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抱きついたらダメ?

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抱きついたらダメ?

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第4章
「しかし、この廃墟見かけによらず広いな」
 暗い通路を歩きながらエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が少し疲れた表情を浮かべながら言った。
 その後ろから、ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)ひょっこりと、ついて歩いてきていた。
「でも、だいぶ深くまできましたから、そろそろお薬が見つかっても良い気がします」
「たしかにな」
 エヴァルトはただ、見えない暗闇を進んでいた。
「くしゅんっ」
 ミュリエルは、小さくくしゃみをすると、エヴァルトに抱きついた。
「っ!?」
 ミュリエルを抱き上げたい衝動に駆られ、エヴァルトは思わず声を上げる。
 下唇を少し噛み我慢する。
 少しでも意識を他の事に向けようと、壁を見るとなにやら汚れのようなものを見つけた。
「なんだこれ……」
「んー、やじるしみたいです?」
 その汚れは一筋の線を描き、ずっと暗闇の先へと続いていた。
 だが、ミュリエルが抱きついているため動けない。
「……仕方ない、これは仕方ないんだ」
 エヴァルトは、自分に言い聞かせるようにつぶやくと、ミュリエルをお姫様だっこで抱きかかえた。
「わあ!?」
 ミュリエルはうれしそうにはしゃいだ。
 エヴァルトがその線を追っていくと奥の方から、佐野 和輝(さの・かずき)がやってくる
「はあ……はあ」
 声をかけようとおもったエヴァルトだったが、和輝の状態に驚き、声をかけられなかった。
 息を切らす和輝の両腕には二人の女の子がぶら下がっていた。
 楽しそうに腕にぶら下がるアニス・パラス(あにす・ぱらす)と顔を真っ赤にしながら抱きついているスノー・クライム(すのー・くらいむ)だった。
「ほう、仲が良さそうな兄弟だな」
 その横から、リモン・ミュラー(りもん・みゅらー)が、エヴァルトと抱きかかえられたミュリエルを見て言った。
「……シスコンかはたまや、ブラコンか……」
 ぼそりと和輝は言った。
 その言葉にエヴァルトは額にしわを寄せる。
「こっ、これは違う! 仕方なくだ!」
「まっ、和輝も人の子とがいえた者ではないな」
「つか……お前らいい加減はなせー!」
 一気に自分の立場が悪くなった和輝は、両方の腕につかまっている二人に叫んだ。
「にゃは〜むり〜」
「そ、それは無理ね。手がはなせいもの」
 その言葉に、アニス大きな笑みを浮かべながら。スノーはさらに顔を紅潮させながら弁解した。
「り、リモン、こいつらどうにかできないのか? 症状を軽減するとか」
「無理。良いじゃないか、両手に花で。何なら私も加わろうか?」
 リモンはそう言いながら、和輝の背中に腕を伸ばす。
「だーっ! いいかげんにしろーっ! た、助けてくれないかそこのシス――
「っと、早く特効薬を見つけないとなミュリエル。このままだと俺がシスコンだとかロリコンだとか言われてしまうからな」
「えーっ、私はこのままでいいです」
 エヴァルトとは和輝から目をそらすと、線が続いている奥の部屋に進もうとする。
 ミュリエルは薬を早く取りたいというエヴァルトにふくれっ面をして抗議するが、エヴァルトはそれを無視した。
「なんだこの部屋……」
 エヴァルトが入ったその部屋には、大きな四角い石板が9枚散らばっていた。
 そして部屋の中央には大きな四角い枠が地面に埋まっている。
「にゃは〜、すっごい石板だねえ〜」
「何ここ、何もないみたいね」
 アニス、スノー、リモンを無理やり引っ張りながらも和輝が部屋に入ってくる。
「ふむ……石板が何かすればよさそうだぞ?」
 リモンが顔を下に向けたままの和輝に話しかける。
 すると和輝はゆっくりと顔を上げて周りを見渡す。
「ああ、これは……パズルだな。古い文献で見たことがある」
「とけるのか?」
 エヴァルトの問いかけに和輝は頷く……が動かなかった。
「……だーかーらー、お前達どけーっ!」
 和輝は手を振り回しアニスとスノーをふりほどいた。
「「えーっ」」
 なぜか、二人は不服そうな顔を上げて、部屋の片隅に座り込んだ。
 和輝は不服そうな二人の視線を受けながらも石版をはめていく。
 石版は綺麗にはまり、黄色い光りを帯び始める。
 その光は地面を伝い、通路へと伸びていく。
「なっ、なんですかこれ!?」
 ミュリエルが不思議そうに石版のはまった枠を眺めた。
「なるほど……この石版を解くと、光りがともる魔法が発動するようになっているのだな」
 リモンは興味深そうに、通路の外を見た。通路の奥まで地面から光が漏れていた。
「石版によると秘宝も同じ場所にあるらしいな。さて……行く――ってなんでお前達また俺に抱きついてるんだ! くしゃみしてないだろ!」
 和輝の両腕には再びアニスとスノーがだきついていた。
「にゃはは〜」
 二人は笑いながら見合っていた。
「見てるのもなんだかいらっとくるな……先を急ぐか、ミュリエル」
 エヴァルトは光にたどって先へと向かう。
「りっ、リモンって、いねえ!?」
 リモンも気がつけば居なかった……。