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第一次蒼空学園宿題戦争

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第一次蒼空学園宿題戦争

リアクション


【第二章】

 宿題戦争の戦場は何も、屋外だけではない。屋内である校舎の中でも、激戦は繰り広げられている。
 いや、むしろ狭く、物にあふれている校舎のほうが、外よりも厳しい戦闘を強いられていた。
「大丈夫か、グラキエス?」
「ぅう……な、なんとか……」
 そんな無法地帯化した校舎の中をグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)ロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)は歩いていた。もっとも、歩いているのは主にロアのほうで、グラキエスはロアに肩を担がれて引きずられているような状態だった。
 だが、別に彼は、敵の襲撃を受けたわけではない。
「そんなに体調が悪いんなら、学校なんてこなくてもよかったんじゃないか?」
「ん……でも、夏の間、学校、休んでばかりだったし……初日ぐらい出ようと思って……」
 特殊な体質のせいで、体力低下中のグラキエスは、そんな体で登校したため、現在グロッキー状態になっていたのだ。
「主! こちらです!」
 そんなグラキエスへ、相棒のアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)が声をかける。その横には、ロアの相棒であるイルベルリ・イルシュ(いるべるり・いるしゅ)の姿もあった。
 二人は保健室の前に立っている。近くの床には、彼らに襲い掛かって、返り討ちにされたであろう生徒たちが転がっていた。
「とりあえず保健室のベッドで寝てるといいよ」
「あ、ああ……ありがとう、イルベルリ」
「うむ。ここは私が守りますので」
 アウレウスの言葉に頷き、ロアはグラキエスを引っ張って保健室の中に入っていった。保健室のベッドにグラキエスを寝かせ、ロアとイルベルリはフゥッとようやく一息ついた。
「はぁ〜。やっと落ち着いた。学校にきたらこの騒ぎだし、ロアはロアで『どっかで早弁する』とかいって全然、戦いを止める気ないし」
 おかげで僕がどれだけ危ない目にあったかと、イルベルリはひとり涙目で愚痴る。
「おまけにグラキエスまであんな調子だったから、一時はどうなることかと思ったよ。けど、丸く収まってよかった。ね? ロア……って、何してるのさ、ロアっ!」
「ふが?」
 イルベルリが振り返ると、そこにはベッドに寝転がるグラキエスの二の腕にかぶりつく相棒の姿があった。
「はむっへ、はむらいへはむまへははら、ふまひぃへふのおふぃふをふぃたたもふも(何って、働いて腹減ったから、グラキエスの肉をいただこうと)」
「ダメダメダメ! 友達はご飯じゃないってあれほど言ってるでしょ! こらぁ! ゴクゴクのどを鳴らしながら血を吸っちゃダメぇええっ!」
「んん……ちょっとだけなら、肉食っても」
「ダメ! ちょっとでもダメ! というか『血ならどれだけ飲んでもいい』みたいな考えもダメぇええ!」
 保健室の中からは、しばらくそんなイルベルリの声が響いていた。
「……気のせいか? あの男と一緒に居させたほうが、主は危ないんじゃ?」
 そんな不安をアウレウスはひとり、保健室の前で抱いていた。


 学園のあちこちで戦闘が繰り広げられている中、雅羅は自分が今置かれている状況に、困惑していた。
「あ、あの……四谷先輩?」
「ん? どうかしたの雅羅?」
 雅羅の声に、作業中の四谷 大助(しや・だいすけ)は顔を上げた。
「いえ、その……何故、私はこの騒ぎの中、のんきに先輩たちとお茶をしているのでしょうか?」
 雅羅の前には、お茶会のセットと、美味しそうなお茶請けのクッキーなどが並べられていた。そのクッキーを、雅羅の真向かいに座っているグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)がつまんでいた。
「気にしないでいいのよ、雅羅さん。のんきにどっちが勝つかでも見学してましょ」
「で、でも……」
「グリムの言うとおりだな。やりたい人は、勝手にやらせておけばいいさ。そんなことより……はい、どうぞ。オレの自信作。雅羅の口に合えばいいけど」
 そう言うと、大助は淹れたての紅茶を雅羅の前に差し出した。
 仕方ないと、雅羅はその紅茶に口をつける。すると、雅羅の顔色が変わった。
「……あ、これ美味しい」
「だろ? 夏休みの自由研究用に俺が作った特製薬草茶なんだ。この蜂蜜なんか入れるともっと美味しくなると思うよ」
「へー……先輩の自由研究、すごいですね」
「そ、そうか? ははっ」
「ねえねえ、雅羅さん。私の自由研究も、すごいのよ!」
 雅羅にほめられ、嬉しそうにはにかんでいる大助を横目に、グリムが眼を輝かせる。自分の研究成果も見てもらいたいと表情が語っていた。
「今、見せてあげるね! ……おーい、メリー! こっちに来なさーい!」
「! お、おい、グリム! ここでメリーを呼ぶな!」
「メリー?」
 首をかしげる雅羅。だがすぐに『メリー』の正体はわかった。
 がたがたと教室が揺れる。何だと外を見れば、窓の向こうに、超巨大化した『わたげうさぎ』がいた。
「な、ななな何ですかアレ!」
「えへへ! すごいでしょ。私の自由研究レポート『生物育成の理想』を基に作った超巨大わたうさぎのメリーだよ」
 あらゆる飼育方法を試し、弱い生物でも育て方によっては際限なく強くなることを立証したレポート。それがグリムの自由研究だった。
「ってか、先輩たち! メリーの登場で、ますます外で戦ってる生徒たちが激しく混乱してますよ! あ! い、今、メリーの一撃で、生徒が数人、吹き飛びました!」
「あー、確かにメリーはワイバーンぐらいの強さはあるからね」
「まったく、だから呼ぶなって言ったのに」
 どこか緊張感のない二人の会話とは裏腹に、窓の外では恐ろしく強いわたげうさぎと、死闘を繰り広げる生徒たちで、ますますパニックとなっていた。