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リアクション
「クロセル! これっ!」
マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)はクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと) の肩に乗ると、鼻先にチラシを押し付けた。
「駄菓子大食い大会? まさかマナさん、これに出る気なのですか?」
クロセルの問いかけに、マナは嬉しそうにうなずいた。
イルミンスール魔法学校でも大食い大会の話は流れていたが、力任せの大食い勝負のため、参加にまで興味を示す生徒は少なかった。
── マナさんが食欲大魔神なのを忘れてました ──
優勝賞品の駄菓子1年分に惹かれたのか、そもそもの大食い大会が気を引いたのか。それともどちらもなのかもしれないが、クロセルはマナの出場にためらいがあった。
── 駄菓子1年分なんて入手したら、間違いなくマナさんは喜び勇んで食べる事でしょう。そして暴食の末、まん丸になること請け合いです ──
肩に乗っているマナを見る。マナはチラシに夢中になっていた。
── そんな事になったら、今のように頭や肩に乗せるとか、そういった事が気軽にできなくなるわけですよ ──
「わかりました。俺も出場します」
お茶の間ヒーローとしてマスコットを失うわけにはいかないクロセルも出場を決めた。うまし棒を食べるのは仕方ないとしても、駄菓子1年分だけは阻止しなくてはいけないと考えた。
「クロセルも?」
「はい、マナには負けませんからね」
親指をグッと立ててポーズを決めた。
乗っかられていたのは、薔薇の学舎の佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)も同じ。パートナーのフィン・マックミラン(ふぃん・まっくみらん)に勢い良く飛び掛かられて、危うく転びそうになる。
「兄弟子! これに出たいーっ!」
「ちょっと落ち着きなよー」
弥十郎はフィンを引き剥がすと、持っていたチラシを見る。フィンは弥十郎の背中に飛び乗った。
「駄菓子の大食い大会かぁ」
賞品の駄菓子1年分や焼きそばパン優先券には、弥十郎も心を動かされる。おそらくフィンも同じ気持ちなののだろう。仮に優勝できなくても、参加賞に駄菓子の詰め合わせがもらえるとある。料理の得意な弥十郎だが、駄菓子の素朴な味わいも知っていた。
「でもなぁ」
スキルの行動予測などを思い浮かべる。
「有利すぎるのは問題かもねぇ。今回は裏方に回ることにするよぉ」
「兄弟子、有利ならいいじゃないですか」
フィンは不思議そうな顔をする。
「そんなのは戦場だけでいいよ」と弥十郎は笑って答えた。
「とりあえず運営に申し込もうと思うんだけどぉ。フィンはどうするぅ?」
「じゃあ、オレも手伝うよ」
そんなやり取りを耳にしたのが大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)。
── 戦場か、僕にとっては、これもまた戦場やろな ──
かすかにクーと鳴るお腹に手を当てる。いち早く申し込みを終えた泰輔は、大会に備えて断食を始めていた。もちろん単に食を断つばかりでなく、胃袋の大きさを維持するために、コントロールしながら水分は欠かさなかった。
「こないだのラムネとアイスクリームさばくのに私財をかなり使ったやろ。ってことは今回の賞品は、僕が稼いだものでもあるわけや。ここは穴埋めしとかんとな」
もちろん参加賞くらいで諦める泰輔ではない。優勝賞品の駄菓子1年分と共に、焼きそばパン優先券の転売も狙っていた。
── 断食してるから、身体の方は食べ物や栄養を自然と要求してるはずや。そのホメオスタシスに、賭けるでぇ!! ──
人知れず執念を燃やす泰輔に賛同しているのか、お腹の虫も激しく鳴動して答えた。
一方、シャンバラ教導団でもセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が掲示板を眺めていた。
「こう言うお祭り騒ぎは見逃さないのね」
パートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、呆れ顔でそばに立っている。
「そうだけど、セレアナだって、ほら、よ・だ・れ」
「えっ! 本当っ?」
慌てて顔を拭うセレアナに、セレンフィリティは「う・そ」と頬にキスをした。セレアナは「もう」と顔を押しのけるものの、表情は嫌とは言っていない。
「せっかく蒼空の山葉校長が面白そうなことしてくれるんだから、乗らなくっちゃ損よ」
「まぁね」
「もちろん付いて来てくれるよね」
「……参加はしないわよ」
「セレアナがいてくれれば良いの。優勝は大食いビューティーのあたしがいただきよ」
「いつの間にそんな二つ名を……。ともかく申し込みに行きましょうか」
空京大学構内を飛び回るウーマ・ンボー(うーま・んぼー)、ペト・ペト(ぺと・ぺと)を肩に乗せたアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)の一撃で地面に叩き落とされたものの、二撃を食らう前に「待て待て、アキュート! これを見るのだ」と大食い大会のチラシを渡した。
「駄菓子大食い大会か、面白そうな企画じゃねえか、見に行ってみるかな。フムフム、食べるのは、うまし棒か」
「うまし棒大食い大会とは、それがしの為に用意されたも同然の大会。参加せぬ訳にはいくまい」
飛び回ることは止めたものの、ウーマはヒレを勢い良く動かした。
「どうした? いつになくやる気じゃねえか。まあ、参加したいなら止めねえよ。頑張って来な」
アキュートの激励は、陶酔したウーマの耳には届かなかった。
ああ……うまし棒
その完成された円筒形のフォルム
飽きを感じさせる間も無い程繰り出される様々なテイスト
空京大学の一角で、詩のようなものを唱え始めたウーマに、学生や教職員が「何だ? 何だ?」と集まってくる。アキュートは冷静かつ現実的に「はいはーい、タダ見・タダ聞きはダメだよ。ちょっとでも良いのでお願いしまーす」と、彼らの間を空き缶を持って回った。
サクサクと心地よい触感
テイストによって変化する
香ばしく、時には優しく鼻孔をくすぐる香り
その圧倒的高水準のテイストによって分泌された唾液によって起きる小さな奇跡
それすなわち、長い冬の終わりを告げるかのような口溶け
そして何より、それがしの、お口にジャストフィッーーート!
ウーマが唱え終わったところで、観衆から拍手と歓声が上がった。
「アキュート、これは何事だ? こやつらは一体?」
「気にすんな。行くぞ」
偶然にも今夜の酒代が稼げたアキュートは、ウーマをせっついてその場を後にした。
「うまし棒だとさ、あの魚も参加するようだぜ」
ウーマの独唱会を聞き終わってばらける人々の中に、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)とクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)がいた。
「関係ないね。オイラ、食べて食べて食べて食べまくるよっ」
どーしても参加すると言い張るクマラを、エースは『全く困ったお子様だぜ』と思いつつも、大会そのものには興味が湧いた。
── クマラの食欲なら優勝を狙えそうだぜ。しかし万一の為にグレーターヒールやナーシングの用意をしておくか ──
「よし、今後のおやつは賞品で賄うつもりだから、頑張らないとおやつ無くなっちゃうかもしれないぞ〜」
エース独特の言いようでクマラにハッパをかける。
「えー! そんなー!」
エースは笑い、クマラは困った顔をしながらも申し込みに向かった。
もののふ集いし葦原明倫館においては、3人の勇者が大食い大会に名乗りを上げた。
「俺みたいな一般人が、どこまでいけるか分かんねぇけど、優勝目指すぜ! 無理なら……取りあえず30本は行きたいね」これは滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)。お目当ては優勝賞品の焼きそばパン優先券。
「さて、大食い大会とやらを少し堪能してみるかの」こちらは道田 隆政(みちだ・たかまさ)。うまし棒を酒の肴と考えているらしい。
「アタシだって、だぁりん☆のために負けないわよ〜ん、優勝狙っちゃうんだ・か・らぁ〜ん?」そして源 静(みなもとの・しずか)。だぁりん、つまり洋介のためならえんやこらさ、とのようだ。
三者三様で大食い大会に挑もうとしている。つまり足並みが揃っていなかった。
マスターの洋介も『これで大丈夫か?』と思ったが、むやみに拘束しては、隆政や静の勢いをそぐことになるかもしれないと黙っていた。
── オレが出場を取りやめてフォローに回った方が良いのかもしれないけど、最悪、参加賞を3つ貰えるわけだし ──
焼きそばパンまでの道のりが遠いことを、つくづく実感した。
その反対に、綿密に分担を定めて大食い大会に挑む生徒もいた。天御柱学院の黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)達だ。
「大会に出場して、絶対に優勝するよ! 優勝して、いつもお世話になってるお兄ちゃんに焼きそばパンで恩返しするんだ!」
意気込むリゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)に、竜斗は『食べ過ぎて、お腹を壊すんじゃないか?』と心配したものの、負けず嫌いな性格と常に腹ペコなルヴィに『もしかしたら、もしかするかも』と参加を許可した。
そして許可したとなれば、一致団結してルヴィを盛り立てて行くことに決めた。
「俺はうまし棒を三等分に折って食べやすくするぜ」
竜斗の提案に、ユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)も「私もうまし棒を三等分してルヴィちゃんに渡していきます」と連なる。
もう1人のパートナー、御劒 史織(みつるぎ・しおり)は「うまし棒は口の中がカラカラになるので、いっぱい持ってきたお水をすぐに渡しますぅ」と水分補給を申し出た。
「よーし、みんな、行くぞ!」
「「「オー!」」」
4人の掛け声が大きく響いた。
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