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第三章 戦慄の決勝ラウンド 2

「続いては二品目、セイル・ウィルテンバーグ選手の『特製ポテトポタージュ』です」

 スープ皿が並べられていくと、審査員の誰からともなく感嘆の息が漏れた。
 それほどまでに、セイルのポタージュは完璧だったのである。
 さらに、結果的に予選を生き残ったとはいえ、セイル自身の予選での撃破数はゼロ。
 ということは、この料理は『謎料理』などではない可能性もあるのではないだろうか?
 かすかな期待を胸に、ろざりぃぬはスープを一口口に入れ……スプーンを取り落として、そのまま固まった。

 完璧だったのは見た目だけで、味は逆に「マズい」という次元すら軽々と飛び越えている。
 危うく一瞬お花畑の中の川が見えた気がして、ろざりぃぬは首を軽く横に振った。

「こ、これ……材料は何なの?」
 真っ青な顔で、引きつった笑みを浮かべたミルディアが尋ねる。
「この日のために五日掛けてジックリ煮込んで作ったブイヨンと、パラミタで取れた最高級のジャガイモをたっぷり使って作っています。あとは調味料を少々と、隠し味に破壊力をたっぷりと」
 セイルの答えは……最後を除けば、至極真っ当そうではあったのだが。
「……破壊力?」
「はい。料理は破壊力ですから」
 いや、一体料理で何を破壊しようというのか。
 このおかしなやり取りに、明らかにいらだった様子のカルキノスが割って入る。
「破壊力でも何でもいいが、スープだけというのは俺からすればマイナスポイントだな。具材の一つもないのでは食べ応えがない」
 ……いや、今の問題点はそこではない。
「喰い足りない分はお前でいいか、とも思ったが、お前も喰い出がなさそうだしな」
「食べちゃダメ!」
 さらに勢い余ってとんでもないことを言うカルキノスに、素早くルカルカがツッコミを入れた。
「ともあれ……でも、すごく手がかかっているのは……はっきりと」
 先ほどよりもさらに顔が土気色になり、今にも倒れそうな様子でささらが話を戻す。
「なんというか、すごくズンとくる、パンチのある味ですよね。私は美味しいと思います」
 玲はこれすら美味しいといい切ってしまうので、ほとんど審査員として機能していない。
「確かに手間ひまかけたのは認めるけど、やっぱり料理に破壊力なんかを込めるのはあんまりよくないと思う。ルカルカは、これはあんまり認められないかな」
 とりあえず、わざとやってるんじゃないかと思われる「悪意ある謎料理」はバッサリと拒絶するルカルカ。最終兵器というより「審査員最後の良心」になりかねない勢いである。

 そこまで固まったまま聞くともなしに聞いていたろざりぃぬだったが、スカーレットの一言が彼女を強引に現実に引き戻した。
「ねえダーリン、実はねタッパーだけじゃなくポットも持ってきてるのよ。家族全員分持って帰りましょうね」
 ……一体何を言っているんだ?
「ポットまで!? 何でこんな時だけ用意がいいの!?」
 まあ、ずいぶんとお金に細かいスカーレットのことだから、番組出演でタダ飯一回、さらにそれを持ち帰ってもう一回、くらいの考えで準備してきたのだろうが、朝からこんなものを飲まされた日には、その日一日気分は暗黒モードで固定されること請け合いである。
「それ、恥ずかしい上に地獄だから……お願いだから、絶対やめて」

 そんな微笑ましい親子の語らいが一段落したところで、川添シェフがまとめに入る。
「まず、これだけ手間をかけて本格的に作っているところは素晴らしいですね」
 確かに、この料理のいいところをどうしても一つ上げねばならないとしたら、これだけの手間を惜しまなかった作り手の熱意を上げるより他にないだろう。
「そして僕が今日確信したことは、料理というのは同じ材料を同じ方法、同じ手際で調理しても、必ずしも同じものができるとは限らないということだね。愛情を込めるか、破壊力を込めるか。その小さな違いだけで、結果はこうも違ってしまう。本当に勉強になりました」

「はい、三品目の前に、お口直しのお茶をどうぞ」
 今度もイシュタンからお茶を受け取り、それを飲みながらろざりぃぬはふと考えた。
 こうして毎回口直しでリフレッシュしているということは、それだけ舌をクリアな状態にしているということで……料理コンテストの審査員としては間違っていないのだが、料理がアレである場合、そのマズさをより正確に感じ取ってしまうことになるのではないか、と。