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善悪の彼岸

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 ――ヴィシャス邸・アンゼリカ自室――



(頃合いだねぇ……)
 松岡 徹雄(まつおか・てつお)は、先に道を作ってくれた正面玄関から、真っすぐにアンゼリカの部屋を、白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)と共に目指していた。
(あそこだな)
 徹雄が目的の部屋を見つけると、パートナーの竜造に目配せした。
 ようやく俺の番かと、竜造は口角を上げて笑った。
「暴れていいんだな……おっさん……ッ!?」
(やっちまって……)
 その問いに徹雄が頷くと、竜造は雄たけびを上げながら先行し、金剛力で強化した自身の一撃で、ドアごとぶち破った。
「どうもォ、地獄の一丁目から殺りにきましたァ」
 竜造の登場に、アンゼリカの部屋にいた面々は驚いた。
 だが、どうもおかしい、と竜造は思った。
 そう――目的のアンゼリカはいなかった。
 まだ、帰ってきていなかったのだ。
「チッ……おっさん、目的のガキがいねぇぜ……。どうなってやがんだ……」
(………………)
「まあ、無駄骨で終わらせるってのァ、やってらんねぇよなァ……。せっかくだから、楽しませてもらうぜ!」
 竜造は構え、得物である無縫修羅の巨躯さを生かして、なぎ払った。
「わたくしのトラップが!?」
「ヴェル、援護をお願いします!」
「任せなさい!」
 脚に軽い損傷を負わせる程度のワイヤーと地雷のすばるのトラップが破られると同時に、レクイエムが光術で目くらましを仕掛け、アツテッツァが銃舞で突っ込んだ。
「ツッ! まぶしい、だろッ……ガアアアアアアアッ!」
 金剛力で強化した筋力を利用して天井、床、家具、どれもを竜巻のように容赦なく巻き上げた。
 その間隙を縫いながら、アツテッツァは突っ込むが、それでもなお、竜造の方が手数に増していた。
「オラアアッ!」
 巻き上げられた塊ごと、アツテッツァに斬りかかった。
 防御するには成功したが、後方へ大きく弾き飛ばされた。
 次の瞬間、アンゼリカの部屋は煙幕ファンデーションによって、煙に包まれていた。
「おい、おっさん。俺はまだ暴れ足りないぜ」
 竜造はそう言うが、徹雄は外を指差し、首を振った。
 ミュラーとそれを追う者たちの喧騒が近付いていた。
「チッ、まあ、いい。一暴れはできたからな」
 そうして彼らは、姿を消した。



 ――ヴィシャス邸・1階回廊――



「えーん、この煙はなぁにぃ〜〜〜?」
 アンゼリカは驚き、怯えた。
「アンゼ、怖いことはないので落ち着くですよぉ〜」
 ルナがアンゼの肩に乗って、落ち着かせた。
 アンゼリカ達は予想外の展開の速さに、自室に戻れずにいた。
 加えて、一階は焚かれたように煙がかっており、このような視界の中でアンゼリカを伴っての移動は危険だとの判断から、その場に留まっていた。
 アンゼリカを5人で囲み、じっと堪えたその時、淳二の目の前の煙が十字に引き裂かれ、大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)の二本の刃が迫った。
「グゥッ!」
 瞬時に剣で受け止めたが、反応の遅れは態勢を悪くさせるだけで、力負けのように身体が逸れ始めた。
「テメェはよく反応したが、俺の狙いはなァ――ッ!」
 腕ごと払われ、態勢も崩された淳二の横を鍬次郎が駆けて行った。
「クッ、狙いはアンゼリカですか!」
「アンゼリカに手出しはさせません」
 スノーは歴戦の防御術で攻撃を防ぎつつ、アンゼリカが安全圏まで移動するまでの足止めを買って出た。
「早く……ッ!」
「アンゼリカを巻き込みたくなかった……。だが、こうなった以上、俺は俺のやれることをやるだけだ……ッ」
 スノー相手で手一杯の鍬次郎に、淳二は斬りかかった。
 もはや、防御も回避も不可能。
 しかし、淳二の刃は――鍬次郎を斬れなかった。
 視線の先、声すらもあげられない一瞬のうちに、アンゼリカは斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)の手に渡っていたからだ。
「まあまあ、お父さんが娘の為、そして人格者としてのカッコいい姿を見せるための餌として貸してくれよ?」
 斎藤 時尾(さいとう・ときお)は煙草を吹かしながら、飄々とそう言った。
「お母さん、この子と、お人形さん遊びしていいの?」
 ニタァッと笑うハツネだが、言葉とは裏腹に、得物のマズイ部分はしっかりとアンゼリカの首に掛かっている。



 事態は佳境へと――突入した。