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リアクション
第九章 突撃! 決戦のとき、迫る
<月への港・施設外部>
「魯先生……それは食べ物じゃありません」
最下層の騒ぎをテノーリオからの通信で聞いて、トマスはがっくりと肩を落とした。
「あの二人、他のみんなの足を引っ張らないといいんだけど」
そう心配するミカエラに、小さくため息をつく。
「今のところ、少なくとも大きな迷惑はかけてないみたいだが……清朝時代の逸話もあるし、人選ミスだったな」
「まあ、何が食べ物で、何が食べ物じゃないかというのも、難しい問題かもね」
さて、ところで食べ物といえば。
先ほど、モモがデヘペロをおだてて何やら聞き出していたのを覚えているだろうか。
『ねえ、どうにかして射撃組でアイツの注意を引ける?』
いや、お前も装備からして射撃組だろ、というツッコミは、もはや誰からも入らない。
『どれくらいの隙を作ればいい?』
『私が一回背後から突撃をかけられる程度』
真司の言葉に、モモはこともなげにそう答える。
「突撃って……あまり無茶はするなよ?」
『大丈夫。勝算があって言ってるんだから』
その自信満々の様子に一抹の不安を覚えつつも、シフや真司、そしてトマスも連携しての陽動射撃を約束したのであった。
三機のイコンが同一方向に集まり、一斉に巨大デヘペロに向けて銃撃を行う。
精密にピンポイントを狙った射撃ではないため、あまりダメージがあったようには見えないが、それでもデヘペロの注意を引くには十分だった。
デヘペロが向かってくるのを確認してから、散開して攻撃の回避に移る。
そんなデヘペロの背後から、モモのジェファルコンカスタムが迫り……。
「とったああぁぁっ!!」
全力で、バスターライフルを突き上げた。
狙うはただ一カ所……巨大デヘペロの尻の穴!
……が。
別にデヘペロは露出狂でもなんでもなく、普通に「はいている」のである。
それも、若干メタな話になってしまうが、イラストを見る限り相当硬そうなのを。
よって、着眼点は面白かったのだが、残念ながらその攻撃は通らなかった。
「……あら?」
まあ、攻撃は通らなくても、つついたことはわかるわけで。
「ちょ、ちょっと! こんなの聞いてない!!」
とりあえずバスターライフルを乱射しつつ、這々の体で逃げ回るはめになったのであった。
「背面図がないのが悪いのニャ! ギルティ!!」
いや、ハロー ギルティ(はろー・ぎるてぃ)さん……そんなこと言われても、イラスト描いたの私じゃないし!
<月への港・最下層>
「……来た、みたいだね」
美羽の言葉に、大鋸はこくりと頷いた。
迎撃ポイントや戦力配置の関係上、最終防衛ラインで迎え撃つことになったデヘペロ弟の数は三体。
防衛ラインを展開したのは最下層の入り口付近であり、万一突破された際にも子犬たちの部屋にデヘペロ弟が到達するまでには多少ながら時間が空くようになっている。
「とはいえ……ここは通せませんね」
愛用の居合刀型光条兵器「狐月」の柄に手をおいて、赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)が静かに言う。
防衛ラインを形成するのは総勢13名……だが、そのうちグラハム・エイブラムス(ぐらはむ・えいぶらむす)は魔鎧としてセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)に着られているため、実質的には総勢12名。
敵が三体いることを考えると、わりとギリギリの人数配置である。
「あたしの神社では、わんこは神の使いであり神聖な生き物……それを食べるなんて言語道断だわ」
憤りを隠さないのは神威 由乃羽(かむい・ゆのは)。
「……でも、確か犬を食べる文化もありましたよね?」
獅子神 玲(ししがみ・あきら)のその発言にも、当然のごとくこう言い放つ。
「犬食文化なんて直ちに滅ぼすべきよ」
「……まあ、私も少なくともあの子たちを取って食べる気はないですが」
こんな会話をしている二人が魯先生のご乱行を知ったらどんな顔をするだろうか、という気もするが、幸いにもあの騒ぎは二人の耳には入っていない。
ともあれ、デヘペロ弟襲来までの時間を活かし、一同は迎撃のための陣を敷く。
最前線に立つのは、霜月、セシル、そして玲。
佑也と飛騨 直斗(ひだ・なおと)がその両脇を固め、中列では美羽と大鋸が飛び出す機会をうかがう。
後列では騎沙良 詩穂(きさら・しほ)と由乃羽が狙撃の機会を狙い、ラグナ アイン(らぐな・あいん)とラグナ ツヴァイ(らぐな・つう゛ぁい)の姉妹は遊撃を担当。
瑪瑙・トライシーカー(めのう・とらいしーかー)は最後列にて全体の戦況を把握し、必要なら指示を出す手はずとなっている。
かくして、準備万端整ったところに、次第に足音が近づいてきて……ついに、デヘペロ弟たちが姿を現したのだった。