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【新米少尉奮闘記】飛空艇の新たな一歩

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【新米少尉奮闘記】飛空艇の新たな一歩

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 さて、そのセレアナ・ミアキスのパートナー、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、チームメイトのリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)と二人で赤チーム旗艦に強襲を掛けていた。
「まったく、あたしには空戦って性に合わないわね!」
 機体や相手に重大な損傷は与えられない為、慎重な射撃が求められるという状況に苛立ちを見せながら、シャーレットは対物ライフルを構え、タン、タンと中途半端な時間を開けての連射を続けている。
 それを受けているのは赤チームの叶 白竜(よう・ぱいろん)世 羅儀(せい・らぎ)のふたりだ。
「もう、邪魔ねあの二人……道が出来れば、乗り込んじゃうんだけど」
 シャーレットの隣をアルバトロスで飛びながら、フェルマータがじれったそうに言う。
 火力のある武器は持っていないが、どうせ演習ではそうそう使えない。逆に言えば、敵も全力で掛かってくることはないだろう、そう踏んで敵艦に直接乗り込んでの白兵戦を狙っているのだが、叶と世の二人は絶妙な連携でシャーレットの攻撃を防いでいる。
「ほんっと、二機しか居ない癖に!」
 苛立つシャーレットの放つライフル弾が、世の機体を捕らえる。が、その背後から現れた叶が手にしたハンドキャノンを放った。
 演習用の弾が装填されているとは言え、喰らうのは得策とは言えない。
 シャーレットは慌てて飛空艇の操縦桿を繰って一時その場を離脱する。
 しかし、すぐに体勢を立て直し、地味な牽制射撃を続ける。
 一発一発は攻撃力の低い、地味な攻撃とは言え、何度も当たれば機体損傷と見なされてしまうかも知れないので闇雲に喰らう訳には行かない。
「小暮少尉、敵小型飛空艇の牽制射撃が厄介です」
 叶は通信を開き、指揮官である小暮の指示を仰ごうとする。
――了解、引き続き応戦を。
「少尉、このままでは機体に要らぬダメージを受けます。決断を、早く」
 シャーレットによる情報攪乱が行われているとは知らず、叶は語気を強める。しかし、回線にノイズが入ったかと思うと、切断されてしまう。情報攪乱か、と思わないではなかったが、いずれにせよ指示を仰げないのは厄介だ。
「仕方がない」
 この様子では、世との通信も攪乱されてしまうおそれがある。どちらが攪乱を掛けているのかは解らないが、このまま牽制射撃を続けられているのも厄介だ。叶は射撃をしてくる方をターゲットに決める。
 ぐんと飛空艇を加速させて、シャーレットの懐へと飛び込んでいく。いくら演習用の弾が入っているからと言って、突然飛び込んでくるだなんて正気の沙汰じゃない。シャーレットは一瞬、打つ手を止めた。
 するとその隙をついて、叶は手にしたハンドキャノンをシャーレットに向ける。直接は狙わず、機体エンジン部を狙って、一発。撃ち込んだ後は即座に離脱する――旗艦とは反対の方向へ。
「ちょっ……良くもやってくれたわね!」
 ガツンと揺れた機体に頭に血が上ったか、シャーレットは体勢を立て直すと叶の後を追った。

「あ、おい白竜!」

 俺一人で防衛? と途方に暮れる世の横を、フェルマータがちゃっかり通り抜けていく。
 待て、と慌てて世は道をふさぎに掛かる。
「退いてちょうだい」
 フェルマータは凛とした声でそう言うと、おおお、と迫力のある声で咆吼を上げた。
 その圧力に、世は思わずその場に凍り付く。
 その隙にフェルマータは、すたっと赤チーム旗艦へと降り立った。

 フェルマータが降り立ったのとほぼ同時、小暮が手にしたお守りが反応を示した。
「侵入者を感知、船体後部です!」
 小暮が叫ぶ。いち早く動いたのは大岡永谷だった。
 咄嗟に管制室を飛び出す。抑えられるとまずいのは管制室と機関室。船体後部からその二部屋へ向かうには、道は一本しかない。大岡は、その道の途中にあるドアの影に光学迷彩を展開しつつ潜み、相手を待つ。
 フェルマータは、見事侵入成功した飛空艇の中を慎重に進んでいく。警戒は怠らないが、既に自分が待ちかまえられているなどとはつゆ知らない。
 人の気配は無い。青いラインが美しい盾をぎゅっと握りしめ、翳して進む。
 と。
「侵入者、確保!」
 今まで気配の無かった背後から突然人の声がして、がくんと視界が揺れた。フェルマータはひとたまりもなくその場に崩れ落ちる。
 大岡は光学迷彩を解くと、気を失った侵入者を、拘束するため管制室へと連れて行く。はじめは引きずって連れていこうとしたが、女性、しかも校外生ということもあり、ちょっと躊躇ってから抱え上げた。
 フェルマータの方がやや小柄、とはいえ体格差があまり無いので、お姫様抱っことは行かなかったけれど。

 その頃、フェルマータのパートナーであるシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)は敵チームのコンテナ回収組を発見していた。三船 敬一(みふね・けいいち)が乗る小型飛空艇を中心とする中規模の編成だ。
 三船と、そのパートナーの白河 淋(しらかわ・りん)コンスタンティヌス・ドラガセス(こんすたんてぃぬす・どらがせす)レナ・ブランド(れな・ぶらんど)天津 幻舟(あまつ・げんしゅう)は、三船の乗る小型飛空艇を中心に編隊を組んで移動していた。
 白河とドラガセスが三船の周囲を固めている間に、三船が登山用ザイルに結びつけたフックを、コンテナ天面に引っかける。
 このままでは赤チームにコンテナを持って行かれてしまうと判断したロスヴァイセは、ペガサス・ディジーの手綱をぐっと握った。
 あまり接近して戦闘になることは避けたい。幸い、相手チームにはディジーよりも機動力がある乗り物に乗っている者は居ないようだ。ロスヴァイセは自分の能力が届くギリギリの距離にまで接近すると、相手が設置しているロープ目掛けて強く念じた。
 ロスヴァイセの存在に気付いた白河とドラガセスが、こちらを向く。
 が、二人が動くより早く、三船が手にしているロープが突然炎上した。ロスヴァイセのパイロキネシスだ。
「っ……あっち!」
 咄嗟に三船はザイルを切ってその場を離れる。幸い金属製のフックは燃え残ったようだったが、再びコンテナを持ち上げるにはザイルを結び直さなければならない。
「ちっ、やってくれるな。白河、ドラガセス!」
「解っている。行くぞ!」
 三船が一声掛けると、白河とドラガセスがロスヴァイセ目掛けて飛んでいく。
 ペガサスの機動力には、ロケットシューズやレッサーワイバーンでは一歩劣るが、こちらには数の利がある。
「援護は任せて!」
 白河達が離れた後を引き継ぐように、ブランドが三船を守るように割って入る。さらにブランドの後に乗っていた天津が、ヴァルキリーの翼を広げ、その長身でレナの小柄な身体を守る様に立ち塞がる。
 戦闘の火蓋を切って落としたのは、白河の手にした黄昏の星輝銃による一斉射撃だ。大量の弾薬を、命中率度外視でばらまく様に発射する。弾は演習用のゴム弾だが、当たれば痛い。ロスヴァイセはディジーの手綱を操り、大きく羽ばたかせてその場を離脱する。
 が、そこへすかさず、龍鱗化を発動したドラガセスが、レッサーワイバーンで突っ込んでくる。
「今回はなるべく、戦闘は回避で行きたいのよね」
 そう呟いたロスヴァイセは、ドラガセスに肉薄されるより早く、ディジーの鼻先を明後日の方向へと向けて、その腹を蹴る。不満そうに嘶いたディジーだったが、すぐに翼を大きくはためかせると、空に向かって駈けていく。
 撃退したか、と赤チーム一同の顔に安堵が浮かんだ。
 が、そこへ。
 ヒュゥウ、と空を切る音が響き渡る。
 嫌な予感と共に一同が空を振り仰いだ瞬間、猛烈な風が辺りを包み込んだ。
 小さな乗り物はひとたまりもなく、そのバランスを崩し、くるくると空中を舞う。
「ぐっ……な、何だ!」
 いち早く操縦を取り戻した三船が空を睨む。
 と、そこには。
 船腹に青いステッカーを貼った、戦闘機の形状をしたイコン――セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)館山 文治(たてやま・ぶんじ)が乗る、フラートゥスが光学迷彩を解いて姿を現した。
 巨大なその姿に、皆の顔に緊張が走る。
 人の身で切り結ぶには、あまりに巨大であり、強大だ。
 しかし、勝利の為にはコンテナを渡すわけには行かない。
「こちらコンテナ回収班、敵イコンと遭遇、援軍を頼む。何としても、コンテナを死守するぞ」
「解ってるって、行くよっ!」
 通信を終えた三船の声に、ブランドが応じる。
 ブランドが祝福の祈りを捧げると、白河とドラガセスの全身に力がみなぎる。
 祈りに集中するブランドの前には天津が護衛に入り、白河は銃口を、ドラガセスは構えた薙刀様のレーザー武器をそれぞれフラートゥスに向ける。
「ふむ……生身でイコンに挑む、ですか。無謀と言うほかないですな」
 トレードマークの芋ケンピを煙草のようにくわえながら、フラートゥスの操縦桿を握るフィッツジェラルドは呟いた。
「だが、やるからには徹底的にな」
 そう言いながら、館山は火気の管制システムに手を伸ばす。
 ぽち、とボタンを押すと、クラッカーが投下される。
 演習用で、当たっても死にはしない、とはいえまともに喰らえば戦闘不能に陥ることは避けられないだろう。
 しかし、ブランドの祝福を受けた天津が、バーストダッシュで飛び出して来たかと思うと、手にした剣を一気に薙ぐ。クラッカーは目標に到達する前に、中空で爆発、四散する。
 爆風に煽られ、両者は一時バランスを崩す。
 その煙に紛れるようにして、小さな人影がコンテナの元へと飛んでいく。援軍を呼ぶ声に応じて飛んできた、世羅儀だ。宮廷用飛行翼を使っている為、小回りが利くし飛空艇に比べて目立たない。
「コンテナ回収を援護する!」
 コンテナに引っかかったままのフック、焼けこげて切られたロープを見て状況を察した世は、上空で飛空艇に乗っている三船に声を掛け、フックの元へと降り立つ。
「助かる!」
 三船は世の声に応じて、飛空艇から登山用ザイルを投下した。それを受け取ると、世は手際よくフックへロープを結びつける。
 上空からは、煙が晴れたところへレーザーバルカンの牽制射撃が降ってきている。だが、天津、白河、ドラガセスが引きつけ、負傷した者にはブランドがすかさず回復の祈りを捧げる、その連携もあり、またイコンが本気で掃討に出てしまうと重傷者を発生させかねない為、フィッツジェラルド達も攻めあぐねていることも大きく影響し、戦局は拮抗している。
 その間に、世の協力を受けた三船がコンテナの確保に成功する。
 護衛の面々がフィッツジェラルドの機体を引きつけているうちにと、二人はそっと戦闘空域を離脱した。