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想いを継ぐ為に ~残した者、遺された物~

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想いを継ぐ為に ~残した者、遺された物~

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第7章「収蔵品防衛戦 その3」
 
 
 ジャタの森、そこには自然と共存している獣人達が多く暮らしている。
 彼らにとって、農具や狩猟具は身近な物だ。この集落でもそれは同様で、洞窟にある空間の一つを専用の保管庫として利用していた。
 
「ほい、これで終わり――っと」
 その場所で今、火天 アグニ(かてん・あぐに)は自らの得物、火天魔弓ガーンデーヴァが炎の矢を撃ちだしていた。
 対象は――ガーディアン。盗賊側に与するアグニにとって、相手は目的を妨害する邪魔な存在。排除するのも当然といえる。だが、今はある意味反対の立場として戦いが繰り広げられていた。
「しっかしまぁ、聞いた話じゃこいつらってここのお宝を守る存在なんだろ? 何だってそれが大暴れしてたんだろなぁ」
「……どのような理由があるにせよ、些細な事だ」
「ま、そうだわな」
 アグニが歩み寄った先にはイェガー・ローエンフランム(いぇがー・ろーえんふらんむ)が立っていた。彼女の表情は渋く、この戦いが不満の残る物であった事を示している。
 その理由はただ一つ。血を焦がし、魂をも焦がすような熱き闘いを望むイェガーにとって、心を持たぬ石像との戦いなどには何の価値も無いからだ。
「んで、どうするよイェガー?」
「決まっている。強き心を持つ者が来るまで待つのみだ」
「了解、それじゃ俺らは適当に観察してるとするか……しかしまぁ、ここを選んでみたはいいものの、わざわざ農具とかを取りに来る奴らなんているかねぇ?」
 農具が俺を呼んでいるとこの場所に来た張本人がそんな事を思う。とは言え実際の所、アグニの与り知る所では無いがザクソンの協力者達が多く向かったのは書物や美術品、そして音楽関係などの芸術品の場所であった。なので彼の懸念も正しいと言えよう。そもそも盗賊側も他のエリアに向かった、あるいは向かおうとした者が多く、今この場には数えるほどしか来ていないのだ。
「……ん? とか考えてたお客さんか。イェガー、どうやら退屈しないで済みそ――」
 アグニの言葉が途中で止まる。広間に新しくやって来た者達、それは自分達盗賊側の人間では無い、つまりは敵であった。それは良い。注目すべきはその人物だ。
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)、『組織』から依頼を受けて盗賊退治にやって来た者。そして――過去数度に渡りイェガーと対峙して来た人物だ。
「…………」
 真司とイェガー、二人はこう思っている事だろう。
 
 『またお前か』と。
 
「神殿に、遺跡に、神殿の地下。そして今回、ね……良かったわね真司、あなたと彼女、相性はバッチリなんじゃないかしら」
 魔鎧として纏われているリーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)がしれっと言い放つ。当然ながら彼女の冗談ではあるが。隣に立つアレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)もそれは分かっているらしく、戦闘の予感に四体のイコプラを展開し始めた。
「あまり有り難く無い縁じゃのぅ。真司よ、早い所片付けに入るぞ」
「あぁ。ところで、本当に行けるのか? 確か……」
「セシリアですわ。セシリア・ナート。ご安心なさって、わたくしとて契約者の端くれ。依頼を受けたからには皆様の足手まといにはなりませんわ」
 隻腕の女性が真司に微笑む。彼女の正体は伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)。現在変装を練習中の彼女は様々な道具を使用して、あたかもシャンバラ人のように振る舞っていた。
 育ちの良さそうな外見はともすればか弱い印象を与えてしまうが、藤乃改めセシリアはそれすらも敵を翻弄する一つの手段であるかの如く妖艶に微笑んでいる。
「分かった、気を付けろ。あいつは……強い」
 真司が銃と剣を構える。対するイェガーも右腕に炎を宿らせ、真司と向き合った。
(幾度となく拳を交えた強敵、そのような相手と再びまみえる事が出来たのは僥倖と言えよう。だが……)
 それは同時に、これまでの戦いが互いに『生きていられる』程度の熱であったという証でもある。
(急いても仕方のない事ではある。それでも私は期待せずにはいられないのだ。天上まで届く程に熱く、猛々しい業火を……)
 両者が同時に動き出す。真司はいつも通り、機動力を活かしながらの立ち回りと雷の技を駆使して戦う動きを。そしてイェガーは――
「!」
 従来の戦い方とは違い、最初から接近戦を挑んできた。神速の如き速さでそれを回避する真司だが、反撃を行うには態勢が悪い。
(ならば……!)
 このまま足を止めての殴り合いは相手に有利。だから速度を上げ、壁や天井を使った多面的な戦い方へと移る。
 さらにセシリア、アレーティアと対峙しているアグニが援軍を呼んだ。ガーゴイルと、イェガーによって召喚された那迦柱悪火 紅煉道(なかちゅうあっか・ぐれんどう)が二人を阻む。
(さぁ、貴公らが主と拳を交えるに相応しいか否か……試してくれよう)
 大剣に炎を乗せ、煉獄が如き一閃を振るう。アグニが自身のフラワシに炎を使わせた事もあってどんどん周囲の熱気が増していく。
「まったく、いつもながら暑苦しい者達じゃのぅ。ナハト、アーベント!」
 アレーティアのイコプラのうち二体が熱の中を動き回る。セシリアが紅煉道へと向かったのに合わせ、ナハトとアーベントのコンビがガーゴイルを狙い、素早く撃破する。
「続けて行け、アーク!」
 二体を間を縫って、今度はアークが強襲する。目標はガーゴイル達の陰で弓を使おうとしていたアグニ本人。三体の連携で肉薄されたアグニは迎撃が間に合わず、アークの攻撃を思い切り喰らってしまった。
「――なんてな。そっちはニセモノだ!」
「何じゃと!?」
 だが、それは隙を見てアグニが作り出した幻影だった。本物は気配を隠して死角を突き、炎の弓を構えている。
「くっ、フェイク!」
 最後の一体、フェイクが間に立ちはだかる事で自身を護りきる。とは言え奇襲の効果は大きく、フェイクはシールドで軽減しきれなかったダメージを負ってしまった。
「ヒューッ、さすがに四体ともなると堅いねぇ」
「よく言うわい。その四体相手に動き回りおって。ガーゴイルを倒してもフェイクがこれでは痛み分けじゃのぅ」
 アグニとアレーティアが対峙している中、セシリアと紅煉道の戦いも進んでいた。二人は互いに大振りな剣を持ち、一対一ながらもアグニ達同様相手を間合いの内側に入れない戦い方をしている。
(やはり片腕だけですと、こういう時に困りますね。強引に押し入る手段があれば攻める事も出来るのですけど)
 そんな想いが届いた訳では無いだろうが、近づいてくる足音があった。ザクソンの側でこの場所を目指していた風森 巽(かぜもり・たつみ)達だ。洞窟内で着替えるのは難しいと判断したのだろう。彼は既に変身ヒーロー、仮面ツァンダーソークー1の姿になっている。
「既に始まっている……? けど、我らのように教授の依頼を受けて来た人はいないようだな……とにかく、まずは奥で物を運び出そうとしている盗賊達が最優先か」
「あっちだね、タツミ!」
 ソークー1に先行してティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)が前に出る。そして盗賊達をビシっと指差し、全員に聞こえる声で『お説教』を始めた。
「人の物を勝手に持って行ったらダメでしょ! 欲しいならちゃんと村人さんにお願いしてから持って行きなさい!」
「いや、それもう盗賊じゃないし」
 突っ込みを入れるソークー1の声が虚しく響く。何故だろう、洞窟の奥部にも関わらずひゅるりら〜と風が吹いたような気さえした。
「……お前達は漫才でもしに来たのか?」
 イェガーの近接攻撃から距離を取る為に壁を蹴った真司が丁度ソークー1の横に舞い降りる。二人はこれまでにもザクソンの調査を手伝う形で同じ立場になった事はあった。今回は真司が立場を変えてはいるが、初めて同じ場所で行動を共にする事になる。
「いや、これでも真面目なつもりではあるんだ。農具や狩猟具は生活を支える上で重要な物だと思ったからここに来たんだ……まぁそんな事より、貴公はどうしてここへ?」
「教授とは別に盗賊退治の依頼があってな。たまたまそちらを先に受けたからこうして戦っているという訳だ。もっとも俺達は付近の住人の依頼で動いてる訳じゃない。だから盗賊退治だけ行って、ここにある物の処遇はそちら任せにさせてもらおうと思う」
「つまり敵対ではなく共闘か、了解した。ならば我も貴公と共にあの炎使いに当たらせてもらおう」
 歩調を合わせて真司とソークー1、二人が同時に駆け出す。残されたティアも奥の盗賊達を止めるべく、一緒にやって来たフゥ・バイェン(ふぅ・ばいぇん)ザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)へと振り返った。
「よ〜っし、ボク達はいけない人達にお仕置きだよ! フゥねぇ、ザミエルさん!」
「あぁ、好き勝手させる訳にはいかねぇからな」
「武器は身体の一部、それを奴らが分かっているとは思えんな。あるべき所へと返す為、私が舞うとしよう」
 ティア達と盗賊達は丁度広間の反対側、そして間には戦いを続けているセシリア達やアグニ達がいる。だが彼女達にとってこの程度の距離は関係無い。むしろ離れているからこそ自分達の武器が活きるとばかりに三人が同時に攻撃を繰り出した。
「範囲魔法はタツミにダメって言われてるから……これでっ!」
「村から飛び出して冒険者なんてやってる身としちゃ、こういうのは他人事じゃないからな。てめぇらには少し反省してもらう!」
「道具は使い手を裏切らない。想いを込めれば込めた分だけ応えてくれる。いいかお前ら……私の扱う銃は、ちょっとばかり痛いぞ」
 氷が、矢が、そして弾が飛び交い、狩猟具を運び出そうとしていた盗賊達に命中した。さらにティアが走り出すが、そこに今度はアグニが立ちはだかろうとしていた。
「おっと、そうは問屋が――」
「えいっ!」
 火術を放とうとしていたアグニに蒼き水晶の杖を振るう。水晶の輝きに呼応するかのように炎が封印され、その隙を突いて地面に転がっていた狩猟具の一つを無事に回収する事が出来た。
「やった! フゥねぇ、今のうちに外に持ってっちゃうね!」
 そのまま通路に向けて駆けるティア。だが次の瞬間、目の前の壁に巨大な剣斧が突き刺さった。それをやったのは――
「ごめんあそばせ、手が滑ってしまいましたわ」
 セシリア、つまり変装した藤乃だった。彼女は涙目で口をパクパクさせているティアに微笑みながら詫びると、武器を回収するついでに持ち出そうとしていた狩猟具を横目で観察して行く。
(どうやら普通の弓のようですね。やはりジャガンナート様ゆかりの物が都合良くあったりはしませんか……)
 藤乃は組織の依頼で盗賊退治をしに来たものの、自身が崇める破壊神ジャガンナートに関する物が無いか確かめる事も目的の一つとしていた。だから彼女にとっては盗賊は勿論、ザクソン側に立つ人物であっても先に持ち出そうとする者は警戒の対象となるのだ。
(他の狩猟具も良く使い込まれてはいますが、あくまで普通の道具ですね。仕方ありません、ここは戦いに専念するとしましょう。押し入る手段、どうやら確保出来そうですしね……)
 先ほどまで対峙していた紅煉道の方を見る。そちらには新たにザミエルが向かっていた。ザミエルは紅煉道の大剣を舞うように回避しながら、隙を見ての射撃を行っている。
(2……3……4……ほぅ、中々やるな)
 ザミエルの魔弾は7発目で確実に暴発するという曰くがある。だからこそ6発目までに片を付けようとしているのだが、薙ぎ払いなどで防御面もカバーしている紅煉道も決定的な隙を見せないようにしている。
(アレでなら勝負を決められるだろうが、やる以上は確実に狙える状況で、か)
 ザミエルのパートナーであるレン・オズワルド(れん・おずわるど)ザナドゥへと旅立っている為今はいない。だが幸いにも藤乃、セシリアが再び戦いへと戻り、二対一の状況へと持ち込めた。
(多くの思惑が渦巻く状況で手を取り、立ち向かって来る。これもまた、一つの闘争の形か)
 紅煉道もまた戦力差をものともせずに対峙しようとする。目を閉じ、寡黙な戦いをする少女が珍しく、本当に珍しく口を開いた。
「ならば是、ならば好。ならば……応」
 大剣を構え、駆け出す。彼女に向けてザミエルが撃った5発目の魔弾を大剣の面を利用して防ぐ。さらに振り下ろされたセシリアの剣斧を音速の一撃で弾き、駆け抜ける。
 目標はザミエル。既に間合いは自分の側だ。仮に両手の銃から魔弾が放たれようと、それもろとも大剣で叩き斬る事が出来る。
(我らは劫火、燃え盛る炎に包まれるが良い)
 紅煉道の大剣が炎を纏う。
 勝利の一撃を振り下ろす彼女が見た物、それは決して諦めようとはしていないザミエルの表情と、その足から覗く隠し銃の銃口だった――
 
「はっ!」
 もう一つの戦いでは、ソークー1とイェガーによる格闘戦が行われていた。
 速度で攪乱しながら拳を振るうソークー1に対し、多少のダメージは無視して炎を纏った拳をお見舞いするイェガー。ソークー1を援護する為に真司も壁を利用した機動戦術を行うが、それもある理由から命中には至っていない。
「厄介な事だな。炎を壁や天井に当てて落とした土や石で攻撃を防いでくるとは」
 何度目かの攻撃を防がれ、一旦間合いを取る。真司とソークー1は何とか攻略の糸口を掴もうと考えていた。
「それだけ貴公の攻撃を警戒しているという事だろう。確か以前にも何度かやり合っているのだろう?」
「あぁ、その時に俺の手が知られているのは否定出来ない」
「以前までの戦いと何か違いがあれば、そこから突き崩せるかもしれないが……」
「違い? そうか……」
 思わずつぶやいたソークー1の言葉で違和感の正体に気付いた真司が小声で作戦を伝える。そして次で勝負を決める為に二人同時に走り出した。
「さぁ来い、強き意志を持つ者達よ。この炎、越えられるものならばな」
 対するイェガーも炎を増して待ち受ける。火天の焔と呼ばれる彼女の本気の炎だ。彼女はそこから放たれるファイアストームで天井に衝撃を与え、再び行われた真司の攻撃を防いでいく。
「確かに直接やり合おうとしてないわね」
「あぁ」
 魔鎧のリーラが相手の対処を見て確信する。先ほどの違和感、それは真司の得意とする雷を纏った攻撃に対するイェガーの反応だ。以前神殿の地下で彼女と遭った際、諸事情から真司ではなく現在ミソラの護衛をしている寿 司(ことぶき・つかさ)が戦ったのだが、その時司が使った雷系の攻撃に対し、イェガーは耐電フィールドを展開して応じて来たのだ。
 にも関わらず今回はその傾向は無く、ずっと意図的な崩落を起こす事で攻撃を防いでいる。ソークー1の攻撃は真正面から受け止めているにも関わらずだ。
「つまりは前回ほど雷に対抗する手段を用意していないという事。ならばそこを突けば――」
 真司の連続攻撃を防ぐイェガー。それに従い、徐々に足場が悪くなって行く。ここでソークー1の追撃が来た場合、回避は難しいだろう。
「蒼い空からやって来て! 込めた想いを護る者! 仮面ツァンダーソークー1!」
 そう、それが狙いだ。ソークー1が相手の防御を上回る一撃を繰り出せれば。それを決める為、『攻撃を受けざるを得ない』状況を作り出せれば。
「ソォゥクゥッ !稲妻疾風キィィックッッ!」
 神の速さを二段重ねで得た走りからの強烈な蹴りが決まる。ちなみに稲妻と名がついてはいるが、残念ながら雷を纏った攻撃という訳では無い。
 とは言えガードに徹する事になったイェガーは攻撃を正面から受け止め、後ろの瓦礫を巻き込みながら下がらされる事となった。
「だ、大丈夫ですかイェガーさん!?」
 イェガーの魔鎧として纏われていたリヒト・フランメルデ(りひと・ふらんめるで)が思わず声を出した。硬膚蟲によって防御を堅くしているイェガーではあるが、それでもその身を護る者にとっては見ていて安心出来るものでは無い。特にリヒトはイェガー達四人の中で唯一ザクソン側と組織側、二つの勢力を同時に相手する可能性を懸念していたから尚更だ。
「ここは退きましょう、イェガーさん。紅煉道さんも下げさせないと」
 近くで戦っていた紅煉道、彼女もザミエルの魔弾を受けて負傷しているのが見えた。数で負けている以上、長期的な戦いはさらに不利なものになるだろう。
「急いても仕方の無い事、か……ならばせめてこの業火、再戦を誓う証としてくれよう」
 事前に手筈を整えておいた退却を行う為、リヒトが分離し、人の姿へと戻る。
 その手にあるはグレネードランチャー。素早く放たれた一撃が天井を襲い、広間が大きく揺れだした。
「崩壊を隠れ蓑に向こうから逃げるつもりね。どうするの、真司?」
「させるつもりは無い。まだこの程度の揺れなら――」
 リヒト達を追おうとした真司が見た物、それは煉獄の炎を纏い、未だ退かずに立ち続けるイェガーの姿だった。
「貴様達の雷の如き攻撃、見事だった。だが貫けるか? この……火天の焔を……!」
 炎が爆ぜ、火柱を作る。天井へと舞い上がった魔力は洞窟の崩壊を更なるものへと高めて行った。所々が崩れ落ちる中、フゥやザミエル達は急いで広間の中を走り回る。
「くそっ、あたいも多少は落盤を利用するつもりでいたけど、この規模は無茶苦茶だぜ! 急いで道具を運び出すぞ!」
「あぁ、ここにある物を必要としている誰かがいるのなら、その者の下へ届けるのが私達の役目だ」
「で、でもフゥねぇ、あの人達はどうするの!?」
「放っておけ! どっちにしろこっからじゃ追うどころか近づけもしねぇ。それよりティアも何でもいいから持って行け!」
「うん! タツミも――ってタツミ!?」
 ティアがソークー1、巽の方を見ると、彼は気絶して置いていかれた盗賊を抱えている所だった。
「タツミ早く! このままじゃタツミまで埋まっちゃうよ!」
「分かってる。けど放ってはおけないんだ! 悪党だとか、悪人だとか…そんなもんが命を見捨てる理由になるかよっ!」
 かつて土砂崩れで姉を亡くした過去を持つ巽にとってはどんな相手だろうと崩落に巻き込まれる者を黙って捨て置く訳にはいかなかった。今にもすべてが埋まりそうな中、出口へと向かって懸命に走る。
「……まったく、面倒をかけてくれるな」
 崩落が激しく、状況が厳しくなった巽に支援の手が入った。反対側から盗賊に肩を貸すようにして真司が負担を軽減する。
「だがその信念、嫌いじゃない……行くぞ」
「あぁ……!」
 再び神速へと踏み込む巽と、アクセルギアによって超人的な加速を得る真司。二人が辿り着くと同時に大きな岩の塊が転がり落ち、出入り口を完全に塞いでしまった。
(これではもうここに入る事は出来そうにありませんね。目ぼしい狩猟具はあらかた持ち出せたのが幸いではありますが)
 連鎖して崩落が起きないとも限らない為、素早く移動を開始する一行。その最後尾に立つセシリア――藤乃は一度だけ振り返り、そしてまたすぐに皆の後に続いて行った。
(ですが獣人の方々、嘆く必要はありません。これもまた一つの結末。そう……破壊という、ありふれた一つの結末なのですから……)