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想いを継ぐ為に ~残した者、遺された物~

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想いを継ぐ為に ~残した者、遺された物~

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第8章(3)
 
 
 時間は僅かに巻き戻り、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)達と羽皇 冴王(うおう・さおう)ドライア・ヴァンドレッド(どらいあ・ばんどれっど)の戦い。
 こちらにはキリエ・エレイソン(きりえ・えれいそん)セラータ・エルシディオン(せらーた・えるしでぃおん)、そして魔装侵攻 シャインヴェイダー(まそうしんこう・しゃいんう゛ぇいだー)を纏った蔵部 食人(くらべ・はみと)が援軍として加わっていた。
「セラータ、私達は前線の支援に回りましょう」
「分かりました、キリエ。君達も頼みますよ、ヒーローさん」
「任せておけ。ここが正念場、必ず皆を護って見せる!」
「えぅ! ダーリン、一緒に頑張るんだよ〜!」
 まずは食人が最前線で戦っているグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)の前に出た。大きな盾で敵の前衛であるドライアだけでなく、冴王の銃撃からも後ろを護って見せる。
「待たせたな、ここからは俺が引き受ける!」
「そなたか、支援に感謝する」
「何、あの二人の攻撃を一身に受けていたのだろう? 大したものだ。さて……女王を護る騎士として、シャインヴェイダー、参る!」
「さっすがダーリン! 若い女の子の味方なんだよ〜」
「だからちょっと待て」
「えぅ?」
「……てめぇら、ふざけに来たのか? 随分余裕だなぁ!」
 目の前のやり取りに業を煮やしたのかドライアが刀を手にさらに接近して来る。その攻撃を食人は盾で真っ向から受け止めた。
「ヒーローだの騎士だの言ってる割には守ってばかりだなぁ! たまには攻撃でもして来たらどうなんだ!?」
 威圧感のある咆哮が辺りに響く。
「その必要は無い。俺の役目はお前達の攻撃から守り、皆を護る事だ」
「攻撃して欲しいのなら私がしてあげるわ……お望み通りにね!」
 食人の後ろからローザマリアの攻撃が行われる。普通ならば大盾を構えている食人が邪魔になり、とても攻撃など出来ない位置。だが、零では無いのだ。たとえば――真空波とか。
「がっ!?」
 突然の攻撃をまともに受けてしまうドライア。動きを見て回避しようにも、視覚自体は大盾で塞がれてしまっている。仕方なしに距離を取った瞬間を狙い、今度は上杉 菊(うえすぎ・きく)が狙いを定めていた。
「わたくしの魔技、『龍虎双剋』……お受け下さい」
 炎と氷の合わさった一撃がドライアの腕に突き刺さる。数に押されているのを見かねたのか、ヘキサデ・ゴルディウス(へきさで・ごるでぃうす)が追撃を防御しつつ、ドライアを後ろに連れ戻した。
「まったく、見ておれんな。丁度あやつらに仕掛けようとする者がいるみたいじゃ。相手はあの者達に任せ、そなたは六黒の戦いでも見ているが良い」
 不満そうな顔を押し下げながら、ちらりとドライアを退けた者達を見る。
(さて、次が来ているようじゃが……どう戦う?)
 
「キリエ」
「えぇ」
 セラータとキリエ、以心伝心の二人がそれだけで次に行うべき事を理解しあう。一人退けて優勢になったこの時こそ油断をする訳にはいかない。
「神の光よ……!」
 キリエから強烈な光が放たれ、辺りを照らす。すると二人の懸念通り、気配を消して隠れていた男がいる事に気が付いた。松岡 徹雄(まつおか・てつお)だ。
(おっと、中々優秀だねぇ。おじさんの手の三割くらい防がれた気分だよ)
 徹雄の一番の持ち味は死角からの暗殺。それには当然、発見されていない事が大前提となる。そういう意味では徹雄の脅威はこれで半分近く削れたと言えた。
(まぁ、勿論それだけじゃないけどね)
 もっとも、そういった不利な点をいつまでも野放しにしておく徹雄では無い。元は先制攻撃用に用意しておいた煙幕を展開させ、再び視界からの遮断を図った。
「皆、盾の後ろに入――くっ、これは……!」
「ダーリン! この煙、しびれ粉が混ざってるんだよ〜!」
(はいご名答。正解した良い子にはおじさんからプレゼントだ)
 パワードマスクで防護している徹雄が煙の中を自由に動き回り、しびれ粉に突撃してしまった食人に先制攻撃を喰らわせる。シャインヴェイダーを纏った上に身体の機能を高めてある食人は急所を的確に狙った攻撃にも耐えきるが、徹雄の持つ短刀による石化効果が足下から浸食し始めた。
「大丈夫ですか!?」
 煙が晴れて行くと同時にキリエとセラータが駆け寄り、回復を行う。麻痺の効果はキリエの持つ乳香によって解除出来るが、石化を回復する手段は持ち合わせていない。
「すまない、ポケットにある龍玉の癒しを……」
「龍玉の癒し……これなら石化にも効きますね。少し待って下さい」
 幸い食人自身が万が一の為に回復手段を用意していた。キリエによって取り出された龍玉の癒しによって、身体の自由が戻ってくる。
「助かった、キリエさん、セラータさん」
「いえ、無事で何よりです」
「出来るだけ死角を作らないようにして戦いましょう。あちらの戦いは……彼らに任せるしかなさそうですね」
 セラータが視線を向けた方向。そちらには四谷 大助(しや・だいすけ)永倉 八重(ながくら・やえ)、そして……三道 六黒(みどう・むくろ)白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)が戦っていた。
 
 
「朝斗にあんな大口叩いたけど、本当に大丈夫なんでしょうね、大助?」
 エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)に挑む榊 朝斗(さかき・あさと)を見送った大助に向けてグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)が声をかけた。
 大助と四谷 七乃(しや・ななの)のすれ違いを一番近くで見てきたグリムゲーテ。それだけにこの戦いが二人にとって重要な意味を持つであろう事を一番理解していた。そんな彼女に対し、大助と七乃は迷い無く言葉を返す。
「あぁ、さっきも言ったろ? 『オレ達』は大丈夫だってな」
「グリムさんにもすごく迷惑をかけちゃいました。でも、七乃達は負けません! これからは見てるだけじゃなくて、七乃も戦います!」
「そう、ならさっさと片付けてきなさい。ミソラちゃん達は私が護るから、後ろを気にせず思いっきりやってくるといいわ。八重、あなたもね」
「はい! 父の遺したこの紅桜と共に……参ります!」
 大助と並び、八重が大太刀を構えた。二か月前に父の形見である紅嵐を折った宿敵、六黒に向けて、今、新たなる力を見せる為に。
「あやつの刀と共に心を折ったつもりであったが……どうやら足りぬようだな」
「何度でも立ち上がってみせます! 私の信じる正義と……紅桜に託された父の想いがある限り!」
「所詮力の前では無力なものよ。この場にある物もそうだ。過去の記録など、何の価値がある? そこから生み出される力がどれ程のものだと言うのだ。わしが価値を抱くは純粋な力。すべてを平伏する力よ」
「力無き正義は無力。あなたの言い分も正しいでしょう。ですが、正義無き力は暴力。その暴力を、私は決して見逃しません!」
 八重の意志を反映したかのように、紅桜の刀身が赤く輝く。大助と八重、そして六黒。両陣営の主張を黙って見ていた竜造が巨大な刀を抜いて割って入った。
「暴力、大いに結構じゃねぇか。主義だの主張だの、んな細けぇ事はどうでもいい。要はただ、愉しめりゃいいんだよ……殺し合いをなぁ!」
 勢いのまま、竜造が走り出した。金剛の力に突進力を増した強烈な勢いをお見舞いにかかる。
「まともに受けるのは危険……なら!」
 大助が一歩右にかわす。同時に横から手甲を思い切り叩きつけ、威力をそのまま下へと受け流した。鉄塊とも言える竜造の刀はその自重ゆえに地面にめり込んでしまう。
「マスター、右です!」
 だが、隙を突いた追撃はならなかった。余所からの攻撃を察知した七乃の声に従い、後方へと飛び下がる。視線を右にやると、大助に向けて光術を放ったアユナ・レッケス(あゆな・れっけす)の姿が見えた。
「わ、私も、魔鎧として纏われるだけじゃ……ないんですよ?」
「七乃も負けていられません! マスター!」
「分かった、七乃の力、使わせてもらうぞ!」
 これまでは使おうとしてこなかった七乃の魔法を大助が使う。アユナの使う光術に対して七乃が使うのは闇術。光と闇、魔鎧同士の魔法が激突し、相殺された。
「あの時と違って力を使いこなしておるようだな。だが、それだけでは戦いに勝てぬぞ!」
 今度は六黒が高速で迫る。竜造が金剛の力なら六黒は鬼の力。互いが自分の為の動きをしているだけながら、即席の連携のような攻撃を行って来た。
「八重、ここだ!」
「はい! 紅桜……私に力を!」
 そして連携ならばこちらにこそ分がある。前衛の大助に対して中衛に回っていた八重が大きく跳び、後方から加速して来たブラック ゴースト(ぶらっく・ごーすと)の上に乗って勢いを増した。大助の側面を狙う六黒の、さらに側面を狙う八重の必殺技。
「フェニックス・ブレイカー!!」
 父の形見である紅嵐を折られた際に繰り出した技を敢えて同じ相手に再び放つ。不死鳥の名を持つこの技が象徴するように、新しい力と共に蘇った事を示す為に。
「やりおるが……まだまだよ!」
 六黒がギガントガントレットで攻撃を防ぐ。だがそのせいで六黒の攻撃も軌道が逸れ、大助に当てる事は出来なかった。竜造と六黒、大助と八重。両者が再び距離を取って仕切り直しを行う。
「ほぅ、やるじゃねぇかてめぇら。その勢いがどこまで持つか見物だな」
「確かに長期戦ならこっちが不利だろうな。けど、もう勝負はついた……オレ達の勝ちだ」
「けっ、随分な自信だな。ならお望み通り次で終わりにしてやろ――」
「言ったろ? 『もう勝負はついた』って」
 大助が親指で後ろを指す。そこで初めて竜造は大助が言っている意味に気が付いた。壁側に収蔵されていた楽譜や楽器、それらすべてが既にこの広間から運び出されていたのだ。
「オレ達の目的はお前達を叩き潰す事じゃない。助ける奴の力になる事だ」
「そういう事か……雑魚共がうじゃうじゃいると思えば小賢しい事をしやがる。だが、まだこっちの戦いは終わっちゃいねぇぜ」
 あくまで戦いが目的の竜造はなおも続行の意思を見せる。そこに止めに入ったのは意外な事にエッツェルだった。
「おやおや、いけませんよ。悪を名乗られる方の退き際は鮮やかに。いつまでも執着し続けるのは美しくありません」
 彼は生来の気まぐれさを発揮し、盗賊側としての立場は忘れていないものの、今は完全にミソラの味方となっていた。仮に竜造や六黒が運び出された品を求めて追撃を行おうとしたなら、立ちはだかる事になるだろう。
「……けっ、てめぇみてぇなゾンビ野郎と殺りあったって面白くねぇ」
 完全に間を切られてしまった為にやる気をなくした竜造がヘキサデの確保していた穴の方から帰って行く。同様にこれ以上戦闘を続行する気のなくなった六黒達も立ち去り、最後にエッツェル達もゆっくりと消えて行った。
「それではごきげんよう。あの可愛いお嬢さんによろしくお伝え下さい。フフフ……」