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至高のカキ氷が食べたい!

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至高のカキ氷が食べたい!
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●いざ、氷精の元へ!

「今回の依頼に参加してくださるのは、これで全員ですわね」
 レティーシア・クロカス(れてぃーしあ・くろかす)がそう言った。
 氷精に話を聞かせる人と、もしものための護衛の人に別れてもらい点呼を行った。
「なんか、すまないな……こんなに人を集めてもらって」
「数は大いに越したことはありませんわ! 下手な鉄砲なんとやらですもの」
 恐縮しているカキ氷屋の店主にラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)はくすりと小さく笑みを浮かべて答えた。
「でも、ま、本当に気をつけてくれよ。何より自分の命が一番大事だ。危なくなったりしたらすぐ逃げるんだぞ」
 まるでそれは親が子に危険だと言い聞かせるような物言いだった。店主は自分のことのように皆の心配をしていた。
「何も心配することはありませんことよ」
 ラズィーヤは手に持った扇をパタパタと煽って言った。
 その様子を見た店主は本当に大丈夫なのだろうかと一抹の不安を覚えたが、結局何も言わずに見送ることにしたのだった。

    †――†

 外は猛暑だった。そして洞窟の中も、湿気とこもった熱で気持ちが悪いものがあった。
 ツァンダ南の高山地帯。洞窟の中をラズィーヤとレティーシアたちは進む。
 黒い岩肌の入り組んだ道を右に左に進み、三叉路を越えて行く。
 時に迷い、時に落石に合いそうになりながらも何とか進んでいった。
 奥へ奥へと進む。それは徐々に体感として現れた。
「やけに涼しいですわね……」
 先ほどまでの熱気はどこへやら。レティーシアは呟いた。
 ひんやりとした冷たい空気が辺りに漂い始めたのだった。
 歩を進めると、ピシリと水溜りの氷を踏み割ったかのような音が響く。
 天然の洞窟。その自然が作り上げた曲がり角を曲がると、そこはもうすでに岩肌は見えなくなっていた。
 煌く氷でできた部屋。
 荒々しい岩肌ではなく、つるつると手入れのされている氷でできた部屋だった。
 ごつごつと滴り落ちた水がそのまま凍ったかのような氷も所々存在している。
 まるで夏場に酷暑の外から業務用の冷凍庫に入ったような清涼感が皆を包む。
 しかしそれはすぐに取り払われた。
 体温が急激に奪われる。
 滲んだ汗が急速に体温を奪っていくのだ。
「事前に渡してある防寒着を着ていただけます? すでに用意されている方はそちらで構いませんわ」
 レティーシアは敏感に危険を察知し、皆に促した。
 一歩足を踏み入れる。カツンと硬い床を踏む音が響いた。
「貴様たちは何者だ……?」
 室内に響く女の声。少女のように聞こえるが姿は見えない。
「わたくしたちは、貴方の氷を頂きに来た者ですわ」
 ラズィーヤが臆することなく言った。
「……またか」
 はぁ、とため息を吐くような呆れた声だった。
「つい最近、貴方から氷を頂いたカキ氷屋の店主から場所を聞いて足を運んだのですのよ」
「アイツか。奴は中々に面白い人間だったぞ。アイツが教えたのなら客人として迎えようではないか。奥に入ってくるといい」
 ラズィーヤの説明に呆れた声は鳴りを潜め、クツクツと忍び笑いが室内に響いた。そして、目の前にあった氷の壁が消失した。
 奥へと進んでいくラズィーヤとレティーシアたち。
「わたしから氷がほしいのなら、それ相応の話は用意しているのだろうな?」
 氷の玉座。そこに座るのは少女だった。白雪のような真っ白な髪を乱雑に伸ばし、小さな体躯。それでも尊大な態度、纏う冷気が彼女が氷精だと認識させた。氷のようなドレスに身を包み、ターコイズのような瞳がラズィーヤとレティーシアたちを舐めるように見つめた。
「懐かしい匂いがしたと思ったが、違ったか……まぁ、そうだろうな……」
 氷精は浮かしかけた腰を下ろした。
「それで、お前たちはどんな話を聞かせてくれるのだ?」
 氷精は足を組み、ふふっと口元を吊り上げてそう聞いてきた。
 いつの間にか、目の前にはテーブルと椅子。
 氷で作られたそれは冷たさがあるように見えたが、氷精が客として皆を歓迎しているということでもあった。
「長話になりそうだからな、腰を落ち着けて話をしようではないか」
 その氷精の言葉に反応したのが3人いた。
「では、我が茶の一つでも用意しよう」
 ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)がティータイムで飲み物を用意した。
「あ、あたし、お菓子一杯持ってきてるから食べながら話をしよー?」
「お、おかし?」
 君城香奈恵(きみしろ・かなえ)のいきなりの申し出に、氷精は目を白黒させた。
 そして氷のテーブルの上に広げられるのは、LLサイズの買い物袋一杯に入れられた市販されているお菓子郡。
「外には美味しいものが一杯あるんだよ!」
 そういって、煎餅各種、エビせん、ポテチ各種、チョコレート、タピオカパンが広げられていく。
 それ以外にも、パーティ用のスナック菓子や、手作りのケーキなど。
 氷を取りにきたはずが、まさか小さなお茶会の様相を呈してきた。
「わ。わたくしも……!」
 イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が鍋の中に溢れんばかりの桃を入れていた。
 なぜ鍋なのかという疑問はこの際置いておこう。
「菓子に果物……、お前たちは氷をもらいに着たのではないのか」
 氷精は呆れて苦笑している。
「あ、あの……桃は冷やしたほうが美味しいから冷やしていただけませんこと?」
「まさかわたしの手を煩わせるのか!」
 イコナの頼みに氷精はさらに呆れた。
「仕方がないな。どれ寄越せ」
 そこに悪意が無いことが肌で感じ取ることができていた、氷精はイコナから鍋を受け取るとふっと息を吹きかけた。
「ほら、これで暫くすれば冷えるはずだ」
 鍋の周りには霜が張り付き、手渡したイコナは余りの冷たさに痛みを感じ顔をしかめてしまった。
「すまないな、物を冷やす加減は中々に難しいからな……」
「だ、大丈夫ですわ! こ、これくらい!」
 意地を張るイコナだが、目じりに涙が浮かんでいる。
「我慢しなくていいと思うよ! あたしが運んでおくねー」
 ひょいっとイコナから鍋を取り上げた香奈恵は、
「誰か、桃冷えたら皮剥いてくれないかなー?」
 そういって、氷のテーブルの上に置いた。
「やっぱり、美味しいものは皆で食べるのが一番だよね! だから氷精さんも氷を上げて、美味しいかき氷を皆が食べれるようにしよう!?」
 その一言で、和やかな空気は霧散した。
「……それを決めるのはわたしだ。なぜ対価を支払っていないのに最初から氷をやらねばならぬ」
 感情の消えた声。
 その声は聞くものの肝を冷やし、体の芯から震えを沸き起こした。
 そして唐突に室内に風が吹いた。
「え、いや……なにこれ、寒い……」
 足元から徐々に凍り付いていく香奈恵。
 悲痛な声は室内に響く。
「え、やだよ……あたし、何か悪いことした……?」
「自分の心に聞け」
 氷精がそういうと、香奈恵は完全に氷の中に閉じ込められてしまった。
 そして、皆硬直した。
 これが氷精の気分を害した結果だということが、よくわかったのだ。
「で、では、私が何か弾こう。お茶会には美味しいお茶と美味しいお菓子と、美しい旋律があってこそだからな」
 暫くして、気を取り直したようにベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)が古びたリュートを手にし、室内の離れたところから曲を弾き始めた。
 氷でできた氷精の住処は怯えたようにひんやりと、腫れ物を触るような様子でお菓子をつまむ、そんな冷たいお茶会が幕を開けるのだった。