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パラミタ自由研究

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パラミタ自由研究

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
 寝込んでいる者といえば、ここにも一人。
「まさか、こんなことになっているとはな。大丈夫か?」
 ベッドで寝ているグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)を見下ろして、ロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)がちょっと心配そうに言った。
「いや、大丈夫だ。そんなに心配しなくてもいい」
 上半身を起こしてグラキエス・エンドロアが答えたが、どう見てもそうは見えない。
「自由研究を一緒にやろうと思ってやってきたんだが、なんだったら添い寝して……」
「どこでもかんでも食欲を発揮するな」
 スパーンとどこからか取り出したハリセンでロア・ドゥーエをひっぱたきながらレヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)が言った。
「分かったよ」
 レヴィシュタール・グランマイアに突っ込まれて、ロア・ドゥーエが手を引っ込めた。
「おやおや、遠慮なさらずとも」
「そこの悪魔、うちのロアを挑発するな!」
 面白そうに言うエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)にも、遠慮なくレヴィシュタール・グランマイアが突っ込む。
「おやおや。三人で……というのも楽しめると思ったのですが。だいたい、グラキエス様が強情をお張りにならなければ、そこまで苦しまずにすむものを……」
 誘うエルデネスト・ヴァッサゴーに、グラキエス・エンドロアがぷいと横をむいた。代わりに、ちょっとロア・ドゥーエの方は、その話の先を聞きたいと興味津々であった。
「しかし、自由研究か、俺もやってないな……」
 どうしようかと、ベッドの上でグラキエス・エンドロアがちょっと考え込んだ。
「だろうと思ってな、一緒にやろうと押しかけてきたんだが……」
 そう言うと、ロア・ドゥーエがぼろぼろになったノートを取り出した。狩りなどの合間合間を縫って宿題をこなしてきたので、このノートも数々の修羅場をくぐってきた歴戦のノートだった。表紙のサンマ傷や火で炙られた跡、所々に飛び散った血飛沫がその経歴を物語っている。
「題して、『パラミタの生き物いろいろ』だ。どうだ、凄いだろ。なあに、もう題材になる生き物はすべて俺が倒してあるから、後はその奮戦記を纏めるだけだ」
 どれどれと、レヴィシュタール・グランマイアがノートをパラパラとめくってみる。
「奮戦記って……、倒した生き物の捌き方とか、調理法の記述がほとんどじゃないですか。これは、簡単お料理本ですか」
 どうやって纏めるんだと、レヴィシュタール・グランマイアが突っ込んだ。
「まあまあ。どの辺でその生き物を見かけたかで、分布図のような物を作ってはいかがだろうか」
 ベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)が助け船を出す。
「編集は私がしよう。エルデネスト、貴公には打ち込みをお願いしたいのだが」
「仕方ありませんね。このメンバーでは機械に使われかねません。使いこなせるのは私ぐらいでしょうから」
 しぶしぶを装いつつ、ちょっと楽しそうにエルデネスト・ヴァッサゴーが言った。
「変なことをつけ足さないようにな」
 レヴィシュタール・グランマイアに言われて、音をたてずにエルデネスト・ヴァッサゴーが舌打ちしたように見えた。
「そこで出会った大トカゲを、弓矢の一撃で串刺しというわけよ。さすがだぜ、俺」
「ああ、そいつなら、俺もシャンバラ大荒野で見かけたことがあったな。結構でかかったぞ」
「うん、うまいよなあ。ちょっと骨が多いけどな」
「ふむふむ。シャンバラ大トカゲは、シャンバラ大荒野に広く分布し、単独行動を好むと。急所を突けば即死するので一撃で倒すことが可能。骨格は太く、かろうじて食用に適すため、サバイバル時の非常食としては有効と……」
 ロア・ドゥーエとグラキエス・エンドロアの雑談のような内容から、ベルテハイト・ブルートシュタインがレポートに組み立て直していく。
「どこをどういじったら、あいつらのわけが分かんない話が、そんなちゃんとしたレポートになるんだ……!?」
 さすがに、レヴィシュタール・グランマイアがちょっと呆れる。
「ふふ、叙事詩というのはそう言ったものだよ。誇大表現、なんとステキな響きだろう」
「いや、単なるレポートだろうが……」
 うっとりというベルテハイト・ブルートシュタインに、レヴィシュタール・グランマイアはそれ以上何も言えなくなった。
「続きは?」
 キーボードを叩いていたエルデネスト・ヴァッサゴーが続きを急かした。
 そのパソコンの画面を、レヴィシュタール・グランマイアがのぞき込む。
「この、『二人の秘密の小部屋』っていうフォルダはなんだ?」
「見たいですか? ふふふふ、見たいですか?」
 レヴィシュタール・グランマイアの突っ込みに、エルデネスト・ヴァッサゴーがもの凄く嬉しそうに答えた。
「仕方ないですね。どうしても見たいというのであれば開いて……あっ」
 フォルダにポインタを合わせた瞬間、死力を振り絞って身を乗り出したグラキエス・エンドロアがデリートキーを押した。
「あっ!」
「すまないな。ちょっとふらついた」
 わざとらしくグラキエス・エンドロアが謝る。
「いえいえ、大丈夫ですよ、グラキエス様」
 たいして動揺せずに、エルデネスト・ヴァッサゴーが答えた。すでに、バックアップは複数のレンタルサーバーに確保してあるからだ。目先のフォルダが消されても痛くも痒くもない。
「まだまだ甘いですね。さて、このレポート、どうやって楽しみましょうか」
 誰にも聞こえぬようにつぶやくと、エルデネスト・ヴァッサゴーは実に悪魔的な笑みを浮かべた。