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【重層世界のフェアリーテイル】ムゲンの大地へと(後編)

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【重層世界のフェアリーテイル】ムゲンの大地へと(後編)

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第5章「クリスタル」


「『大いなるもの』の封印を護る為にファフナーがいるのなら、やはり封印そのものはファフナーの奥にあると考えるべきだろう」
 ファフナーを救う為、瘴気そのものを何とかするべきと考えた者達のうち、前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)がこんな意見を出した。その意見に、七枷 陣(ななかせ・じん)緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)も同意する。
「あそこで透矢くんが持ってるロッドが前に来たっちゅー人間が遺したモンなら、きっとそいつはこの世界で魔法的な封印を着実に完遂出来るようにするブースターなんやろうな。って事は再封印には魔法が絡むはず。よっしゃ、オレらで綻んでる封印をガッチガチに締め直してやろうぜ、ヨウくん!」
「そうですね。封印そのものも気になりますし、やってみましょう」
 その時、ダウジングによる探索を行っていたレモリーグ・ヘルメース(れもりーぐ・へるめーす)が戻って来た。
「戻ってきおったか。どうじゃ、反応は?」
「それが麻羅ちゃん、ここはどこも瘴気だらけであまりあてになりませんでしたわ。ただ、やはり強く感じるのはあのファフナーの辺りでしたけど」
「ふむ。やはりその先へ行って確かめるべきじゃな。そうと決まれば話は早い。皆で参るぞ」
 天津 麻羅(あまつ・まら)の声で一行が奥へと向かう。先を阻む幻獣への対処はリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)片栗 香子(かたくり・かこ)の役目だ。
「よーしっ! 香子ちゃん、ボク達で陣くん達の道を切り拓くよ!」
「はぁ……うぜぇ、なんでこんな小娘と一緒に行動しなきゃいけねーんだよ……それではお兄様、リーズさんとわたくしに、全てお任せ下さい♪」
 前半と後半で明らかに声量と調子が違ったが、それはさておき。まず香子が先手を取り、遠当てで幻獣へと仕掛ける。
「オラ、フルボッコにされてぇのか、あぁん? とっとと道を開けやがれ」
「殴り倒されるのと斬り倒されるの、好きな方を選んでね♪」
 あまり仲の良くない――主に香子の発言が――二人だが、大事なパートナーを先へと進ませるという目的が一致しているせいか、しっかりと連携して幻獣を倒して行く。リーズがスピードで攪乱した所に香子の拳が、香子に狙いが集中するようならリーズの剣が襲い掛かる。幸い他の場所にいる者達が中心となって幻獣を相手していた為、麻羅達はすぐにファフナーの前まで来る事が出来た。
「問題はここからじゃな。緋雨、姫神、合図は任せたぞ」
「分かったわ、麻羅」
「皆さん、緋雨さんの合図がありましたら奥まで走って下さい」
 水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)、そして櫛名田 姫神(くしなだ・ひめ)が一団から抜け出し、ファフナーの方へと向かった。そして姫神がファフナーの攻撃を受けないように気を付けながら、逆に攻撃を行って相手の反応を確かめて行く。
「……皆さんが確かめた通り、この場から離れる気配はありませんね。ですがその分、通過の障害にはなりますが……」
 近くから、遠くから、さらには真空波なども放って動きを見る。そうした一連の動きを観察していた緋雨がスッと手を挙げた。
「麻羅、皆、今のうちに行って!」
 その合図で一行が走り出した。先頭を走るのは風次郎と麻羅だ。
「天津、あの幻獣のそばを抜けるぞ。そうすればファフナーは下手に踏みつぶそうとはしないはずだ」
「それは良いのだが、幻獣が襲ってきたらどうするつもりじゃ? 一応残機は十分じゃが」
「心配はいらない。うちのナギに任せてあるからな」
 二人が幻獣のそばへと近付いた瞬間、後ろから矢が追い抜いて幻獣へと襲い掛かった。接近する相手を警戒していた幻獣はその一撃で大きく注意を殺がれる。
「ふーじろー! 今のうちに行っちゃえー!」
 矢を撃ったマエダ ナギ(まえだ・なぎ)が風次郎目掛けてクリスタルを放り投げた。そのクリスタルと麻羅が持っている物、二つが黄色い光を放ち、二人のスペランカーを一気にゴールへと駆け抜けさせた。
「ここが『大いなるもの』の封印されている可能性が高い場所か」
「どうやら後ろも抜けてきたようじゃ。早速調べるとしようかの」
 陣と遙遠、二人も合流し、四人で調査を行う。封印と思われる場所はすぐに見つかった。
「この辺、魔法陣っぽくなってるな。瘴気も強く感じるし、当たりやろな」
「問題はどうやって封印を強化出来るかですね。シクヌチカがいれば話を聞けたかもしれませんが……」
「透矢くんとか、スプリガンになった皆との契約でクリスタルになったからなぁ。まぁ二代目って事やし、封印の事を知ってるかは疑問やけど」
「いないものは仕方無かろう、二人共。とりあえず色々試してみるのじゃ」
 そう言いながら麻羅が試しとばかりにヒールと光術を使ってみた。だが、封印に反応は無い。
「こうなったら物は試しや。ヨウくん」
「何ですか?」

「今じゃ、パワーをクリスタルに!」

「……はぁ」
「えー」
「すみません陣さん。遙遠には何がやりたかったのかさっぱり」
「うむ、ここは『いいですとも』と返すべきじゃったな」
「このネタは麻羅さん向けやったか……!」

「あー、とりあえず流れを戻さないか? でないと最悪、封印を破壊してみるくらいしか手段が無くなる」
「おっと、風次郎さんの言う通りや。ヨウくんもクリスタルを持ってきてるんやろ? だったらそれで魔力を強化して、封印に流し込んでみたらどうかなーと」
「そういう事でしたか。分かりました」
 陣と遙遠、二人が懐からクリスタルを取り出す。赤い光に包まれ、魔力が膨れ上がるのを感じた。
「何故かは分かりませんが、遙遠はやる気が出てきました。陣さん、やりましょう」
「良い調子や、ヨウくん。んじゃま、俺らの魔力で封印をセット……セットセットセットォォォ!」
 二人分+αの魔力が魔法陣へと注がれる。だが、魔力が枯れそうになるまで注ぎ込んでも、封印そのものに変化は見られなかった。
「むぅ……何でや。ロッドがあるから前に封印を直した時にも魔法が絡んでると思ったんやけどな」
「ん? ロッドは前にも使われたのか?」
 陣のつぶやきを聞き、風次郎が疑問を発する。
「へ?」
「いや、気になったんだが、あのロッドを使っている篁は他の行動が出来ない状態だろう。聖域に霧がかかっていたという話から前の到達者は一人だと思ってたんだが……その場合、誰が封印を施したんだ?」
 一瞬の沈黙。最初に口を開いたのは遙遠だった。
「考えられる事は三つですね。到達者は、この場合同時にという意味ですが、二人以上存在したか。ロッドの使用そのものが封印を強化する条件だったか。後は……ロッドは封印自体には関係が無いか」
「残されたメッセージを見た俺としては一番目は違うと考えるな」
「二番目も違うやろな。それなら透矢くんがロッドを使った時点でカタついてるわ」
「つまりは三番目じゃのぅ。当時の封印に関われて、今は関わっていない他の物となると……あ」
 麻羅が何かに気付いた。そしてそれは他の三人も同様だった。
『ファフナー……』