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刮目! アイドル大喜利!!

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刮目! アイドル大喜利!!

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前座其の1

「さて、それでは大喜利の前に、本日の演芸コーナーです」

 一番手はアルカネット・ソラリス(あるかねっと・そらりす)さん!」

アナウンサーの軽快な声とともに、アルカネットが、元気良く舞台へ飛び出してきた。清楚な感じのナチュラルメイクではあるが、演奏するのはロックだ。

「みなさんこんにちはー! アルカネットですっ! よろしくっ!」

(吟遊詩人として恥ずかしくない歌を!)

その決意の程は、熱唱する彼女の姿勢から知れた。清楚な姿と激しい歌と演奏が、非常に対照的である。

(今日の主役はあくまでアイドルのみなさん。

 でもね? ゆくゆくは私がとって出番を食べちゃうかもねっ!)

ギターをかき鳴らしながら、客席を巻き込んでの力強い歌を披露するアルカネットはそんなことを考えていた。

「続きましては、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)さんです!」

舞台の座布団に、すっと正座する。

「ワタクシは小咄を一つ引っさげてまいりました。

 これは自分が地球にいた頃のお話でございます。
 
 近所に住んでいた温厚なお爺さんが珍しく怒っておりまして。

 いったい何があったんだねと、聞いてみましたところがこんなお話で。

『あー、先生、この右足の痛いのはなんでしょうかいね?』

 対する医師、検査結果をしげしげ見ながら、こう返してきた。

『ふむふむ、検査結果からは関節炎や神経痛、痛風など、病が原因ではなさそうだ。

 まあ、病気じゃあないから、かばいかばい生活なさることですなあ』

『しかし先生、痛いもんは痛いんですよ。病でないならいったい何が原因なんで?』

『まぁ、強いて申し上げるなら、お歳のせいでしょうな』

ここでむっとしたじい様、先生に向かって噛み付いた。

『先生、いい加減な診断しないでくださいよ!』

狐につままれたようなお顔で先生、じい様をしげしげと見る。

『そりゃ一体どうしてです?』

『あたしの右足も左足も同い歳だよ!』

……おあとがよろしいようで」

すっと一礼し、流れるような動作で引き上げると、割れるような拍手と笑い声を背に祥子は舞台の袖に向かった。

「次は茅野 菫(ちの・すみれ)さん、こちらも小話です!」

紹介を受け、すみれ色の着物をまとった茅野は高座に座ると一礼して語り始めた。

「あたくし、四喜亭洋灯(しきてい・らんぷ)がひとつ小話を。

 えー、近所でも評判のおしどり夫婦がおりまして。

 特に奥さんが良くできた人でして、さらに器量もいいと非の打ち所がないときたものでございます。

 出勤帰宅の挨拶も欠かさず、ご近所にラブラブっぷりを見せつけ、地球温暖化に貢献しておりました。

 ところがあるとき、この旦那、職を失ってしまいました。

 それを言い出せないまま、まぁはじめのうちは仕事を探したりしたんですが、だんだんそれも億劫となりまして。

 家でごろごろしながら大きいことを口だけで言うという、どうしようもない自堕落ぶり。

 それでも、奥さん文句も言わず家を切り盛りしておりました。

『あんた、仕事は?いつまでもそんことだとリストラされちまうよ?』

『こんな街中で栗鼠だの虎だの出てたまるかよ』

 夫は言い出せずはぐらかし、妻は訝しむが気を使いズバッと聞けず。

 こんな日々が続けば口には出さなくともお互い嫌になってまいります。

 しばらく経ったある日のことでございます。

『おうっ、大事な話があるんだ』

『あたしもあんたにお願いがあるの』

 異口同音に言って顔を見合わせるご夫婦。

『馬が合ったことだな。どれ、せーので話そう。せーの』

『俺と別れてくれないか』

『あたしと別れてくれませんか』

夫婦互いに顔見合わせまして、出てきた言葉はただ一つ。

『うーん、やっぱり似た者夫婦だね』

 ……お後がよろしいようで」

パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)が拍手をしながら、崇徳院 顕仁(すとくいん・あきひと)に話しかける。

「それで、このご夫婦、元のさやに収まったのかしら」

「それを想像させるのが、この話の落ちだろう」

顕仁はゆったりと答えるが、パビェーダはなにやら考え込む風だ。

「でも、きちんと話し合えないまま、誤解してこんな風になってしまうのも良くないわ」

「こういった小話というものは、そういう教訓と風刺も兼ねているのだ」

「……深いわね」

楽しく聞き流すも一興、深く考えるのも趣があろうというものだ。

「さてここでジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)さんと新谷 衛(しんたに・まもる)さんの登場です。

 ユニット、娘々’sによる漫才をお楽しみください!」

アナウンスが響くと、フリルいっぱいの真紅のミニチャイナドレス姿のジーナと、緋色の人民服上にクリーム色のレギンスといういでたちの衛が派手に飛び出してきた。

「どうも〜! 娘々’sの年柄年中ド突かれ方のマモルでーす!

 チームの一員として、ナイスな頭をひねって頑張っちゃうからねっ!」

「日々ツッコミの修行を欠かさない、ジナで〜す」

「バカマモあんたね、『砂』が取れてる頭をひねっても、何も出てきやしませんって!」

「『すな』が取れてるって、『無い頭』??

 ナイアタマ〜ナイアタマ〜 ……あれっ? じなぽん、オレ様、褒められてるのか?」

「全然褒めておりませぇん!」

舞台裏では、林田 樹(はやしだ・いつき)が、日下部にこそっと謝罪していた。

「今回もすまない。

 事務所に所属しているのはジーナだけなのに、魔鎧もドサクサでステージに上がることになってしまって……」

「あー、いいっていいって、ほんなもん気にせんといてや」

実際日下部はまったく気にしていない。

「……すまんね」

樹は日下部に向かって片手で拝むようなしぐさをすると、舞台の袖からジーナと衛の様子を窺った。舞台では衛がしばし考え込むようなしぐさをして、ポンと手を叩くと言った。

「お題はパビリオンの名前と引っ掛けてその結果どうなったかだよね? 

 ん〜〜。空京万博伝統パビリオンにて、『ピッカリくん展示会』と言う名前の展示を作りました。

 え〜、でんとうだけに……! ってぐはぁっ!!」

 みなまで言い終わらないうちに、ジーナがバットで衛を殴りつける。

「……ったく、面白くも何ともありませんでございやがるですよ!

 えっと、今の回答のようなモノは気になさらないで下さいね」

「やめてっ! 形が変わっちゃうっ!!」

アタマを抑えて涙目で訴える魔鎧、衛を尻目に、ジーナは軽快に続ける。

 「ええ〜、ワタシは、空京万博パラミタパビリオンにて、『パラミタ給仕文化館』という展示を開きました!

 急時(給仕)には、不埒な輩を冥土(メイド)までお送りさせて頂きました!

 ……具体的にはこのようにですっ!」

めそめそしながらしがみついてきた衛をさらにもう一発殴りつけるジーナ。

(あ、ジーナ本気殴り!)

構えを見た樹がすかさず舞台袖から、【スナイプ】で攻撃の軌道を反らし、バットによるダメージを軽減する。

「……気 ……気をつけよー ……あまいことばと ……ふきとばし」

樹の保護があったにせよ、ジーナの意識吹き飛ばしは見事に決まり、衛はがくりと崩れ落ちた。

「魔鎧ですからどうぞお気になさらずに〜! 

 良い子の皆さんは決して真似をしないでくださいねっ!」

華やかに一礼すると、ジーナは衛の襟首をつかんで引きずり、すたすたと舞台の袖に消えた。

樹は引っ張られてきた衛にとりあえず【ヒール】をかけながら、心の中で呟いた。

(一応ジーナは歌って調理の出来るアイドルを目指しているようなのだが……。

 魔鎧とタッグを組むと、どう考えても毎度ド突き漫才にしかならんような気がするんだよな……

 もしやジーナのやつ、無意識のうちに魔鎧を頼っているのか?

 まさか、そんなしおらしいところジーナにあるわけ……)

袖に引っ込んでぐったりした様子のジーナを見やり、樹は考え込んだ。

(……あるわけ……あるかもしれんな)

 ジーナらが退場してまもなく、舞台袖から大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が姿を現し、舞台と観客席との間に「投げ銭歓迎」と書かれたかなり大きい「おひねり箱」を設置し、すばやく引っ込む。

「さてここで大神楽と参りましょう。

 演ずるは大久保 泰輔、レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)こと越後屋大助・お花さん」

アナウンスと同時に、レイチェルが火のついた短いたいまつ2本ををジャグリングしながら舞台の袖から現れる。泰輔が新たなたいまつに火術で火を点し、レイチェルに次々と投げ、その数は二人が舞台中央に達したときは7本となっていた。

中央に至るとレイチェルは用意してあった水を張った容器に、投げる軌道を変えてたいまつを手際よく放り込む。

「見てくださいましこの鮮やかさ!」

レイチェルがジャグリングしつつ観客に声をかける。同時に泰輔が投げるものは短刀に変わり、たいまつと短刀が入れ替わり、次いでレイチェルが次々投げ返す短刀を泰輔が受け止めて束ねてゆく。
 次いでレイチェルが唐傘をまわし、そこに泰輔が枡を放り、傘の縁を走らせる。回るものは自転車のホイール、ガラスのビンなど次々と二人の間で投げ交わされてチェンジしてゆく。

次に泰輔が脚立を用意し、その上に赤い金魚が2匹悠々と泳ぐ金魚鉢が設置された。後方にいたレイチェルがそれを手にしてすっと脚立の上に立ち、金魚鉢を上方へ放り上げる。瞬時に脚立の上から前転で飛び降り、さきに放り上げた金魚鉢をすっと受け止める。金魚鉢からは水一滴すらこぼれていない。

「おおおおーーー!!」

会場がどよめく。レイチェルは嘆息して呟くように言う。

「……これであたしら二人、ギャラは同じでございま〜す」

泰輔はにこやかに一礼して、

「は〜い、皆様ご観覧ありがとうございましたー!」

と叫んだ。会場から割れるような拍手が起こり、おひねり箱に向かって、さまざまなものが飛び交った。果たしてどのくらい儲かったのか。 ……それについては一切明らかにされていない。