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忘れられた英雄たち

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忘れられた英雄たち

リアクション

 十四章 鉛丹の重剣士 中編


 司がバルカスに向けて大剣を音速を超える速度で振り下ろし、ソニックブレードを放つ。
 バルカスはゆらりと身体を逸らしそれを回避した。

「蒼空学園の寿 司、剣の道で名を上げるためパラミタにやってきました!
 後世に名前が伝えられなかったとはいえ、魔物を打倒した英雄の部隊と聞いています!
 ぜひ、これからのあたしの成長のために、一戦お願いします!
 全身全霊、剣の全てをかけて、いざ! 勝負!」

 司はバルカスに向けて大剣を向ける。
 バルカスはフッと微笑し、片手で重剣を掲げそれに応えた。

「……来い」
「行きますッ!」

 司は巨大な刀身に炎をまとわせて、バルカスに突進した。
 煉獄斬。炎をまとった大剣がバルカスに迫る。しかし、バルカスは重剣で難なくこれを弾いた。

「……その程度か?」
「まだまだッ!」

 司は叫びと共に刀身に雷を帯電させ、横薙ぎ。
 バルカスはこれを跳躍して回避し、重力を利用した振り下ろしを司に打ち込んだ。

 司は大剣の幅の広さを利用して攻撃を弾き、のぞけたバルカスをなぎ払う。
 バルカスは跳躍し後退することでこれを回避した。が。

「「サンダーブラスト!」」

 迷彩塗装でバルカスの後方に隠れていたキルティと司の後方の月砕きの書の声が重なる。
 と、同時に空から降り注ぐ二筋の雷がバルカスを襲った。

「ふ、んっ……!」

 バルカスは重剣を掲げ上げた。避雷針のように雷が重剣の切っ先に収束する。
 柄を握っている片手が電圧で、音を立てて焼け焦げた。

 バルカスの動きは鈍らず、振り向き最も近いキルティを襲おうとバーストダッシュ。
 フィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)は超感覚でそれを読み、二つの妖刀でバルカスに横から切りかかる。
 バルカスはこれをどうにか重剣で受け止めた。

「……おやおや、止められちまった」

 フィーアはぽつりと呟き、即座に後方に跳躍。
 機動性を生かし、ヒット&アウェイで時間をかけて戦う。

「鬱陶しいぞ、小娘……ッ!」

 バルカスの鬱憤が溜まり、思わずなぎ払おうと振りが大きくなった。
 それを見て、にやりとフィーアは笑った。

「それじゃあ君、よろしく」
「承った――成敗!」

 フィーアは空に飛行しバルカスの斬撃を避け、入れ替わりにグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が破滅の刃で切りかかる。
 禍々しいオーラを纏った刃がバルカスに刻まれた。

「ぐっ……!」

 バルカスが攻撃を受けながらも、グロリアーナに重剣を振り下ろす。
 グロリアーナは迫り来る重剣を紙一重で避け、背後に回りこみ跳躍した。

「龍飛翔突!」

 流れるような一連の動作。
 ドラゴンが急降下して牙を突き立てるような鋭い突きが、バルカスを襲う。
 背中を突かれ前に吹っ飛んだバルカスを、間合いを取りつつチャンスを伺っていたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が追撃を行った。

「いくわよ、喰らいなさい……!」

 ゴッドスピードで自らの速度を高め、バルカスに追いつく。
 と、両手の刀を交差させ十文字に切り裂いた。

「……ッ!」

 声にもならない呻きがバルカスから上がる。
 身に纏う鎧に亀裂が生じ、今にも砕けそうになっていた。

 バルカスは体勢を立て直すために空へと飛んだ。
 それを見た天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)は鵺を使役し、保名の為の足場を作る。

「保名様、どうぞ!」
「呵々! ありがたく使わせてもらうぞ、葛葉」

 保名が鵺を足場に大きく跳躍。
 拳を大きく構え、バルカスの身体を撃ち抜いた。
 轟音。共にバルカスが墜落され、地面へと一直線。

 途端、セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)がバルカスに突っ込む。
 息をつく間もないコンビネーション。
 大剣と重剣が大きな金属音を立て交錯し、セシルとバルカスは鍔迫り合いを行う。

「英雄だろうと何だろうと! 私の前に立つならば全力で討ち滅ぼすまで!」
 
 目と鼻の先で睨み合いながらセシルは叫ぶ。
 鍔迫り合いはセシルが勝ち、バルカスの体勢を崩した。

「もらいましたッ!」

 セシルが大剣を振るい、バルカスを切り裂く。

「――まだまだッ!」

 続いて、二手三手。
 まるで鬼のような連撃をバルカスに叩き込んだ。

 バルカスが吹っ飛び遺跡の残骸に衝突する。
 残骸はバルカスを巻き込み、ガラガラと音を立て崩れた。

「ふん……その程度か?」

 不意に、声がした。
 残骸の欠片を自らで取り払い、バルカスは立ち上がり、今まで片手で持っていた重剣を両手で握る。

「……我はまだまだ倒れぬ。この昂ぶり――抑えてみよ!」

 腰の重心は僅かに低く、目前に位置する柄は腹の前で固定し、刀身はゆるりと前方のセシルへと傾いている。
 構えは正眼――数ある剣術の流派で最も多く扱われ、基本にして最強と評される戦いの姿勢。
 今までとは段違いの緊張がその場に走った。

「ふふ、奥の手を隠していたのですか?」
「……ああ、こうでもせぬと直ぐに相手が死んでしまうからな」

 セシルは一番間近でバルカスと相対するが、怯えていない。
 むしろ、敵が強くなったことにより一段と燃えていた。

「さて、どの程度の物か……楽しませてもらいましょうか!」

 大剣を携え、バルカスに向けて走る。
 セシルの顔に浮かぶのは、獰猛さや戦いの武者震いを込めたような笑みだった。