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機械仕掛けの歌姫

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 第十四章 間奏、あなたの歌をもう一度


 雨の降り続く戦場。
 刀真は大介の拳銃から次々と放たれる銃弾を、行動予測と百戦錬磨の経験を以て避けていく。

 刀真のパートナーであるラグナ ゼクス(らぐな・ぜくす)はその戦いに目をくれず、倒れているフランを見た。
 彼女は刀真に刺されたきり、ぴくりとも動かない。

(フランさんの背中から黒い刃が突き出てた……あの男が、フランさんを刺したのか!)

 怒りに身体を震せて、ゼクスは拳を構え刀真に向かって走りそうとした。
 が、それを同じく刀真のパートナーである漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が止める。

「待って、ゼクス!」
「……何故止めるんですか!? マスター!」
「よく見て、ゼクス。フランの身体を光条兵器で貫いたけど、フランの身体には傷がない」

 月夜にそう言われ、ゼクスはフランを見た。
 確かに、傷はない。気絶しているだけのようだった。

「……きっと、これは演技。大介の記憶を戻すための演技だと思う」

 月夜はフランに近付き、その様子を確認した。
 やはり傷はない、それに何よりフランは気絶をしているだけのようで、息をしていた。

「大丈夫。フランは生きてるよ、ゼクス」
「…………」

 ゼクスは俯き、振り上げた拳を収めた。
 そして、フランの元に先ほど大介に殴られた蒼也が歩み寄る。

「……フランの声帯が奪取出来たようだ。
 テクノクラートとして機晶技術を使ってメンテナンスに当たりたいから、俺がフランを本陣に運ぶよ」
「ええ、お願い。私達は大介を止めるために戦うわ」

 月夜の言葉に、蒼也は微笑んだ。
 フランの身体を優しく持ち上げ、出来るだけ揺すらないようにしながら、蒼也は本陣へと走っていった。

 ――――――――――

 蒼也は気絶しているフランをルカルカ・ルー(るかるか・るー)の四人乗り飛空艇に運ぶ。
 ルカルカの四人乗り飛空艇の内部は、簡易手術室になっており、白い手術台の上にフランを寝かせた。

「なんで、フランは気絶しているんだ?」

 そう蒼也に問いかけたのは、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)
 声帯の手術を行う執刀医のひとりであり、機晶姫の治療の実績も十分な教導団本部勤務の医師だ。

「……大介のための荒療治ってやつ。まぁ、必要不可欠だったんだ、うん」

 そう答える蒼也を見て、ダリルは呆れたようにため息を吐いた。

「まぁ、いい。眠っているうちに終わらせよう。
 ……ふむ、部分的な感覚遮断で済みそうだ」

 機晶姫の感覚遮断とは、人間でいう麻酔と同じ意味を持つ。
 ダリルはフランの声帯を取り付ける部分だけ、手際よく外部から操作し感覚遮断を行った。
 それが終わり、今まもなく執刀を始めようとしたころ。

「フランは女の子だし傷はできるだけ残したくないなあ」

 執刀用のメスを持ちながら、ルカルカがぽつりと呟く。
 その言葉に、ダリルはにやりと口元を吊り上げた。

「俺を誰だと思っている? 痕など残さんよ」

 ダリルのその頼もしい言葉に、ルカルカはくすりと笑う。
 そして、ダリルに二本のメスを渡し、彼はそれを両手で持つ。

「ありがとう。さて、じゃあ」

 ダリルはメスを両方の手で持ち、執刀を二倍速にすることで手術の短縮を図る。
 そして、ゴッドスピードを併用して更にその速度を倍増させた。

 手術とは時間の速度だとも言われている。

 もちろん、その速度を縮めることには、優秀な助手の存在が必要不可欠だ。
 だが、その点は問題が無い。ここに集まったルカルカを始めとした助手達はその全てが優秀な者達ばかり。

 いくら手術を短縮できるかどうかは、まさにダリルの手にかかっていた。

「――手術を開始しようか」

 ダリルの両手に握られた二本のメスは、フランの声帯を取り付ける部分に伸びる。

 最大限の術速度で慌てず急いで正確に、目にも止まらぬスピードで執刀。
 術痕すら残さぬように考慮されたその技術は、見る人の心を打つ芸術の域にまで達していた。