですよっ!」 「………………」 さすがにそこまで言われるとは思っていなかったのか、ズーンと沈む陣。ポンポンとパートナーのリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)たちに励まされていた。 「そこまで言うなら仕方ない! オレも心を鬼にして頑張るぜ……。と、言うわけで、さらばっ!」 「あ、お待ちなさい諸悪の根源!」 ある意味では成功なのかもしれないが、モーラにとって『諸悪の根源』となってしまった陣は泣きながら遺跡を突き進んでいった。 「オ、オレ、ほんとはそんなに悪い奴じゃないのに〜〜!」 |
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