校長室
年忘れ恋活祭
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■黄昏時〜それぞれの想い、気持ち ――緋桜 ケイ(ひおう・けい)は色々と考えていた。このお祭りを通して、メニエス・レイン(めにえす・れいん)と信頼を深めるべく、どう動くか。そわそわしてる、といっても過言ではないが。 待ち合わせ時間から少し遅れ、待ち合わせ場所にメニエスが姿を見せる。だが、その表情はどこか不満そうだ。 「……ずいぶんと小さな町に誘ったのね。あたしだってそんな頻繁に暇じゃないのよ」 「でもきてくれたんだよな――すごく嬉しいぜ」 暇ではない、と言いながらもここへきてくれたメニエスへ素直な気持ちを吐露するケイ。だが、メニエスは特に大きな反応はしなかった。 「何かあるんでしょう? いいから早く案内しなさい」 いまだ不満そうなメニエスにめげず、ケイはメニエスを連れて移動しようとする。 「その着物、すごく似合ってるぞ」 ……メニエスの反応は、薄かった。 そんな空気の中、露店巡りをする二人。ケイは色々と話をして盛り上げようとするが反応はイマイチ、といったところ。メニエス本人も、悪くはないが他の人が楽しそうなのを見ても楽しくない……という雰囲気で、盛り上がりに欠けている感じである。 ケイが「以前、こういったものを食べてたのを見たけど、好きなの?」という質問をぶつけると、メニエスは「美味いものは美味いというだけ、分別とかはしないわ」という返答が返ってきた。 ――時計塔の中層部に設けられた見晴らし台。露店巡りを一通り見終わった二人はそこに上り、ここで町を見下ろしながら、鐘が鳴るまで待つことにした。……相変わらずの空気だが、どこか混じりっ気のある空気でもある。 「綺麗だな……ほらメニエス見てみろよ、町のみんなは楽しそうだ」 不満そうではあるが、ケイに誘われメニエスは町のほうを覗いてみる。確かに町のほうでは、今現在騒がしくなっており――。 「ああ、これなら持っていって構いません。こんなのがなくても、オレとナナの愛は永遠不変、最高潮ですので」 「ルースさんが渡すというのでしたら、ナナもお渡しします」 ぽんっ、とベル盗りの手にベルを渡したルース。ナナも愛する夫に続くようにベルを渡すと、再び露店巡りへいってしまった。……取り残される、二人のベル盗り。 「え、えええ〜……」 「またこのパターンみたいね……」 二人のベル盗り……フローラ・ホワイトスノー(ふろーら・ほわいとすのー)とミュア・ストロベリーパフェ(みゅあ・すとろべりーぱふぇ)は、渡されたベルを持ったまま立ち尽くしていた。その後ろから、『隠れ身』の効果を解いて白雪 魔姫(しらゆき・まき)と白雪 妃華琉(しらゆき・ひかる)の二人が近づく。 「また無条件で渡されたのね。……なんだか、張り合いがないというかなんというか」 「んー、でも結果的にあたしたちの手元に集まってきてるんだし、結果オーライじゃないの?」 ……魔姫たちはベルを一番多く取った者へ送られるというご褒美がなんなのか気になり、またカップルが羨ましいという思いもあってか、今回ベル盗りとしてこの祭りに参加していた。しかし、現状は想像していたのはまったく違っていた。……ほとんど戦うことなく、無条件でベルを手渡されているのだ。 先ほどのマキャフリー夫妻より前に、商店街を見て回っていた大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)&コーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)や和輝&瑠璃からもベルを盗ろうとしたがどちらも無条件でベルを渡されていたりする。 ルカルカ&真一郎のように『片方は無条件で渡したものの、もう片方を絶対死守された』というケースもあった。ルカルカの強烈なスキルコンボを喰らって全員お空へ飛ばされたのも記憶に新しい。 ……だが確かに妃華琉の言うとおり、ローリスクで魔姫たちの手元にはたくさんのベルがある。無条件で渡されたのもあるが、きちんと自身たちの作戦(フローラとミュアが囮としてターゲットの気を引き、その隙に『隠れ身』を使った妃華琉→魔姫の二段構えで一気に掠め取る……というもの)で取ったものもあるが。 「……あ、まっきぃ! 次のターゲット発見! ……女の人同士だけど、いいか」 「次もしっかり行くわよ!」 「りょ〜かい!」 「わかったよ! 行こう、ミュア!」 ミュアが次のターゲット――セレンフィリティとセレアナだ……を見つけると、魔姫たちはすぐに行動を移す。さすがは契約者とパートナーたちと言ったところか、その連携は実に見事なものである。 だが、セレンフィリティはそんなことお構いなしに『放電実験』で周囲全体に雷を発生させてそれを退けたのだった……。 (また中央広場で暴れてる……去年もすごかったわね確か……) 『放電実験』でベル盗りの囮と実行者もろとも攻撃しているセレンフィリティを見ながら、去年あった暴れっぷりを思い出していた。 ――去年の恋活祭の時、セレンフィリティは中央広場でワインを飲みまくり、盛大に酔っ払った挙句……特設ステージの勝ち抜き一芸披露に飛び入り参加し、そこでストリップショーをやらかそうとしたのをセレアナが必死に止めたことがあったのだ。 その時のドタバタコメディを思い出し、思わず赤面するセレアナ。一方のセレンフィリティは制裁を終えたのか、セレアナを引っ張って特設ステージへと向かっていったのだった。 ……その様子をちょうど見ていたのはエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)とリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)の二人。どうやら、時計塔の見晴らし台から下りてきたところのようだ。 「ずいぶんと野蛮ね……エース、襲われないようにエスコートお願い」 「もちろん。――それじゃ、露店を巡ってみようか」 やや女王様気質であるリリアはエースへエスコートを頼むと、先行するエースに悠然と付いていく。そして、露店巡りを開始するととある店でエースの足が止まった。 「お勧めは、ここのじゃがバターかな」 「……何それ、美味しいの?」 リリアにとって、未知の存在らしいじゃがバター。それをエースに買ってもらうと、さっそく一口食べてみた。 「もきゅもきゅ……あら、案外いけるじゃない」 じゃがバターの味が気に入ったのか、もきゅもきゅほくほくと美味しそうに食べていた。その後も、ミニカステラ屋へ吸い寄せられるように移動したり、商店街へ移ってはイートインのケーキ屋でザッハトルテを頼んだりして、祭りを楽しんでいるようだ。 はぐれないよう腕を組み、日暮れ頃に町の商店街に着いたのは遠野 歌菜(とおの・かな)と月崎 羽純(つきざき・はすみ)の夫婦。さっそく二人は歌菜主導の下、あれこれとお買い物タイム開始。主婦たるもの、『特価』という言葉には目がないらしい。 「まったく、どれだけ買うんだ……」 羽純は呆れながらも、あれよあれよと増える荷物をしっかりと持っている。心なしかこうやっているのも幸せそうに見えなくもない。 たっぷりと買い物を済ませると、荷物預かり所へ買った物を預け、二人は中央広場へと移動――しようとした時、その道を塞ぐかのように二つの影……フローラとミュアが(多少黒こげのまま)歌菜たちに狙いを定めていることを、歌菜の『殺気看破』と『超感覚』で察したようだ。 「さっきは問答無用でやられちゃったけど、今度はしっかりやっちゃおう!」 「ええ! ――そこのカップル! 大人しくベルを渡しなさい!」 作戦を成功させるべく、とにかく二人の気を引こうとするフローラ&ミュア。なんとか『隠れ身』で姿を隠している魔姫と妃華琉がベルを掠め取ることを願う。……しかし、それはすでに歌菜の『超感覚』で見破られているのだが。 さらに羽純の『行動予測』で襲うタイミングを見計られており、二人が飛びかかろうとした瞬間に『ミラージュ』で幻影を作って囮とし、そこから歌菜の『空飛ぶ魔法↑↑』で歌菜と羽純は一気に空へ飛び上がった! 「うわぁぁぁぁぁっ!!?」 歌菜たちの眼下では魔姫たち四人が盛大にぶつかる大惨事状態になっている。それを尻目に、二人は仲睦まじいまま中央広場へと降りていった。 「――ん〜、たこ焼きおいし〜♪」 ……ちょうど降りた先はたこ焼き屋台の前。歌菜はすぐにそこでたこ焼きを買い、舌鼓を打つ。その後は羽純に連れられ、クレープ屋『天使の羽』の列に並んだようである。 ……どうやら、そろそろ町に夜の帳が落ちようとしているようだ……。