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リミット~Birthday~

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第4章、前は『お母様を助けて!!』の章なのです♪


「まだ着かないのですか?」
「そろそろのはずなんだけど……―ん?」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)と別れ、雨宮 七日(あめみや・なのか)と共に小屋を目指していた日比谷 皐月(ひびや・さつき)は、逃走しようとしていた≪不浄なる冷手――ジルド≫達と遭遇した。
「こりゃ、ビンゴじゃねーの♪」
 皐月は眠らされ山賊の頭に抱えられた女性がポミエラの母親だと判断する。
 構える皐月達。すると、小屋の方から緋柱 透乃(ひばしら・とうの)達がやってくる。
「やっと、追いついたって、あらら? 他の人にも誰かいるね。とりあえず味方ってことでいいのぉ?」
「ああ、俺達は山賊退治が目的だから一緒じゃねーかな」
「だね。じゃあ、よろしくね♪」
 すぐさま協力関係を気づくと、生徒達は応戦体制に入る。
 七日と緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が≪シャドウビースト≫について問い詰める。
「あなたには同じネクロマンサーとして、≪シャドウビースト≫のことを伺おうと思っていました……」
「でもこの人、死霊使いじゃないみたいですよ」
「ええ、ですからそれについても詳しい説明をお願いしますね」
 七日が武器を向けて脅していた。
 すると、ジルドは高笑いをして、赤い血で文字が書かれた護符を取り出した。
 それは≪シャドウビースト≫を生み出すための壺に貼られているものと同等のもので、死霊使いの血で書かれたものだという。
 壺の中には複数の動物の骨と一緒に大量の死霊使い達の血液が収められ、それが≪シャドウビースト≫を生み出しているのだと、ジルドは自慢げに話した。
 ジルドは自分の術を完成させるために、多くの無関係な死霊使い達を手にかけたのだ。
「なんてことをしやがるんだ……」
 皐月は拳を強く握りしめ怒りを露わにする。
 ジルドは不敵な笑みを浮かべると、複数の護符を山賊の頭領に向けて放った。
 護符は山賊の頭領の身体のあちこちにあたると、皮膚を切り裂き、身体の内部に侵入する。
 山賊の頭領が悲痛な声をあげ、身体のあちこちから死霊の手や頭が飛び出してきた。
「めっちゃ、グロテスクになっちゃったよ」
 透乃が表情を歪める。
 理性を失った山賊の頭領は死霊と融合した化け物と化し、周囲に悲痛な叫びを撒き散らしていた。
 七日と陽子が不敵な笑みを浮かべるジルドを睨みつける。
「同族の敵討ちなんて柄ではありませんが、命を扱うネクロマンサーとして死者を愚弄するあなたの行為を見逃すわけにはいきません」
「そんな他人を犠牲しなければ扱えない力などただの紛い物です。本当の死霊使いの実力をこの人を解放して、証明してみせます」
 二人の声が自然とシンクロする。

「「私達があなたを倒します!!」」

 七日と陽子を守るようにして、それぞれのアンデッド達が配置についた。
 七日と陽子の言葉に答えるように頭領と死霊の融合体は、空に向かって咆哮をはなった。
 ジルドが舌打ちすると、地面に放り出されたポミエラの母親を担いで逃げ出す。
「ここは私達に任せてあの男をお願い!」
「わかりました」
 白星 切札(しらほし・きりふだ)達は透乃達と別れてジルドを追いかける。
 すると、融合体が邪魔しようとしてきた。
「おっと、この先には行かさないよぉ」
 透乃が融合体の前に立ちふさがり拳を繰り出した。
 拳は防御してきた死霊の腕を打ち砕くのだったが、すぐにその腕は再生してしまう。
「死霊だけあって、再生機能付きってわけね。やっかいだわ」
 透乃が苦々しい表情をしていた。
「まずはあいつの動きを押えます。いいですね?」
「はい!」
 七日と陽子が協力して融合体の抑えにかかる。
 皐月と透乃は抵抗してくる腕を出来る限りつぶした。
 アンデッドによる拘束が徐々に完成する。
「よし、これで……」
「危ない、七日!」
 拘束が成功したと安心した七日の所に、急速に伸びてきた融合体の腕が襲いかかった。
 皐月が七日を押し倒す。
「ふぅ、ぎりぎり間に合ったな」
 皐月のおかげでどうにか攻撃を回避した七日。
 腕は透乃に破壊され、今度こそ完璧に拘束される。
 皐月と七日は埃をはらいながら立ち上がる。
「七日、油断するんじゃねーよ」
「……なまいきです。後でお仕置きすることにします」
「ええ、頑張って助けたのに!?」
 ショックを受ける皐月。
 すると七日は皐月から少し離れると、首だけ振り向き、艶やかな唇に細い指を当て「嘘ですよ」とウインクしてみせた。
 皐月は思考を停止して、思わず見惚れていた。
「マジ天使じゃねーか」
「ぷぷっ、皐月ちゃん。心の中の言葉が口に出てるよ」
「うわっわわ!?!?」
 いつの間にか隣にいた透乃に恥ずかしい台詞を聞かれてしまい、皐月は耳まで真っ赤にしていた。
「二人とも遊んでないで決めますよ!」
「透乃ちゃん、お願い!」
「はぁい。任されたよ―」
 透乃は必死に弁解しようとする皐月を置いて、拳に炎を宿しながら、身動きの取れない融合体の懐に潜り込む。
「くらえぇぇぇ!!」
 透乃が拳を叩き込み、炎が融合体の全身を覆う。
 透乃が拳を引き、攻撃が終わった。かのように見えた。
 なぜなら、炎はまだ融合体を覆っている。
「え、何、どうして!?」
「透乃ちゃん、離れて!!」
 炎は融合体の身体から溢れた死霊に阻まれ、融合体の周囲を渦巻いていた。
 透乃は陽子に言われて慌てて逃げ出す。
 融合体を覆った炎は水を入れた風船のように巨大化する。
 炎で融合体の姿が見えなくなる。
 そして限界まで腫れ上がった炎は、鼓膜を破るような音と共に――破裂した。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
 周囲を爆風と共に激しい炎が覆う。
 一瞬にして周囲を荒地にした爆発が収まった。
 焦げ臭さが漂う。
 透乃達が目を開けると、七日と陽子のアンデッドが目の前に固まって立っていた。
 アンデッド達が火から守ってくれたのだ。
「た、助かった……」
 七日と陽子が感謝を述べると、仕事を終えたアンデッドはゆっくりと休み始める。
 彼らはジルドの術を打ち破ったのだった。


「もらった!!」
 白銀 昶(しろがね・あきら)がジルドが視線を外した隙をついて、ポミエラの母親を助け出した。
 すると、すぐ後にジルドが見ていた方角から突風と爆発音が聞こえてくる。
「どうやら、あの人たちがやってくれたようですねぇ」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)が昶からポミエラの母親を預かりながら、のんびりした口調で語りながら笑う。
「これで形勢逆転だ。決めさせてもらうぜ」
 手が空いた昶が武器を構え直す。
 ジルドは何度も舌打ちしていたが、ふいに何か吹っ切れたように顔を歪めて天に向かって高笑いをした。
 白星 切札(しらほし・きりふだ)が脅える白星 カルテ(しらほし・かるて)を庇うよう後ろに隠す。
 突如、ジルドは真っ赤に染まった護符を取り出した。
 そして、ジルドは――その護符の両端を持つと、二つに破ってしまった。
 瞬間、山小屋の方で轟音が鳴り響いた。