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【重層世界のフェアリーテイル】ムゲンの大地へと(後編)

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【重層世界のフェアリーテイル】ムゲンの大地へと(後編)

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第3章(2)


「『大いなるもの』を救う、か……夜魅、本気なのだな?」
 双葉 みもり(ふたば・みもり)達が動いている頃、ファフナーの前ではルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)達が行動を起こしていた。
「うん。ママも良いって言ってくれたの。あたし、『大いなるもの』のココロを救ってあげたい!」
 蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)がルオシンに宣言する。それが困難であろう事は容易に想像出来た。だが、コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)も夜魅の肩に手を置き、彼女の後押しをする。
「ルオシンさん。私も同じ気持ちです。『大いなるもの』が負の心から生まれたというのなら、それを拒絶せずに、大地に還してあげたいんです」
 闇とも形容すべし負の心から生まれたもの。そういう意味では『大いなるもの』と夜魅は似たような存在だと言えた。それ故、彼女達はファフナーだけでなく、『大いなるもの』も救いたいと思っているのである。
「分かった。我もその考えには賛成だ。だが、具体的にはどうするつもりなのだ?」
「瘴気が闇だとするなら、光で打ち払えないかと思うんです」
「光か……我に相応しい手段ではあるな。試してみる価値はあるか」
 ルオシンは剣の花嫁。そして光条兵器はその名のとおり、光の属性を持つ武器だ。更に自らの意思で斬る物と斬らない物を選べるとくれば、これ以上に最適な武器は無いだろう。
「奇遇ですね。私達も似たような事を考えていましたよ。もっとも、打ち払った瘴気そのものに対しては若干の相違がありますが」
「なんじゃ、お前達もか。私達だけだと思っておったが、皆似たり寄ったりという事か」
 ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)、そして織田 信長(おだ・のぶなが)がこちらへとやって来る。両者ともファフナーを正気に戻す為にはその身を蝕んでいる瘴気を排除する必要があると感じていた。そして、その手段が光によるものだとも。
「ならば話が早いの。各々思い思いにやってみて、どれかが当たれば万々歳じゃ」
「そんな適当で良いのか? 信長……」
 呆れたように桜葉 忍(さくらば・しのぶ)が突っ込む。だが、信長は強気な顔を崩さない。
「何事もやってみないと結果は出ぬからな。やれる事は何でもやってみろ、それで駄目なら命を奪わない程度で倒せば良い」
「まぁ、信長らしいといえばらしいか。よし……皆、やってみよう」
 忍の声に皆が頷き、ファフナーの前方へ、側面へ、そして後方へと駆け出す。最初に動き出したのは信長だった。
「お前がその場から動こうとしないのは分かっておる。ならば……これでどうじゃ!」
 信長が投げた物。それはしびれ粉が入った袋だった。動く意思が無い以上、対処方法はしびれ粉の方を何とかしなければならない。その為の手段は、羽ばたいて吹き飛ばしてしまうか、もしくは――」
「――炎で消し去ってしまうか。その機会を待っていた」
 ファフナーが口を開けた瞬間、小型飛空艇で接近していたルオシンがハート形のキノコを投げ込んだ。これは最初に見た者への魅了効果を生むキノコ。そこまでに至らないまでも、相手を混乱させる効果はあるはずだ。
 その予測通り、ファフナーの動きが覚束なくなってきた。状態を確認して、ウィングがわざと正面に踊り出る。
「さぁ、私を狙ってきなさい、ファフナー。精度の欠いた攻撃を当てられるのならですが」
 余裕を見せるウィング。その自信は百戦錬磨の実力に裏打ちされたもの。それを証明するかのように、攻撃を避けながらもファフナーの身体を、そこから発せられる気を観察していた。
(邪気は身体全体を覆っていますか。特に強力な場所も無いとなると、逆に狙い所に困りますね……鱗を剥いだ所をファティ達に狙って頂くとしますか)
 ちらりと後方に視線を移す。そちらではファティ・クラーヴィス(ふぁてぃ・くらーう゛ぃす)『旅人の書』 シルスール(たびびとのしょ・しるすーる)が機会を窺っているのが見えた。
「今こそ、光の矢をここに……」
「導きの書よ、白の名を持つ力を示し、彼の矢に浄化と退魔の力を与えたまえ! エンチャント『マグヌス・エクソシズム』!」
 ファティも持つラスターボウに光の矢が番えられる。そしてシルスールからは清浄な力が。
(どうやら準備も整ったようですね。では……参りましょう)
 再びファフナーへと向き直るウィング。腕の振り下ろしを回避すると、首筋に向けて真空波を放った。
「この程度、大した事は無いでしょう。ですが、鱗一枚分、それだけでも狙い所が生まれれば……」
 幾度目かの真空波でついに傷が付き、鱗が剥がれ落ちる。その僅かなポイントを目掛け、ファティが光の矢を放った。
「清らかなる光と力よ、女神の加護とケセドの名と共に、不浄なるものを打ち払え!穿て、『慈悲の光矢』!!」
 ファティとシルスール、二人の力が合わさった清浄なる力の矢がファフナーへと突き刺さる。それを合図として、今度は忍達が飛びかかった。
「信長!」
「うむ! 私達が狙うはあの一点!」
 忍達が武器を突き刺したのは、ファフナーの胸部にある赤い結晶の部分だった。柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)が行ったのと同様の事ではあるが、忍達の違う所はその武器に光を宿している点だ。
「まだだ! 信長、あのクリスタルの力を使うんだ!」
「ファフナーよ、お前と同族の力、受け取れ……!」
 さらに信長の持つ赤いクリスタルが光り出し、彼女の力を増幅する。首筋と胸元、二か所に攻撃を受けたファフナーの動きが一瞬止まった。
 ――そこに、コトノハとルオシンが光条兵器、エターナルディバイダーを二人で握りしめながら小型飛空艇を一直線に飛ばしてきた。
「夜魅と影龍を斬り離したように、我らの剣で『大いなるもの』をファフナーから斬り離す! 行くぞ、コトノハ!」
「はい、ルオシンさん!」
 飛空艇から跳躍し、ファフナーの頭部に渾身の一撃を与える。三組による光の攻撃により、周囲の瘴気が大きく渦巻くのを感じた。
「…………」
 コトノハ達の後に続く予定の夜魅が固唾を飲んで見守る。このまま目論見通りファフナーを支配している瘴気が分離されれば、その後は彼女の出番だ。が――
「出てこない……? どうして? あなたは自由になりたいんじゃないの?」

「無駄ダ……我は『我』。ソノ心ヲ分カツ事ナド出来ヌ」

「この声は……ファフナー、あなたなの? それとも『大いなるもの』?」
 ファフナーの口から出た言葉に問いかける夜魅。だが、返事は無い。どれだけ集中しても、声を聞こうとしても、その一言の他に聞く事は出来なかった。

「我は『我』ですか……その真意は何でしょうね。単純に考えるならファフナーの心を『大いなるもの』が完全に支配したという意味でしょうが……」
「どうするの、ウィング? ボク達の清浄の力も効いてる様子は無かったよね?」
 一度退き、ファティ達の所まで戻って来たウィングにシルスールが尋ねた。ウィングは二人からパワーブレスを受けながら、ファフナーの方を振り返る。
「まだ私達の方法が通じなかったに過ぎません。他の方の取る手段も見てみるとしましょう。ですが、万が一それでもファフナーを救う事が出来ないのなら……」
「出来ないのなら……?」
「……私達の手で、ファフナーを倒すまでです」
 ファティに答えるウィング。その手には、常人では持ち上げる事すら難しい、超重量の斧が握られていた――