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我々は猫である!

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我々は猫である!
我々は猫である! 我々は猫である!

リアクション

 研究者の内情が金・鋭峰やその他上役に伝わるころ。
 未だ空京の中央大通りは騒ぎに満ち満ちていた。
 現在における騒動の中心はドクター・ハデス(どくたー・はです)で、その隣には笑顔の高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)と困り顔のヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)が立っている。
 ハデスは、長時間の猫人相手で精神的に疲弊している封鎖兵を堂々と指差し、
「ふはははは、私の邪魔をする封鎖兵など皆吹き飛んでしまえ――! そしてそのまま侵攻し、パラミタ全土の人間を猫人間に改造してやる、にゃ!」
 また罹患者か、とでも言いたげな顔で兵たちはハデスを見据える。眼の辺りには面倒の色が見える。
 それでも防御用のシールドは構えたままで、自分の身をバリケードにしている姿は流石だ、とハデスは思いつつ、
「――そんなわけで、ゆけ人造人間ヘスティア! あそこでややへばっている兵たち全て吹き飛ばしてしまうが良い、にゃ」
「は、はい、了解しましたご主人様……じゃなくてハデス博士。正面の障害物を破壊します! 攻撃プログラム、起動」
 戸惑いながらもヘスティアは背よりミサイルポッドを露出し、
「は、発射ー」
 気の抜けた声で、しかしミサイルを発射させた。
 破壊力を持つ火器はシールドの壁を衝突し、火炎と爆発の花を咲かせる。
「うわわ、照準が定まらな――」
 数発見当違いな方向に向かって余計な破壊を招いているものもあるが、ハデスは特に気にすることなく、
「ふふ、どうだ怪人ネコサクヤよ。いい景色だろう?」
「兄さんが喜んでいるなら、それはいい景色なんでしょうね」
 傍の高天原と爆炎の景色を楽しんでいると、
「そこの猫、もとい金、そろそろ止まれ――」
 爆発の粉塵と、炎を横切って突き進むエヴァルトと、
「うにゃー」
 鬼に追われるかのようにダッシュをかけているビーニャが目に入った。その瞬間、ハデスの脳裏で何かが弾けた感覚がし、
「………………いかん! なんだか無性にあの猫を守らねばならん気がしてきた。人造人間ヘスティア! 砲撃対象変更! あの猫を追う人間を狙え」
「お、オーケーですマスター。ええと、照準移動、固定、……発射します!」
 宣言通り、ミサイルポッドは封鎖兵から一人の男へ集中した。
 エヴァルトは高速で走っている。故に、直撃はしないが、
「くっ爆風が邪魔で加速できん。、最後の詰めだというのに……」
 被害にならずとも、障害が生まれる。走る速度は弱まり、灰色の猫に距離を離されていく。
 畜生、金が逃げていく、と悔しげにエヴァルトが呟いた時だ。
「ははは、ここは私の出番ですね!」
 左腕にコンビニ袋を抱えたクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が、猫の進行方向から走り寄って来たのだ。
 
 
 笑い声を上げる彼は一抱えもある袋から、三十センチ程のチューブ状物体を三本取り出して、右手の四指間に装備。
「はーい、猫と猫っぽい皆さーん。こちらをご覧くださーい」
 そして自ら挙手し、注目を集め始める。
 挙げた手には緑色のチューブが、キャップなしの状態で備えられていて、今にも中身が飛び出んとしている。
 クロセルはその飛び出かけた中身を自らの前方に向け、
「さあ、その鋭敏になった嗅覚で食らってみなさい。日本円に換算して一本五百円。資金力に任せたブルジョワジー山葵チューブ攻撃を!」
 力任せにばら撒いた。
 緑色の液体と固体が混ざった物質が空間に解き放たれ、寸分狂わずハデスやビーニャに直撃する。ついでに至近に居たエヴァルトにも引っ掛かる。
 ワサビの匂いは強力だ。
 猫人の嗅覚が人と大して変わらないにしても、鼻の頭に付けば暫く涙は止まらない。
 それが猫であればなおさらだ。
「ぐぎゃああああああ――! 鼻が、粘膜が死ぬ!!」
「……ふふ、悶えて下さい。もっと悶えれば直るかもしれませんよ!」
 元気よく山葵が付着した者たちを煽るクロセルはしかし、気付かなかった。
 ヘスティアが照準をしくじって、打ち損じになったミサイルがあることに。
 それがクロセルの前、ハデスらの背後に不発弾として転がっていることに。
 そして、その不発弾に火の手が移ったことに。
 次の瞬間。
「――!」
 転がっていた弾薬が爆裂した。
 爆風が通りを走る。
 方向は西から東。具体的に言うと、クロセルの向かい風で、
「ぐあああ、目が! 鼻がーーーー!!?」
 自分でばらまいた刺激物をもろに煽り食らった。
 さらに風によって拡散した山葵は周囲に阿鼻をもたらし、騒ぎの種別は暴走から悲鳴と嗚咽にすげ変わった。
 しかし、それでもエヴァルトは挫けず、
「ぬおおお、これしきで諦めるほど柔ではないぞ……!」
 ワサビの影響を受けふら付いているビーニャへ接近。一瞬のことだ。
 彼は走る速度は緩めず、ビーニャの腹に手をあてがい、
 「獲ったあ――――!」
 掬いあげて捕らえ、叫びを上げた。
「これで、これでしばらくの生活が楽に――」
 なるぞ、というエヴァルト声尻は、周囲に響かなかった。
 代わりに響くものがあったからだ。
 それは金 鋭峰(じん・るいふぉん)による、空京全体に伝わる発表音声で
「……下手人は捕らえた。ウイルスの判明、及びワクチンの作成は順次行い、感染者全員の治癒を確認後封鎖を解除する。なお、町中にばらまかれたビラは犯人による迷惑行為であるので、景観保護のために見つけだし回収すること。そしてビラの内容に我ら空京は関与しない。繰り返す……」
 声明を耳にして、エヴァルトは気づく。
 ビラをまいた犯人が捕まったということは、報奨金を払う者がいなくなったということ
 つまり、これまでのことは全て、
「骨折り損…………。うそだろ…………?」
 膝から崩れ落ちた の腕の中では、ビーニャが自分を抱くものを見つめ、首を傾げていた。


 ビーニャの回収後、事件解決に協力した者は等しく金・鋭峰より一定量の報酬を与えられた。
 そして採取したウイルスを使いワクチンを量産、皆は猫化の悪夢から解放された。
 勿論ビーニャもフランの手に戻された。
 飼い主に渡す際にエヴァルトは、
「俺が捕まえたんだから、な」
 と、三回くらい念を押していたが、周囲からの白眼視により黙り込んだ。
 そうして空京は日常に戻っていく。
 ただ、今日の事件が本当に悪夢だったのか、それとも心からの願望の現れだったのか。
 明かす者はほとんどいない。


担当マスターより

▼担当マスター

アマヤドリ

▼マスターコメント

某ゾンビゲーのようにパニックになるかと思いましたが、皆さん良い感じにはっちゃけてました。
欲望開化というか本能爆発というか、……ええ、ポジティブで良い傾向ですとも。

生物的なハザードだけに限らず、広域に影響を撒き散らす事件の場合、多くの立ち位置が存在しますが今回は特に多様なものとなりました。
そういった大暴れのお陰で解決への道は単純化されたのですから解らないものです。

しかし、事件が終わったとはいえ、この世からそのウイルスが完全消滅したわけではないかもしれませんね。
キャリアには自覚もありませんし、もしかしたら今も因子として何処かの誰かに入りこんでいたり……。




▼マスター個別コメント