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パラミタ自由研究

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パラミタ自由研究

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「本当にいいんですかあ」
「もちろんですぅ」
 砲身の中から、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)に言った。
 これから、夏休みの自由研究として、人間大砲を試すのである。
「アウトリガー展開、車体固定……。くどいようですけど、本当にいいのね。なんだったら、今からでも私と交代……」
「くどいわよ。やるって言ったらやるんですぅ」
 心配して交代すら申し込むミスティ・シューティスに、レティシア・ブルーウォーターが力強く答えた。
「目標、十メートル先の浮きブイの上の的。発射準備ですぅ!」
 湖岸から、湖の先に見える的を指さすと、レティシア・ブルーウォーターが砲身の中にすっぽりと潜っていった。
「怪我しないでくださいね。いっちゃいますからね! 3、2、1、発射!」
 もう半ばやけくそで、ミスティ・シューティスがトリガーを引いた。
 ズドンと、必要以上に大きな音と白煙をあげて、人間大砲が発射された。
 砲弾は人間であるといっても、そのままでは打ち出すことはできない。そのため、実際には人を押し出す台座が、火薬の力で発射されるのである。人間は、その台座に押し出されるというか乗っかっているというか、要するに二段ロケットのようにして台座から離れて飛んでいくのである。
「ずきゅーん!!」
 頭に被ったヘルメットで風を切って、レティシア・ブルーウォーターが空を飛んでいった。両手はピッタリと身体の横につけている。防護ゴーグル越しに見える水面は、キラキラする光がもの凄いスピードで通りすぎていき、思いっきり勢いをつけて回転させた万華鏡のように綺麗だ。
「このまま的に見事命中ですぅ! えーいっ!」
 ドーン!
「命中ですか!?」
 翼を広げて空に舞いあがると、ミスティ・シューティスが急いでレティシア・ブルーウォーターの様子を見に飛んでいった。
 守護天使であるミスティ・シューティスだったら空を飛べる。何かあっても、回避できる自信はあったのに、レティシア・ブルーウォーターは大丈夫だろうか。
 予定では、湖に浮かべた的を見事突き破って、その後ろの水面に着水しているはずであった。
「レティシア……、ああっ!」
 レティシア・ブルーウォーターの姿を見つけて、ミスティ・シューティスが叫ぶ。
 見事に命中……したレティシア・ブルーウォーターが、的に上半身を突っ込んで突き刺さっていた。貫通に失敗したようだ。もともと、この人間大砲をイベントでなく武器として使うのであれば、砲弾となった者が敵にぶちあたるときに自分のスキルを使って一気に大ダメージを与えなければならない。そうでないと、普通にぽこんとあたるだけである。
「きゅう……」
「きゃあ、きゃあ、きゃあ!」
 手足をだらーんとして気絶しているレティシア・ブルーウォーターを救出すべく、ミスティ・シューティスは全速力で湖の上を飛んでいった。
 
    ★    ★    ★
 
「勇気を以て、奇跡を必然に変える者……それが勇者だ!」
 腕につけた機晶石を振りかざして、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が叫んだ。
「ハイパーモード!!」
 ここで全身が金色に輝き、勇気に比例した出力は十倍に……。
「ならないじゃないか」
 金色ではあるが、別段光りも何もしないボディを呆然と見つめて、エヴァルト・マルトリッツが言った。
「あれえ、おっかしいよねえ……」
 こんなはずじゃなかったと、ファニ・カレンベルク(ふぁに・かれんべるく)がポリポリと頭を掻く。
 パラミタでの冒険は過酷である。
 その日々を過ごす中で、エヴァルト・マルトリッツは何度も大怪我を負い、そのたびに地球の最新技術とパラミタの奇跡によって命を救われてきた。だが、その代償は、首から下がすべて機械という今のこの身体である。
 本来であれば、そこまで機械にしたのではいかに2021年の科学技術でも助からないが、ファニ・カレンベルクの実家の古びた蔵の中に転がっていたという謎の機晶石のおかげで、奇跡的にも生きながらえている。
「この機晶石は、持ち主の勇気に呼応して無尽蔵のエネルギーを発生させるんじゃなかったのか?」
「うーん、そうなんだけど。うちのばっちゃんは、これは秘蔵の機晶石ですんごい力があるって言ってたんだよ」
 疑わしそうな、エヴァルト・マルトリッツの視線を避けるようにして、ファニ・カレンベルクが答えた。
 夏休みの自由研究として、自らのスーパーパワーと勇気の気高さを報告しようとしていたエヴァルト・マルトリッツとしては、あてが外れたもいいところだ。いや、それ以前の問題として、サイボーグがスーパーパワーを発揮しないでどうする。
「でも、機晶姫だって、普通の人よりは強いけれど、契約者同士で比べたら、同じ経験を積んだマホロバ人の私と、ほとんど変わらないんだもん。エヴァルトも同じなんだよ、きっと」
ちょ、ちょっと待て、いや、待ってくれ。ロボは、ロボはどうなるんだ、俺の頑張りは? ロボのことを思ってこそここまで努力したんだ。それが、すべて、パアになるというのか……
「諦め……」
「諦められるかぁ!! うおぉぉぉぉ!!」
 ファニ・カレンベルクの言葉を遮るようにして、エヴァルト・マルトリッツが吼えた。
「おおうっ!? 凄い、パワーゲージがどんどん……変わんないや」
「きっさまぁ、よくも、こんな紛い物の機晶石を……」
 勢い、エヴァルト・マルトリッツがファニ・カレンベルクにつかみかかる。
「落ち着いてー。機晶石は本物だもん。その証拠に、ちゃんとエヴァルトを助けてくれてるんだもん。そうだ、きっと封印だよ、まだ何かの封印があって、それをエヴァルトが解けていないんだよ。うん」
「そ、そうなのか?」
 半信半疑で聞き返すエヴァルト・マルトリッツに、ファニ・カレンベルクがブンブンと首が千切れるほど強くうなずいた。
「よし、じゃあ、この機晶石の封印の解き方を教えろ」
「気合いかな……多分」
 問い質されて、ファニ・カレンベルクがそう答えた。もちろん、確証は……ない。
「うおぉぉぉぉぉ、気合いだ、気合いだ、気合いだ。封印解除承認!」
 力を込めて、エヴァルト・マルトリッツが叫ぶ。それ以後、毎朝の気合いゲージMAXがエヴァルト・マルトリッツの日課となっていった。