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リアクション
第八章 楽園震撼! 追いかけっことガチバトル!? 1
<月への港・最下層・子犬たちの部屋>
「あらあら、甘えん坊さんたちね」
狼の姿のまま、子犬たちにじゃれつかれているダイア。
その隣では、葛が子犬たちの健康状態をチェックしている。
そんな様子を、ヴァルベリトはあまり面白くなさそうに見つめていた。
(オレ、あんまり動物に好かれたことねーしなぁ……)
とりあえず、葛が楽しそうにしているのはいいのだが……その輪の中に入れないのが、少し寂しい。
そんなことを考えながら、特に何をするでもなく二人と子犬たちの様子を見つめていると……不意に、ダイアが立ち上がり、彼の方を向いて一声吠えた。
すると、ダイアの足元にいた子犬たちが、一斉にヴァルベリトの方に向かってきたではないか。
「えええっ!? ど、どうなってんだよ!!」
慌てるヴァルベリトに、ダイアが楽しそうに言う。
「ベリー、あなた暇そうだし、ちょっと狩りの練習の獲物役をやってくれないかしら?」
「え、獲物役!? なんでオレがそんなことやんなきゃなんねーんだよ、おばさん!」
とっさにそう言い返し……しまった、と思った時にはもう遅かった。
「誰がおばさんですって!?」
「わわわ、待った待った待った待った待ったーっ!!」
かくして、ヴァルベリトはダイアと子犬たちに追いかけられるはめになってしまったのであった。
「さすがはポータラカ最大のドッグカフェですね」
何やらいろいろと勘違いしつつ、やたらいい笑顔でこの環境を楽しんでいるのはエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)。
彼もゲルバッキーからのメールを直接受け取ったわけではなく、受け取った知人の知人の知人あたりから伝言ゲームのはてに聞いたので……。
「世界の子犬千匹以上を集めた巨大なドッグカフェがある」という、ちょっとどころではなく歪んだ情報を受け取ったあげく、それを鵜呑みにしてしまっていたのだ。
まあ、それでも普通はここまでの過程で気づきそうなものなのだが、それに全く気づかない鈍感さこそエメのエメたる所以である。
子犬たちといっしょに追いかけっこをしたり、ボールを投げて遊んだり。
しばらくそうして楽しんだ後、撫でてほしそうに寄ってきた子犬を抱き上げながら、ベンチにそっと腰を降ろした。
「さすがにはしゃぎすぎましたし少し休憩にしましょう。壮太君も楽しんでますか?」
その言葉に、瀬島 壮太(せじま・そうた)は小さくため息をついた。
「いやまあ楽しんじゃいるけどさ……やっぱりこれ絶対ドッグカフェじゃねぇだろ」
親友のエメに「港にドッグカフェがあるから」と誘われてついてきてはみたものの、どこをどう考えても全てがおかしい。
辺りは何だか緊迫しているし、子犬の数は尋常じゃないし、そもそもカフェでもなんでもないし……もはや、ツッコミどころでないところを探す方が難しい状況である。
……が。
それでも、彼は満足していた。
子犬を仰向けにさせてお腹をさすってみたり、足の上に乗せてそのぬくもりを感じながら背中を撫でてみたり。
事情があって飼うことはできないものの、本当は犬が大好きな彼にしてみれば、こうして子犬たちと思う存分触れ合えるのであれば、それこそ些細なことはどうでもよかったのである。
「……ふむ」
そんな壮太の様子を、上 公太郎(かみ・こうたろう)は興味深げに見つめていた。
「心なしか、我輩といる時よりも笑顔のような気がするが気のせいであろうか……」
ジャンガリアンハムスターの獣人である公太郎も、癒し系ということでは人後に落ちないと自負しているのであるが、どうやら子犬というのはそれ以上に癒される存在であるらしい。
「我輩もためしにコミュニケーションをとってみようか……」
そうはいっても、身長20cmの彼にはあまり大きな子犬は危険である。
慎重に大人しそうな子犬を選び、ひとまず頭の上に乗ってみる。
そのふわっとした感触を楽しみつつ、耳の辺りなどをもふもふしてみる。
「なるほど……」
確かに、これは何となく癒されるような気がする、と思う公太郎であった。
そんな彼らの側で、子犬たちを眺めているのはバスティアン・ブランシュ(ばすてぃあん・ぶらんしゅ)。
「これです……これですよ」
犬ではなく猫の獣人である彼が、わざわざ望んでこのドッグカフェに来た理由は、当然ながらエメたちとは大きく違っていた。
このバスティアン、実はいろいろなジャンルの小説を執筆している作家であり、今回ここに来たのも、実はその参考にするためなのである。
……といっても、別にドッグカフェや子犬の小説を書くというわけではなく。
彼が求めたのは、「千匹超の犬の中に猫一匹」という、この「完全アウェイの空気」だったのである。
(この尻尾の毛が逆立ちそうな感覚……こういう空気というのは、想像だけではどうにもなりませんからね)
……と。
彼の「猫としての感覚」が、それ以外の「何か」を感じ取った。
(この、ヒゲにぴくぴくとくる感覚は……)
その感覚の指し示す先にいたのは……トイプードルの頭に乗っかり、耳元をもふもふしている公太郎……つまり、ハムスターであり……。
(あれは……ネズミ! しかも、よく太って美味しそうなおもちゃに最適のネズミ!)
こうなると、猫としての本能が他のすべてを凌駕してしまう。
(ネズミがいたら追いかけなくては! 猫としての存在意義に関わります!)
そんな理由をつけて、たちまち猫の姿に戻るバスティアン。
当然、それを見た公太郎も直ちに事態を察知する。
(猫の獣人!? これは早急に退避せねば我が輩の身が危ない!)
逃げる公太郎に追うバスティアン、そしてそのバスティアンを追いかけ始める子犬たち。
そんな中、公太郎がとりあえずの避難場所として選んだのは……壮太の頭の上だったのである。
「ん? どうしたハム?」
急に頭の上に飛び乗ってきた公太郎に、幸せそうな表情のまま尋ねる壮太。
しかし、彼のそんな幸せな気分は、次に彼の目に映ったものによって一発で木っ端みじんに打ち砕かれた。
「……って、バスティに追いかけられたからってこんなときだけこっち来んじゃねえっ!」
飛びかかってきた巨大な猫――バスティアンが、公太郎を捕まえるべく腕を伸ばす。
それを、公太郎はうまく壮太の頭の反対側に逃れることでかわし……。
「ちょ、待てバスティ正気に戻れ! ってか爪立てんなって!!」
公太郎に盾にされる形になり、たまらず逃げ始める壮太。
その壮太を、というか頭上の公太郎を追いかけるバスティアン。
さらに、そのバスティアンを追いかける子犬たち。
その様子を見て、エメは楽しそうに笑った。
「バスティもハムさんも、壮太くんも楽しんでいるようですね」
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