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学食作ろっ

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 ■ 学食に求められるもの ■
 
 
 
 蒼空学園緑ヶ丘キャンパス。
 もうすぐ取り壊されることの決定している学食では、新しく作られる学食についての相談がなされていた。
 いつもは緑ヶ丘キャンパスの生徒しかいない学食だけれど、今日は各校から協力者が集まってテーブルについている。

 肉付きの良い身体にシンプルなエプロンといった姿のオタケは、いそいそと席に着くと生徒たちに挨拶した。
「ここの調理を取り仕切っているオタケだよ。みんな、よろしくね」
「学食を利用する人が一番、必要なものを知っていると思いますの。実現できることも出来ないこともあるかと思いますけれど、沢山意見をお聞かせ下さいましね」
 冷えた麦茶を配りながら、白鞘 琴子(しらさや・ことこ)も生徒たちに頼んだ。
「あたしはここで料理を作っちゃいるけど、食べる側の気持ちはぶっちゃけよく分からないんだよねぇ。美味しいのかまずいのかぐらいは、食べてる顔や食べ残しの量を見ればだいたい分かるけど、それ以外はねぇ……」
 折角学食が新しくなるのだから、より使いやすく親しんでもらえるものにしたい。けれどどうしたら良いものかと、オタケは困り顔だ。
「やっぱり洒落たデザインが喜ばれるのかねぇ」
「デザインをこるのは良いと思いますよ。面白いですし」
 オタケの言葉を受けて頷いた後、御凪 真人(みなぎ・まこと)は、ただ、と続けた。
「学食ですから、まず考慮しなければならないのは昼の混雑ではないでしょうか」
「あーそうそう。学食って混むのが大変なんだよねぇ、昼休みって有限だし」
 佐々良 縁(ささら・よすが)がまったくだと同意する。今は空京大学にいる縁だが、蒼空学園に通っていたこともあるし、小学校から大学まで通ってきた経験から考えて、一番気になるのは学食の混雑だった。
「お昼休みって、ただ食事ができれば良いってモンじゃないんだよねぇ。お喋りだってしたいし、遊びたいし、やっておきたいこともあるしで、結構忙しいんだぁ」
 オタケも確かにねぇと頷いた。
「昼時は作る方のあたしたちも戦場だけど、食べる側もとても大変そうだ」
「洒落たデザインは喜ばれるでしょうが、何より大切なのは機能性です。従来どおり券売機で食券を購入してもらうことによって会計や注文の手間を省いたりという、ある程度オーソドックスな学食のデザインは必要でしょう。それにデザイン案をのせて行くのが良いと思いますよ」
 昼休みの時間を生徒が有効に使えるよう、少しでもスムーズに昼食がとれるようなデザインにしたいと、真人はデザイン案を紙に書き出していった。
「食事を受け取るカウンターは、ジャンルごとに分けられるようにしては如何でしょう。カレー類はここ、麺類はこちらと言うように。提供時間に差のあるものを同じ列に並ばせてしまうと、非効率的ですから。それから、カウンターの周囲は並ぶスペースに確保した方が良いと思います。列がうまく出来ないと、混雑の要因になってしまいます」
「季節の花とかメニューを置けるケースを設置……というか、デザイン的におけるような柱にするといいと思うけどぉ、それも出入り口からこれだけは離して……そうすれば、自然に列の整備ができる位置にもっていけるんじゃないかなぁ」
 縁も手を出して、提案図面を描いてゆく。
「いっそ、入り口と出口を完全に分けてしまうのはどうでしょうか。出入り口はごった返しますから」
「んー、だとしたらこっち入り口でここが出口とするとぉ……」
 真人と縁が中心になって配置案を練り、そこにデザイン案をのせてゆく。
「季節にあわせて壁の色とか変わるといいよね。でも季節ごとにリフォームばっかやるのもコストがかかるかな?」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)の提案に、和泉 真奈(いずみ・まな)も考えこむ。
「そうですわね。コストもそうですが、リフォームの為に学食が休みになるのも困るでしょうし」
「何か細工出来るといいんだけど……イルミンスールの研究で、たとえば魔力で容易に色を変えれる塗料ってできてないかな?」
 ミルディアは集まっている人に問いかけたけれど、この話し合いの中にはイルミンスールの生徒は居ない。そんな塗料があるのか無いのかも、答えられる人はなかった。
「だとすると、やっぱり季節ごとにリフォームするしかないのかな」
「さすがにそこまで頻繁なリフォームは、学校側がうんと言わないと思いますわ」
 正当な理由があれば別だけれど、ただ季節を表したいからというのでは許可は出ないだろう琴子は首を振った。
「壁のリフォームは難しいかぁ……だったらやっぱり、ガラスで外の風景を見られるようにするのがいいかな」
 風景の変化を見られれば季節感は味わえるだろうとミルディアが言うと、縁もそれに賛成する。
「全窓は開放的でいいよねぇ。でもそうするなら、ガラスじゃなくて紫外線カットフィルムか、そいった成分込みの樹脂板がいいかな。暖房効率悪いと光熱費大変だしねぇー。結露のことを考えると、複層ガラスといきたいところだけどさぁ」
 どう? と縁は真奈の手元をのぞき込む。
 真奈は皆の提案する設備と、それに必要な費用を調べては紙に書き出していた。
 新学食の建設費用は蒼空学園が負担する。だから学食の最終判断の権利を持っているのは学園側だ。ここで相談したことは、提案内容とそれにかかる費用の表をつけて提出され、あとは学園の採択に任せることになる。
「あまり高額だと通らないかも知れませんので、何種類かの案を書いておきますわね。第一希望が通らなくても、少し品質を落としたものなら通してもらえる可能性もありますもの」
「その際には、良い品質のものの利点も書き添えておいた方が良いですね。後々の為にもこちらを導入した方が良いと思ってもらえれば、実現にこぎ着けるかも知れません」
「では、まとめる時にはそうしてみますわね」
 真人の言葉に真奈は頷いた。
「ついでに、窓にみんなが参加して四季の飾り付け作れるようにしたら面白いかもー。葉っぱのモティーフおいて固めたりね?」
 そうして生徒自身の手を加えることによって、新しい学食に愛着感も湧くだろうと縁は言う。
「呼びかけたらみんな集められるかな?」
「それはしてみないと分からないですけれど、物によっては面白がってくれる人も出てくると思いますわ」
「じゃ、どんなものにしたらいいかもうちょっと考えてみるねぇ。やっぱり自然に関するものが似合うかなぁ?」
 琴子の答えを受けて、縁はうーんと考え出した。
「ここにも学園の校内LANは引き込まれるのでしょうか?」
 湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)からの質問にオタケはきょとんとし、琴子が代わって答える。
「ええ、その予定ですわ」
「でしたら、簡単な動画サーバとWebカメラセットを設置してみてはどうでしょう」
 蒼空学園新生徒会広報として手伝いにやってきている凶司は、学食と言えば『日常生活での交流の場』であるとの方針で、IT方面から交流を支援出来るような設備を提案する。
「それで学園のポータルサイトに、リアルタイムで食堂の様子が見られる動画コーナーを設けるんです。最近は市販PCでもちょっとしたサーバに使えますし、嬉しいことですね」
「サー……」
 目を白黒させているオタケに凶司は、大丈夫ですよと安心させるような口調で言った。
「カメラで撮影するだけなら、機械が苦手でもなんとかなります」
「カメラ? 撮影?」
「ああ、カメラで撮影した映像を送ることによって、パソコンや携帯があればいつでも食堂の様子がわかるわけです。カメラの使い方は色々ありまして……」
 そこから先は、と凶司はセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)に話をふる。
「ウェブカメラでの動画配信か……いいんじゃないのぉ? 凶司ちゃんにしてはまっとうなアイデアで」
 セラフは笑って、その先の説明を引き受けた。
「カメラを食堂に向けとけば、食堂に誰かいるか分かるわよね。賑やかな様子を見れば、来てみたくなる子も増えるんじゃない?」
「そうでしょうか……わたくしはもし食事風景が流されるのなら、その場所は利用したくありませんけれど……」
 一緒に食事している人ならともかく、そうでない人に食事しているのを見られるのは……と琴子は難色を示した。
「それなら、ここの範囲は映る可能性がありますよぉって場所を限定して、映っても構わない人の画像を流すようにしたらいいんじゃないかしらん」
「それでしたら安心して食事が出来ますわね」
「でしょお? それに、人以外を撮っても良いのよん。ただカメラを向けるだけで学校中に情報を流せるんだから、日替わりメニューを写せば宣伝も簡単♪」
「カメラを向けるだけでいいのかい?」
「そう。オタケさんでも楽々できるわよん。もちろん、イベントとかやる時に様子を中継するのにも使えるし……動画は保存しておけるから、記録映像にもなっちゃったりして」
 セラフの答えを聞いて、ミルディアが乗り気になる。
「それって面白いかも♪」
「当然、面白いわよん」
「もしやり方が分からないようでしたら、覚えるまでの間、生徒会からも手を貸しますので心配はありませんよ」
 機械ものに弱いらしいオタケも、それなら、とほっとしたように頷いた。
「イベント中継って、なんだか楽しそうだね。お披露目会の時にやるの? 素敵だね、そういうの」
 そう言ってから、滝宮 沙織(たきのみや・さおり)は待てよと思い返した。
「素敵なことなら、それ、毎日できるようにならないかな?」
「毎日ってどういうことなのかな?」
 ミルディアに先を促され、沙織はあのね、と続ける。
「放送部のお昼の放送で、たまに誰かを呼んで音楽とか芸を披露したり、とあるよね。あれみたいに学食でも、やりたい人が芸を披露出来るような場所があったら良いなって。その為の舞台を作っておいたらどうかな? で、何か披露したいことがある人に何日の何時から何時にこんなことやりたい、って申し込んでもらって、オタケさんなり生徒会のオーケーが出たら出来る、みたいに」
「良い案ね。蒼空学園には芸達者な人も多いから、楽しいものが見られそうだわ」
 以前蒼空学園に通っていたこともあるアルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)も言う。
「本格的なものじゃなくても、ちょっとした場所があればいろんなことが出来ると思うんだよ。ねぇねぇ、琴子先生? こんなアイデア、駄目かなあ……?」
「いいえ、良いと思いますわ。そういう場があれば、お昼時でなくても、お茶をいただきながらのミニコンサートを学食で開いたりも出来そうですものね」
「やったー!」
「といっても最終判断を下すのは学園側ですので、わたくしが賛成したからといって通るかどうかは分かりませんわよ」
「でも先生が良いと思うんなら可能性高そうだもん♪」
 今から楽しみでならない様子の沙織に、琴子は通るといいですわねと微笑んだ。
「舞台もいいけど、何か発表の場を設けたいなら、学食内に色々な作品が展示出来るようにしてみるのはどうかしら?」
 今度はアルメリアが提案する。
「作品というとたとえばどんなものでしょう?」
「季節を感じられるようにしたいっていうのが、オタケさんの要望なのよね? だったらその季節ごとの絵とか写真とか、他にも生け花とか飾り物とか、季節を感じさせるようなものにしたらいいんじゃないかしらね」
 アルメリアは琴子に答えて続ける。
「飾るものは生徒の皆から募集したら、集まったりしないかしら。自分の作品を皆に見てもらえる機会が欲しいと思っている人って少なくないと思うのよね。ワタシも上手く撮れた写真なんかはいろんな人に見てもらいたいもの」
 事あるごとに撮ってきた写真を何枚か、アルメリアは見本に出した。
「写真は少し季節先取りで出すと、これからやってくる季節への期待が高まって良いかも知れませんわね。あ……ら……」
 琴子は写真を慌てて伏せた。
「琴ちゃん先生、どうかしたの?」
「い、いえ……そ、そうですわね、生徒が展示できるスペースは大切だと思いますけれど、展示する前にきちんと審査も必要ですわよね」
「……スイーツフェスタは今年もまた、犠牲者多数でしたからね」
 琴子が伏せた写真を横から見ていた真人かぼそりと呟いた。
「そ、それはともかくとして……今のところの提案はこれくらいでしょうか。オタケさんのご意見は如何でしょう?」
 ささっとまとめてしまうと、琴子はじっと皆の話を聞いていたオタケに尋ねた。
「何だかいろいろあるんだねぇ……」
 オタケはどこかぼうっとしているようにも見える。
「早足過ぎましたでしょうか、ごめんなさい。良かったら後ほどゆっくり説明致しますので……」
 慌てて言いかける琴子に、オタケはいいやと首を振る。
「あたしゃ、ここの学食で料理は作ってきたけど、他のことは全く考えてこなかったんだよ。設備も厨房に関するもの以外は、あんまり気にしたことがなくってねぇ。生徒さんの話を聞いて、そんなこともあるんだ、そんなことも考えるんだって感心してたのさ」
 そう言ってしきりに首を振ると、オタケは集まっている生徒へと改めて頭を下げた。
「いろいろ聞かせてくれてありがとね。みんなのしてくれた提案に、出来ればあたしも何か考えて付け加えて、学園にお願いすることにするよ」
 せっかくの新しい学食だからねぇ、とオタケは顔をほころばせた。