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想いを継ぐ為に ~残した者、遺された物~

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想いを継ぐ為に ~残した者、遺された物~

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エピローグ
 
 
 戦いが終わり、一行は集落跡のそばにある広場へと集まっていた。
 ガーディアンの暴走などにより一部の物は損壊してしまったものの、契約者達の活躍により必要な物は概ね運び出す事が出来ていた。特に洞窟内外で盗賊相手の策を取った事で盗難を完全に防いだ事はかなり大きいと言えるだろう。
「――これで洞窟もちゃんと残せたら良かったんだけどねぇ」
 そう言って水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)が苦笑した。もう一度あの洞窟を使用出来たらという考えで外壁に出来た穴の補修などを行ったのだが、残念ながら広間の一つが崩壊してしまった事などから継続しての使用は難しいとの判断が下されてしまったのだ。
「塞いだ穴も最後に開けられてしまいましたしね」
「まったくじゃ。人の苦労を無駄にしおって」
 櫛名田 姫神(くしなだ・ひめ)の言葉に天津 麻羅(あまつ・まら)が憤慨しながら同調する。最後に三道 六黒(みどう・むくろ)達が洞窟から脱出する際、羽皇 冴王(うおう・さおう)の破壊工作によって一度塞いだ箇所に穴を開けられてしまったのだ。
「ほら皆、そんな暗い顔しないの。これでも食べて気分を切り替えましょ」
 見かねた遠野 歌菜(とおの・かな)が自身の作ったお菓子を配っていく。獣人達に振る舞う為に持ってきた物で、評判も上々だ。
「でも良かったですね。散り散りになった獣人の皆さんが皆戻って来て」
「そうだね。物も大事だけど、人が無事なのが一番だと思う」
 歌菜のお菓子に手を伸ばしながら一ノ宮 総司(いちのみや・そうじ)ナイン・ルーラー(ないん・るーらー)が広場の中央を眺めた。そちらには盗賊から逃げて森に隠れていた獣人達の無事な姿があり、今はローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)達が弾いている曲に耳を傾けている。
「良い曲ね……何て曲なのかしら」
「『彼方へと続く道 〜心と郷(ふるさと)を結ぶ絆〜』だそうですよ。集落から若者が出稼ぎに出て行く際に演奏されていた曲で、愛郷心を忘れ得ぬようにと集落を興した人々が作曲したそうです」
 蓮見 朱里(はすみ・しゅり)の疑問に御凪 真人(みなぎ・まこと)が答える。実際には今演奏されているのは、この楽譜を見つけたローザマリア達によって若干のアレンジを加えられた物だ。
 ギターのローザマリア、ベースのグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)、キーボードの上杉 菊(うえすぎ・きく)にドラムのエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)と、四人が得意とする楽器で演奏出来る内容になっている。
「先ほどのアンヴェルの演奏も良かったな。確かあの楽譜を見つけたのはセラータだったか」
 冴弥 永夜(さえわたり・とおや)セラータ・エルシディオン(せらーた・えるしでぃおん)を見る。彼の見つけた楽譜は題名こそ『親愛なる――』とまでしか読めなかったが、演奏自体は可能だった為にヴァイオリンを運び出したアンヴェリュグ・ジオナイトロジェ(あんう゛ぇりゅぐ・じおないとろじぇ)がそれを使って演奏してくれたのだ。
「えぇ、集落の方によると過去にいた作曲家の遺作らしいですね。俺としてはあの優しい旋律がとても好きなので、もっと他の曲も作って欲しかった所です」
 
 流れてくるローザマリア達の曲を聴きながらまったりとするセラータ達。そんな中、ライカ・フィーニス(らいか・ふぃーにす)が大切な事に気付いた。
「そういえば、この運び出した物って結局どうするの? 洞窟はもう使えないんだよね?」
 これからも崩壊の可能性が高い洞窟内に収納するのは現実的ではないし、何より集落そのものが被害を受けている現状では近場への移住が現実的となっている。そうなるとここにあるすべての物を持って行くのは大変な事だろう。
「それなら問題ありませんよ。ザクソン教授にお願いして、保管場所の提供に協力してもらう事になりましたから」
 こちらにやって来た鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)がライカに答える。貴仁は集落の長と交渉し、文化財の内容を確認したり、必要なら複写させてもらえるよう交渉していた。その際、今後の保管が難しいという事実に気付いた為、ザクソン側にも相談を行って両者のパイプを繋いだという訳だ。
「研究者である教授なら美術や音楽などに造詣の深い知り合いがいるかもしれませんし、それに……あの人達にも良い話でしょうしね」
 貴仁が視線を向けた先、そちらは絵画などの美術品を纏めて置いてある場所だった。そちらでは師王 アスカ(しおう・あすか)伊藤 若冲(いとう・じゃくちゅう)がかぶりつくように『ジャタ三十六景』と呼ばれる、ジャタの風景を描いた三十六枚の絵画に夢中になっている。
「凄いわぁ、構図もそうだけど、選んだ風景が素敵な所ばかり。実際に行って描いてみたいわねぇ〜」
「それよりも使われてる絵の具ですよ。オレの知識には無い物です。一体何を使ってるんでしょう」
 喜々として眺める二人を半ば呆れながら見ているのは蒼灯 鴉(そうひ・からす)だ。
「まったく、相変わらずの絵描き馬鹿だな……」
「何言ってるのよ、それがアスカの良い所でしょうが」
 隣のオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)がアスカを微笑ましく見ながら答える。鴉としても別に悪い点だとは思っていないので特に反発はしない。
「……あら? あんたそれ、何持ってるの?」
「これか? 俺が洞窟から持ち出してきた奴だ。宝石……だと思うが」
「ふ〜ん、ちょっと見せなさいよ」
 鴉から石を受け取り、確認するオルベール。心なしかジト目になっている気がするのは気のせいだろうか。
「……バカラス、これまさか、アスカにあげようなんて思ってないでしょうね?」
「あ? 馬鹿言え、そいつは集落の奴の物だろうが」
「そ……ならいいわ」
「?」
 関心を無くしたとばかりに宝石を返すオルベール。鴉はただ、不思議そうに首を傾げるだけだった。
 ちなみにこの石、名をスカルローズと言う。集落より少し離れた場所にいる魔物から稀に採れる石で、正確には化石と呼ぶべき物だ。
 別名、骸の白薔薇。
 骨に似ている素材と薔薇のような形状から名付けられた石で、持っていると持ち主に幸福が訪れると集落に伝わっている。
 そんな理由から大切な人へと渡すのが定番となっている訳で。たとえば――恋人とか。
 
「おや、未散くん、どうされましたかな?」
 別の場所ではハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)若松 未散(わかまつ・みちる)へと話しかけていた。未散は何かの書物を熱心に読んでいる。
「ん? あぁ、こんな本が見つかったからな」
「どれどれ……『ジャタのさんま』ですか。確か似たような題名の落語がありましたな」
「こいつはそれが派生して出来た奴らしい。多分集落ごとに若干アレンジされてるんだろうな。私が前に見た物よりも人情噺としての面が強くなってる」
「なるほど。ではこれを皆さんの前で?」
「そうだな。さすがにこれを今すぐってのは難しいけど、後で何かやらせてもらうか」
「やりましょう、未散くん。こういう時こそ皆に笑顔を与える時ですぞ!」
「大げさなんだよ、お前は。でもそうだな……こういう時こそ、だな」
 
「ふむ……」
 さらに別の場所ではフゥ・バイェン(ふぅ・ばいぇん)が一つの首飾りを眺めていた。じっくり見ている姿が気になったのだろう。キルティ・アサッド(きるてぃ・あさっど)寿 司(ことぶき・つかさ)の二人が近づいてくる。
「随分熱心だね、バイェン。何か気になる事でもあるのかい?」
「キルティか。いや、あの首飾り、もしかしてあたいの故郷に関係あるのかな、ってな」
「白虎の首飾りか。でも故郷に関係があったら分かるんじゃないの?」
「いやぁ、あたいは冒険者になるって故郷を飛び出した身だからな。実は詳しい事はよく知らないんだ」
「なんだい、随分淡泊だね」
「ねぇ、キティ」
「ん? どうした寿?」
「そういえばキティの家族とか故郷の話ってあんまり聞いた事無いけど、キティはどうなの? 心配になったりとかはしないの?」
 キルティには双子の姉がいる。その事自体は司も知っているが、それ以上の詳しい事を聞いた記憶は無かった。
「まぁ便りが無いって事は無事なんだろ。別に気にしてない」
「キティも十分淡白だと思う……」
 
 獣人達の集まりから少し離れ、ミソラは森の切れ目から空を見上げて佇んでいた。そんな彼女の下にルカルカ・ルー(るかるか・るー)達がやって来る。
「ミソラ」
「あ、ルカさん」
「よかったね、皆戻って来て。それに……お母さんの笛も無事で」
「はい。皆さんのお陰です。本当に有り難うございます」
「やりたくてやった事だから気にする事無いよ。それより、笛は今持ってる?」
「一応持っていますけど……」
「ん、じゃあ話は早いね。ダリル、お願いね」
「あぁ」
 ミソラのすぐ横でダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がノートパソコンを開き、起動させる。画面は特に何の変哲も無い状態だ。
「すまんが笛を少し借りるぞ」
「それは構いませんけど……一体何を?」
「記憶を辿る。この笛のな」
 言うが早いか、ダリルが笛を手に精神を集中し始めた。サイコメトリで笛に宿る想い出を読み取り、それをそのままソートグラフィーでノートパソコンに念写する。程なくして画面上に一枚の映像が浮かび上がった。
「これ……お母さん」
 画面には二人の人物が映っている。一人は幼い獣人の子供。安らかな顔で寝ているその子は数年前のミソラだろう。そしてもう一人、優しい表情で笛を奏でている女性。まるでこの場にいるミソラが成長したような姿のその女性は今のつぶやきの通り、ミソラの母親だった。
「あはは、やっぱり静画にしかならないか。出来れば吹いてる所を動きで見せてあげたかったんだけどね」
 ルカルカが頭を掻きながら答えるがミソラは気にならない。たとえ静画であったとしても、そこから思い出せる自身の記憶は決して色あせてはいないからだ。
 そんな想いが伝わって来たのか、グリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)がミソラの肩に優しく手を置いた。
「ねぇミソラちゃん。ミソラちゃんは何か吹けないの? そんな良い笛を形見のままで終わらせたら勿体無いわ」
「オレもそう思います。どうでしょう? せっかくですから何か一曲、奏でてはもらえませんか?」
 何かと言うが、その『何か』は決まりきっている。母親が残してくれた思い出の曲を、母親が遺してくれた想い出の笛で。
「ミソラちゃん。私達も聞いてみたいです。ミソラちゃんの大事な……素敵な曲を」
「聞かせて下さい。あなた方の絆を」
 火村 加夜(ひむら・かや)東雲 いちる(しののめ・いちる)が微笑み、広場の中央へ促す。こちらの状況に気付いていたのだろう。ローザマリア達も自分達の演奏が終わると、次の曲へ行かずに場所を空けてくれた。
「行こう、ミソラちゃん!」
「ほら、早く早く!」
 洞窟にいる間ずっと付き添ってくれた月音 詩歌(つきね・しいか)蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)がそれぞれ左右の手を掴み、ミソラを中央へと連れて行く。獣人達と契約者達、両方から沸き起こる拍手に若干恥ずかしそうな表情を見せながらも、ミソラはゆっくりとお辞儀をし、そして――静かに息を吸った。
 
「……素敵な曲ですねぇ。まるで子守唄みたいな、優しい曲です」
「あぁ……これが、彼女が受け継いだ物か」
「聴いてると落ち着いてくるなぁ。あの娘らしい曲やわ」
 森の中に一つの音色が響き、皆に飲み物を振る舞っていた神代 明日香(かみしろ・あすか)の動きが止まる。隣に立つ大岡 永谷(おおおか・とと)七枷 陣(ななかせ・じん)もまた、少女の演奏を静かに聴いていた。
「形ある物は壊れ易く、形無き物は移ろい易い。彼女にとってのその両方を護れた事は、僥倖と言えるだろうな」
「そうだな。そしていつの日か、あの娘から誰かに想い出は受け継がれていく。そうやっていつまでも続いていくんだろう……あの曲も」
 白砂 司(しらすな・つかさ)冴弥 永夜(さえわたり・とおや)、二人が手に持ったカップを軽く掲げる。
 乾杯、と、この場にいる皆との出会いを感謝し、一人の少女の想い出を救った事を祝って。
 穏やかな時の流れる森に広がっていく笛の音。それは絆を紡ぐ旋律となって、皆の心へと染み渡っていくのだった――

担当マスターより

▼担当マスター

風間 皇介

▼マスターコメント

 こんにちは。風間 皇介です。

 まずは大幅に遅延してしまい、大変申し訳ありませんでした。
 理由のほとんどが私的なものなので、今後はこういった事の無いよう、気を付けて参ります。

  
〜今回の予想外〜

○行き先
 
 今回は行き先に物凄い偏りがありました。
 一応第3・第4エリアが多く第1・第2エリアが少ないというのは予想通りでしたが、第1が一組、第2が二組だけだったというのはさすがに予想外でしたね。
 逆に盗賊退治とミソラ護衛に多くの人が向かっていました。
 特にミソラ護衛がかなり多く、逆の意味で進軍しづらい光景だったのではないかと思います。
 
 
 
 冷静に思い出せば他にもあるとは思うのですが、既に次作の執筆期間に入っているので以上で失礼致します。
 なお個別コメントですが、この様な状況ですので簡単なあいさつのみとさせて頂きます。申し訳ありません。
 
 
 最後はいつもの――と行きたい所ですが、しばらくは重層世界のフェアリーテイル、第一世界を担当させて頂く予定です。
 なのであいさつも別の形で。
 

 それでは今回はこの辺で。次回、ハイ・ブラゼル地方での冒険にお付き合い下さい。