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 ぷらん、とツタに捕まった和輝の姿に、契約者達の表情がぐっと固くなる。舐めてかかれる相手ではなさそうだ。
 しかし、そうしている間にも、
「陽、下がって――うひゃああああ!」
パートナーの皆川 陽(みなかわ・よう)を避難させようとしたテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)が、
「え、なになに、何かのイベント?」
無邪気に様子を見に来ていた嘉神 春(かこう・はる)が、次々と触手の魔の手に掛かり、捕らえられてしまう。
 しかし、すぐ側に居る春のパートナーの神宮司 浚(じんぐうじ・ざら)には興味が無いようで、それどころか追い払おうとするかのようにべしんべしんと別の触手が攻撃してくる。
「春!」
 ちょっとだけ「触手に絡みつかれてる春、なんと良い眺め。」と思わなかった訳でもないが、しかし大切な恋人(しかも成り立てほやほや、本日は初デート)を良いように弄ばれるのは気に入らない。
 取り戻さなくちゃ、と切り込む隙を探しながら、ひとまず攻撃的なツタを避けて後ずさる。
「わー、なにこれ楽しい!」
 ……が、捕らえられている本人はアトラクションか何かと勘違いしているのか、むしろ楽しそう。
 助けに行く必要は無いか、とひとまず浚は傍観を決め込むことにする。
「痛い! ちょっと、確かにこれ地味に痛い! やめて!」
 と、楽しそうな春の横ではテディが悲鳴を上げていた。こちらは助けた方が良いかな、と思わなくも無かったが、
「あ、でももっと!」
と叫ぶので放っておくことにする。
 テディのパートナーである陽もどうやら同じ考えらしく、特に焦った様子を見せるでもなく薔薇に絡め取られるテディを見上げている。
――うん、いい男に薔薇のツタが絡みつく。これぞまさしく倒錯美。
 そう思っているのは秘密。
 しかし、徐々にツタの動きが大胆になってきた。絡め取っているだけでは飽き足らず、トゲの無い先端でちょいちょいと、捕らえている人たちの腰回りから背中、ふともも、と体中をまさぐり始める。
「あーん、やだぁー……いや、マジくすぐったい、やめて!」
 最初はふざける余裕があったテディだが、執拗な薔薇の動きに次第に我慢出来なくなってきたようで、徐々に悲鳴に変わる。
「うひぃいいいぃいい!」
 どこからともなく和輝の悲鳴。どうやら、同じような目に遭っているようだ。
「あはは、悪戯しないでー」
 そんな阿鼻叫喚の中、一人春だけは余裕の表情。薔薇のツタは胸元やら内股やら、きわどい所へ入り込もうとして居るのだが、表情一つ変えていない。日頃からセクハラまがいのことをされまくっているせいだろう。
「お、男の子達を放してください!」
 そこへ果敢に切り込んでいくのは、ふわりと広がるクリーム色のドレスに身を包んだ姫宮 みこと(ひめみや・みこと)だ。
 燃え広がる危険性を考えると炎の術は使えない。ツタの動きを止めようと氷術を放つが、人質が居る為思うように狙いを定められない。
 それでもあきらめず、間隔を開けながら氷術を放つみことだったが、しかし突然背後から回り込んできたツタが、みことの全身を絡め取る。
「え、うわ、やあああ!!」
「ちょっとみこと!」
 高々と掲げられてしまったみことの姿に、パートナーの早乙女 蘭丸(さおとめ・らんまる)が悲鳴を上げる。
「あたしのみことに何するの、このバカ触手!」
 サバイバルナイフを構えて突っ込んでいく蘭丸だったが、しかしツタの動きは素早かった。
 目にもとまらぬ早さで蘭丸の背後へと回ると、その細い体にするりと巻き付く。
「え、いやぁん!」
「あっ、蘭丸ー!」
 かくして人質は五人になった。
 ツタはいよいよ調子に乗り、人質五人のイヤンな所からアランな所まで、しゅるしゅるとその先端をくねらせながらまさぐり、弄ぶ。
 その姿に、もう我慢ならん、という様子の人間が、一人。
「ユーリ……ごめんっ!!」
 トリア・クーシア(とりあ・くーしあ)。美しい金色の髪をサイドテールに結った、小柄な少女だ。
 その細く、華奢な腕で、パートナーのユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)をどっこらせーと持ち上げている。
「ねえトリア、どーして僕を持ち上げてるのかな?」
 いやーな予感に冷や汗を滲ませながら、ユーリは下に居るトリアにおずおずと問いかける。
「ほらどうやらあの薔薇、可愛い男の子だけを襲ってるみたいだから! ここはユーリが囮になるしか!」
「うん、いや、囮になることは構わないんだけどこのまま放り投げられたら僕たぶんその役目果たす前に触手の餌食いいいいいいい!
 ユーリの言葉が終わるのを待たず、トリアはぽーいっとパートナーの体を薔薇に向かってぶん投げた。
 上質なメイド服に身を包んでいて、トリアより小柄で、ぱっと見た感じは完全に女の子だけれど、ユーリはれっきとした男の子――というか男の娘――だ。
 自らに向かって飛んでくる大好物を見逃すわけもなく、薔薇はツタの一本をすかさずユーリの方へと伸ばし、あっという間に絡め取る。
「ああほらやっぱりぃいいい!」
「ごめんねユーリ手が滑ったのまさか直撃するなんて思わなかったの」
「誤魔化すつもりがあるならもっとちゃんと芝居してよぉー!」
 潔いほど棒読みで言い訳を紡ぎながら、トリアはデジカメを取り出してパシャパシャとツタに絡まれるユーリの姿を写真に納めまくる。
「あっ、ちょっと、そこは、やあぁ……っ……!」
 洋服の中へと入り込もうとするツタから、何とか逃れようと身をよじる。しかしツタも執拗で、なんとか自らの欲望を達成しようとユーリの体を拘束する。
「トリア、ちょっとなんで写真撮ってるの−?!」
「許してユーリ……私は欲望に忠実に生きたいの!」
 身も蓋も無いトリアの、しかし魂の叫びが響き渡った。

 そして此所にももう一組、薔薇に立ち向かおうとする一人の男と一匹のにゃんこが居た。
 変熊 仮面(へんくま・かめん)その人と、そのパートナー、にゃんくま 仮面(にゃんくま・かめん)だ。
 (ちなみに先ほど庭に放り出されてから、ずっと二人でじゃれていた)
「俺様が来たからには、ホモに金棒。安心したまえ!」
 マントをたなびかせ、ふはははと高笑い。行くぞにゃんくま! と叫ぶと、二人揃って薔薇に向かって駆けだしていく。
 ああ哀れ、薔薇は変熊の餌食に――逆だ。変熊は薔薇の餌食になってしまうのか! と、誰もが心配しなかった、その時。
 ものすごい勢いでツタが、逃げた。
「おい、どういうことだ!」
 この美しき俺様を捕食しないとはどういう了見だ、と騒ぎ立てる変熊に向かい、今度はものすごい勢いでしなるツタが襲いかかった。
 あからさまに捕まえようという魂胆ではない。全力でつぶしに掛かっている。
 そして次の瞬間。
 すぱこーん!
 いっそ気持ちのいい音を立て、一人と一匹はおほしさまになったのだった。