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君よ、温水プールで散る者よ

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君よ、温水プールで散る者よ

リアクション

 先ほどのプールの安全も取れていたため聡と翔は別の区画のプールへと移動する。そのプールは一番テロリストの数が多く、警備も厳重になっているところだ。人質も多く下手な動きはあまりできない。
 聡と翔はこっそりこっそり慎重に行動することを心がける。しかし、早くもその考えは無意味になると直感する。
「おいおい、あいつら何やってるんだ?」
「見るからに挑みます、って顔つきだな」
「……細かく細かく戦うのがダメなら一気にってことか?」
「下手に策を打つよりもいいんじゃないか?」
「はあ、こりゃ急いで警備室に向かったほうがいいかもな、万が一も考えて」
「やけに真面目じゃないか」
「誰かが傷つくのを見るのは好きじゃないんでね、行くぞ翔」
「ああ、だがどうせなら今から起こる騒ぎに乗じて行ったほうがスムーズになる、少し待とう」
 翔の案を採用し、ことが起こるまでスタンバイする二人。
 そして場は動き出す。テロリストたちが警備をしている前に十人以上からなる男女たちが徒党を組んで現れる。
「なんだぁお前たち? どこに隠れていやがった」
 テロリストの一人がにじり寄ってくる。その後ろには大勢のテロリストと人質がいる。人数的にも状況的にも不利な場面だ。
「ガキはガキらしくさっさと大人しくしてろって」
「……そうかそうか、ならガキはガキらしくやな」
 どこからか聞こてくる関西風な喋り方をする女性の声に続き続々と各自武器を構える。武器といってもそこらにあった掃除用具などだ。
「大人に遊んでもらわななー!」
 そう高らかに開幕の合図を言い放ったのは由乃 カノコ(ゆの・かのこ)だ。彼女もまたアルバイターとしてここに来ていたが、このままではバイト代もなくなってしまう可能性があるということで、テロリストの制裁及び人質の救出に乗り込んだのだ。
 光学迷彩で姿を消していたカノコの声がいきなり背後から聞こえてきて、慌ててテロリストたちは振り返るが時既に遅く、カノコは後ろから思い切りテロリストたちに攻撃を開始する。
「普段は脱兎がごとく逃げる言うても、やるときゃやるんや!」
「ぐえっ!」
 テロリストの一人が吹っ飛ぶ。それを合図に前に立っていた者たちも攻撃を開始し始める。更に上からは同じく光学迷彩で姿を消していたカノコのパートナーであるナカノ ヒト(なかの・ひと)も攻撃に転じようとしていた。
 プールなのに何故か釣竿を持ち、着ぐるみの上から半ズボン型の男性用水着をつけるという、恐ろしい格好で上からテロリストたちめがけて突進する。
「ゆる族ナメんなー!」
 謎の言葉と共にテロリストたちのど真ん中に突っ込むナカノ。空からの急襲に対処できず、テロリストたちはモロに攻撃を食らう形になる。蹴散らされるテロリストたちの真ん中でナカノとカノコが合流する。
「いやあいい攻撃やでナカノさん! この勢いで早いとこ蹴散らして、人質解放せなな!」
「ケンカはよくないアルが、シカタナイネー。がんばるアルよ」
 二人が中央で大暴れしている。その前では他にもテロリストたちを懲らしめている人たちに紛れて一人、
「義理でもよかろう」
 という言葉と共に麦チョコをあげて回っている少女がいた。こちらもカノコのパートナーである『仮想現実』 エフ(かそうげんじつ・えふ)だ。あまり外に出ない彼女だが今日はたまたま機嫌がよかったためこうしてプールに訪れていたのだ。
 自らテロリストに攻撃する気は毛頭ないが、襲ってくるテロリストには麦チョコという名の義理チョコを無愛想にあげまくっていた。
「まずはお前から確保」
「義理でもよかろう」
「え、あ? チョコ? あ、ありがとう」
 呆然としながらその義理チョコを受け取るテロリスト。しかし、そのチョコはただのチョコではなく「その身を蝕む妄執」がかけらていて、受け取った瞬間に彼らのバレンタインでの悲しい思い出がフラッシュバックするようになっていたのだ。
 チョコを受け取ったテロリストたちはのた打ち回り、その後うずくまり動かなくなった。
 中央で暴れているカノコとナカノは他の先発隊がいい具合に交戦しているところを見て人質を救出し始める。しかし二人だけは多数の人質までは手が回らないため、カノコはもう一人パートナーを召喚することにする。
「うし、きてやー! ロクロさん!」
 その言葉の数瞬後、何もなかったはずの空間にカノコのパートナーであるロクロ・キシュ(ろくろ・きしゅ)が現れたのだ。しかし。
「め、メガネメガネ……」
 といきなりメガネをどこかにふっとばしてしまったようで、その場でおろろしている。
「ろ、ロクロさん、ベタすぎるでー……これやな、ほい」
「あ、ありがとう。よし、これで見えるよってうわあ! 何この怖そうな人たち!」
「くだらないテロリストや」
「く、くだらないの?」
「バレンタインの撤廃のためにこんなことするやつらやで? くだらんの極みやろ?」
「バレンタイン? 何それ?」
 まだ地上に着たばかりのロクロにはバレンタインが分からず、首を傾げるばかりだった。そんなロクロにいきなり襲い掛かるテロリスト。だがロクロに華麗に受け流され、隣にいたカノコにノックアウトされる。
「いきなり襲ってきた!? こ、怖いよー!」
「ってなわけでロクロさんは後ろの人質さんたちの解放に専念してや。こいつらどつくのはカノコとナカノさんと協力してくれるあの人らで十分やからな!」
「わ、わかったよ! でも、ナカノさんは何をしているのかな?」
 そう言われたナカノさんは、何故か釣竿に義理チョコを垂らしてテロリストたちを翻弄していた。
「いやあ、さすがにわからん。謎やな。本当はナカノさんとカノコも救出に回りたいしたいところやけど、協力者の人らも解放してくる人たちを回してくれているみたいやし、ここは攻撃に専念させてもらうでっ! んじゃあとは頼んだで、ロクロさん!」
「う、うんっ!」
 そう言ってカノコはテロリストたちの所へ、ロクロは人質の所へと走った。
 カノコたちに続きテロリストを成敗しているのは刹那・アシュノッド(せつな・あしゅのっど)率いるアレット・レオミュール(あれっと・れおみゅーる)ベアトリクス・バントロワ(べあとりくす・ばんとろわ)村雨 散(むらさめ・はらら)の四人だった。
「お前らごとき大剣がなくてもこのブラシで成敗してやるよ!」
 勇猛果敢に敵の攻撃をかわし、ブラシを巧みに扱い床へと沈めていく刹那。普段の剣の重さがないぶんいつもよりも俊敏に敵を倒していた。その横で一緒に戦っていたアレットは刹那がカバーしきれない敵を重点的に倒していた。
「刹那さんには指一本触れさせません!」
 二人の息はぴったりで数で襲ってくるテロリストたちの猛攻もなんなく鎮めていた。これを好機と見た刹那がベトリクスと散に言葉を飛ばす。
「ベアトリクス、散! 二人はあっちで人質解放している人と一緒に人質の救出にあたって! ここは私たちと他の人たちで抑えるから!」
「わ、わかりました!」
「了解です」
 刹那の作戦に同意した二人は攻撃をやめ、いったん後ろに下がりテロリストたちの脇をこっそり抜ける。乱戦に混戦を極めているこの場で、二人に気づくテロリストはおらず、無事に人質の場所までたどり着いた二人。先に救出に当たっていたロクロと合流する。
「わ、私たちもお手伝いしますね!」
「本当ですか? 助かります、それじゃあっちにいる人たちの解放をお願いします!」
「承知しました」
 ロクロの指示に阿吽の呼吸で返事をし、すぐさま言われたほうの人質の解放へと向かう二人。しかしそれに気づいたテロリスト一人が銃口を向け、発砲する刹那手前。
「アレット!」
「はい!」
 それに気づいた刹那がアレットに銃を持ったテロリストをアレットに潰させる。人質を解放しようとしていた二人に気を取られていたテロリストは、抵抗も出来ずその場に倒れた。
「あ、ありがとうございます!」
「助かりました」
 アレットにお礼を言って人質の解放を進め始める二人。一方でロクロも解放を進めていて、順調に人質の安全は確保されていく。
「よしよし、最初はせっかく遊びに来たのにこいつらのせいで休日を台無しにされてちょいと不機嫌だったけど、まあこれも通りかかった船よ! 全員助けてあげるからね! 行くよアレット!」
「はい! 他の方にも負けないように頑張っていかないといけませんしね!」
「うっくぅ……さっきからごちゃごちゃと、これでも食らえ!」
 先ほどカノコにプールに投げ入れられたテロリストの一人がビート板を手に取り、水に沈めアレットに狙いを定めてビート板を発射する。狙いは逸れることなく一直線にアレットに向かっていく。
「アレット! 危ない!」
 飛来するビート板にいち早く気づいた刹那は素早くアレットの横手に回りこみビ−ト板を叩き落す。
「あ、ありがとうございます」
「いいっていいって。……それにしても愉快な攻撃をしてくれるじゃないか、ええ?」
「え、あいやその。これはだな、ビート板でサーフィンごっこをしようとしていただけであって故意ではなくて」
「そうかそうか、ならビート板を返してやらなくちゃ、な!」
 先ほどよりも二倍ましのスピードでビート板はテロリストに直撃。テロリストは今度こそプールにぷかっと浮き意識を失くすのだった。
「まったく、油断も隙もありゃしない。やっぱりどれだけ落ちぶれようともテロリストってところか。こりゃ根性たたき直してあげないとね! アレットも注意して行くよ!」
「はい!」
 心を引き締めてまたテロリストたちと戦い始める刹那たちだった。