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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 2

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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 2

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第10章 居眠り運転注意報…?

 残りの客車の引き上げや、掃除が終わると佐倉 紅音(さくら・あかね)は、重装機晶姫 ブルド(じゅうそうきしょうき・ぶるど)に乗り込む。
 パートナーが創始者のハートウェル財団として、客車の運搬を行うためにやってきた。
 列車を吊り上げて運ぶためにはパーツを換装し、巨大クレーンを装備する必要があったのだが、手配する資金が足りなかったため、間列車の修復のために出資したラズィーヤが資金を出してくれた。
「出資者たちの助けもあるだろうが。この計画に参加した者たちの助力があってこそ、ここまで作業を進めてこれたのだろうな」
 初夏から初冬まで作業に携わっている者たちが、作業を行う姿をシド・ハートウェル(しど・はーとうぇる)が眺める。
「うーむ、以前のような財はもってはいないようだが…。かといって同情で出来るような仕事でもあるまい」
 そこまで頑張るとは、環菜はよほど人望があるのだろうか、と考え込む。
「シドさん、何を考え込んでいるの?」
「いや…ちょっとな」
「ねぇ、校長自ら掃除したりしてるけど。資金が足りないのかしら」
「不足しているとは聞いてないが?出資者自ら働くのも悪くはないともうぞ」
「へー、そいうものかしら?でも…」
 生徒に指示ばかり送って動こうとしない幼い校長を紅音がちらりと見る。
「あっちはまだ幼いからな」
「怪我でもしたら大変だものね」
 まだ10歳にもならない幼い子供ということもあり、仕方ないかと肩をすくめる。
「―…シドさんは働かないの?」
「なぜそうなる?」
「財団の創始者が自ら動くのもいいんじゃないかなーと思ったの。別に重労働してとはいってないわよ」
「では、どういう面で働けというのだ…」
「駅舎の中にまだお店がないみたいだから、お土産品とかいろいろとね。観光客とかが手軽に買える感じのをね」
「アイデアを考えろと?」
 頭脳労働もそれはそれで大変なのだが、どのみちボランティアと同様の働きとなるだろう。
「運搬だけで終わっちゃうのもあれかなー、と思ったの。まっ、気が向いたらでいいわ。いろいろと作業が片付いたら、出資者たちから話があると思うから」
「紅音殿、そろそろ出発したいのでありますが。よろしいでありますか?」
「ごめん、ブルドさん。行こう!」
 ぐっとハンドルを握った紅音はアクセルを踏み、ヴァイシャリー湖南の駅舎を目指す。



「(だいぶ眠たそうですね、もう明け方近いですし…)」
 ヨンはフライングポニーの手綱を掴み、眠そうにうとうととするピヨの傍に寄る。
「頑張ってください、ピヨ」
「ピ、ピヨ〜……」
「もうすぐつきそうだから、アキラさんもちゃんと起きててくださいね」
 ポットの蓋を開け、カップにコーヒーを淹れてアキラに渡す。
「むーぅ…ねむ〜ぃ、眠すぎるよー」
「アキラ、寝ちゃいけないヨ」
 よぃしょよぃしょ、とアキラの頭によじのぼったアリスが、彼の髪を引っ張る。
「ぐぅー……」
「寝ちゃったネ、起きないとつねるヨ?」
 そう言いつつギューッと頬をつねったり、鼻をつまみつつ爪で押したりする。
「イテテッ!」
「ふぅ〜、起きたみたいネ」
「うわ、ぁっつー!!?」
 手にしてたカップを膝に落としてしまったアキラが悲鳴を上げる。
「コーヒーで眠気も飛んだネ」
「それ用途違くないっ!?コーヒーはこぼすものじゃなくて、飲むものだって!」
「ついたヨ、ピヨ。よく頑張ったネ」
 抗議の声を上げる彼を無視し、彼の頭からジャイアントピヨの上へ飛び降り、よしよしと撫でて褒める。
 すでに駅舎の付近には、客車を置くブルーシートが敷かれている。
 アキラたちはそこへ車体をゆっくりと降ろし、ワイヤーロープや登山用ザイルなどをほどく。
「作業に取りかかってもいい?」
 運搬の様子を駅舎の方でみていた美羽が、アキラたちにもう修理を始めていいのか聞く。
「ううん、まだだよ。もう1台運んだ後、静香校長が車体の除菌作業を始めるんだってー」
「りょーかい!」
 美羽が大きな声で言うと、彼らは次の車両を運ぼうとヴァイシャリー南湖の駅から離れていった。



 客車を駅舎へ運搬しようとしていた紅音だったが、先に進めなくなってしまい、どんよりと沈んでいる。
 ブルドで車体を吊るしながらでは森の中を進めず、鬱蒼と覆い茂る木々のせいでブルド自体も入れないのだ。
「困ったわね、せっかくここまできたのに…」
「―…誰か通りがかかるのを、待つでありますか?」
「魔法学校の校長にネット電話で、助けを求めるしかないわねー…」
「紅音殿、あれをっ!」
 天の助けがやってきたとブルドは声のボリュームをマックスに上げる。
 ミニパソで連絡を取ろうとしていた手を止め、空を見上げると…。
「列車を運搬していた人が戻ってきているのね!」
 救助兼、客車を運んでもらおうと紅音は、ハンドガンの銃口を空へ向け、銃声を轟かせる。
 その男に気ついたアキラたちが平原へ降りてきた。
「客車をブルドと運ぼうとしたんだけど、ジャタの森の木が邪魔で通れないのよ。代わりに運んでくれる?」
「いいよ!困ってる女の子を放っておくわけにもいかないし」
「私たちがここまで運搬してくるから。それを駅の方へ運ぶっていうのはどう?」
「距離的に手間がかからないなら、それでもいいよ」
「ありがとう、じゃあ後よろしくね」
 そう言うともう1台の客車を運ぶべく、紅音はアクセルを踏んだ。
「仮眠したほうがよさそうよ?」
 眠たそうな顔をするアキラに千鶴が休むように言う。
「そーしようかな…。おやすみぃ〜」
 安全に運ぶには仮眠するべきか、とアキラはジャイアントピヨの羽の上ですやすやと眠る。
「私もガネットの中で休もう…」
「グラキエス、私の膝に…ってどこへ!?」
 さっきまで操縦席にいたグラキエスが突然いなくなってしまい、ベルテハイトはモニターの画面の解像度を上げ、慌てて弟を探す。
「なんと…っ」
 小さく声を上げ、じっと見つめる先には、ジャイアントピヨの傍でぬくぬくと眠っている弟を発見した。
 イコンから降りると、彼を起こさないようにそっと寄り添い、自分も仮眠を取る。



 全ての客車の発掘が終わり、道具の片づけが始まった頃。
 一輝はこの場所から新たにオレたちの旅が始まるんだという意味を込め、魔列車があった洞窟の壁へ、ローザ、コレット、プッロの名前をナラカエクスプレス回数券に書き込み、リベットガンで打ち込む。
 コレットの方は、復興記念コインを1つ、その場所へ置いた。
「もうここにくることもないかもしれないが。オレたちの道は、ここから始まるんだな…」
「2人共、浜辺で待ってると思うから、陸に戻らない?」
「そうだな…」
 しばらく眺めていたが、そろそろ仲間の元へ戻るべく、洞窟から出て行った。