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第一次蒼空学園宿題戦争

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第一次蒼空学園宿題戦争

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【第三章】

 死闘の続く宿題戦争。
 当初、教師軍の圧勝かと思われた戦いは、『職員室陥落(水没)』との情報により、さらなる困惑を呼んだ。
 戦力を消費した反乱軍。
 本部が消失した教師軍。
 もはや、戦争はどちらの勝利とも読めない状況と化している。
 そんな中でも、校庭で一群を率いる綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)の集団は凄まじいまでの気迫を持っていた。
「宿題をしてきた我らこそ、正義なりっ!」
『オォォオオーーっ!』
 さゆみの号令に応じ、教師軍の生徒たちが歓声を上げた。
「私たちは夏休みの間も、しっかりと宿題という苦行をこなしてきた! そんな私たちが、何もせず遊んでいた生徒たちに負けるなんてことが許されるはずがないわ!」
『オォォオオーーっ!!』
「勝利は常に、努力した者の頭上に輝くのよっ!」
『オォォオオーーっ!!!』
 教師軍の生徒たちが一斉に咆哮する。その場の全員が、さゆみの言葉に感化され、反乱軍の群れへと突っ込んでいく。
 彼らは知らない。今、こうして指揮を取っているさゆみが、つい三日前からの徹夜作業で、ようやく宿題を完成させたことを。
「うぉおおおおおっ! 邪魔ですわよ!」
 そして、彼らは知らない。反乱軍に突っ込んでいく者たちの先頭で、誰よりも殺気だっているアデリーヌが、さゆみの宿題に付き合わされたせいで、三日三晩、徹夜していることを。
「あはははっ! 私は徹夜でさゆみの宿題を手伝ったのですよ! おかげで肌は荒れるし! それだけの犠牲を払いながら宿題を終わらせたのに、……あなたがた反乱軍のわがままで無駄にされてたまるもんですかぁあああっ!」
 徹夜のせいでいつのも穏やかさを失ったアデリーヌは、怒号をあげながら反乱軍に襲い掛かっていった。


「――これは……思ったよりも、悲惨な状況だな」
 そんな暴徒と化している生徒たちの様子を上空から見つめ、相沢 洋(あいざわ・ひろし)は苦笑いを浮かべた。
「どういたしますか、洋さま?」
 宙を走る『サンタのトナカイ』を操りながら、乃木坂 みと(のぎさか・みと)は洋に話しかける。
 そんなみとの問いに、洋は思案顔でアゴに手を当て、唸っていた。
「とにかく、我々の目的は事態の沈静化だ。まずは、落ち着くよう呼びかけたいところだが……」
 ちらりと下を見る。そこには、理性を失ったように怒声奇声をあげながら暴れている生徒たちの姿があった。
「とてもではないが、人の話を聞くような状況ではないな」
 早々に説得をあきらめる。
 洋はそのまま、隣にいるみとへと目線を送った。
「……やむを得まい。みと、魔法攻撃を許可する。魔法砲撃により、暴徒たちを鎮圧せよ」
「魔法攻撃、承認しました。暴徒鎮圧のため、雷術、及び氷術の使用を実施します……皆さーん! 怪我をしたくなければ、授業に戻ってくださ−い!」
 そんなみとの声が響き、次の瞬間、稲光が放たれる。暴れまわっている生徒たちの足元へと雷術が落ち、強烈な爆発を生んだ。
「うわぁあ! な、何だ!」
「上だ! 上に敵がいるぞ!」
「くそ! 落とせ! 撃ち落せ!」
 地上の者たちも洋たちに気づき、地上から攻撃を仕掛ける。
 かくして、乱戦はさらに激しさを増していくのだった。


「ああっ! 校舎が! 校舎がぁ〜〜!」
 そんな乱戦を見つめ、火村 加夜(ひむら・かや)は顔を真っ青にしていた。
「ま、まずいですよ……こんな騒ぎ起こした上に、あちこち壊したりしたら」
 そう言いながら、加夜は手に持ったノートに、校舎の被害状況を書いていく。だが加夜がノートに記述するよりも早く、新たな被害が出ていた。
「あっ! 中庭のベンチが! ああっ! 卒業生の記念碑が! あああっ! また校舎の外壁が!」
 あっという間に、白紙だった大学ノートが文字で埋まっていく。それを見つめて、加夜はひとり顔をしかめた。
「ううっ……この修理費の見積もり見せたら、涼司くん怒りそうですよね」
 ひとりそう愚痴る。この学園の酷い有様を見せたら、どんなに温厚な学園長でも怒るだろう。ましてや涼司なら、まず間違いなくブチギレるだろうと想像できた。
 どうしたものかと、加夜は考える。だがそこでハッとした。
「そ、そうです! 涼司くんに連絡しましょう!」
 とにかく、この事態を収拾するのだ。その役目は、他の誰よりも、学園長である涼司が適任である。
 そうと決まればと、加夜は早速、携帯で涼司の番号にかけた。
「……あ、もしもし! 涼司くん、大変なんです! 学園で先生たちと生徒たちが暴れてて……」


 一方、学園の校舎内。
 一階の廊下では、数人の生徒たちと教師が正座をさせられていた。
「……まったく、みんな揃いも揃って何をしているんだ」
 そんな生徒たちの前で、ムッとした表情の無限 大吾(むげん・だいご)が仁王立ちしている。正座している彼らは皆、大吾によって鎮圧させられた生徒と教師だった。
「休みくらい自由にしたいのは分かるが、勉強を疎かにしては駄目だ。それでは単なる怠慢だろう?」
 そう冷静に大吾は、反乱軍の生徒に告げる。さらに、視線を別の生徒たちのほうへも向け、
「提出組もだ。宿題は自分のためにやるものだ。それをやってこなかった奴を責め立てる理由にしちゃいけない」
 教師軍の生徒にも、大吾はしっかりと叱咤する。それに生徒たちは、居心地悪そうに俯いていた。
 そんな生徒たちに苦笑いを浮かべると大吾は、生徒たちよりも居心地が悪そうにしている大人に向け、冷たい視線を向けた。
「大体、何で先生方まで騒ぎに参加してるんですか。貴方たちは止める側でしょう?」
「……す、すまん」
「本当にもう。これに懲りたら、騒ぎなんて起こさないように……ん?」
 その時だった。
 廊下の向こうから、生徒の悲鳴と共に、何かがドタドタと音を立てて近づいてくる。
 なんだと誰もがそちらを向くと、
「うぉおおおおおっ!」
 雄たけびのような声を上げて、寿 司(ことぶき・つかさ)が現れた。行く手をふさぐ生徒にスキル「爆炎波」をぶつけ、道を切り開いていっていた。
「あははっ! これで九十九人斬り! あとひとりで目標の百人斬り達成よ!」
「はい、はい。そーですか」
 興奮した様子で目を輝かせる司に、後ろからついてきたキルティ・アサッド(きるてぃ・あさっど)は適当に返事をした。
「うん、うん。これも修行の成果ね! さすが私!」
「司ちゃん、学生の本分は勉強ですよ? まだ提出用のレポート終わってませんのに」
 ノリノリの司に対して、レイバセラノフ著 月砕きの書(れいばせらのふちょ・つきくだきのしょ)がぴしゃりと突っ込む。それに慌てた様子で司は言い訳した。
「し、仕方ないじゃない! 今年の夏は、訓練で忙しかったのよ!」
「そうやって、もっともらしく言い訳しないでください。文武両道と言うでしょう? 両方こなして初めて一人前と……」
「ああ、もうっ! レイはいちいち、口うるさいんだから!」
「うぅっ……そんな言い方しなくても」
「まぁまぁ、そう落ち込むなって。レポートは後で二人でやらせよう。な?」
 司からうざがられてへこんでいるレイを、キルティが肩をたたいて慰める。
 そんな二人を無視して、司は正面に立つ大吾に狙いを定めた。
「よーし! とにかく、目標の百人目よ! 気合入れて倒すわ!」
「ったく……こういうヤツがいるから困るんだ」
 仕方なしと、大吾は構える。司とにらみ合い、両者はどちらからともなく、戦闘を開始した。