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女体化薬を手に入れろ!

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女体化薬を手に入れろ!
女体化薬を手に入れろ! 女体化薬を手に入れろ!

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 夜の総合病院、産婦人科の病室では。
 クコ・赤嶺(くこ・あかみね)が、ベッドの上で体を休めていた。
 十数時間に渡る出産という戦いを終えた今、相当疲労しているはずなのに、その目はきらきらと強い光を放ち、満足げな表情を浮かべている。

「もう休んだ方がいいんじゃないですか?」
 枕元に立った赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)が気遣って声をかける。
「疲れているでしょう?」
「ええ。もうくたくた。手も挙げられないわ」
 そう答えながらも、クコはくつくつ笑っていた。

 そうっと体勢を変え、おくるみに包まれた隣のわが子を見る。
 指であごをくすぐると、ぐっすり眠っているはずなのに、いやいやと首を振った。
「すごくかわいいわ。いくら見てても、見飽きないのよ。ねぇ、霜月」
「そうですね」
「眠りたくないわ。ずっと見ていたい」
 だが確実に、抗しがたい眠りへのいざないはクコに迫っていた。
 眠りは酷使された体力を回復させるために体が求めるもの。
 睡魔にうとうとしたクコの目に、真上からの病室のライトはまぶしくて、クコはそっと左腕を目にかぶせた。
「まぶしい? 消そうか?」
「いえ。いいわ。そうしたらこの子が見えなくなっちゃう。
 私の赤ちゃん……私と霜月の…。不思議ね。私とあなたは別個の人間なのに、私とあなたで、この子はできているんだわ。この子の中で私と霜月が混ざり合って、溶け合って、ひとつになっているの」

 まるで、2人が永遠に一緒にいることを神様に許されたみたいに…。

 そう思うと、じんわりと目が熱くなった。
 まばたきで涙を抑える。涙で潤んでしまったら、この子がぼやけてしまう…。

「クコ…」
 そっと、いたわるように額にかかった前髪を払う。
 彼女を襲った苦痛を物語るかのように、少し汗で湿ったそれを指でこすっていると、ジン・アライマル(じん・あらいまる)が病室に入ってきた。

「はいはい、そこまで。出産を終えたばかりなのよ? これ以上疲れさせないでちょうだい」
「ジン、霜月は何もしてないわ」
「してるわよ。あなたは話してたりしてないで、眠らなくちゃいけないの。回復が遅れると、お乳の出にも影響するわよ」
 サイドテーブルに、活けてきたばかりの花瓶を置く。運んでくるうちに乱れたそれを、クコから見て一番きれいに見えるように差し直した。
「まだ眠くならないのよ」
「眠れるわ。そう思ってるだけよ。だから目を閉じるの」
 シーツを胸元まで引き上げてあげる。
「はい、マム」
 おどけたように返事をして、クコはジンに笑いかけた。
「何?」
「とても感謝しているわ。あなたがそばにいてくれて、本当によかった」
 真正面から感謝を受けて、ジンの顔が赤らんだ。
「ば、ばかね。何よ、急に」
「本当よ。朝から腰が重くて、痛いとは思っていたけれど、あれが陣痛だったなんて、私は全然気付けて……なかったんだもの」
「それは仕方ないわ。出産予定日はまだ1カ月も先だったんだから」
「ええ。でもやっぱり、1人でなくてよかった。1人だったら怖くて、何をすればいいかも、分からなかったと、思う」
 町の中でいきなり破水してしまった。とたん強まった痛みに、その場にしゃがみ込んで動けなくなった。「しっかりして!」とジンが立たせてくれなかったら、泣きだしていたかもしれない。

 そして彼女は陣痛の間隔にまだ余裕があると知ったとき、店の人にクコを任せると自分の車をとってきて、それで病院まで運んでくれたのだった。

「とっても……頼りになったわ。……まぁ、信号無視して、パトカーに追われたり、左折でバイク……を巻き込みそうになったり、入院用バッグを、間違えて取ってきたり、とか、は、あったけど…」
「……もう。よけいなことを言わないの。霜月に知られちゃったじゃない」
 くすくす、くすくす。
 笑ったあと、クコはふうと息をついた。
 たったこれだけをしゃべるだけで、すごく疲れてしまう。
 意識がとろとろして、ふわふわして。もう、目を開けていられない…。


「……眠った?」
「そのようです」
 やすらかな寝息をたて始めたクコを見つめる霜月。やがて看護師が現れ、赤ん坊を新生児室へ連れて行った。
「大丈夫よ。早産だったけど、1カ月だし」じっと遠ざかる看護師の背中を見ている霜月に、ジンが言う。「心肺はしっかりしてるって医者も言ってたじゃない。普通の子と全然問題なしよ」
「ええ。そうですね」
 その前を横切って、椅子からバッグを持ち上げる。
「クコは寝ちゃったし。私帰るわね。また明日、クコが目を覚ます前に来るつもりよ。あなたはどうする?」
「自分は、もう少しここにいます」
「そう。ああ、ここの病院、正面はもう閉まってるから急患用の出入り口から出てほしいそうよ」
「分かりました」
 じゃあね、と後ろ手に手を振って、ジンは帰って行った。

 あかりを消し、常夜灯だけになった薄暗い病室で、霜月はクコのほおに唇で触れる。
「お疲れさま。それと……ありがとう。深優を産んでくれて」