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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 2

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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 2

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第11章 ついに始まる…初冬の工事

 龍心機ドラゴランダーとなった龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)は、精錬されたアダマンタイトを修理現場へ運ぶ。
「落とさないように気をつけるのだぞ」
 ドスドスと走る彼に、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が注意するように言う。
「グァアアーーッ!(そのようなヘマはしないぞっ!)」
「ならよいのだが…」
「グァアア?(それよりも、炉を壊すなよ)」
 コアが抱えている大きな箱をちらりと見る。
 そのプチプチの梱包材を詰めた箱の中には、炉がたくさん詰め込まれているのだ。
「この炉は、皆の元へ安全に届けてみせる!」
 フレイムブースターで加速し、急ぎ現場へ向かう。
 修理を行う場所へたどりつくと、仮眠から目を覚ましたアキラたちが、4両目となる車両をブルーシートの上へ降ろしている。
「グァアァ?(後、2両はどこだ?)」
「ふむ…まだのようだな。ひとまず荷物を降ろすとしようか。こら、ドラゴランダー!いくら溶かすからとはいえ、雑に降ろすでない!!」
「ガァアァー!!(どれ、それも降ろしてやろうか)」
「よせっ、あぁあ!?」
 ガタガタと箱を揺らされた衝撃で…。
 プチプチプチプチプチプチプチプチプチッ。
 炉にぶつかった梱包材がつぶれまくってしまう。
「グァアァ〜?(なんだかムシでもつぶしたような音だな?)」
「ふぅ…。(炉はドラゴランダーの傍から離しておこう)」
 彼が梱包材の音を愉快そうに聞いる隙に、ゆっくりと箱を降ろした。



 全ての車両の運搬が終わると、北都とリオン、静香の3人が車内の除菌作業を行う。
 壁や床、天井にシュッシュッとスプレーをふきつけ、モップやブラシでゴシゴシと掃除する。
 待つこと1時間ちょっと…。
「はぁ〜…やっと終わったよ」
「2人とも、ありがとうね」
「無事に完成するといいね」
「皆さん、お掃除終わりましたよ!」
 待機している者たちをリオンが呼び集める。
「ほう、細かいところまでキレイにしてくれるとは…」
 車体の下や隅々までピカピカなった様子に、コアも驚いてしまう。
「おっとカメラが…」
 デジカメを片手にやってきた月夜の姿を見つけ、さっと振り返る。
「今回は何を担当するんですか?」
「やぁ、蒼空学園のハーティオンだ。今回は運ばれてきた魔列車の修理作業に従事する予定だ」
 刀真にマイクを向けられたコアはそう言い、レンズに爽やかな笑みを向ける。
「ガァアア…?(車両をもっと工夫して修繕してはどうだ?)」
「というと?」
 今更何を、とコアが首を傾げる。
「グァァアア、ガァアアッ。(1定よりもスピードが下がったら爆発するとか、イコンに変形するとかだな…)」
「そのようなアイデアは、すでに却下されているぞ。て…爆発はありえないだろう」
 ジョークなのか本気で言ったのか分からないが、そんなことをしようもならコアは相打ち覚悟で挑み、全力で止めているだろう。
「グァアア?ガァァァ…。(―…何?それは残念だ…)」
 あっさりと却下され、シューゥウウン…と項垂れた。



「アゾートちゃん、アダマンタイトの溶かし方を教えてください!」
 白瀬 歩夢(しらせ・あゆむ)は彼女の手伝いをしようと、炉を手にアゾートの隣に座る。
「オレにも教えてや」
「はーい、ボクも聞きたい!」
 陣とリーズも溶解する方法を聞いておこうと駆け寄る。
「精錬した金属を入れてからビリジアン・アルジーを、ほんの少しだけ炉の中に垂らすんだ。それが出来たら蓋を閉めてね。歩夢さん、やってみて」
「うん、次はどうするのかな?」
「蓋を動かして、使うスキルの属性に合わせくれる?」
「どれかな…。んー…」
「それ、氷系だけど?」
 アゾートが確認してあげると蓋についている針が、青色の点を指している。
「何のスキルを使って溶かすの?」
「魔法だよね?光術なら使えるよ」
「じゃあ白い点のところまで動かして」
「分かった!」
「そしたら取っ手を握って、その魔力をこめると…。術の気が炉の中のものを、凍らせたり溶かしたり出来るんだよ。光術だから、アダマンタイトがどんな影響を受けるか分からないけどね」
「やってみるね」
 チャレンジしてみようと、めいっぱい取っ手を回す。
「あれれ〜?教わった通りにやってるのに…」
 1生懸命に回し続けるが、温度のメーターが変化する気配はない。
「光術じゃ厳しいみたいだね…」
「アゾートさん、何かお手伝いすることはありませんか?」
 彼女の隣にいる歩夢を押し退けるかのように割り込み、エリセル・アトラナート(えりせる・あとらなーと)が傍に座る。
「ちょっと…いきなり退かすなんてっ」
 CV:光学ステルスとカモフラージで姿を隠しつつ、トカレヴァ・ピストレット(とかれう゛ぁ・ぴすとれっと)はエリセルの袖を引っ張る。
 ようやく自分の恋心に気づいてくれたのはいいが、大胆な行動はよくない、と注意する。
「私だってアゾートさんのお役に立ちたいんです!」
「誰と話しているの?」
 トカレヴァの存在に気づいていないアゾートが不思議そうに首を傾げる。
「いえっ、その…なんとかお役に立ちたい…と思ってたら、自然と声がっ」
 傍にいるパートナーに言ったのだが、それをごまかすように言う。
「うーん…じゃあ、2人にお手伝いをお願いしようかな」
「2人…ですか?」
 自分の他にも誰かいるのだろうか、と目を丸くする。
「うん、歩夢にも頼もうかなってね」
「(どうして私だけじゃないんですかっ!?)」
 恋敵の名を聞いたとたん、エリセルは急に不愉快そうな表情へ変えた。
「すみっこにいないでおいでよ」
 しょんぼりと膝を抱え、指でのの字を書いている歩夢を呼ぶ。
「私に出来ることなら、何でもやるよ!」
 今にも泣き出しそうだった顔が笑顔になり、ぱたぱたとアゾートの元へ駆け寄った。
「金属とビリジアン・アルジーを入れる作業を、何度もやるのは大変だから。その手順までやってくれると助かるよ」
「よーし!アゾートちゃんのために頑張るねっ」
「(あぁー…エリセルったら、すごい顔してるわ)」
 私が手伝いたいのに!と悔しげに唇を噛み締めているパートナーは、嫉妬で暴れだしそうな雰囲気だ。
「エリセルさん、これに入れて。―…聞いてる?」
「ちょっとエリセル、アゾートが呼んでいるわよ」
「えっ、はい!」
 炉を受け取ると僅かに彼女の手のぬくもりが残っている。
「手を…握ってみたいですね…」
「何か言ったかな?」
「ぃっ、いえ別に!なんでも…ありません」
 ビクッと驚いたエリセルは思わず声を裏返してしまうが、恥ずかしそうに顔を真っ赤にし、だんだんと声のボリュームを下げていく。
「ひととおり作業が進んだら、環菜さんがパーティーをやるみたいだよ」
「どこでやるんですか?」
 炉にアダマンタイトを入れながら、場所を聞こうとする。
「んとね、魔列車の中でかな。エリザベートはどうせなら、クリスマスパーティーがしたいんだって」
「クリスマスですか…いいですね」
「サンタさんがきっとプレゼントをくれるとかも言ってたね。まったくもう、まだまだ子供だよね」
「えっと…サンタさんは……きっといます!アゾートさんのところにも、今年あたり来るかもしれませんよ」
「エリセルッ!?何を言い出すのっ」
 確かにここはパラミタだから、現れることもあるかもしれないが…。
 よい子でも必ず来るとは限らない、…かもしれないのだ。
「サンタならここにいます」
「へ?どこにいるの。まさか…」
 私がアゾートさんのサンタになります!とでも言い出すのでは…と思い、嫌な予感にトカレヴァが頬から1筋の冷や汗を流す。
「何をあげたら喜びそうですかね…。キレイなアクセサリーとかっ」
 嫌な予感は的中し、パートナーはエリセルサンタになる気満々だ。



「すぐに加工出来るように、予め金属とビリジアン・アルジーの量を調節してくれているのか。なくなったらそこへ取りにいくように言っておくべきか」
 スケジュール通りに修理が進んでいるか見に来た佐野 和輝(さの・かずき)は、列車の修復作業を行っている者にネット通話で伝える。
「アダマンタイトがなくなったら、駅舎の噴水辺りにきてくれ」
 加工を行うルカルカや騎沙良 詩穂(きさら・しほ)たちに伝える。
「私は溶かし続ける作業か…」
 蓋の針を赤色の点に向けた禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)は、ヴォルテックファイアの炎の気を炉に送る。
「アニスは他の人が使えるように、温度を下げる役割だねっ」
 溶けるのを待とうと、アニス・パラス(あにす・ぱらす)は待合室の椅子に座る。
「ほう…信じられないような温度だ…」
 何万度にまで上がっているメーターを眺め、うっかり蓋を開けでもしたらどなることやら、と眉を潜める。
 炉の内側は氷術の冷気のおかげで、熱が外へもれる心配はない。
「アゾートが用意したとはいえ、このような小さな炉に、どのような技術が詰まっているのか…」
 それでもよく炉はよくこんな熱に耐えられるな…、いったいどんな構造なのだ?というふうに呟く。
「リオン、暇だよーっ」
 いつまで経ってもお仕事がこない!と頬を膨らませて足をばたつかせる。
「む、…ほら、溶かしたぞ」
「わーい♪じゃー、冷やすね!」
 蓋をつまんで水色の点に針を動かし、くるくると取っ手を回す。
「さて、さっさと溶かさなければ、アニスに何を言われるやら…。ただ溶かすにしても、面白みがないな」
 別の金属をこの中に混ぜて溶解したら、どのようなことになるだろうか?と急に試したくなってしまった。
「他の物と混ぜて、合金溶かしてみるのも面白いかも知れんな」
「リオン、何しようとしているんだ?」
 彼女が予定にないものを加えようとしているところを、和輝が目敏く発見する。
「ただ溶かしてばかりいるよりも。何か変化があったほうが、面白みもあるかと思ってな」
「修復する分が足りなくなってしまうかもしれないぞ」
「うっ……。分かった」
 和輝に注意されたリオンはしぶしぶ実験を諦めた。