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君よ、温水プールで散る者よ

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君よ、温水プールで散る者よ

リアクション

 場所は違い、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は自分のパートナーであるミア・マハ(みあ・まは)を探していた。先ほどまでは一緒に遊んでいたのだが、ミアがウォータースライダーに乗りに行くというので少しの間別れていたのだ。
 十分ほど探しているのだが周りが何だか騒がしく、人も多くなったせいかなかなか見つけられなかったのだ。
「ミア、どこにいるのかなぁ。確かウォータースライダーはこっちのほうにあったはずだけど……あっ、あそこで抱きかかえられてるのって!」
 小走りにウォータースライダーの着水地点に近づくレキ。そこにいたのは迷彩服に抱きかかえられ、これほどはないという不機嫌な顔をしているミアがいた。なぜかいつもしている眼鏡もなかった。
「んー眼鏡がないミアが人質はいただけないなぁ、代わりにボクで交渉してみようか」
 そう言って勢いよくプールの中に入りテロリストに近づいていくレキ。近づくにつれて二人が言い合っているのがわかる。
「だからそなた。先ほどからわらわのどこを触って抱きかかえているのかと聞いておるのじゃ」
「いやただ抱きかかえているだけじゃないか」
「抱きかかえているのもおかしい上に、どう抱きかかえているのかが問題じゃと言っておる」
「あのーすいませーん!」
「ん? 君、この子の知り合い?」
 レキの声に気づいたテロリストがミアを抱えあげながらもレキの方を向く。
「あの、その子の代わりに私を人質にしてもらえませんか?」
「いやでもここら辺にいる人は全員連れてこいって言われてるし、君もこの子も連れてかないと」
「その前にじゃレキ、こやつには説教をしてやらんと。何せわらわの胸を先ほどからずっと掴んでおるのじゃからな、それなりの罰は必要じゃと」
「え? 胸なんてないじゃない。君、男の子だろ?」
「あっ」
 レキは小さく声を上げた。テロリストが口にした言葉はミアにとって禁忌の言葉。触れてはならぬ言葉だったのだ。
「ほう……そうかそうか。素敵な言葉じゃのう。返礼せねばなるまいて、なぁ!」
 体を器用に振り子のように揺らし、踵を尖らせテロリストの人体の急所を突く。
「あっぐぅ!?」
 不意の出来事にすっとんきょな声しか出せずそのまま水の中へ沈み浮かぶテロリストだった。水の抵抗がなければ死んでいたかもしれない。
「ミア、やりすぎだよー」
「言ってはならぬことを言ったのだ。これくらいはまだ甘いほうじゃ」
「もう、それと眼鏡だけど、頭にのってるからね?」
「……ふむ。衝撃でずれたか、これはしてやられたわ。はっはっは!」
 幸い、周りにはテロリストの見張りはおらず、そのまま二人は遊ぶことに戻るのだった。しかしまだ少し不機嫌だったミアのために、レキはトロピカルジュースを持ってきてなんとかご機嫌をとりなおし、それからはテロリストたちのことなど気にせず遊び倒すのだった。
 一方そのころテロリストたちは戸惑っていた。今まで体験したことのないような事態が今まさに自分たちの目の前で起きていたからだ。二人の美少女が何故か抱き合いながら、こちらへと徐々に近づいてくるのだ。
 止めなければならないのにそれに対する耐性がないため、どうしたらいいかわからないまま近づかれるだけ近づかれてしまっていたのだ。
そんな少しだけ過激なスキンシップをしながらテロリストたちを翻弄していたのは緋柱 透乃(ひばしら・とうの)とそのパートナーである緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)だった。
「あはは、ういねぇういねぇ。これなら人質は気にしなくていいかな?」
「ちょっと透乃ちゃん、いきなり公衆の面前でキスだなんて。それだけじゃなくていきなり襲ってくるなんて、どういうつもりですか?」
「いいじゃんよー、見せ付けてやろうよー? それに嫌いじゃないでしょう?」
「も、もう……」
「こ、この! いつまでも何もできないと思うなよ!」
 何とか自分を取り戻したテロリストの一人が透乃に向かっていく。抱き合ったままでまったく動じようともしない透乃。あと数センチ、テロリストの手が二人に伸びて。次の瞬間にはテロリストは宙を舞い、プールの中へとダイブしていた。
「こらこら! 陽子ちゃんに触れていいのは私だけだよ? 本当は同じ空気を吸ってることすらおこがましいんだからね?」
「ふ、ふざけるなよ! いくぞ野郎ども!」
 それをきっかけに固まっていたテロリストたちも動き出す。しかし近くにいる敵は透乃が討ち取り、遠くの敵は陽子が仕留める鮮やかなコンビプレーの前に手も足も出ず完封されてしまう。すぐさまその騒動を気づいた増援が来る。
「もう、次から次へとうざったいやつらだねぇ。さっさとあきらめて降伏すればいいものをー」
「そういいながらニヤけて人の胸を揉むのはどうなのですか? ほら、またテロリストさんたちも固まってしまっていますよ?」
「でもでもやっぱり陽子ちゃん抵抗しないよね? 嫌だったら抵抗してもいいんだよ?」
 子供っぽい笑顔の中に妖艶さをまとわせる透乃。
「本当に、いじわるですね……」
 陽子は決して抵抗はしなかった。いや、抵抗はするが本気でするほどまではしなかったというのが正しいだろうか。しかし、陽子にもようやく透乃が考えていることがわかってきていたのだった。それを抜きにしても抵抗はしないだろうが。
「そいじゃ、翻弄しながらばったばったとなぎ倒すとしますかね」
「名案ですね」
「どんな意味で?」
「色んな意味で、です」
 意味ありげなやりとりをしながらも、向かってくるテロリストたちを近づけず、プールの中へと落としていく様は圧巻な二人だった。人助けと称した二人のイチャラブタイムはもう少し続くのだった。
 と、この二人と同じように二人でイチャイチャデートをしにきていたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がテロリストを絶賛無視して、二人だけのプールタイムを満喫していた。
「でもいいの? 彼ら一応あれでもテロリストらしいわよ?」
「知らない知らない知らない! あたしはセレアナとデートしにきたの! あんな奴らはしーらーなーい!」
「そこまで言うのならもう何も言わないわよ」
 せっかくのデートを邪魔されたくないということで、シャーレットはテロリストたちには一切関与しないことを決めていたのだ。だがむっさいテロリストたちはそれすらも許してはくれなかった。
「おいそこの二人。大人しく人質になってイチャつくのをやめろ」
 ぴきぴきっ。何かが切れそうな音が聞こえるが、あくまでもこれはテロリストたちには聞こえていない心理的な音だ。誰のものかは言うまでもない。
「セレアナ、行こう」
「ちょ、ちょっと……」
「おい! 無視するな!」
 二人の後を追うテロリスト。次第にイチャつく二人の姿に我慢ならなくなったかのようにテロリストの数が増えていく。気がつけば二人はテロリストの群れに囲まれていた。
「さあ観念して人質になれ。イチャつくのをやめろ!」
 ぶちんっ。ついに誰にも聞こえない心理的な音がキレた。
「……だまってればいい気になって、いい加減にしなさいよー! この(以下、青少年の健全な育成に悪影響を及ぼす罵詈雑言数行分検閲削除)」
「あーあ、怒らせちゃったね」
「こ、この抵抗するなら拘束もやむなしだ!」
「考えてることがモロわかりなのよ! この万年発情期のモテないダメ男ども!」
「全面的に肯定するわ」
 二人に襲い掛かるテロリストたち。だが相手はただイチャつくだけのカップルではなかったのが運のつきだった。あっという間に全員プールに投げ込まれてしまった。
「しばらくオネンネしてなさい、この変態野郎ども!」
 プールにテロリストたちしかいないことを確認したシャーレットは「放電実験」を威力控えめで放つ。するとテロリストたちのシルエットに骸骨が見えたのが最後に、そのままテロリストたちはまるで水死体のようにぷかーっと浮かんでくるのだった。勿論威力は抑えてあるので死人はでていない。
「こらこら、やりすぎじゃない?」
「人の恋路を邪魔する奴は、電撃プールで気絶するのよ、ふんっ」
「その気持ちは嬉しいけどね」
「それじゃ! 邪魔者もいなくなったことだし、デートの続きをしましょう!」
「ふふっ、喜んで」
 テロリストたちの気絶体の山をなかったことにして、そのまま二人の時間へと戻っていくのだった。これを見ていた聡と翔は感想を漏らす。
「うわぁ、人の恋路は邪魔しちゃいけねぇなぁ」
「まったくだ、気をつけるとしよう。さて、このあたりは暴れてくれた奴らのおかげであらかた方がついたようだな」
「それじゃ次のプールへと行くか」
「そうしよう」
 そう言ってひと段落ついた最初のプールから移動する二人だった。