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 十五章 血染めの狂戦士 中編


「シャンバラのロイヤルガード、樹月刀真……推して参る!」

 刀真は誰よりも早く、エレンに向けて一騎掛け。
 最大の敬意を払い自らの矜持を持って戦いに望んだ結果、一騎打ちが最も適しているという考えに至ったからだった。

「いいわ、来なさい――樹月刀真」

 鉄塊のような大剣を片手で軽く振るい、狂戦士は無表情のまま応えた。
 刀真が駆ける。地を蹴り、空を飛び、エレンに迫った。

「…………!」

 無言のまま、エレンが片手で大剣を振りかぶる。
 初太刀が刀真に振り下ろされた。

「ぐっ……!」

 大剣と剣の間で赤い火花が咲いた。
 まるで背骨が折れんばかりの衝撃。
 剣を握った刀真の両腕に甘い痺れが走る。

「まだまだ……」

 エレンの静かな呟きと共に大剣の横薙ぎが刀真の命を刈り取ろうと迫る。
 刀真は素早く踏み込んで懐に入る。と、同時に柄に剣を当て大剣の威力を削いだ。

「……ッ!」

 僅かにエレンの太刀筋が鈍った。
 刀真は身体を反らし大剣を回避。
 ゴウと空を切る音が刀真の耳に届いた。

「はぁぁああ!」

 即座に、刀真は即座にレガースを纏った脚で中段蹴りを放った。
 エレンの身体がくの字に曲がる。が、歪んだ体勢のまま刀真に一閃。
 刀真は両手で剣を掴み、どうにか防御した。

 自らの剣の間合いに入った刀真は、ここから自分の戦法で戦った。

 両手利きとウェポンマスタリーの業で操る、左手の白の剣とレガースでの蹴りを組み合わせる。
 殺気看破で気配を探り、行動予測と百戦錬磨の経験を以て相手の視線や呼吸、構えや重心移動、気配から攻撃を見切る。
 素早く踏み込んで攻撃のポイントをずらし、威力を殺しながら剣で軌道を逸らすように受け流した。

 剣戟は火花を散らし、聞こえるのは甲高い金属音とお互いの呼吸音。

 刀真は相手の死角へ周り込んで躱し続け、蹴りと剣撃で牽制しながら相手の大振りを待つ。
 大振りがきたらギリギリまで引き付けながら、白の剣の腹を相手の剣の腹に添えるように合わせる。そして一気に踏み込んだ。

(この時を待っていた――ッ!)

 刀真は合わせた剣を相手に向かって滑らせる。勢いを付けて剣の軌道を逸らすことで相手の体勢を崩した。
 そのまま懐に滑り込みながら右手に光条兵器を発現。隙を突いて相手の心臓を穿つ!

「これで終わりだ……顕現せよ黒の剣!」

 右手に現れた黒い刀身の剣をエレンの心臓に向けて突き出した。
 速度も、タイミングも、技のキレも、そのどれもが完璧な刺突。
 ――だが。

「……生前のわたしなら、死んでいたわね」

 心臓まで後少しのところで止まった黒の刃先。
 エレンは片方の腕を犠牲に、黒の剣を受け止めていた。

「届かなかった、か」

 刀真の身体をエレンは大剣で思いっきり叩きつけ、吹き飛ばした。
 そして、エレンは刀真に一撃せんと走り寄る。が。

「おいおい、俺の相手もしてくれよォ。英雄」

 エレンの目前に竜造が立ちふさがった。
 振り下ろされた大剣を梟雄剣ヴァルザドーンで受け止める。

「……あなたも一人でわたしと戦うの?」
「あァ? 他の契約者と共闘なんて真っ平御免だ。どれだけ圧倒的な相手だろうと殺しあうとなら己の身一つだろうが」

 鍔迫り合いを行いながら、嬉々とした表情で竜造は語る。
 その笑みには親しみはなく、どちらかと言えば獰猛さや戦いの武者震いを込めたような笑み。

 お互いの力が拮抗し、同時に剣を弾き合った。

「オラァッ! 行くぜッ」

 いち早く竜造が体勢を立て直し、剣を構える。
 ウェポンマスタリーの技巧と金剛力による剛力で、防御の上からでも相手を叩き潰す斬撃を見舞う。
 受け止めるエレンの足が地中にめり込むほどの一撃。一際甲高い金属音が鳴った。

「……ッ! でも、まだまだ……」

 エレンはそう呟くと、竜造の剣を弾き飛ばした。
 そして、武器に炎をまとわせて一閃。絶大な威力の煉獄斬が竜造を襲う。

「ッくは……!」

 竜造は反撃を武器で受け流す。
 その際、ただ受け流すだけではなく百戦錬磨の経験と勘で相手の手首に負担が蓄積されるよう強弱をつけた。
 それを感じたのか、エレンは自然と感嘆の息を洩らす。

「……へぇ、あなた意外とやるのね。ただ戦うだけが能ってわけではないみたい」
「ケッ、お褒めに預かりありがと――よッ!」

 受け切った竜造が、今度は地面に刺さらない程度に武器を振り切る。
 力一杯振るわれるそれをエレンは受け流しながら、竜造と同じ猛禽のような笑みを浮かべた。