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迷惑な青い鳥

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迷惑な青い鳥

リアクション


1.青い鳥の暴走

 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は空を舞う鳥を眺めていた。青い体躯が見事な鳥である。
 シャンバラ国軍の公務で空京を訪れたのだが、こんなところに青い鳥が飛んでいるのは珍しい。
 すると、彼女の見つめていた鳥が頭上を掠めていった。思わず目を閉じたセレンフィリティ、両目を開くのと同時になんだか気分が良くなってくる。
「……あれれー? 酔っちゃった、みたいー……」
 先を歩いていたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はパートナーを振り返って驚いた。
「セレン!?」
 ふらふらと酔っ払っているセレンフィリティは、セレアナを見るなり飛びついてきた。否、押し倒してきた!
「ちょっと、セレン!? 待って、こんなところで――っ」
 街中で襲われそうになったセレアナは、慌ててパートナーを跳ね除け、起き上がった。するとセレンフィリティは何を思ったのか、着ていた制服を脱ぎ始める。
「あぁ、身体があつい……これはもう、やっちゃうしか……」
「何言ってるの、セレン! いったい何を……」
 と、周囲に目を向けた途端にセレアナは理解した。セレンフィリティと同じく酔っ払った人々がいるではないか――そしてその頭上に飛んでいるのは、薬らしき何かを撒き散らしている青い鳥だ。
 服を脱ごうとするセレンフィリティをどうにかこうにか落ち着かせ、セレアナは息をつく。
「さっきの青い鳥が原因みたいね。それでセレンも酔わされて……どうにかできないかしら」
「……あの鳥め、あたしをここまで酔わせるなんて、なんてたちの悪い! お仕置きとして焼き鳥の刑よ!」
 と、セレンフィリティは勢いよく立ち上がった。直後にくらっと来たが構わずに空を見上げる。
「見つけた!」
 遠くの空に青い鳥を見つけ、取り出した『マシンピストル』をすぐさま発砲するセレンフィリティ。しかし酔いが冷めていないせいで狙いが外れ、何度撃っても当たらない。
 セレンフィリティはむきになった。
「なめてるんじゃないわよ!」
 と、『レビテート』を使用し空中に浮遊、鳥を追いかけ始めた。
「セレン、無理しちゃ駄目っ」
 と、慌てて彼女を追うセレアナだが、青い鳥は一匹だけではなかった。
 目の前を横切っていった青い鳥にセレアナの様子がおかしくなる。
「セレン! 下手に動くと酔いが回ってもっと大変なことになるわよ! っていうか、いつもセレンは考えなしに動くんだから、たまには人の苦労も考えなさい!」
 と、本音を口にし始めた。言わずもがな、素直にナールの効果である。
「何が焼き鳥よ、セレンがただ食べたいだけじゃないの。だいたい、青い鳥って幸せを呼ぶんじゃなかった? 何でそれが人を酔わせたり……な、何で思ってること全部口に出しちゃうの!?」
 ようやく自分の状況に気づいたセレアナだが、それよりもセレンフィリティが心配だ。
「ああもうっ、こんなことになるなら空京なんか来なきゃ良かったわ! 本当に腹が立つわ、あの鳥め! 焼き鳥というより、もういっそのこと火あぶりにしちゃいましょう! 灰になるまで燃やす! 燃やしつくす!」
 セレアナが一人で毒舌マシンガントークを続ける一方、セレンフィリティはどこで手に入れたのか、虫取り網をめちゃくちゃに振り回して鳥を追いかけていた。
「諦めて大人しく捕まりなさいっ!」
 と、向かってくる虫取り網を青い鳥は軽々と避け、自由を満喫する。
「よく見たら他にもいっぱい青い鳥がいるわ! それも色が微妙に違う薬を噴射してる、って、ふざけるんじゃないわよ! いったい何の薬よ!? セレンも無理しちゃ駄目っ、あんたが倒れたら看病するのはあたしなのよ!?」
「わーってる、わよぉ……う、めまいしてきた」
「言ったそばから!」

 大学構内に流れた放送を聞いて、ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)は溜め息をついた。機晶ロボットの青い鳥が逃げ出しただと……講義や研究の邪魔になるじゃないか。
 自分のためにも捕まえるしか……と、仕方なく席を立つラルク。
 廊下へ出ると、早くも青い鳥が構内を飛び回っているのが見えた。学生たちもまた、その青い鳥の餌食になっている模様だ。
 こちらに向かって飛んでくる鳥に目をつけ、ラルクはすれ違う瞬間を狙ってジャンプし鳥を捕まえた。さすがに機晶ロボットだけあって、反応がやや遅れるようだった。
 手にした青い鳥に薬を噴射される前に戻してしまおう、と、ラルクはさっさと講堂へ向かう。
 酔った学生、本音をずばずば喋る学生、急に誰かに惚れる学生……空京大学は、今日も賑やかだ。
 講堂へ入ると、中では一匹の青い鳥が飛び回っていた。まるで講堂すべてが自分のもののように、好き勝手に舞っている。
「あー、何かここも大変なことになってんなぁ……」
 と、苦笑するラルク。
 青い鳥はばさっと羽根を広げて高度を上げるなり、ラルクめがけて急降下してきた。狙っているというより、その手の中の青い鳥に何かを感じたようだ。
「!」
 ラルクがはっとしたのも束の間、青い鳥に吹きかけられた酩酊薬により意識がふわっとなる。
 彼の手にした鳥が抜けでてどこかへと逃亡していった。それに気づくことなく、ラルクは叫んだ。
「いやー、いい気分じゃねぇか!!」
 着ていた服を恥ずかしげもなく脱ぎだして、ついには全裸になってしまう医大生。彼は後悔することになることも知らず、目に付いた人々を次々に巻き込んでいく。
「こういう時は脱ぐに限るな! ほれー、お前たちもぬげぬげー」
 教育上、あまりよろしくない光景に佐野和輝(さの・かずき)アニス・パラス(あにす・ぱらす)の両目をとっさに手で隠した。なるべく身を潜めて酔っ払いに狙われないよう、気を張るが……。
「身体がぽかぽかしてきたー……なんか、変なきぶん……」
 はっと手をどかして見ると、アニスの両目がとろんとしていた。薬を吸わないよう気をつけろと言ったのに、いつの間にやら彼女は酔わされてしまったようだ。
「うー、熱い! 服なんていらないから脱いじゃえー!」
「ちょ、ま、待てアニス!」
 と、和輝は慌てて彼女の手を止めさせた。どうやら、先ほどの酔っ払いと同じタイプの酔い方らしい。しかもあっちは演壇にいた教授たちまで裸にさせている!
「えぇー、何でぇ? 熱いよぅ……」
 ぼーっとこちらを見つめるアニスに、和輝は困惑した。
 青い鳥の中には解除薬を入れたものもいるというが、見ただけでは分からない。とりあえずアニスが裸になる事態だけは避けたいし、捕獲に加わるのであれば連れて行くのがベストか……。
「……あっ、和輝の唇がこんな近くに……んー」
「――え?」
 両目を閉じて唇を近づけてくるアニスを慌てて押し離す。
「待て待て待て! キスしようとするなっ!」
「ふにゃあ!? やめてよ、和輝ぃ、キスできないよー」
「しなくていい!」
 これは危険だ、危険すぎる。和輝はやはり自分から解除薬を探しにいくことに決めた。待っていてもしょうがない!
 ぱっと立ち上がった和輝の腕をアニスはとった。
「あー、和輝の身体ひんやりー! きもちいいー」
 と、猫なで声を出してすりすりしてくる。
「よし、俺から離れるなよ」
「うん! 和輝ー」
 青い鳥と酔っ払いに注意しながら講堂を抜け出す和輝とアニス。
 冷たい空気が二人を囲んだところで、今度はアニスが抱っこをせがんだ。
「抱っこしてー、和輝!」
「はぁ?」
「抱っこ、抱っこぉ。抱っこしてくれないと泣いちゃうぞ! うぇぇーん」
 酔っているため嘘泣きなのか本物なのか分かりかねたが、このままではアニスが邪魔だ。
「くそっ」
 彼女の機嫌をとりつつ青い鳥を探すしか方法はなさそうだった。仕方なく和輝は彼女を抱き上げると、大学の外へ出た。