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リミット~Birthday~

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リミット~Birthday~

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第4章の後! 『みなさん、負けないで!』の章なの! なの♪


 草木が生い茂り、深い霧の発生している森でも視界不良は、生徒達だけでなく山賊側にも影響する。
「くそっ、やられたな。あのナイフに毒が塗ってあったとは……」
 最初に辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)が投げたナイフに塗ってあった毒が効いてきた佐野 和輝(さの・かずき)は、茂みに隠れながらルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)の【獣医の心得】によって治療を受けた。
「はい。和輝さん、もう大丈夫ですよぉ」
「ありがとう。助かった」
 和輝は解毒が完了するまで迎撃を担当してくれていた冴弥 永夜(さえわたり・とおや)達の元へ戻る。
「おまえ、もう大丈夫なのか?」
「ああ、すまない……迷惑かけた」
「別に気にしなくていい」
「そうそう、助けあうのが仲間だからねぇ」
 和輝がクド・ストレイフ(くど・すとれいふ)に背中を叩かれた。
 楽しそうに笑うクドに永夜が尋ねる。
「随分と余裕だな。おまえは空から落ちてきたんだろう。異常はないのか?」
「大丈夫。お兄さんはこう見えて結構頑丈にできてるから――!?」
 クドが笑っていると、頭上をシスタ・バルドロウ(しすた・ばるどろう)のビーム砲が通り過ぎ、三人はその場を移動した。
「山賊はともかくあの二人はやっかいな相手だな」
 永夜が木の陰から様子を探る。
 永夜が言ってるのは山賊に雇われたシスタと刹那のことだった。
 和輝がシスタの武器を睨みつける。
「ストレイフのパートナー、あいつの武器は面倒だ……」
 シスタの持つ武器は連射性能を覗けば、その威力とビーム砲を薙ぎ払った時の範囲はやっかいなものだった。
「ごめんねぇ。シスタさんも仕事だからねぇ」
「俺達の銃ではパワーが不足だな」
 永夜が自身の銃を見つめながら、呟く。
 すると、和輝が提案する。
「集中砲火を食らわすか」
 和輝の提案は三方向に分かれて一気に仕留めようというものだった。
 それは誰かが犠牲になることを覚悟しての作戦だった。
 残り二人も同意するが、ただ一つクドの頼みでできるだけ足元を狙って発砲することになった。
「お兄さんはこの中で、一番付き合いが長いから正面から行って避けてみるかなぁ」
「俺は右側から行く」
「左……了解」
 永夜と和輝が相手に気づかれないようにゆっくりと動いていく。
 すると、後方で控えていたアンヴェリュグ・ジオナイトロジェ(あんう゛ぇりゅぐ・じおないとろじぇ)アニス・パラス(あにす・ぱらす)に話しかける。
「君、彼らが動いたら援護にいくよ」
「キミじゃなくてアニスだもん!」
「アニス、今はそんな場合じゃないですよぉ♪」
 ルナに言われてムスッとしながらもアニスも攻撃の用意をする。
 シスタと刹那は感覚的に察知したらしく周囲への警戒を強めていた。
 三人が配置についた。
 緊張が高まる。
 そして――森の中から爆音が鳴った。
「今だ!!」
 一斉に三人が茂みから飛び出し、銃弾が舞う。
 クドは襲ってきたシスタのビーム砲をギリギリで回避する。
 和輝は刹那の放った大量のナイフを無理して避けようとはせず、多少ダメージを受けながらも引き金を引いた。
「大丈夫よ、和輝。さっきルナが【イナンナの加護】を付けてくれたから、毒の周りは遅いはずよ」
 鎧からスノー・クライム(すのー・くらいむ)の声が聞こえる。
 三人が放った銃弾の内、いくつかがシスタの手と足に命中した。
 シスタが銃から手を落としてしゃがみこむ。
 永夜達がこのまま一気に決めようとした。

ドォン!!

 その時、突如山小屋が吹き飛んだ。
「な、なんだ!?」
 山小屋の跡の上に墨汁のように黒い液体のようなものが集まっていく。
 気づけば周囲に霧はなく、遥か遠くにオレンジ色の太陽が見えていた。
「これは……影か!?」
 影と思われる黒い液体は、山小屋の上で球体状に構成されていく。
 全員の視線が球体に注がれている時、山賊の叫び声が響く。
 視線を向けると、山小屋から周辺に巨大な影が伸びていた。
 山小屋の影からは手が伸びて来ていて、山賊の影に入り込む。
 影に入り込まれた山賊は足元から自身の影に飲み込まれていった。
「まずい! アンヴェル、援護を!」
「わかった」
「皆、急いで影から離れろ!」
 永夜はアンヴェリュグに指示を出し、地面を走る手を攻撃しながら山賊達を助け始める。
 手の形をした影は攻撃を受けると、一時的に動きを止めることができた。
 その隙に逃げ出す山賊達。

 永夜にならって援護を開始した和輝は、地面に倒れている刹那を見つけた。
 山小屋が崩壊した際に飛んできた柱の一部が、刹那の細い少女の足を押しつぶされていた。
 刹那に伸びる影。
「やらせるか!」
 和輝は影に攻撃しながら、足で柱を蹴飛ばす。
 そして、刹那を片手で抱えると、迫りくる手から逃げる和輝。
「お、おまえ、何をするのじゃ!」
「いいから、おまえは黙っていろ!」
 じたばたする刹那に怒鳴りながら、和輝は必死に走った。

「シスタさん、こっちです!!」
 クドが銃弾を受けてうまく歩けないシスタの肩を持って逃げようとする。
 背後から迫る巨大な手。
 うまく歩けないシスタを抱えたクドは今にも追いつかれそうだった。
 クドは諦めて目を閉じる。
『伏せてください!!』
 空中から声がしたかと思うと、クド達の後方で爆発が起きた。
 吹き飛ばされるクドとシスタ。
 クドは身体を起こしながら空を見上げる。
「飛空艇?」
 そこにはルカルカ・ルー(るかるか・るー)が男性教諭に頼み、彼の実家から持ってこさせた大型の飛空艇の姿があった。
 先ほどの爆発はその飛空艇の砲撃によるものだった。
 すると、砲撃を受けた黒い影が空中に手を伸ばし、飛空艇をとらえた。
『え、ちょ、ちょっと何!?』
 飛空艇のスピーカーから内部の混乱が聞えてくる。
 飛空艇は黒い影を振り切ろうとするが、引っ張られ段々と高度を下げていく。
「このままじゃ、引きずり込まれる!」
「そうはさせなねぇよ!」
 シスタがクドを振り払うと、血が滲み、傷が痛む手で無理矢理ビーム砲を放った。
 ビーム砲が飛空艇をとらえていた手を引き裂く。
『ありがとう! 助かったわ!』
「いいから、さっさと避難しやがれ!」
 自由になった飛空艇は安全な位置へと移動し始めた。
「シスタさん……」
「こりゃどう考えても契約は破棄だろ。ほら、逃げるぞ!」
 シスタは駆けつけたアンヴェリュグとクドに両脇を抱えられながら、退避する。

「和輝はやらせないよぉ! くらえぇぇ!!」
 アニスが【凍てつく炎】を放つ。
 すると、スノーは影が炎を避けているのに気付いた。
「火を避けている? アニス! 奴を囲むように火をお願い!」
「ええ、アニス一人でやるんですかぁ!?」
「私達も協力するわよ」
 振り返ると、森から神曲 プルガトーリオ(しんきょく・ぷるがとーりお)を初め、次々と生徒達が集まってきた。
 

 アニス、神曲、御凪 真人(みなぎ・まこと)メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)杜守 柚(ともり・ゆず)高円寺 海(こうえんじ・かい)が、山小屋の周囲に広がった影を囲むように炎の柵をつくった。
 これでにより影の侵攻を止めることができている。
 炎は影の影響を受けてか、燃焼時間が短く、彼らは定期的に術を唱え続けた。
「問題はこれからどうするかだ」
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が腕を組んで問題定義する。
 このまま放っておくわけにはいかない。
 だが、相手は≪シャドウビースト≫と同じ影の存在だ。
 発生した原因はジルドが破った真っ赤な護符だ。それが本体だったというのなら、すでに破壊は完了していることになる。なら本体は別にあることになる。
 術を発動した本人に聞きたい所だが、ジルドは護符を破ると同時に、手に入り込まれることもなく、突如自身の影に飲み込まれてしまった。 
「とりあえず壺を破壊してみるというのはどうですか?」
 そう提案したのはルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)だった。
 同じ影の存在を生み出すジルドが設置したものなら、何か手がかりがあるかもしれないという考えだった。
 生徒達は考える。
 そして、今は可能性を全て試すしかないという結論になった。
「アレーティア、確か壺の場所を分析してたよな」
「うむ。しかし、まだ完璧ではないのじゃ……」
 アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)は壺があると思われる場所を示した地図を広げて生徒達に話し始める。
 そんな中、森からカセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)が放った幻獣が走ってきた。
「おお、おかえり! おまえ、無事だったんだな〜。って、なんか銜えてる?」
 幻獣が銜えていたのは血がこびり付いた動物の骨だった。
 その骨は間違いなく壺の中身だと思われた。
 幻獣は骨をカセイノに骨を渡すと、森の入り口にかけていき、尻尾を振りながら何度も吠えていた。
「その犬、他にも壺を見つけたんじゃないか?」
「うむ。犬は鼻が利くからのぉ。ちょうどいい。わらわの情報で不足している部分はその犬っころに案内してもらうことにするかのぉ」
 幻獣が元気よく吠えた。
 生徒達は壺を壊すため行動を開始しようとする。
 ふと、真司は気づいたことをアレーティアに問いかける。
「アレーティア。どうやって俺達に壺の場所を知らせるつもりだ?」
「一応、アニマのライフルでおぬし達の位置を把握しながら、飛空艇からスピーカーで指示を出すつもりじゃ。まぁ、なんなら自走式電磁加速砲で直接飛ばしてやってもいいのじゃが、どうする?」
「いや、それはやめておく……。それよりてっとり飛空艇の砲撃で終わらせられないのか?」
「飛空艇の砲台は先ほどの攻撃で壊れたそうじゃ」
「あっそ……」


 アレーティアの指示通りの場所に向かった和輝を待っていたのは、大量の≪シャドウビースト≫だった。
「やれやれ、壺を破壊するだけかと思えばバッチリ待機してやがる」
「和輝、注意して。こいつらは今までの≪シャドウビースト≫とは違うみたいよ」
 スノーが和輝に注意を促す。
 すると≪シャドウビースト≫が獣の姿から取り込まれた山賊の姿に変わった。
 和輝は暫く様子を見た後、≪シャドウビースト≫の足を狙って発砲する。
「血は出ない。それどころか再生もするか。周囲の影がこちらを取り込む気配もない。ならば問題ないな……存分に叩かせてもらう」
 問題がないことを確認した和輝は、≪シャドウビースト≫に突撃する。
 和輝は攻撃を回避して至近距離から次々と殲滅していく。
「弱い……これでは相手にならんな」
 和輝が近づいてきた≪シャドウビースト≫を銃で殴り飛ばす。
 すると、地面に倒れこんだ≪シャドウビースト≫に飛んできたナイフが命中する。
 振り返った和輝の視界に映ったのは、足に包帯を巻いてナイフを構える刹那の姿だった。 
「お前……」
「借りは返すのじゃ」
「別にいらないんだけど……」
 和輝は強制的に一緒に戦うことになった。
 一方、近くの木の陰ではルーシェリアが壺の位置を確認していた。
「アルトリアちゃん、今のうちに壺を破壊するわよ」
「はい」
 ルーシェリアはアルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)と一緒に壺に向かって走り出す。
 すると、≪シャドウビースト≫が襲いかかり、アルトリアが止める。
「くっ、ルーシェリア殿。ここは任せて壺を!」
「わかったわ」
 壺を目前に控えたルーシェリアの前に≪シャドウビースト≫が立ちふさがる。
「どいてくださぁぁい!!」
 ルーシェリアが渾身の力をこめて剣を振り下ろすと、パリンと音を立てて壺が破壊された。


「おお、また影の球体が小さくなったのじゃ」
 アレーティアが声を上げる。
 壺が破壊される度に影が集まってできた球体が小さくなる。
 球体はあっという間にバスケットボールくらいになった。
 その内部から赤き核と思しき光が見えていた。
「見えた。本体か……あれを壊せば――!?」
 海が声をあげた時、異変は起きた。
 生徒達が発生させていた炎に、今まで避けていたはずの影がふれ、赤い炎が黒く染まったのだ。
「エネルギーを吸われているのか……」
「おぬしら、何をしておるのじゃ! 早く手を離すのじゃ!」
「出来たらとっくにやってる」
 海は術を唱えた状態から身体が動かせない。
 それどころか連続で強制的に術を発動させられているかのように、疲労が段々とたまっていく。
 海は隣の柚を心配した。
「柚、大丈夫か!?」
「大丈夫です、でもそんなには……」
「くっ、このままでは……」
 苦い顔をする海。
 閃崎 静麻(せんざき・しずま)が銃で核を潰そうとするが、攻撃は途中で地面から出現した影によって止められてしまう。
「駄目だ銃では届く前に止められちまう」
 レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が近接を試みるが、すぐに引き返すことになった。
「こっちも駄目です。近接では近づく前に足元の影に取り込まれてしまいます」
 すると、声が聞えてくる
「……ならば、捕えられる前に抜ければいいだけだ」
 静麻達が振り返った。
 
「蒼い空からやって来て、不吉な霧を晴らす者! 仮面ツァンダーソークー1!」

 そこには仮面ツァンダーアクションスーツに身を包んだ風森 巽(かぜもり・たつみ)が、夕日を背にポーズを決めて立っていた。
「その役目、我にやらせてもらおう」
 核を仕留めようと近づいていく巽の肩を静麻が掴む。
「おい、遊びじゃないんだぞ」
「遊びではない。ヒーローとは戦いには常に本気で挑むものなのだ!」
「これはヒーローごっごじゃ――」
「なんでもいいから早くなんとかしてくれ!」
 言い争っている巽と静麻を見かねて、海が叫ぶ。
 森に入った他のメンバーが全員戻ってくるまで待っている猶予はない。
 巽は静麻を振り切ると、【ゴッドスピード】を発動して走り出した。
「待っていろ、今助ける!」
「あっ、くそっ。援護する!!」
 ビームナギナタを振り回しながら右へ左へと、不規則に走り抜ける巽。
 巽は宣告通りにまるで黒い湖畔の上を走りぬけていくようだった。
 静麻は浮かび上がってきた黒い手をひたすら打ち抜いた。
「ハハハハ、捕えられまい!!」
「いいから、さっさとしとめろ!」
「うむ、仕方ない。早々にクライマックスと行かせてもらおう! トウォ!!」
「あの馬鹿っ!!」
 巽が勢いよく飛び上がる。
 空中に飛んだ巽に向かって黒い手がいくつも伸びる。
 静麻が打ち落とそうとするが、なかなか追いつかない。
 すると、後方から銃弾が援護する。
「俺達も援護するぞ!」
 壺を破壊して戻ってきた冴弥 永夜(さえわたり・とおや)達が、援護を始めたのだ。

「ソゥクゥ! イナヅマッ! キィィィックッ!」

 援護を受け、邪魔するものがいなくなった巽は強烈な一撃を核に打ち込む。
 ガラスが割れるような音が鳴り、球体が弾けた。
 黒い影は地面に解けて消えていった。
 術を発動していた生徒が解放される。
 海はふらりと倒れそうになる柚を支えた。
「柚! 大丈夫か!!」
「はい。どうにか……」
 上空から生徒達を回収するために飛空艇が降りてくる。
 街に明かりが灯り、空は遠くに微かなオレンジ色の光が残っているだけだった。
 静麻が巽に近づく。
「お前な。もう少し考えて行動をしろよな」
「閃崎さんならきっとやっとくれると信じていたよ」
「そういう考えはいらん」
「次はぜひ一緒に仮面ツァンダーとして戦ってほしいものだな」
「ちゃんと人の話を聞けよ」
 顎に手を当て、うんうん唸っている巽を見て静麻はため息を吐いた。

 飛び立つ飛空艇。
 中では目を覚ました母親に泣きながら抱きつくポミエラの姿があった。