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抱きついたらダメ?

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抱きついたらダメ?

リアクション

 心亜達の居る部屋を遠回りする道を環菜、ルミーナをはじめとして匿名 某(とくな・なにがし)達は歩いていた。
 ろうそくの火がしっかりとついてる道を、某は不思議に思っていた。
「これ……誰が火をつけてんだ……」
「さあね、管理人でもいるのかしら?」
 某の質問に、環菜は素っ気なく答えた。
「くしゅん」
 某の後ろでくしゃみが聞こえる。そのくしゃみに某は一瞬、期待をしてしまう。
 だが後ろを振り返ると、その期待は脆くもすぐに崩れ落ちてしまった。
 そこには、大谷地 康之(おおやち・やすゆき)結崎 綾耶(ゆうざき・あや)が居た。
 ただし、綾耶はしっかりと康之に抱きついていた。
「わわ、ごめんなさい、康之さん」
「おう、気にすんな!」
 綾耶に笑顔で答えた、康之だったが前方から鋭い冷たい視線を感じていた。
「某? なんでおめそんな睨んで――」
「別に? 睨んでなんかないぜ? っと敵さん……登場だな」
 いつもと違う、暗いトーンの声で某は言った。
 康之は、某が自分自身に嫉妬しているものだと分かるのにすぐわかった。
「と、とりあえず綾耶、俺から離れておいてくれ」
「あ……そ、そうですよね!!」
 そのやりとりに、某はさらに表情を濁らせていく。
「おい……敵だぞ康之」
 暗い声で、某は言った。
 康之は名指しで呼ばれた事で思わず寒気を覚え、現れたという敵の方をみた。
 薄い道の中、ろうそくに照らされて、9匹のノラコウモリが右往左往していた。
「大きいですね……」
 綾耶はぽつりとノラコウモリを見ながらつぶやいた。
「全長50センチはあるでしょうか」
 ルミーナもその大きさに驚いていた。
 本来のノラコウモリの大きさは全長10センチ、そこまで大きくない。
 だが、某達の前に居るコウモリは全長50センチはある中型ノラコウモリだ。
「フフフ、俺たちの敵ではない」
 綾耶は某から、何か恐ろしい気迫のような者を感じて少し後ずさりしてしまう。
「詩穂も加勢する!」
 某達の後方から、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が現れた。
(はやく、こんなやつら倒して薬をてにいれないと……)
 このままでは他の人に抱きついてしまうと、詩穂は焦っていた。
 仕えるべき人、アイシャ・シュヴァーラ(あいしゃ・しゅう゛ぁーら)が居る。なんとしてでも他人に抱きつくことはならなかった。 
「くっ……しゅん……」
 詩穂はくしゃみを必死で押さえるも、そばにいる某に抱きつきそうになる。
 だが、アイシャに嫌われたくない一心で押さえる。
「は、はやく倒すわよ!」
「見つけた!」
 詩穂が急いで敵を倒そうとしたときだった。
 先ほどまでトラップにはまり別行動になっていた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が叫んだ。
「陽太も環菜も急に見あたらなくなったから、結構探したよ!」
 環菜達と途中まで一緒にいたはずの美羽だったが、途中ではぐれてしまっていた。
「ノラコウモリ? って大きいねこ――くしゅん!」
 ノラコウモリの姿を確認しながら美羽は環菜に抱きついてしまう。
 環菜は静かに抱きついてきた美羽を見た。
「あなたもだったのね」
「えへ、いや言おうと思ったのだけれど、あまり話す暇が無くて――ていうよりも敵!」
 環菜は少しため息を吐くように言った。
 美羽は慌てて腕を放して、ブーツから銃、ファイアヒールを取り出す。
「環菜達は先に行って! ここは私が食い止める!」
 環菜は頷き、ルミーナ達を連れて先を急いだ。
「さあて、いくよー!」
 美羽の真空波が一気に2匹のノラコウモリを打ち落とす。
 環菜達が先を行く中で、康之達はついて行こうともせず、ただ立っていた。
「俺たちも闘うぞ。なあ、康之」
「え、ああ……」
「もちろん、詩穂も!」
 某は、康之を睨んだままヒプノシスをノラコウモリ6匹にかける。
 眠ったノラコウモリ達を美羽が3匹、クロスファイアで倒していく。
「くっしゅん!」
 詩穂は再び抱きつきたくなるのをアイシャからもらってブローチを握りしめ、こらえる。
 そして2匹をかろうじて梟雄剣ヴァルザドーンを振りかざすことで打ち倒した。
 ノラコウモリ5匹はあっというまに撃沈する。
 だが、某のヒプノシスが聞いていないノラコウモリが綾耶にむかって襲ってくる。
「わっ、来ます!?」
 綾耶は慌てて、某にかけていた禁猟区をやめて、目の前に光術を発動させようとする。
 だが、ノラコウモリの方がすばやかった。
「っと危ねえ!」
 康之が綾耶の目の前に飛び出し、ブレイドガードで守る。
 その横から、詩穂が飛んでくる。
「やあっ!」
 詩穂のアナイアレーションによって、綾耶にむかってきていたノラコウモリが打ち落とされる。
「あ、ありがとうございます!」
「いえ、大事に至らなかったならよかった……」
 綾耶の感謝の言葉に詩穂は首を横に振った。
「ふう……これで後1匹――」 
「ジェラシィイイイット!」
 ふと一息ついてた美羽は、某の突然の叫び声に驚いた。
 某は、ライトニングブラストで最後の一匹を倒している所だった。
「な、何があったの?」
 美羽が綾耶に聞くと、少し困ったような表情を浮かべた。
「わ、わかりません……って、某さん!?」
 綾耶の手を某は突然掴んで、先へ進み始める。
「さっさと急いで、薬を手に入れるぞ!!」
 美羽は何が何なのか分からないままに先を行く二人を見送った。
 だが、詩穂も慌ててその後を追う。
「詩穂も先に行くね!!」
 詩穂は、アイシャへの忠誠を守るためにも、出来る限り人から離れて行動しようとしていたのだった。
 残されたのは美羽と康之。
 あまりの急な進展に、2人は顔を見合わせた。
「あ……私、抱きつきたい病にかかってるので離れて歩いてくださいね!」
「え、お……おう!」
 二人は適度な距離をとって、先を進んでいった。