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リアクション
第五章 それぞれの戦い 2
<月への港・最下層>
「あ、ゲルバッキーさん!」
ゲルバッキーが子犬たちのいた部屋を出ると、それを見つけて六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)が駆け寄ってきた。
「ゲルバッキーさん、『秘密結社オリュンポス』って知ってます?」
優希にそう尋ねられて、ゲルバッキーはさらりと答えた。
「ああ、あの謎の貼り紙か。しばらく前に勝手に貼られているのを発見したが、特に害はないので放置しておいた」
最近、月への港の内部で見かける「秘密結社オリュンポス 秘密兵器開発室はこちら」と書かれた謎の貼り紙。
どうも道案内のようなのだが、何のためのものかも不明なため、単なるイタズラかと思って放置していたのである。
「この感じだと……『秘密兵器開発室』って向こうの部屋ですよね。何の部屋なんですか?」
「ああ、使われていない空き部屋だ。いずれ何かに使おうかとは思っていたが」
まあ、最深部なんて実際には来るのも大変だし、ものを運び出したりするのも大変だしで、普通に使う分には不便なことこの上ないのである。
故に、空き部屋ができてしまっていたとしても、まあ致し方ないことであるといえよう。
「じゃあ、ちょうどいい名前ですし、万一の時はそこに敵を誘導してしまいましょう」
そんなことを言いながら、優希はお手製の案内板を取り出した。
「さっき、『敵の狙いは子犬じゃない』って言ってましたから、この看板を出しておけば来ないかも、と思いまして」
その「この先 ドッグラン」と書かれた案内板に、ゲルバッキーは納得したように頷いた。
「なるほど。それならうまくいくかもしれないな」
<月への港・B3F>
一方、こちらは進撃中のデヘペロ弟の一人。
「ペロロゥ?」
通路を塞ぐかのように造られたそれは、バリケードのようにも見える。
とはいえ、それはあまりにも脆弱で、デヘペロ弟の拳の一撃で容易に砕け散る程度のものにしか見えなかった。
そのムダな努力をあざ笑いつつ、デヘペロ弟が壁を崩さんと一歩歩み寄った、まさにその時。
「残念ですが、ここから先は通行止めよ!」
そのバリケードのようなものの上に、すっと立つ二人の少女。
「月への港を蹂躙する悪魔達! これ以上好き勝手はさせません!」
太刀を構えるのは永倉 八重(ながくら・やえ)。
そして、その隣の覆面レスラーは、彼女の幼なじみの結城 奈津(ゆうき・なつ)。
「ははっ、いかにも凶悪な悪役レスラーでございってな悪者ツラで、迫力あっていいな!」
二人のまっすぐな視線と、デヘペロ弟の視線が同じ高さでぶつかりあう。
そう、このバリケードのように見えたものは、実はそのための足場であったのだ。
「ペロロロロウゥーッ!! そんな壁でも! テメェらでも! 俺たちは止められないいィッ!!」
一声そう叫んで、足場ごと二人を吹っ飛ばそうとショルダータックルを放ってくるデヘペロ弟。
その一撃であっさりと足場は崩壊したが、二人はそれより早く跳び、それを魔法のバイク・ブラック ゴースト(ぶらっく・ごーすと)が受け止める。
「確かに、あなたから見れば私たちはちっぽけに見えるだろうけど……もっと小さいものがあるわ」
無事に床に降り立つと、八重はデヘペロに刀を向けてこう言い放った。
「見た目でしか物事を図れない、あなたの器よ!」
「ヒュー! いいマイクパフォーマンスだな、あたしも見習いたいぜ」
奈津の言葉に少し微笑みながら、八重は最後の準備を整えた。
「さぁ、その目に焼き付けなさい! ブレイズアップ! メタモルフォーゼ!!」
八重の全身を紅く輝く魔力が包み、服が、そして黒かったはずの髪や瞳の色までもが紅く変わっていく。
しかし、最も変わったものはそのどれでもなく、彼女自身の心。
心に熱き炎を燃やし、八重は「紅の魔法少女」へと変わるのである。
「紅の魔法少女参上! 全てを燃やし尽くす私の炎! 恐れぬならばかかってきなさい!!」
決めゼリフまで完全にこなし、八重は戦闘態勢に入った。
と、その一連の流れにすっかり感心していた奈津が、リングコスチュームの姿になっている「師匠」のミスター バロン(みすたー・ばろん)にこう尋ねた。
「えーっと、師匠? あたしも何か言った方がいいかな?」
「今さら言わんでよかろう」
呆れたようにそう答えてから、バロンは奈津に気合いを入れ直す。
「そんなことより、恰好の試合相手だ。奈津、こいつをシュートで沈めてみせろ!」
「いいねえ! 今日の試合は燃えに燃えまくるぜっ!!」
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