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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 2

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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 2

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第7章 まだまだ残っている埋没した客車 story4

 潜水形態のイコン、ロヒカールメに搭乗した千鶴は、発掘現場へ向かい指示が送られるのを待つ。
 洞窟から出てきたテレジアがライトを1回点滅させ、登山用ザイルを機体に結びつける。
 彼女が2回点滅させるとゆっくりと後退し、客車を引っ張る。
「(また待機しててくださいね)」
 客車が洞窟の前まで引っ張られたのを確認したテレジアは、車体の真ん中にくくりつけられた登山用ザイルに、もう1本を引っ掛けた方を掴み、海面へ向かって泳ぐ。
「ふぅ、次は浜辺へ移動させる指示を送るんでしたっけ…」
 それに作業員用に用意されたロープを結び、海面から顔を出す。
「空の方は俺が指示を送るから、水中対応しているイコンへの指示を頼むよ」
「はい!」
 静麻に返事したテレジアは千鶴に、いったん止まるように指示を送る。
 彼の方はライトの明かりを下に向け、ジャイアントピヨに乗っているアキラへ、“海面ぎりぎりまできてくれ”と伝える。
「テレジアが持っているロープを、ジャイアントピヨにくくりつけてくれ」
「これです」
「りょーかい」
 ロープを受け取るとアキラはテレジアに手伝ってもらいながら、ジャイアントピヨの身体にロープをくくりつける。
「余った部分は、ワイヤーロープに結んでくれるか」
「おっけー」
 シュヴァルツに装着しているロープに、ぎゅっと結びつける。
「んで、高度を上げてから車体を引き上げて、浜辺に運べばいいだな?」
「あぁ、頼んだぞ」
「よーし、頑張れっピヨー!」
 アキラの声にジャイアントピヨは小さな翼を羽ばたかせ、海面から離れる。
 グラキエスたちにも指示を送ろうと静麻はライトを少し持ち上げて浜辺の方に向ける。
「(千鶴、後退してください)」
 テレジアは海に潜るとふりふりとライトを海面へ向けて、ぎりぎりまで上がらせ、明かりを2回点滅させてパートナーに後退するように伝える。
 アキラたちが浜辺付近まで車体を運ぶと、静麻はくるりと明かりを回転させて180度向きを変えるように伝え、テレジアも千鶴に同じように伝えた。
 車体がシートの上まで運ばれたのを確認した彼は、明かりの位置を下げ、降ろすように指示を送る。
「今日はもう1回だけ運ぶから頑張れっ!」
 ジャイアントピヨの身体にくくりつけたロープをアキラが外してやる。
「ピヨ〜っ!!」
 やる気満々のジャイアントピヨは翼をはばたかせ、アキラたち3人を乗せたまま待機ポイントへ戻る。
「もうひと頑張りですね」
 ロープや登山用ザイルを回収したテレジアは、ライトで千鶴に戻るように伝えると、自分も洞窟へ戻っていく。



「もう1両が来る前に、お掃除を始めようか。―…うわ、予想以上に凄いね」
 客車の中に踏み入れたとたん、びっしりとくっついたフジツボの数に、北都は唖然とする。
 幼い子供が見たら泣いてしまいそうな、ちょっとしたお化け屋敷のような光景だ。
「いっぱいいるから、さっさと取っちゃおう」
 しかし彼は気にせず長靴に履き替え、手に軍手をはめるとスクレーパーで剥がし始める。
「天井などは私がやりますね」
 リオンは黒髪を後ろでくくると袖まくりをし、天井をライトで照らしながら、フジツボの除去を手伝う。
「ヘルメット被っておいたほうがいいよ」
「ありがとうございます」
「北都さんのもあるよ」
「これって、バイクのヘルメット?」
「顔も守ってくれるタイプだから、あると便利かなって思って。目に何か入ったりしたら危ないからね」
「うん、ありがとう、静香校長」
 かぽっとヘルメットを被り、掃除の続きをする。
「お掃除大変じゃないですか?」
 他校の校長だが、自ら掃除するのはなぜだろう、と不思議そうな顔をする。
「大変だけど、キレイにするのが好きなんだよね」
「へぇー…そうなんですか」
「それに、皆が頑張ってるのに…。僕だけ何もしないっていうのも、なんだか悪い気がしてね」
「うーん……。(だからって、こんな大変なことまでするのかな)」
 確かに、魔法学校の校長やラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)たちも働いてはいるが、つらい力仕事はしていない。
 エリザベートは校長といってもまだ幼いから、あまり無理なことは出来ないのだろう。
 だが、校長の中で1番働き者は誰かと問われたらまっさきに思い浮かぶのは、やはり桜井 静香(さくらい・しずか)だ。
「静香校長はこの鉄道のこと、どんなふうに想っているんですか?」
「皆と見つけた大切な宝物かな。他校の生徒さんたちと、こんなに協力しあうことも滅多にないから、このお掃除も僕にとっては大切な思い出だよ」
「環菜さんが鉄道王になりたいって言って、始まった計画だけど。今は、皆の宝物ってことなんですね」
「うん、そういうことになるね」
「客車はどんな感じになる予定です?(イルミンスールと百合園といったら、緑とピンクだけど…どんな感じになるのかな)」
 色合いとか決まっているのか気になり、聞いてみるがやはりここは出資者の校風のカラーになるのだろうか、と想像する。
「内装のアイデアは工事してくれる人に任せちゃってるけど。外装も皆のアイデアの中から決めようかな、って考えてるよ」
「せっかく出資したのにいいんですか?」
「僕的には、校風の色味もほしいんだよね。ピンクと緑、地のベースに考えてもらうと嬉しいかも」
「うん、そのほうがいいかもしれませんね」
 静香と会話しつつ、床のフジツボ取りを終えた北都は、座席の土台をドライバーで外して、そこについているフジツボの除去に取りかかった。
 客車にびっしりとはりついていたフジツボを剥がし、海に返していると4両目となる客車が浜辺に運ばれてきた。
「私は列車の外側の拭き掃除をするので、2人は中をお願い出来ますか?」
「分かったよ、リオン」
 宮殿用飛行翼を羽ばたかせ、北都は天井から雑巾がけをする。
「じゃあ僕は壁の拭き掃除をするね」
「消毒はどこでするんですか、静香校長」
「ヴァイシャリー湖の南駅で作業するしかないかな。汚れた水を海に流すわけにはいかないから、ヴァイシャリーの別邸の方に運んで処理しなきゃね」
「使えそうにない部品とかはどうします?」
「それはゴミ袋に入れてくれるかな。後でリサイクルして部品を作り直したいんだ」
「捨てちゃうのも、もったいないですからね」
 真水を含ませたモップでゴシゴシと床を拭きつつ、使えないからって貴重な品を簡単に捨てるわけにもいかないね、と頷く。
「あ…窓ガラスにヒビが入っちゃってる」
「危ないから触らないほうがいいですよ、僕が片付けてあげます」
 水圧で耐え切れず今にも割れそうなガラスを、窓枠ごと外す。
「ありがとう、北都さん」
「割れやすいものと、分けておかなきゃ…」
 梱包用のプチプチで包み、割れ物注意とペンで書いた袋の中に入れる。
「中はだいたい片付いたから、外側を手伝おうかな」
 窓を外したところから外へ出て、ふわりと屋根へ舞い降りる。
「見てみて北都。ピカピカになりましたよ」
「頑張ったね、リオン」
 翼で空を舞い、彼の頭を撫でる。
「4両目となる車両もきましたし、まだまだ頑張りますよ!」
 北都に褒めてもらったリオンは余計に嬉しくなり、客車からゆっくりと降りると掃除中に引き上げられた車体にハシゴをかけて上り、屋根の上にくっついている大量のフジツボ取りの作業をする。
「最初に引き上げたやつ、運んでいいかー?」
「うん、いいよ。工事はこれが終わるまで待つように伝えてくれる?除菌作業はここじゃ、出来ないからね」
「おー、言っておくよ」
「アキラさん、ピヨにロープをくくりつけましょう」
「俺たちは真ん中担当ってことでいいのか?」
「出来るだけピヨの負担を軽くしてくれるそうですよ」
「んじゃ、お言葉に甘えてそうさせてもらおうか。そうだヨン、テントの周りにサラマンダーを配置してくれた?もうそろそろ日が傾きそうだからさ」
「はい、テントの傍にいてもらってますよ。それと、ラズィーヤさんがピヨのために、照明用のライトを貸してくれたので夜間飛行の準備も出来てます」
「うわぁ〜、おっきーなぁー…」
 どこについているのか探してみると、ジャイアントピヨの額に丸いライトがつけられている。
 ライトの金具の両端にはゴム紐をつけてもらい、落ちないようにヨンが頭の後ろで紐を結んだようだ。
「こちらの準備は出来たが…、そっちは飛べそうか?」
 イコンに搭乗しているグラキエスが、スピーカー機能を使いアキラに声をかける。
「いつでも飛べるよ!」
「私の方も準備出来てるわよ」
 イコンを潜水モードからツィルニトラへ変形させた千鶴は、車体の後部を持ち上げる担当をする。
「いってらっしゃーい!」
 自分たちがピカピカにした客車を運搬する者たちへ、リオンが大きく手を振った。