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君よ、温水プールで散る者よ

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君よ、温水プールで散る者よ

リアクション

 パラミアンでの最後のプール区画。小さい子向けの小さなプールがあったり、サウナがあったり少し変わった場所で、人も少なかったため聡と翔はここに寄らなかったがここでも激しい戦闘が繰り広げられていた。
「くそうこの若造め! まるで三十路みたいな強さをもってやがるぞ!」
「学生の分際で! 俺たちは年上だぞ! もっと敬え!」
「二十歳過ぎてるんだぞこの野郎! 大人しくしてろ!」
「だーかーらー! 俺は若造でも学生でもなーい! これでもれっきとした三十七歳だ! 三十路どころか四十近いっていうーんだよ! タバコだって吸えるし酒だって飲んでいいんだよ!」
「馬鹿野郎! 未成年がそんなことしたらダメだろうが! 親が泣くぞ!」
「なんで変なところで優しいんだあんたら! それと俺はどっちかというと親に説教される立場だよ!」
「そりゃそうだろ、まだ学生なんだから」
「人の話を聞けー!」
 華麗にパラソルで「面打ち」をし、テロリストを倒すのは刀村 一(とうむら・かず)だ。自分が泳ぐために来たのではなく、大好きな幼い子供たちが泳いでるところを見に来ていて、この事態に巻き込まれたわけだ。
「お前らのせいで、ちみっこたちが怖がってどこかへ行ってしまったんだぞ! お前らには血も涙もないのか!」
「容赦なくパラソルで面するお前こそ血も涙もないのか! というかちみっことか言うな! 親が泣いてるぞ!」
「どれだけ俺の親の味方なんだ! まあ何にしても、バレンタインを失くさせるわけにはいかない!」
「ちくしょー! お前もアレか? 学生だから彼女とイチャイチャしながらチョコレートもらって、あまつさえ三年目のバレンタインは『私が今年のチョコレートだよ』とか言って食べちゃうタイプ系男子か!?」
「んなわけあるか! バレンタインと言えば、可愛いちみっこたちが必死にお小遣いをためて満面の笑みでどれにしようかなぁ、なんて言いながらお父さんお母さんにあげるチョコレートを選んだり、ちみっこカップルが背伸びしながらイチャイチャする姿が見れる日だろう! そんな癒しの日をお前らなんかに潰させて堪るか! 頭を冷やしやがれ!」
「どっちかというとお前が頭を冷やせよ! 逆に俺たちが引く内容だったぞ!」
「うるさい! 問答無用だ!」
 そう言って華麗な太刀捌きでテロリストたちを倒し、プールに投げ込み成敗完了する一だった。
 その頃、サウナ室ではたまりにたまった悪質性物質と共に汗を流し続ける男、いや漢の姿があった。どれだけサウナに耐えられるか、その伝説を作ろうとしていたのはヴェルデ・グラント(う゛ぇるで・ぐらんと)だ。テロリストたちのくだらないテロなど気にもかけず、かれこれ三十分以上はサウナ室に閉じこもっていたのだ。
「おーい! まだやってるのー?」
 そう彼の呼びかけるのは彼のパートナーであるエリザロッテ・フィアーネ(えりざろって・ふぃあーね)だ。
「ああ、まだまだ伝説には程遠いからな」
「それじゃ私はマッサージでも行ってこようかな」
「おう行ってこい行ってこい」
「まあ、後で戻ってくるからぶっ倒れたりはしないでね? 介抱なんかごめんだからね」
「わかったわかった」
 それだけ言ってエリザロッテはマッサージ機がある方へと向かっていった。サウナ室とマッサージ機がある場所はそこまで離れておらず、ものの数分でたどり着ける位置にあった。
「あったあったー、まあいつもやると言ったら長いし、ゆっくり疲れでもとって待つとしよう。よいしょっと」
 マッサージ機に座って電源をONにすると、全身がもみほぐしてくるように動き出す。
「ああああ、気持ちいいなぁ。でもサウナって健康健康ーって言うけど、長時間やったらどうなのかな。逆に健康に悪そうな気もするけど、ああ気持ちいい〜」
 そんな感想を述べながら極上の気持ちよさに身を任せるエリザロッテ。
 所戻ってサウナ室。タオル一枚のヴェルデがまだまだサウナ室で、一人我慢大会にも似た伝説を作り続けていた。
「……座ってるだけじゃものたりねぇな。鍛錬でもするか」
 そう言うと腕立て伏せをし始めるヴェルデ。伝説を更に過酷にするヴェルデ。そこに入ってきたのはこれまたタオル一枚のテロリストだ。
「ん、なんだ先客がいたか。誰もいないかと思ってゆっくりしにきたんだが」
「悪いな、というか貴様テロリストだろ? 何でこんなところにいるんだ?」
「まあ、どんな組織にもいるだろう? 不真面目な奴はさ。正直、バレンタインどうこうよりここのサウナに興味があったから参加しただけなんだ」
「なるほど、裏切り者か」
「まあ要求するために誰かを拘束するなんてしたくないからな」
「ふむ……どうだ? これから俺と貴様、どちらが長くここにいられるか競い合おうじゃねぇか。勿論、ただ座ってるだけじゃつまらねぇ。腕立て伏せや腹筋、スクワットなどの鍛錬つきだ」
「ほう、俺もテロリストとして鍛えられた身だ。その勝負受けてたとうじゃないか」
 なにやら話がおかしな方向でまとまり、テロリストとタイマンバトルをするヴェルデ。
 その三十分後。
「貴様、なかなかやるじゃないか」
「お前こそ、俺より先に入っていたのにもかかわらずピンピンしてるなんて、驚きだ」
「不甲斐ない奴らの中にも骨のあるやつはいるってことか」
二人ともまだまだ余裕といった様に会話をする。そこへエリザロッテがバスタオルを巻いてサウナ室へと入ってくる。
「おーい、まだ倒れてないーってテロリスト!? なんでここに!?」
「おまけに可愛い彼女つきか、こりゃ俺の負けだな」
「負けだとしても、まだまだ付き合ってもらうぜ? 伝説は始まったばかりなんだからな」
「お、おーい? よ、よくわからないが倒さなくてもいいのか?」
 そのまま三人は仲良く鍛錬をしながら、サウナ室で伝説を更新し続けるのだった。
 温水プールのほうでは桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)が泳ぎの練習をしていた。煉に手を引いてもらいながら必死に練習をしつつ、二人っきりの空間に満足していたエヴァの所にも遂にテロリストたちが現れる。
「おいお前ら! こんなところで隠れてイチャイチャするとは言語道断だ! さっさと人質になれ!」
「……なあエヴァ。やっぱり他にも人質がいるみたいだし、助けに行かないと」
「あーあー聞こえない聞こえない! 何も聞こえない!」
「聞こえているだろうが! さっさとプールから上がれ!」
「……だあもう! 何でこんな日に限ってこんなことになりやがるんだ! というかお前らも占拠するならもっと場所を選べ! 何でよりにもよってプールなんだよ、このうすらとんかちどもが!」
 遂にエヴァがキレた。せっかく二人で遊びに来たのにそれを邪魔されたのが気に食わなかったのだ。
「おいエヴァ? あんまり派手に突っ込むのは危ないよ、相手はテロリストなんだから」
「うるせぇ! 要求もくだらなけりゃやっとのことで私たちを発見するような奴らに遅れを取るわけがないだろうが! さっさと終わらせて泳ぎの練習に戻るんだ!」
「わかったわかった、フォローするから前衛は頼んだよ?」
「任せとけ! こいつら全員叩きのめしてやる!」
 肩をぐるぐる回して戦闘体勢に入るエヴァ。その後ろではいかなることがあってもいいように、バックアップ体勢をとる煉。
「歯向かうなら容赦はしないと最初に忠告したはずだ、覚悟しぶへぇ!」
「ごちゃごちゃ言う暇があるなら手を出せってんだ! そんなんだからいつまでたってもモテないんだよ!」
「こ、このっ!」
「残念、もう遅いよ」
 置いておいた上着から隠し持っていたハンドガンを取り出しテロリストに照準を合わせていた煉。トリガーを引きその銃弾は真っ直ぐテロリストへと飛び、テロリストの頬を掠める。無論、威嚇射撃だ。やろうと思えば数センチずらすことも出来た。だが今回はひるませるだけで十分だった、何故ならば、
「ぼやっとしてると壊れちまうぜぇ!」
 前衛に頼れるパートナーがいるからである。ひるんだテロリストの顎を的確に捉えそのまま突き上げるエヴァ。そのエヴァに攻撃しようとするテロリストには即座に後ろの煉から鋭い銃弾が飛んでくる。完璧な連携だった。
「く、くそっ! ここは人が少ないからって言ってたが、こんな凶暴なやつがいるとは聞いていないぞ!」
「凶暴で悪かったな! お前で最後だ、さっさと寝ろやこらぁ!」
 エヴァの強烈な右ストレートがまとまに顔面にヒットするテロリスト。そのまま体は飛び、床に大の字になってノックダウンするのだった。
「エヴァ、いくらなんでもやりすぎじゃないか?」
「ふんっ、くだらない要求なんかしやがるからいけないんだよ!」
「そうか? しかし人質も取ってるみたいだし、やっぱり助けに行ったほうが」
「ここにいた奴らは先に逃がしたんだからもういいだろう? それに他の奴らも頑張ってる声が聞こえたから平気だって!」
「だが」
「もー! 泳ぎの練習するぞ!」
 強引に煉の手を取って温水プールにダイブするエヴァの頬は少しだけ赤かった。
 人通りが少ない更にその奥にはまだ作られている最中のプールがあった。その深さなんと百メートルもあるプールだ。当然、ここには誰もいないはず。なのだがそこには口論をする二つの影があったのだ。一人はテロリスト、もう一人が瀬山 裕輝(せやま・ひろき)だった。
「ええやんもう、ゆっくり休みたいところをあんたらに襲撃されて、更にはイチャつき倒していたカップルすら救ったんやで? もう休ませて貰ってもええやろ?」
「んなわけあるか! せっかくの人質もお前が助けたせいでこの後イチャつきながらバレンタインにチョコあげたりもらったりするんだぞ! そんなふざけたことが許されるか!」
「いやいや、確かにあんたに捕まってるときも『大丈夫、君は俺が守るから』『うん、信じてるよ』とか言い出したあのバカップルにも引いたけど、あんたらの要求も大概やで? それにあのバカップルかてオレが括約筋突いたやろ? あれでええやないか」
「俺はその行動にドン引きだったよ! さすがに気の毒になとか思っちゃったよ! お前が来てから俺のペース崩されっぱなしなんだよ!」
「おいおいテロりん、そな褒めたかて別に何もでーへんで?」
「褒めてねぇーよ! なんだそのポジティブシンキング! てかテロりんとか言うな!」
 不毛に言い争いを続ける二人。それを止めるものは誰もいないのでまだ続く。
「しかしなーテロりん、オレかて怒ってるんやで? こないくだらないことでせっかくの休みが台無しなんや、わかるやろ?」
「知るかそんなもん! 我々の崇高な思考の元にはお前の休日なんて知ったことか!」
「崇高って、要するにバレンタインにチョコもらえんかった腹いせやん。けど結局もらえんかったのはテロりんの努力が足らなかっただけ、その証拠にもらえてる奴はもらえてるんや、わかるか?」
「し、知るか!」
「まったく子供やなぁ、まあここで一つ教えといたる。テロりんは中学高校は共学やったか?」
「それがどうした! それでももらえなかったよちくしょうが!」
「へぇ、でも希望はまだもてたんやな。そいつは僥倖やないか」
「……? ……ま、まさかお前!」
「テロりんの思てる通りや、オレはなぁ。中高となぁ」
「や、やめろ! 言うなぁ!」
 耳を塞いで目をつぶるテロリスト。その隙にさっさと後ろに回りこんでスタンバイをする。
「―――男子校やったんや、それと括約筋突き」
 まだ完成されていないプールからは、ぎ、から始める悲鳴が鳴り響いた。