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序章 全裸、大地に立つ
「とにかく! 私が決めた服を着てくれないと、倉庫の中には入れることはできません」
倉庫の前で仁王立ちするジョージアと、その背後につき従う警備ロボットたち。
とはいえ、倉庫の中に入らないことには服を運び出すことなどできるはずもなく、一同はどうしたものかと顔を見あわせていた。
と、その人の群れが、さながらモーゼが海を割ったかのごとく、ゆっくりと左右に割れていく。
その原因は――颯爽と白馬に乗って現れた、全裸に薔薇学のマント、そして赤いマフラーにマスクだけ、というものすごい出で立ちの青年――変熊 仮面(へんくま・かめん)であった。
むろん、人だかりが割れた理由は推して知るべし、というものである。
「なるほど。これが君たち庶民がお金を稼ぐためにする『労働』というものか」
周囲が思いっきりドン引きしていることには全く気づかず、人だかりの真ん中にできた通路を当たり前のように進み――あくまでも優雅に、華麗に、ひらりと白馬から降り立つ。
その際にいろいろ見えてはいけないモノが角度次第で見えているのはもちろんお約束であるが、カメラのある側からは映っていないのもこれまたもちろんお約束である。
……いや、文章なのにカメラって何だよとか言ってはいけない。これもまたお約束である。
ともあれ、そのまま彼はずんずんと倉庫に向かって進んでいく。
「何ですか、あなたは……誰であろうと、私が決めた服を」
当然ジョージアが彼の前に立ちふさがったが、彼はいっこうに取り合わない。
「あ〜、心配ご無用。俺様全裸主義だから。服は着ないことにしているのだよ」
とはいえ、もちろんジョージアがそれで納得するはずもなく。
「そんなおかしな主義主張は認めません!」
端から見ればジョージアのやっていることもメチャクチャなのだが、それでもこの一言には変熊仮面以外の全員が思わず首を縦に振ってしまう説得力があった。
わずかなにらみ合いの後、折れたのは意外にも変熊仮面の方だった。
「ならば、俺様に似合う服とやらを見繕ってもらおうか!」
その言葉を受けて、一機の警備ロボットがかわいらしい服をもってくる。
変熊仮面はジョージアを介してその服を受け取ると、畳んであった服を広げて――今度こそ、変熊仮面本人を含めて、掛け値なしに「その場の全員が」ドン引きした。
「何これ。どこかで見た覚えが……」
そう言いながらも、とりあえず着てみてしまう変熊仮面。
しかし、その運ばれてきた服――フリフリの子供用ワンピースは、彼にはあまりにも小さすぎた。
「いや、これ……子供用だし、下半身全然隠れてないし……」
もともと全裸の人間が気にすることかどうかは疑問だが、確かに「腰の辺りまでしか丈がない子供用ワンピースを着た下半身丸出しの男」よりは「いっそ清々しく全裸の男」の方がまだ変態度が低いようにも感じられる。
もちろん、あくまで「もし比較するのであれば」であって、普通の基準で考えればどっちも十分測定上限をぶっちぎっているが。
なんにしても、このあまりの仕打ちに、ついに変熊仮面がキレた。
「こんな服着てられるかーっ!」
そう叫びながら、サイズの合わない服を無理矢理引きちぎろうとする。
だが、その「服を大切にしない行為」が、逆にジョージアの逆鱗に触れた。
「ががががががががが!」
がら空きの下半身にスタンガンを押しつけられ、変熊仮面がその場に倒れる。
急所を狙わず太ももに行ったのが彼女のせめてもの優しさ……かどうかは、ちょっとよくわからない。
「服を粗末に扱う人、私の指示に従わない人はこうなります」
ともあれ、そうジョージアがはっきりと告げる横で、変熊仮面は警備ロボットによって可及的速やかに撤去されたのであった。
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