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いけないご主人様・お嬢様をねじ伏せろ!

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いけないご主人様・お嬢様をねじ伏せろ!

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第四章 千客万来・メイド喫茶 6

 そんな二人の隣の席には、同じく楽しそうな笑みを浮かべている少女がいた。
 彼女――ビスタの視線の先にいるのは、もちろんメイド服姿の理依である。
「お、お帰りなさいませ〜ご主人様」
 開き直ってやるしかない、とはなったものの、やはりまだ若干笑顔が引きつっている。
(び、ビスタ〜っ!)
 彼女に気づいて恨みがましい目を向ける理依だったが、ビスタはただ楽しそうに笑って見ているだけである。
 仮にもお客としてきている以上追い出すにもいかず、ただでさえ恥ずかしいこの接客の様子を黙って観察されるより他にできることはなかった。
「もっと美味しくなるようにドリンクにおまじないをかけますので、ご主人様もご一緒にお願いしますね。せーの、おいしくな〜れっ」
 やっている本人としては顔から火が出そうなのだが、そのちょっと照れたような表情に惹かれる客もいるのだから世の中は難しい。
「えっ、ジャンケンサービス? ジャンケンでご主人様が勝ったらパフェをお口にあーん。ですか!?」
 結果的にますますハードルが上がってしまい……とはいえ、これを普通にやっているメイドさんもいるわけで。
「う……そ、それは……か、かしこまりましたご主人様」
 ……ちなみに、このジャンケンは無事に理依の勝利に終わった。
 ちょっと残念そうな顔をしているビスタを、理依は戻りがけに軽く睨みつけずにはいられなかった。
(ビスタめ……うらむよホント……)
 と。
「ああ、久しぶりだね」
 近くの席にいたプラチナブロンドの女性に呼び止められて、理依はふと足を止めた。
「はい? お嬢様、以前どこかでお会いしましたでしょうか?」
 落ち着いて記憶を整理してみるが、やはり見覚えのない顔だ。
「まあ、無理もないかな」
 女性は苦笑すると、隣の席に置いてあるヘルメットのようなものを指差した。
「これでわかる?」
 言われるままに、理依はその物体を見て……危うく腰を抜かしそうになった。
 これは忘れもしない、以前の別のバイトの際に見た機晶姫の……!!
「うん、わかってくれたかな」
 そんな理依の様子を見て、その女性――試作型改造機晶姫 ルレーブ(しさくがたかいぞうきしょうき・るれーぶ)の中の人(?)、シャルロット・ルレーブ(しゃるろっと・るれーぶ)は楽しげな笑みを浮かべたのだった。

 そうこうしている間に、あさにゃんが理沙たちの紅茶とケーキを運んでくる。
「お待たせいたしました、お嬢様」
 手際よく紅茶のカップとケーキの皿を並べ、最後に伝票を、というところで、理沙が不意にあさにゃんの手を握った。
「ありがとう、可愛い人」
 その様子に、先ほどから相変わらずあさにゃん撮影中のルシェンが固まる。
 野郎のナンパなら直ちに牽制に行くところなのだが、相手が女性であるし、このくらいは軽いスキンシップととれなくもない。
 ……が、それにしてはなかなか手を離す様子がない。
 さすがにそろそろ、とルシェンが席を立とうとしたとき。
「理沙、商品に手を付けてはいけなくてよ?」
 にこやかに、あくまで笑顔を崩さぬまま、セレスティアが口を開いた。
「それが判らない貴女じゃないですわよね?」
 その言葉に、理沙は直ちにあさにゃんの手を離し、こくこくと何度か頷いたのだった。

 さて、ここまで見てきた中にはミドルティーンからローティーンの少女の姿も見受けられたが、驚くべきことに彼女たちよりさらに年下のメイドも存在していた。
 いったいパラミタの労働基準法はどうなっているのか、などというツッコミは無粋極まりないのでやめておくとしよう。
「お、お帰りなさいませ……」
 おどおどした様子で、しかしどうにか頑張って接客しているのはフェルト・ウェイドナー(ふぇると・うぇいどなー)
 もともと臆病で人見知りが激しい彼女も、正直に評価すればおよそ接客に向いているとは言いがたい。
 その上メイド喫茶で何をしたらいいのかの理解も怪しく、とりあえず他の人のマネをしている、といった状態である。
 そして、そのフェルトよりさらに年下、外見年齢で判断する限り最年少と思われるのが紅 咲夜(くれない・さくや)である。
「お帰りなさいませご主人様」
 こちらはある程度理解して入るようだが、もともと無口・無表情で愛想を振りまくことが苦手なため、あまり笑顔らしい笑顔は作れていない。
 ……が、「年齢不相応にクールに見える美少女」というのも、やっぱり需要があるのである。
 そんなわけで、やっぱり彼女もそういった趣味の「ご主人様」の人気を集めることになり、ぱたぱたと小さな身体で忙しく動き回ることになった。
 その様子を、彼女の保護者である霧生 時雨(きりゅう・しぐれ)は楽しそうに見守っていた。
「あんな無表情で接客か……とも思ったけど、それがかえって受けるとはね。全く奥が深い」
 結構人生経験豊富そうな時雨であるが、そんな彼にもこういった文化を完全に理解するのはなかなか難しいようだ。

 と。
「や、やめてくださいっ……!」
 悲鳴、というにはいささか小さすぎる声で、フェルトが弱々しく抗議の意を示した。
「だから、さっきから呼んでただろ? 何で無視するんだよ」
 フェルトを呼び止めた、というより捕まえた男がそう言うが、もちろんデタラメである。
 いかにも気弱そうなフェルトが、妨害者たちの目には格好の餌食に映った、というだけのことだったのだ。
 だがこの直後、彼らは恐るべき事実を知ることになる。
「失礼します。ご主人様、お食事の準備ができました」
 そこに割って入ってきたのは、フェルトのパートナーのイリス・クェイン(いりす・くぇいん)である。
「食事? そんなの頼んだ覚えは……」
「サービスです。さ、こちらへ」
 あくまで丁寧な口調で促すイリスに、妨害者たちは顔を見合わせる。
「サービスってか、お詫びのつもりか。ま、それなら受けてやるべきだよな」
 勝手な解釈を繰り広げる彼らは気づいていない。笑顔を浮かべているイリスの目だけは全然笑っていないことに。
 そのまま無警戒にホイホイついて行った彼らが案内されたのは……店の裏口だった。
「おい、食事でなんで店の外に出るんだよ?」
 不機嫌そうに言う妨害者たちに対して、イリスは返事の代わりに隠してあった機関銃を取り出した。
「ええ、たっぷりと食べさせてあげますよ。この機関銃のタマをね!」
「な、なんだってー!?」
 驚く妨害者たちに狙いを定め、イリスが容赦なく掃射を開始する。
「あなたたちには、メイド喫茶よりも本物の冥土がお似合いよ!」
「ひ、ひえーっ!!」
 当然、一も二もなく一目散に逃げ去って行く妨害者たち。
 機関銃の弾の嵐の中をまっすぐ逃げて、どうして一発も当たらず無事に逃げ切れるのか。
 なぜならここがいわゆるギャグ漫画時空だからである。
 おかげで店の裏に死体が転がるような物騒な事態にはならず、追いかけてきたフェルトはそのことにほっと胸を撫で下ろしたのだった。
「大変なことにならなくてよかった……」
 いや、まあ機関銃を乱射した時点で十分大変なことなのだが。