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クリスマスの魔法

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クリスマスの魔法
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「さくらちゃーん!」
 童子 華花(どうじ・はな)と、桜の森公園の精、さくらは、公園の入り口で待ち合わせをしていた。
 華花はいつもの和服の上から、雪に備えてだろうか、和装用の外套を羽織っている。
 さくらもまた、今日はちょっぴりおめかし。淡いピンクのワンピースの上から、白いコートを着ている。
「華花ちゃーん!」
 二人は久しぶりの再会を喜び合うと、行こうっ! と手をつないで走り出す。
 見た目も精神年齢も同じくらいの二人は、仲良しの友達だ。
 今日は一緒にクリスマス市で遊ぶ約束をしている。
「お小遣い、いっぱい貰ってきたぜ!」
「あたしも! ねえねえ、美味しそうなケーキのお店があるんだよ、行ってみよ!」
 ふたりのお財布には、ぎっしりとお小遣いが入っている。
 まあ、財布自体が小さいので、大人から見ればたいした額では無いが。でも、二人にとっては大金だ。
 華花とさくらはぎゅっと手をつないで、ぱたぱたとクリスマス市を駆けていく。
 辺りはカップルであふれているけれど、二人の目にはそんなものは入らない。
 ただ、露店のきらきらしたアクセサリーや、美味しそうなお菓子、かわいいクリスマスの飾りばかりが二人の心をとらえて離さない。
 まず向かうのは、クリスマスケーキなどのお菓子が並んでいる辺り。
 雪だるまの形をしたドーナッツ、クッキーとアイシングで作られたヘクセンハウス、ジンジャーマンクッキー、果物の砂糖漬け、ブッシュ・ド・ノエル……色とりどりで、様々な形をしたクリスマススイーツ達は、見ているだけでほっぺたが落ちてしまいそう。
 その中から、アイシングたっぷりのカラフルなクッキーを買って、食べながら市を見て回る。腹ごしらえは重要だ。
「あ、ねえ華花ちゃん、あそこ見たい!」
 さくらが華花の着物の裾をくいくいと引っ張る。
 指差す先には、きらきら光るアクセサリーが並ぶ露店。華花もまた目を輝かせて、二人そろってそちらへ駆けていく。
 らっしゃい、というおじさんは、アクセサリーを並べているにしてはちょっぴりごつかったけれど、並んでいるものはどれもとてもかわいらしい。
「なぁ、何かお揃いで買ってこうぜ」
「お揃い! うん、そうしよう!」
 どれがいいかなぁ、と二人はじっくりと商品を眺める。
 指輪にペンダント、ブレスレットにストラップ。ピアスはまだちょっと早いか。
 やれこれはどうだあれはどうだと、無邪気にさんざん試着を繰り返して、結局、指輪に決めた。
 ピンクの石がはまっている、二人の指にぴったりな小さな指輪だ。
 ふたりのお小遣いでも買えるようなおもちゃの指輪だけれど、ちゃんと金属でできていて、しっかりした作りだ。
 早速指にはめてみて、えへへ、と笑う。
「大切にするぜ!」
 嬉しそうに言う華花に、さくらもにっこりと頷いた。
 辺りは少しずつ暗くなってきている。日が短い。
 そろそろ、五歳児(見た目)が出歩くには向かない時間だ。
「あ……もう時間だな」
 時計を見上げた華花が、残念そうに呟く。そろそろお迎えが来る時間だ。
「じゃあ、最後に雪見ていこうよ!」
 さくらはそう言うと、華花の手を引いて中央広場へと向かう。
 中央広場は、ちょうどイルミネーションに光が入ったところだった。さらに降雪機も動いているので、ふわふわと白い雪が舞っている。
 雪がほのかにイルミネーションの光を反射して、黄昏どきの公園を華やかに染めている。
「綺麗だなぁ」
「だねぇ」
「来年も、また一緒に見れるといいな!」
 華花の言葉に、さくらはにっこりと笑って振り向く。
「うん、約束!」
 そう言って差し出された小指に、華花も笑顔で指を絡める。
 ゆびきりげんまん、とお約束の呪文を唱えると、二人の指にはまった指輪がきらりと光った。
「さ、お話は済んだかしら?」
 と、そこへ華花のお迎えにやってきたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)がひょっこりと顔を出した。
 気を利かせて、今まで物陰で様子を見ていたようだ。
 華花はパートナーの姿を見つけると、少し名残惜しそうに、さくらの手から指を離す。
「さくらちゃん、今日は華花と遊んでくれてありがとね」
「ううん、楽しかったよ! また遊びに来てねー」
「またなーっ!」
 手を振るさくらにぶんぶんと手を振り返すと、華花はリカインと手をつないで公園を後にする。
 さくらはそれをちょっと寂しそうに見送る。
 また会える日を、心待ちにしながら。


■■■


 久世 沙幸(くぜ・さゆき)藍玉 美海(あいだま・みうみ)のふたりは、クリスマスの買い出しがてら、公園のイルミネーションを楽しみに来ている。
「綺麗だねー、ねーさま」
 日が落ちてきた公園を、イルミネーションがカラフルに染めている。
 そのライトアップに導かれるように、二人は中央広場へとやってきた。
「うわぁ……」
 人工のものとはいえ、細かな雪の粒がひらひらと空中で踊っている様はとても幻想的で、沙幸は思わずうっとりと目を細める。
 なぜ、雪は人のテンションを上げるのだろうか。
 ふわふわとした足取りで雪の降る広場へと足を踏み入れると、雪を捕まえようとするかのように手を広げてはしゃぐ。
 そんな沙幸を、美海は楽しそうに、少し離れたところから見守っていた。
「ねーさまもおいでよー!」
 楽しいよ、とくるくる回ってみせる沙幸。
 が、すぐに足下が滑って、バランスを崩してしまう。
 おっとっと、とたたらを踏む沙幸の元へ素早く駆け寄ると、美海はその体をそっと支える。
「ほら、お気を付けなさい」
「あ、ありがとう、ねーさま」
 転びかけたことも恥ずかしいし、こうして人前で美海と密着するのはもっと恥ずかしい。
 沙幸は慌てて美海から離れようとする、けれど、そっと肩を抱かれているのがなぜかとても心地よい。
 美海の手をふりほどくことができず、沙幸は少し恥ずかしそうに俯いた。
「どうしましたの?」
「い、いや、その……ねーさま……」
 顔をのぞき込んでくる美海を、じっと見つめ返す。
 なぜか頭の芯がぼぅっと熱くて、無性に、美海に触れていたいと感じてしまう。
「……ふふ、効果は覿面だったようですわね」
「……?」
 ぽつりと呟く美海の言葉に、沙幸はきょとんとした顔をする。降雪機の不思議な効果のことは、沙幸には秘密だった。
「少し休憩いたしましょう?」
 はぐらかすように笑うと、美海はそっと沙幸の手を取って隅のベンチへと連れて行く。
 その、繋いだ手が妙にいとおしく感じられて、沙幸は戸惑う。
 いつもなら、外でスキンシップを求められるのは恥ずかしくて仕方が無いはず、なのに。
 ベンチまでさして長い距離があるわけでも無く、すぐにその手は離されてしまう。それが少し、寂しい。
「お座りなさいな」
 と、思ったのもつかの間。先にベンチに腰を下ろした美海が、自分の膝をぽんぽん叩いて沙幸を招いている。
「え……えええっ?!」
 ここでお膝の上、とさすがにそれは躊躇う沙幸。けれど、なぜか嫌だとは言えない。
 ほら、と美海が手を伸ばして、沙雪の腰を抱き寄せた。
 結局、美海の膝に乗っかる格好になってしまう。辺りには多くのカップルの姿も見える。それぞれ自分たちの世界に浸っているようだから、これくらい誰も気にしないのかもしれないけれど、やはり恥ずかしい物は恥ずかしい。
 ぽっと沙雪の頬が染まるけれど、密着している背中に感じる柔らかなものとか、抱きしめられている暖かさだとか――そういったものが、いつも以上に心地よいものに感じられて、ふりほどくことができない。
 ぎゅう、と抱きしめられると、体の芯から蕩けてしまいそう。
「や、やめてよぉ…ほ、ほら、周りの人たちが変な目で見てるよ……?」
 口先では抵抗してみせるものの、手足には力が入らない。
 美海の顔を見上げる頬も、ほんのりと赤く染まって、瞳も心なしか潤んでいる。
「そう言う割には、逃げようとはしないのですわね」
 くすくすと笑いながら、美海はすっと指先を沙幸の白い太ももに這わせる。
「きゃっ……」
 つぅ、と誘うような手つきに、美海の背筋がひく、と小さく跳ねた。
「体の方は、素直なようですわよ?」
「べ、別にっ、そんなこと、ないっ……!」
 肩をすくめながらかたちだけの抵抗を試みる沙幸がかわいらしくて、美海は満足そうに笑う。
 調子に乗ってそのまま、指を洋服の裾から、より深いところへと滑り込ませていく。
「ちょっ……そ、それ以上は、だめなんだから……!」
 言って身をよじってみせるが、美海のいたずらは止まらない。
 沙幸の方も拒むことができないまま、二人の秘め事はもう暫く、続きそうだ。