天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

パラミタ自由研究

リアクション公開中!

パラミタ自由研究

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「こ、これは……」
 偶然テーブルの上におかれていた夏休みの日記帳を見て、秋月 桃花(あきづき・とうか)がちょっと呻いた。
 今日は、荀 灌(じゅん・かん)蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)と一緒に、芦原 郁乃(あはら・いくの)の部屋に遊びに来ていたのだ。部屋の主の芦原郁乃は、今キッチンで夕ご飯を作ってくれている。
「これってどう思います? 多分書いたのって、郁乃様ですよね?」
 秋月桃花が、他の二人に恐る恐る訊ねた。
「多分、お姉ちゃんの宿題だと思いますけど……」
「これは、ちょっとゆゆしき問題ですね」
 日記帳をじっと見つめて、蒼天の書マビノギオンが言った。
「ええ、ゆゆしき問題でしょう?」
 同意を求めるように、秋月桃花が言う。
「もちろんです。夏休みの宿題は、七月中に終わらせておくべき物です」
「問題点が違います!」
 生真面目な蒼天の書マビノギオンの答えに、秋月桃花が叫んだ。
「まずはここ、7月30日の日記です。いいですか……。
 
 みんなで海&温泉へ。
 先生には正直に告白します。
 桃花の艶姿に悩殺です。
 どうかなるかと思った……。
 特に温泉での桃花舐め(カメラワーク的な意味で)海って絵がねぇ……。
 プロポーションと風景の素敵さとが混じって、めっちゃ絶景!
 
 なんですか、これは。かなり恥ずかしいです。絶対に書き換えてもらいます。
 『どうかなるかと』とか『桃花舐め海』って、いったいなんでしょう?
 郁乃様の発言……ちょっと問題ではないかと思うのですが……。
 なんか、桃花の身体にいけないことをされるようなことはないですよね?
 それとも、桃花は少し身構えておいたほうがいいのでしょうか?」
 秋月桃花の言葉に、うんうん身構えた方がいいよと蒼天の書マビノギオンがうなずく。
「でも、そんなことを言っていても、まさか、人目がなければ平気とか、ごり押しされたら断りませんとか、別に嫌じゃないとか考えてないでしょうね」
「ええっとぉ……」
 蒼天の書マビノギオンに見透かされて、秋月桃花が空とぼけた。
「荀灌も」
「えっえっ!?」
 ふいに話を振られて、荀灌が戸惑う。
「8月11日。
 荀灌がわたしの天使の谷間ブラを試着してた。
 荀灌も胸には思うところがあるからねぇ……試着したくなる気持ち分かるわ。
 今度、一緒に買いに連れて行ってあげようかなぁ」
 秋月桃花が該当の日記を朗読する。
 日記には、とっても嬉しそうに鏡の前でブラを試着している荀灌のイラストが描いてあった。
「見つからないように、密かに誰もいないことを確認してから試着したはずだったのにぃ……」
 荀灌が顔を真っ赤にして言った。
「お姉ちゃん変に思ってないかな? おかしい子だって思ってないかな? でもお姉ちゃんが言うように、胸について思うところがあるのは紛れもない事実……です。だって、私も着けたら少しは大人っぽく見えるのかもしれないのです。だとすれば、着けてみたいと思ってもおかしな話じゃないですよね。ほわんとちょっと大人になった自分を想像できちゃいますよね。ねっ、ねっ」
 必死に訴える荀灌に、さすがに他の女の子たちも全否定はできなかった。
「でも、日記にあったなら、一緒に買いに連れてってくれるって、期待していいのかな? いいんですよね? それとも、こっちから声かけちゃおうかな?」
「だから、少しは落ち着きなさいっ」
 ぺちっと優しく叩いて、蒼天の書マビノギオンが荀灌を黙らせた。
「8月23日。
 わたしの18歳の誕生日。
 みんながお祝いしてくれた。……わたしって本当に幸せ者だ。
 ありがとう♪」
 続いてのページを、秋月桃花が読みあげる。
「やっとまともな日記が……。そうそう、あの日は御学友も含めたにぎやかなお祝いでしたね。主の人柄、人望がうかがわれるというものです。ですが、それにしても、この絵は……」
 投げキッスをする芦原郁乃のイラストを見て、蒼天の書マビノギオンが軽く頭をかかえた。
「最後です。
 
 8月29日。
 夏休みの課題を片づけるべく図書館へ!!
 そこでマビノギオンにあったけど……。
 あれ? あの子、夏休み中図書館通いしてたけど……課題やったのかなぁ??
 本に囲まれ幸せそうな様子に声かけなかったけど……心配」
 そこには、愛おしそうにだきしめた本にしきりに頬ずりしている蒼天の書マビノギオンの絵が描かれていた。御丁寧に、周囲には盛大にハートマークが飛び散っている。
 秋月桃花と荀灌が、じーっと蒼天の書マビノギオンを見つめた。
「絵は上手ですが、なんですかこのモチーフは……」
 文句を言う蒼天の書マビノギオンの肩を、二人が左右からポンポンと叩く。
「仲間、仲間」
「おっ……。確かにあたしは本が好きです。しかし、それは同朋意識というか……まぁ、そういうもので、愛情や好意とは違うのです。そもそも、これではおかしな人ではありませんか。まったく、主にも困ったもので……」
「みんな、何してるの? ごはんできたよ。運ぶの手伝ってくれる?」
 何も知らない芦原郁乃が、キッチンから戻ってきた。
「はい、今行きます」
 あわてて日記帳を閉じて芦原郁乃の椅子の上においてごまかすと、三人は何ごともなかったかのようにキッチンに走っていった。