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リアクション
WILD CARD
「黒幕の居場所が分かったのであるな」
セレスティアーナは自らのボディーガードを申し出た酒杜 陽一(さかもり・よういち)を従え、歩みを進めていた。
春美らが掴んだ『玉座』の存在。
そして自らを『王様』と称す。
「セレスティアーナ様。何も御自ら出向かなくてもいいのではないですか?」
陽一は心配そうな目つきでセレスティアーナの顔を覗きこむ。
「だがそのためのボディーガードなのであろう?」
「は、はい。とりあえずどんな出来事にも対応できるように準備は整えてあります」
「頼りになるな。親衛隊に入れたいくらいである」
「はは、ありがたき幸せ!」
警備員たちは誰もセレスティアーナを制止しようとはしない。
地下の警戒レベルが最大になっているのもひとつの原因であるが、陽一が先回りをし、敵を駆逐したというのが大きいかもしれない。
「セレスティアーナ様、こちらをおつけください」
「なんであるか、これは」
「禁猟区を施した虹のタリスマンです。万が一御身に災難・災厄が起こった場合、即座に俺にしらせてくれるアイテムです」
「なるほど。器用なアイテムもあるものだな」
「さて、陛下」
セレスティアーナにルカルカ・ルー(るかるか・るー)が声をかける。
「陛下は言わば最終兵器です。くれぐれも名乗り出るタイミングを間違えないでください」
「わかっておる」
ルカルカは玉座の扉に手をかける。
固唾を呑む面々。
思い切り扉を引くルカルカ。
「綺麗であるな」
目の前に広がる調度品の数々。
しかし感嘆をもらしたのはセレスティアーナだけで、他の面子は躊躇うことなく『玉座』に立ち入る。
黒の本皮張りの椅子にかけた男がこちらに向き直る。
鋭い眼光がルカルカを突き刺した。
一瞬怯んだが、きっ、と倍返しのつもりで睨み返す。
「あなたがこのカジノの支配人だね?」
「ああ、そうだ。そしてオーナーでもある」
支配人は動揺することなく質問に答える。
「このカジノの地下にあるものは知ってるかな?」
ルカルカは更に追求する。
「もちろんだ。あれは我がファミリー最大の収入源だからな」
「つまり、人身売買を行っていたことは否定しないんだね?」
「そうだ。それがどうした」
ルカルカは眉間に皺を寄せる。
「それがどうしたじゃないよ! 人身売買は歴とした犯罪行為だよ。事情は後で聞くから、とりあえず逮捕するね。異論はないでしょ」
あっけない幕切れ……とはいかなかった。
「危ない!」
陽一が体を盾にセレスティアーナを守る。
他の仲間たちも己で防衛策を取っていたようだ。
「部屋中に罠が仕掛けてあるぞ。まだとっておきがある。それは……」
支配人はデスクからキャッシュケースを取り出した。
キャッシュケースの蓋を開けると、
「ボタン……?」
「まさか自爆装置?!」
真っ赤に塗られたボタンが入っていた。
「これを押せば建物もろとも瓦礫となる。証拠は何も残らない」
「く……卑怯な!」
陽一の怒りの叫びの裏側でルカルカはセレスティアーナに耳打ちした。
「今です」
と。
「ええい控えおろう!」
セレスティアーナはたちまち前に進み出ると、一言宣った。
「私は東シャンバラ代王、セレスティアーナ・アジュアである。貴様の悪行とくと見届けた。人身売買を斡旋するどころか自ら『王様』となのるなど不届き千万。どうだ、もう言い逃れはできぬぞ? おとなしくお縄につけ」
「……く」
「『OBLIVION』支配人の逮捕、完了しました」
「結局最後まで見つからなかったのは未散だったんだぞ。そもそもどうしてお前がついていながら未散が誘拐されることになるんだ!」
「う、うるさいです! だからこうして頭を下げて頼みたくない相手に手伝ってもらっていたのですよ!」
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)とハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)は一件落着した後の『玉座』へ向かっていた。
2人とも若松 未散(わかまつ・みちる)の居場所がつかめずやきもきしていたところだったが、ルカルカのテレパシー誘導により、現在は『玉座』まで上がってきたということだった。
「戻ったぞ」
「ただいま参りました」
「おまえら遅いぞ!」
扉を開くと、未散が横柄にソファに腰掛けながら待っていた。
「あまりに遅いから私一人で牢屋を出てきたぜ」
「未散!」
「うおっ?」
「ダリルさん?!」
何ということか、ダリルは未散を見るや否や、今にも泣き出しそうな顔をしながら未散を抱きしめた。
「く、くるしい……」
「無事でよかった……」
「あ、ああ」
「怖かっただろ……」
「そ、そんなことないし! 別に全然一人でも寂しくなかったし!」
「こんなに体が震えているのにか?」
「…………っ!」
未散は耳から湯気が出そうなほどに顔を上気させた。
2人の間に沈黙が続く。
先に口を開いたのは未散だった。
「聞きたいことがあるんだ」
「なんだ?」
「おまえって……なんで私のこといつも助けてくれるの?」
「なんで、って。困ってるやつがいたら……」
「じゃあ質問を変える。私のこと、どう思ってるの? 本当に妹みたいって思ってるの?」
立て続けの問いかけに口ごもるダリル。
(ダリルさんは何をしちゃってくれてるんですかまったくもう! ここはわたくしが一言ガツンと言って差し上げます!)
と、心の中で決意したハルだったが、
「…………」
未散の潤んだ瞳がハルを捕らえた。
いつもより充血したその目は、ハルに多くのことを語りかけていた。
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