蒼空学園

リアクション

追い出し

　そのころ、舞台の天井裏では……。

この大喜利の日、リカイン・フェルマータ（りかいん・ふぇるまーた）と空京稲荷　狐樹廊（くうきょういなり・こじゅろう）は、こっそりと会場に忍び込んでいた。別段何かもくろんで　……ということではない。狐樹廊の、

「空京ではよく騒ぎや事件が起こりますよね？

　しかしながら正規の方法で警備にあたろうとすると場所を限定されたりで思うように行動出来ないわけです」

という主張に同調したリカインが、それならいっそこっそりと、普通の警備員が回らないところに不審者や不審物がないかチェックして回ろう、と言い出した。そんなわけで２人は自主警備活動を行っていたのである。
　狐樹廊が見鬼やディテクトエビルを、リカインは超感覚を使用してのチェックである。リカインは超感覚使用時の特徴で、タヌキの耳とシッポが生え、一方の狐樹廊は見た目狐耳と狐シッポのように見えるので、さながら人に化けそこねた（？）狐と狸のペアのようにも見える。
会場の屋根やら高い窓などを見回り終え、舞台の天井裏のチェックに回ってきたところである。天井板上の太い梁を伝いつつ、慎重に前進する。

「それにしても、埃っぽいわねー」

「それは致し方ありませんよ。こんなところ、普通は入ったりしませんからね」

舞台上では。

「本日の大喜利試合結果、これにて全て出揃いましたっ！」

　アナウンスが響き、ドラムロールが始まった。

「結果発表です！！」

ひときわ高くドラムが響く。

「取得しました総座布団数、チーム若草１６枚、若松プロデュースが１５枚。

　一枚差で、チーム若草の優勝です！！！」

おおおおーっという大歓声が、舞台、観客席の双方から沸きあがる。

そこへ額に『豪華な粗品』の紙を張った風森が進み出てきた。

「幸せと人の温もり運びます。ざぶとん、四里迩亭叱琉です！

　優勝者のアイドルの方々、どうぞ私めにお座りください。

　正座した膝の上に乗せるも良し、それとも御姫様だっこした方がいいですか？

　お気になさらず。ざぶとんですから！　さぁ！　お座り下さい！」

天井裏のリカインと狐樹廊は梁の真ん中あたりにたどり着いていた。
その時。

「チュー！」

ねずみが一匹、リカインの目の前に落ちてきた。

「わっ！！！」

　悪意も何もない生き物であるだけに、超感覚などでは捉えられず、完全に不意を突かれた。リカインは驚いて後方に飛び退り、狐樹廊にぶつかった。もとよりバランスの悪い姿勢でいたからたまらない。二人は折り重なって、舞台天井へ梁から転げ落ちた。
薄い天井板が何枚も細い梁に渡されているだけの天井は、二人の重みを支えられるわけもなく……。

　次の瞬間、舞台中央に埃と薄い天井板の一枚とともに、リカインと狐樹廊が落下してきた。さすがに二人ともこういった場合の身のこなしはできている。天井板を下に、風森の上にふわりと着地する。潰される風森。

「むぎゅー。　ほ、本望なのです」

客席、高座、全ての目が２人（と１人？）に集中する。リカインはアタマをポリポリして、にこやかに言った。

「皆さんこんにちはー。リカイン・フェルマータ、蒼空歌劇団歌姫大トリで登場でーす！」

シーンと静まり返る会場。リカインは見渡してぽつんと言った。

「えーっと、あはは……。　……ダメだこりゃ」

知人が高座にも多数いたおかげで、リカインも狐樹廊も不審者疑惑はかからず、ちょっとしたアクシデンタルな出演ということで収まった。

かくして番組の収録は、いろいろアクシデンタルなことはあったものの、大好評のうちに終了した。

「それではまた来週、この番組でお会いしましょう。

　本日は空京大ホールから中継でお伝えしました」