リアクション
● 知識欲――というものがある。 たとえそれが、どれだけ実用性があるかどうかなど、そんなことは関係ない。利があろうがなかろうが、秘宝や遺跡といったものは知識欲というものをそそるにふさわしい晩餐なのだ。つまり、それだけで価値があると言える。 少なくとも―― 「ふぅむ……これは興味をそそるのぉ」 ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)にとっての遺跡とは、そんな存在だった。 彼女は遺跡のある一室にいた。周りを観察するように見回して、一つ一つの造形に意識を運ぶ。それだけで、彼女はひと時の安らぎを得たように幸せそうな顔になっていた。 と、まあそんな彼女の影響を受けたのかどうか…… 「ダンジョーン探索〜っ! あの探検隊がついに復活、復活ですよぉ!」 機晶姫のジェーン・ドゥ(じぇーん・どぅ)がはしゃぎまわっていた。 この機晶姫。顔だけは無表情だが、感情だけはやたらに豊かときてる。表情の代わりに感情表現をするアホ毛は、どうやらご機嫌なようでピコピコと揺れていた。 ウキウキ気分で、声高らかに腕をあげるジェーン。 「探検隊をジェーンさん! 目指すは魔法使いの遺跡! ジェーンさんの行く先に何が待ち受けているのか――」 「うるさいんじゃ」 ベシーンッ! 「痛いでありますよマスタァ〜」 頭をどつかれてアホ毛をしゅんと垂らす機晶姫はさておくことにして、ファタはその部屋の奥へと向かった。 そこにあったのは、彫像だ。それも、ヴァイオリンのような弦楽器からフルートのような木管楽器まで、様々な楽器を携えている彫像だった。演奏家たちが集まったようなそれは、指揮者の姿はないが一見すれば小さめのオーケストラ団に見える。 そして、彫像には数多くの紋様が刻印されていた。 何らかの魔法的要素があるのか……? 訝しげに彫像へと近づくファタ。彼女は彫像の周りを観察し、ふとその背中に蓋のようなものがあることに気づいた。 「……?」 蓋をあける。 そこにあったのは、5本の弦だった。長い時が経っているというのに、彫像に比べてその弦は今この場で取り換えたのかと思うほど保存状態が良かった。もしかすれば、彫像の紋様はこのための魔法式だったのかもしれない。 ファタの表情が嬉しそうに歪んだ。 未知のものに遭遇したことで、高揚感がうずうずと沸き立ってきたのだ。そして彼女の信条としては、何事も試してみるのが最善の方法である。 と、いうことで―― ピン――ッ 弾かれる弦。すると、弦の甲高い音が鳴ると同時に彫像の紋様を光がなぞり始めた。隣の弦を弾くと、同じように、今度は違う場所の紋様が光る。 ファタは興味深そう唇を緩める。いくつかの彫像の蓋を開き、同じように弦を弾いた。光る場所は違うものの、やはり紋様が発光するのは同じようだ。 彼女は、楽しげにつぶやいた。 「なるほどのぉ……」 「マスター……何がなるほどなんですかぁ〜。ジェーンさんには分からないです〜」 「音は伝わる……ということじゃな」 「…………?」 首をかしげるジェーンの横で、ファタは恍惚に浸っていた。 ――彼女の興味は尽きない。知識欲とはきっと、そんなものだ。 |
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