校長室
女体化薬を手に入れろ!
リアクション公開中!
「まぁまぁまぁまぁセルマ様、なんて(すてきな)お姿に!」 開口一番、秋葉 つかさ(あきば・つかさ)はそう言った。 どう見ても、同情しているようには見えない。むしろ、ゆるんだ口元といい、輝きの増した目といい、この事態を120%楽しんでいるとしか思えなかった。 というか、彼女がこれ以外の反応をすることなど、だれに想像できたのか? (ああ、とうとう逃げられなかった…) セルマはげっそりした思いでソファの背に顔をうずめた。 つかさがこういう反応を示すのは分かりきっていたから、なんとかして逃げようといろいろいろいろ画策したのだ。それはもう、懸命に。トイレの小窓から抜け出そうとしたりとか。 だけど正悟もホワイトベールも、見逃してはくれなかった。 「さあさあ、殿方はご退室なさってくださいませ。よもや、婦女子の着替えを覗きたいなどと、不埒なお考えはお持ちではありませんわよね?」 と、正悟を部屋から追い出したつかさは、後ろ手に内鍵をかける。 念のため、持ってきたハンカチをかけて鍵穴から覗けないようにもした。 「カーテンも引きましょうねぇ。外から覗かれたら大変ですもの…」 「着替えるだけですよね…?」 妙にうきうきと弾んだ声を出すつかさに、早くも警戒するセルマ。 つかさの乱行ぶりは有名だが、実際に目にしたことはない。密室での声や音とかはともかく、実際に中で何が行われているのかは、想像でしか知らない。――今までは。 彼女の一挙手一投足にびくびくしているセルマは、まるで子犬のようだ。 つかさはそのうぶさをくすりと笑って、頷いた。 「もちろんですわ。こちらにご用意してきましたお洋服に、セルマさんをお着替えさせるだけです」 「よかった――って、えっ??」 目を丸くしたセルマの胸に、シーツの上から手を添える。 「まぁ。何をそんなふうにご心配なさっていらっしゃるんですか? だってセルマ様、女性のお召し物の付け方などご存じないでしょう?」 「いや、あの…」 メイド服とかならあるし、無理やり女装させられたことも過去幾度かはあるセルマは、素直に頷くことができなかった。 「さあさあご遠慮なさらず。女の私にお任せくださいませ」 つかさは持ってきた服をテーブルの上に並べた。 「さあどれでもお好きな物をお選びくださいな」 「あ、うん…。えーと…」 といっても、どれもセルマには似たように見えた。布が少なく、レースや透かしがかなり際どい部分に入っている。 (こ、これ、かなりえぐれてるみたいだけど、透けないのかな……というより、見えること前提のような……あれ?) 体はどうあれ中身は男のセルマは、やっぱりこういう物には興味津々。無意識のうちに前のめりになって見入ってしまう。 その横髪を後ろから持ち上げ、つかさは耳元で吐息とともにささやいた。 「ああ、それにしてもセルマ様……そうして女になった気分は如何ですか? ぜひお聞かせいただきたいですわ」 「ど、どう、って……言われても…」 つかさは胸が大きい。相当大きい。後ろから寄れば、当然セルマの背中に押しつけられる。その感触には、どうしてもドキドキしてしまう。それと承知のつかさはますます押しつけながら、するりとたわんだシーツの間から手を差し入れた。 「あっ、何を…」 「だって触れないとサイズが分かりませんでしょう? ふふ…。私のブラで合わないようでしたら、どなたかに買ってきてもらわなければいけませんものね…」 つかさの手が、ここぞとばかりに胸に触れ、なでまわし、いたぶる。 快楽主義者のつかさは、どこにどう触れればよりセルマを追い詰めることができるか、熟知していた。 どうすれば、満たされないもの足りなさでその身をうずかせることができるかも…。 「すごいわ……こんなに大きいなんて…」 「や……はぁ…っ」 ついにがくりとセルマの膝が折れた。 「あらあら。足にきましたか? ではソファにまいりましょう」 つかさのなすがまま、ぐったりとソファにくずおれたセルマは、乱れたシーツの白さとあいまって、かなり官能的だ。 つかさは舌なめずりをして、そのシーツの下に隠れた部分に手をはわせた。 「ねぇ、不思議だと思いませんか? セルマ様。なぜそのものを見せられるより、こうして見えない部分に想像を働かせる方が、より刺激を受けるのでしょう」 「…………っ…!」 何かに耐えるよう、セルマの体が小刻みに震えだす。身をねじり、背を向け、逃げるように匍匐し、その先にある見えない何かを求めて伸ばした手をこぶしにする。噛みしめた口からは、切れ切れの息しか吐き出せない。 「おつらいですか? ですがその方が何倍も、あとになってすばらしさは増すのです。あなたを、今まで一度も達したことのない極みへいざなって差し上げます。ですから、どうかもう少しだけ、我慢してくださいね……ふふ…」 つかさは震える背中に這わせていた舌を止め、身を起こした。 それまでシーツの中へ入っていた手を引き出し、胸元から何かを取り出して見せる。 「……つ、かさ……さん…?」 「セルマ様。とても残念な事に、今回私にもあなたにも肝心のものがありません。その代わりとして、これをお持ちいたしました。大丈夫、見た目ほど熱くありませんから…。 これであなたを少しでもおなぐさめできましたら、こんなにうれしいことはありませんわ」 つかさは震えるセルマの肩になだめるようなキスの雨を降らせると、おもむろに炎のクリスタルをシーツの下に差し入れた。 「セルマちゃーーーんっ。お洋服が必要だって聞いたから、たっくさん持ってきたよー!」 向かい側にドアノブがぶち当たるぐらいの勢いでバーーンとドアを開け、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が飛び込んできた。 「……あれ? セルマちゃん、どうかしたの?」 なんかすっごく疲れてるみたい。 「どうもしませんわ」 ドアのすぐ近くにいたつかさがにっこり笑って答える。 「ただ、女性の体になったことで相当精神的にまいっているようですの」 「そっかー。そうだよねー、わたしだってある日いきなり男の子になっちゃったら、きっとそうなるもん。つかささんだってそうでしょ?」 「ええ。そうですわね」 つかさはそっと、セルマの肩に手を乗せ、思わせぶりに指を這わせた。 びくっとセルマの肩が震える。 「セルマ様、女性の体になられましたことは、そう悪いことでもありませんでしたでしょう? 奥様にどうすれば誠の悦びを与えられるか、お知りになられたのですから。 ですから……ねぇ。先ほどのことは、私とあなただけの秘密にしましょう。私たちだけの、ね」 そっと口元に人差し指を立て、その指先でセルマの唇に触れると、つかさは部屋を出て行った。 「うわー。すごーーい。きれいな服ー。こんなのあったら、ワタシのいらなかったかな?」 テーブルの上に並べられたつかさの服を見て、ノーンがきゃーっと声をあげた。 邪悪な気分にとらわれていたセルマは、彼女の無邪気さに救われた思いで頭を上げる。 「……そんなこと、ないよ…。つかささんの服は、どれもきわどすぎて、ちょっと困っていたんだ…。ノーンの服、着させてもらえるかな…」 「そっかー。 うん! あのね、セルマちゃん、お胸がすっごく大きくなったって聞いたから、わたしのだとあわないと思って。上の服だけここでパパッと手直ししちゃうね! 心配しないで、すぐできるから! ダーツとかフリルとかリボンとかでいくらでもごまかすテクニックはあるんだよっ!」 自信たっぷりに宣言すると、ノーンはさっそく上質の布やメジャーを取り出しててきぱき作業を開始した。 「ほらー、セルマちゃん。みんなお庭にいるよー?」 「だめだよ、やっぱり。これ、スカート短すぎるって」 「そんなの全然フツウだよー」 ノーンとセルマの会話の声が、だんだん近づいてきたのを聞き取って、正悟は持ち上げていたグラスを下した。 「あ、出てきた出てきた」 「うう……これ、絶対短いって」 スカートの端を少しでも伸ばして足を隠そうとしているセルマと、それを後ろから押し出すノーン。 彼らを待っていたのは、写メの一斉フラッシュだった。 「あっ、わたしもわたしもー」 ぱたぱたぱたっと庭に駆け出して、ノーンも用意してあったデジタル一眼POSSIBLEを使ってパシャパシャやり始める。 「や、やめてよぉ〜…」 拒絶するセルマの声は弱々しく、フラッシュの音にさえ負けていた。 「セルマー、それって昔の「だっちゅーの!」ポーズ? 意識してるのー?」 「ふっるー! それふっるー!」 「うう……みんなひどいよ…」 今度は言葉でのイジメだ。分かっていても、赤面してしまう。 それをまた面白がって、みんなパシャパシャパシャパシャ………… 「セ・ル・マ・くーん! こんにちはーっ」 突然背後から飛びついてきたのは鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)だった。 「みんなもこんにちはだよー。ボク参上だよー。遅くなってごめんねー」 「こんにちはー!!」 庭にいる全員が声をそろえて返す。 セルマにほおとほおをくっつけて、笑顔でピース写真を撮られまくった氷雨は、両腕をセルマの首にひっかけてくるんと回転した。 大きなセルマの胸をしげしげと見て、にやりと笑う。 「わぁー、今日は本当に女の子なんだー。凄いー、面白いー。 あ、でも、セルマ君、顔だけ見たら、普段となんにも変わらないねー。やっぱり普段からセルマ君は女の子みたいだーってことだよねー。それってつまり男の娘って事だよねー。だからぜーんぜん違和感がないんだよねー」 「そ、そんなことないよ…」 「ううん! そんなことあるって! ねー、みんなー? むしろ、女の子になってもココまで変わらないなんてもはや才能だよ! さすが、セルマ君! キング・オブ・男の娘だねー。その栄誉を讃えて写真撮って、あとでボクの知り合いみんなにメールしておくねー」 「……えっ…?」 驚いている隙に、携帯でパシャパシャっ。 ついでに後ろにも回ってパチリ。 「セルマくーん、気づいてたー? そうやって前ばっかり気にしてスカート引っ張ってると、後ろはおしり丸見えってコト!」 もちろんうそだ。 ノーンはミニスカの下にきちんと三重のペチを入れている。だがそんなこと彼には分かりっこない。 「えっ!? ううううそうそっ?」 アッサリ氷雨の策に乗って、パッと手を放して今度は後ろを見ようとする。 そのせいで胸が伸びて、前のスカートは持ち上がるわ、上着の裾が上がってへそが丸見えになるわ。 それをまた写メが一斉にパシャパシャパシャパシャ………… 「アハハ、セルマ君ってば、ほんっとかわいーいー」 「もう……もうみんな、いいかげんにしてよ〜〜〜〜っ!」 セルマは耳の先まで赤くして叫んだ。 ひと通りやり終えたと落ち着いて、熱狂の収まったところで、それぞれが持ち寄った食べ物や飲み物を広げての宴会に突入した篠宮邸の庭で。 「さあ、写真撮影会が終わったら次はスケッチ対決よ! あなたに挑ませいただくわ、師王アスカ!」 スケッチブック帳と鉛筆を手に、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が宣言をした。 「あなたは本職の画家を目指しているかもしれないけれど、私も一応作家のはしくれ! デッサンにおいてはそれなりの自信を持っているわ! どう? この勝負、受けて立つ気概があなたにあるかしら?」 仁王立ちし、挑発的に横の髪を後ろへ払い込む祥子。 彼女と視線を合わせたまま、師王 アスカ(しおう・あすか)はすっくと立ち上がった。 「いいわ〜、絵にかけては背を向けたことなんてないんだからぁ。 それで、題材は?」 「もちろん! セルマよ!!」 その言葉を耳にした瞬間、プーーーッとセルマが飲み物を吹いた。 「うわっ! 汚っ!! セルマ、その癖なんとかしろよ!!」 真正面に座っていた正悟が急いで飛び退く。 「……え? 俺?」 これ以上、何をやらされるの…? 「さあ来て、セルマ君! あなたで勝負よ〜」 だがこれまでひとに言えないことでさんざんな目にあってきたセルマは、もうすっかりおびえたウサギと化していた。 デッサン勝負と言っても、どうせただのデッサンではないのだ。また何かされるに違いない、そうに決まってるという思いでいっぱいになって、ただただ首を振り続ける。 「あら、そぉ?」 そんなセルマを見下ろして、アスカは悠然とスケッチブックの中の1枚をめくって見せた。 「これ、何だか分かる〜?」 それは、からみついた丸の触手にコスられ、いたぶられて、よがっている裸のセルマのスケッチだった。 「……なっ……ななっ……なぜそれを…っ!」 あそこにはだれもいなかったハズ! それに暗くて、デッサンなんかできるわけないのに…! 「ふふっ。画家の想像力と構成力をなめないでほしいわぁ。もちろん、丸君から聞いた話を元に描いた絵よ〜。ちゃーんと丸君に確認もとっているから、かなり忠実に再現できているはずよ〜?」 それはもう、バッチリと。 セルマがひと目見て汗ダラダラになるくらい、そっくりそのままです、アスカさん。 「これ、自分でも結構いい出来だと思うのよ〜。こう、100号ぐらいのサイズで仕上げて、空京万博に出展――」 「わーっ、わーわーわーっ!! ――分かりました、アスカ様。何でもさせていただきます…」 もう……もう好きにして…!! どうなってもいいよ、俺なんか!! セルマは観念し、顔をおおった。 「さあ、宇都宮お姉さま、勝負よ〜。10分・8分・5分・3分の計4回の速写スケッチ! モデルはもちろん、セルマ君――ううん、セルマちゃん〜」 メイド服から、シャオがなぜか持っていたベビードールに着替えさせられたセルマは、地面に両手をつき、両足を横に崩したポーズをとらされていた。 このベビードール、乳白の薄絹を数枚重ねただけのもので、かなり透け感がある。胸のところは3枚重ねになっているためほとんど白。デザイン的には小悪魔的で蠱惑的なのだが、大事な部分は見えそうで見えないつくりにしてあって、なかなか凝った物だった。 そんな物を着させられ、みんなの前でしどけないポーズをとらされた当のセルマはといえば。 (よかった……ほんとーによかった。ヌードモデルとか言われなくて) と、内心ホッとしていたりする。 かなり「よかった」の基準が下がってきているのは、今日の半日で不幸属性にどっぷり浸っているからか? 「さあ、いつでもいいわよ。アスカ」 余裕綽々、祥子は立てた膝を台がわりにスケッチブックを広げた。 「こっちもいいわ〜。ラルム、お願い〜」 「は、はい…。 それじゃあ……よーい、スタート」 アスカのパートナーラルム・リースフラワー(らるむ・りーすふらわー)が、ストップウォッチの係りをつとめる。 場の注目を浴びる中、しばらくの間、2人の鉛筆を走らせる音だけがしていた。 (うーん。せっかくのポーズと服装なんだから、ちょっと色気がほしいわねぇ) 鉛筆でトントン額を叩いていた祥子は、おもむろにセルマに声をかけた。 「それにしても女子のセルマくんって、身体のラインが整っててほんとキレイね」 「……えっ…?」 「二の腕のラインとかふとももやふくらはぎの曲線なんか、ほどよく肉感的で、いかにも健康美って感じ」 「そ、そんな……こと……ないです…」 「そんなにきれいなのに、胸まで大きいなんて。しかもそのサイズはちょっと不公平じゃない? うらやましいわ」 真面目な顔で正面から褒められて、恥じらいにセルマのほほが染まった。 合わせて、体もほんのりと桜色に染まる。 (ああ、いい感じで色気がついたわ。あとはこれを写実的に紙に写しとるだけね) 祥子は上機嫌でさらさらと鉛筆を走らせた。 今日は気分がのってる。最高傑作ができるかもしれない、と。 そんな彼女の姿にあせったのはアスカだ。 「……10分、です」 ラルムの言葉にデッサンをやめて次のページをめくる際、祥子のデッサンがちらと見えて、その完成度の高さに衝撃を受ける。 (宇都宮お姉さま……その絵! う、うまい…っ! やばいわ、負けちゃうかも〜) 負けた場合、後日ヌードモデルになる、というのが祥子の出した条件だった。絶対に負けるはずがないと思い、安請け合いしてしまったが、もし本当に負けてヌードモデルになったりしたら…。 (やばい! やばすぎるわ! 宇都宮お姉さまがただ単にデッサンだけして終わらせるはずがないものっ) それを等身大で描かれて、空京万博にでも出展されたりしたら…! 「……8分、です」 「――ええっ?」 (や、やっばーーーい。ショックのあまり、ほとんど描けてないわ〜。これじゃ、ほんとに負けちゃう〜〜) あわててアスカは目の前のスケッチに集中した。 「……5分、です」 「……3分、です」 「終わりました…」 ラルムがピーッとホイッスルを吹いて速写スケッチ勝負の終了を告げる。 「それで、だれに審査をしてもらうんですの〜」 内心冷や汗をかいていることなどチラとも見せず、アスカは余裕を装って尋ねる。 立ち上がり、服についた汚れを叩いて払っていた祥子は、アスカの後ろを見て、頷いた。 「それはもちろん、セルマ君を一番良く知っている人よ。ね、オルフェさん」 「え? オルフェちゃん?」 振り返り、そちらを見るアスカ。 しかし、その登場に一番驚き、恐れたのは彼女ではなかった。 「お、おおお、お、オルフェ!?」 ――ひいいいいいぃぃっ!! セルマは、もう耐えきれないというように失神した――。