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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 3/3

リアクション公開中!

少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 3/3

リアクション

ページ8

8−1

あなたの提案もあって、三人は制御室に。
壁という壁すべてが制御盤の室内では、メガネをかけた神経質そうな少年が絨毯にあぐらをかき、天井を眺めていた。

「誰だ。なにしにきた」

「瀬伊さんが、操縦してたんですか。なんとか、なりそうですか」

「ごめん。どうにもならない。
俺はいま、匙を投げたところだ」

「そんな。あきらめないで、みんなで力を合わせてどうにか」

「無理だ。こいつはこんなデカいなりをしてるクセに天ヶ原の自家用車みたいなもんだ。
やつの生体反応がなければ、動かないシステムもずいぶんある。
プロテクトを解くだけで一苦労だ」

瀬伊という少年、真琴、クリスチーナ。三人のあきらめや絶望が空気となり、室内にみちてゆく。

(いい雰囲気だな)

あなたは心地よい空気を味わいながら、砲撃でコリィベル1が破壊されるまでの数分間をすごしたのだった。

END

8−2

「再会を祝して私の特別料理はいかがかな。
できたてだ。きっと、きみの口にはあうと思うよ」

クロードは、スープとローストビーフらしき肉片、パンの乗った三つの皿をあなたの前に並べた。
食欲をそそるいいにおいがする。
どうしようかとあなたが迷っていると、厨房の奥から一人の少年がこちらへでてきた。
金髪を短く刈り上げた少年は、大きな盆を持っている。

「おいおい。おっさん、さっきはロゼにひでぇもんを食わせてくれたじゃねぇか、お礼といっちゃあなんだが、オレも料理を作ってみたんだ。あんたに食べてもらおうと思ってさ。
そっちの人、そう、あんただよ。オレの名前はシン・クーリッジ(しん・くーりっじ)。クロード・レストレイドに借りがあるんで、そいつを返しに追いかけてきたんだ。あんたがクロードの友達なら、ぜひ、一緒に食べてくれ」

シンもまた料理の皿ののった盆をあなたの前に置いた。
彼の料理は、カレーのようにみえる。

「私は特にオススメしないがね」

クロードはそう言うが、シンの料理からもあなたの食欲をそそる魅惑的な香りが漂ってくる。
我慢できなくなったあなたは、シンの料理を口にした。
とろけた骨付き肉。血のような色のスープ。各種スパイスが配合されている複雑かつ刺激的な香り。
あなたはあっという間にそれをたいらげた。

(まだ、もう一皿、二皿いけそうだな)

シンだけでなく、クロードも目まるくしてあなたを眺めている。

「フリーガンホームズ。彼にいまの料理を説明してあげてくれたまえ」

「あれは、その、おっさんの好物を適当に鍋にぶちこんで、カレーっぽく煮込んだだけのもので、オレは腹が立ってたんでそれで、勢いで」

「カリィかね。
私には、はじめから、血と臓物の煮込みにしかみえなかったよ。
あんなものをうまそうに食べる悪食は、私が知る限り一人しかいない。
やはり、きみは。
ホームズ。彼を捕えろ。説明はあとだ」

「わ、わかったよ」

料理に満足して、椅子に深く腰かけていたあなたは、椅子ごとシンに縛り上げられた。
身動きをとれなくなったあなたにクロードは語る。

「元気そうでなによりだよ。
ところで、ネットできみの活躍を読んでいて思ったのだが、きみにとっては肉体的損傷や死さえもが、何度でもやり直しのきく程度のダメージしかないようだね。
私にきみの一部をもらえないか。
どう使うかは、ご想像にお任せするよ。
もっとも、いまのきみに私の申し出を断る権利はそもそも存在しないがね」

大柄の包丁を手にしたクロードがあなたに近づいてくる。

END

8−3

「コリィベルは2つあって接続するシステムらしい。1つを破壊して廃棄するならシステム上、新しいコリィベルが用意されてるはずじゃないか。
ならば、どこかに3つめのコリィベルがいる!
推論だが・・・このコリィベルのコントロールルームに行けば、3つめを呼び出しての接続も可能なはず。
推理研のメンバーは人質開放のために動きだしてると思う。
俺は、3つめのコリィベルに救出した人質たちを受け入れたいんだ」

「なるほど。
1つめが破壊され、2つめに人質がいる、それで3つめに乗り移って脱出する、ということか」

「事件の黒幕は、安全な3つめにいる気もするしな」

蒼也は、あなたに頷きかけてきた。

同意してコントロールルームを探す→9−5 

二人の会話を黙って聞いている三船に声をかける→3−5 

8−4

「ラヴィニアさんがメモリーをもらうというのは、話が違うんじゃぁ」

「ラムズは黙ってて。
アリー。きみに過去を捨てる勇気はあるのかい」

「はい」

しばらくためらった後、アリーはバックを渡す。

「データーの入ったメモリーも紙の資料も全部、入ってます。あなたに差し上げます」

「アリー」

心配げに彼女をみつめるフレデリカとルイーザに、アリーは、ほほ笑んでみせた。

「私が持ってるよりも、使い方が上手な人が持っていた方がいいと思うの」

「それは正解だよ」

さっそくバックの中を確認しながら、ラヴィニアがこたえる。
製法マニュアルらしき紙の束をとりだし、口を開けたまま、バックを逆さにして中身を床に落とした。
数本のメモリースティックと、数枚の光学ディスク。

「危ないから、みんな離れてて」

ラヴィニアはあなたにマニュアルを投げてよこすと、火術を使って床のスティックとディスクをすべて燃やしてしまった。

「灰になりましたっと。
名無しさん。クスリの組成をみたかい。そいつは、まるで、子供のおもちゃだね。粗悪品もいいとこ。ドラックといっても、強めの精神安定剤じゃないの。
中毒性もそれほどじゃないし、ちょっと薬学の知識があれば、解毒剤こみで、誰でも作れる。
ボクはいらない。あんたは欲しいかい」

(なぜ、この女は僕にそんなことを聞くんだ。
にしても、僕にはたしかに印刷された数値から、このクスリがたいしたものでないがわかる。
中毒になったとしても、普通の町医者にいけば、簡単に治療してもらえるし、後遺症も残らないだろう。
こんなもの、僕にも必要ない)

あなたは黙って、マニュアルをラヴィニアに返す。
ラヴィニアはそれを両手で引き裂いて、床におき、再び、火柱をたてた。

「これでキミの悪夢はおしまい。
早く飛行艇に乗りなよ」

「ありがとう、ございました」

アリーが頭をさげた。

「ボクはゴミを処分しただけさ。礼はいらないよ」

あなたとラヴィニア以外の全員が飛行艇に乗った。
他のみんなの後を追って飛行艇に乗ろうとしたあなたの肩をラヴィニアがつかむ。

「キミはここに残りなよ」

「どうして」

「ここいれば、そのうち、知りたいことは全部わかると思うよ。
外よりも、いまは、こっちの方がきみ好みだし」

相変わらず、意味はわからなかったが、あなたは理屈でなく、感覚で、彼女の判断の正しさを感じた。

(おもしろい女だ)

「せっかくもらったのに燃やすなんて、もったいないな」

無意識にあなたの口が動いた。

「実際、あれは質が悪すぎでしょ。
金の成る木を持つのはボクの夢の一つなんだけどさ、死体や中毒者の上に生えるような木はゴメンかなぁ。ボクは悪党だし、他人の命なんて正直知ったこっちゃないけど、綺麗好きなんだよ。
なんか文句ある?」
「いや、悪党に文句は言わない主義なんだ」

あなただけを残して、飛行艇はコリィベルを去っていった。
あなたは→11−0

8−5

「どうして、そんなマネを」

クドの銃が撃ったのはヨンではなく、彼を救うためにクドとヨンの間に飛び込んできたアリーだった。
銃弾を受けたアリーは倒れ、彼女を追ってきたフレデリカとルイーザが彼女に駆けよる。

「アリー。なんで、あなたが、こんな」

どこに弾があたったのか、目を閉じてぐったりとしているアリーの上半身をフレデリカは膝をつき、抱きあげた。
アリーとフレデリカの様子に、ルイーザは悲しげに顔を曇らせ、クドの方をむき、

「銃はおろしてください。これ以上、ゆりかごに悲劇をひろげなくてもいいでしょう」

「お兄さんが撃とうとしたのは、アリーさんではではなくて」

「そんなのわかってるわ。だから、どうなのよ。
これがあなたの行為が生んだ現実よ。
あなたにこの責任がとれるのっ」

フレデリカに怒鳴られ、さすがのクドも口を閉じた。
だが、まだ、銃はおろさない。
様々な感情が入り乱れ、本来は流れなくてもいい血が流れたこの場面をあなたは、喜びを感じながら、眺めている。

フフフ。

思わず、笑みがこぼれる。

「アリーが、私の代わりに撃たれてしまった」

力なくつぶやき、ヨンは身をかがめ、アリーの顔をのぞきこもうとしたが、フレデリカが手を振って拒否した。

「私だって、クドさんと気持ちは変わらないわ。
アリーをこんなめにあわせたのは、ヨン。あなたなのよ。
私たちに近づかないで」

「私は大丈夫だよ。フリッカ。
廊下を歩きながら、さっきの話がきこえてきたの。ヨンさんがあの子だったのね。
あの子は、ううん。あなたは、ゆりかごでの私の一番の友達だったわ。
だからね、私とあなたがしてきたことで、あなたを傷つけるような人いるのなら、今度は、私があなたを守ってあげる」

意識を取り戻したアリーは、フレデリカによりかかりながら、立ち上がった。
緋色の法衣のために、はっきりとした出血量はわからないが、アリーは肩か胸のあたりを撃たれたらしい。

「アリー。私はきみに、そんなふうに言われるようなことは」

ヨンはアリーに手を貸そうとし、今度はルイーザにその手を払われた。

「他の人がどう思おうと、あなた自身がどう思おうと、私にとってはそれは事実なの。することがあるんでしょ。早く逃げて」

あくまでヨンをかばおうと、アリーは再び、銃口の前にいこうとする。

「待ってよ。私はあなたを連れて帰るために、にコリィベルにきたのよ。
こんなとこで、これ以上、アリーを傷つけさせるわけにはいかない」

腕と背中で、アリーをおさえ、フレデリカが前にでる。

「ルイ姉。アリーの傷をみてあげて」

「わかったわ」

フレデリカをおしのけて前にでようとするアリーをルイーザが後ろからかかえる格好で、抱きしめた。
結果として、フレデリカ、アリー、ルイーザの三人に真正面からみすえられたクドは、短いため息をつくと、ゆっくりと両手をおろす。
いつものにやけた顔になり、少女たちにウィンクをしてみせた。

「ヨン・ウェズリー。お兄さんはあなたのしたことを許しませんよ。
でも、あなたのために、本当なら傷つけなくてもいい、きれいな花を散らす気はありませんからね。
十秒だけ目をつぶりましょう。
その間に、お兄さんの前から、消えろッ!」

クドの本気の怒鳴り声が廊下に響き渡る。
きっかり十秒後、クドが顔をあげると、たしかにヨンは姿を消していた。
さらに誰も気にしたものはいないが、あなたもまたいなくなっていた。
自己犠牲の精神にあふれた友情物語や、周囲の思いにこたえて自分の怒りをおさえる人間の姿は、なぜだかは知らないが、あなたにとっては一番みたくないものだった。
(これ以上、あんなところにいたら、頭がおかしくなってしまいそうだ)

END

8−6

「こんにちは。
はじめまして」

あなたが普通にあいさつしたのに、栗色の髪の少女から返事はなかった。
彼女は黙って一歩、あなたへと踏みだし、

「さすがのあたしもこの呪文はまだ自信がないのよ。
でも、あいつを倒すにコレしかないし。
悪いけど、つぅーか悪くもないか、とにかく、あんたで試させてもらうわ。
舞。みんな、あたしとこいつから離れてて」

まぶたを閉じ、両手を頭上にあげ、呪文を唱えはじめた。

「闇よりもなお暗き・・・夜よりもなお深き・・・混沌の海・・・」

彼女の手の平に、急速に禍々しいエネルギーが集まってゆく。
詠唱を終えた彼女が、呪文の名を叫びながら、あなたにエネルギーを叩きつける。

「ギガスレぇ〜!」

消滅する瞬間、あなたは自分と同時にこの世界が壊れてゆくのを感じた。

END

8−7

あてもなく廊下を歩いていたあなたは、急にきこえてきた声に足をとめた。
悲鳴がした気がする。
普通の悲鳴ではない。
絶叫だ。
状況を確認してもいないのに、あなたは、断末魔の叫びをきいたと思った。
誰かが襲われたのだろうか。被害者がいるのなら、当然、加害者も側にいるはずだ。
何者かの襲撃に備えて、あなたは周囲に気を配る。
とりあえず、視界に人影はない。息をひそめて、耳をすますと通路の少し先から、がさごそと雑多な音が入り混じった、普通でない状況を想像させる物騒な音がする。 
立ち去ろうかと迷ったが、戻っても身の安全の保証はないし、先に進んで音の正体をたしかめようと決めた。慎重に一歩ずつ進んでゆく。
角を曲がると通路の真ん中に仁王立ちしている、少女の背中と出会った。
彼女は、まっすぐに立ち、腰に手をあて、前方を見すえている。
あなたは、近づいて、驚かさないように注意しながら、そっと肩を叩いた。

「きみは、ここでなにをし」

尋ねかけたあなたは、言葉を飲み込んだ。
彼女がなにをしているのかは、聞くまでもない。
あなたと少女の前、十数メートル先では、一目でそれとわかる戦闘が行われていたのだ。
数十人もしくは百名をこえる人間たちが通路内でもみあい、つかみ合い、斬り合い、怒声、悲鳴をあげている。
剣や斧を振るう者、銃を撃つ者、格闘術を使う者、誰かが放った攻撃魔法やフラワシ。
よく見てみると、どうやら、白衣を着た集団と、緋色の法衣のようなものをきた集団が争っているようだ。
どちらも人数はほぼ同じくらいで、互いに退く気配はまったくない。
床にできたいくつもの血だまりと、誰にも介抱されず倒れたままにされている負傷者たちの姿が、戦いの激しさを物語っていた。

「お兄ちゃんは誰。
たしはユノ・フェティダ(ゆの・ふぇてぃだ)
あのね。お兄ちゃんは、リリちゃんを知らないかな。
リリちゃんは、あたしのパートナーで探偵さんなんだよ。殺人事件の調査をしててセレマ団に捕まっちゃったんだ。
だから、あたしはコリィベルの医療チームちゃんたちと一緒にリリちゃんを助けにきたんだけど」

少女、ユノ・フェティダ(ゆの・ふぇてぃだ)は、戦闘を見つめたまま、あなたに話しかけてきた。

「つまり、ここで戦っているのは、セレマ団とかいう集団ときみときた医療チームなのか」

「うん。セレマ団が武装して大勢で待ち構えてて、ここまできたら、すぐに戦いがはじまっちゃったんだ」

「しかし、これは、大乱戦だな」

「リリちゃんがこの中にいるかどうかもわからないの。
あたしは、医療チームの人に危ないからここにいなさいって言われて。
こんなの、みんな、ケガしちゃってイヤだよ。あたし、どうしたら」

「殺し合いたい連中には、勝手にやらせておけばいいんじゃないかな」

「そんなこと言っちゃだめだよ!」

ユノの抗議にあなたは薄笑いを浮かべた。
ユノはしばらくあなたをにらんでいたが、また、前方に視線を戻し、

「あ。あれは、アリーちゃんだ。リリちゃんも、ララちゃんもいる」

争い合う両軍の間を抜け、数人の少女が、あなたとユノのいるところへと走ってくる。

「リリちゃん。ララちゃん」

ユノに呼ばれ、黒髪の少女が走りながらこちらをむく。

「ユノか。アリーを教団から強奪したのだよ。
とりあえず、リリたちを追ってくる連中をここで足止めして欲しいのだ」

「了解したよ。あたし、ここに落とし穴キットで罠をしかけるね。
じゃぁ、お兄ちゃんは、先にリリちゃんたちと行ってて。あたしもすぐに行くからね」

リリたちの一団が、あなたとユノの横を駆け抜けていった。追っ手はまだ一人もいない。
乱戦中で、追跡どころではないのかもしれない。
ユノは、自分のフラワシを防波堤のように前に立たせると、廊下に罠を仕掛けだした。

「きみを一人で残していっていいのかな」

「フラワシのゼロランサーが守ってくれるし、すぐに終わるから平気だよ。
お兄ちゃんは、早く行ってリリちゃんたちを助けてあげて。一緒にいたアリーちゃんは、セレマ団の神様だから、ゆりかごのいろんな人に狙われてるんだよ」

「ほう」

正直、リリたちの行方よりも、肉弾戦が主の凄惨なこの戦場にあなたの興味はあったのだが、ユノの説明で気が変わった。

「邪教の少女教祖の末路か。それはそれでおもしろいかもね」

「え。お兄ちゃん。なんか言った」

「なにも。では、先に行っているよ。失礼」

あなたはまだ視界の先にかろうじて背中のみえるリリたちを追って、全力で走りだす。
五分か十分か、所内をしばらく駆け続けた少女たちが足を止めた時、あなたもようやく彼女たちに追いつくことができた。彼女たちの前で、手を膝につき、床をむいて荒い息を吐く。

「ずっと私たちを追ってきたな。君は何者なのだ」

縦ロールのかかった金髪の少女が、尋ねてくる。
あなたと同じか、それ以上の速度で走っていたはずなのに、息が乱れておらず、凛とした空気を身にまとっている彼女は、西洋人形か、中世ヨーロッパの貴婦人に扮した舞台女優のごとく、陶磁器のような白い肌、茶色い澄んだ瞳、まさに麗人と呼ぶにふさわしい外見をしていた。

「私はララ・サーズデイ(らら・さーずでい)
私とそこにいるリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)は、さっき君の隣にいたユノのパートナーだ。
君はユノと関係があるのか」

あなたは顔をあげ、リリとララ、そして、残りの三人の少女を眺める。

「ララさん。僕は、ユノちゃんにあなたたちの手伝いをしろと言われて、追いかけてきたんだ。
ユノちゃんとはまだ知り合ったばかりなんだが。ところできみら以外のあの彼女たちは、誰だ」

あなたを不審者だと思ったのか、ララは答えてはくれず、当の本人たちがあなたに自己紹介してくれた。

「ミスティルテイン騎士団のフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)よ。人の名前をきく前に、あなたから名乗ったらどうなの」

「フレデリカのパートナーのルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)です。
フリッカが言う通りですね。
あなたのお名前は、なんとおっしゃるんです。私たちは、フリッカのお友達と会うためにコリィベルにきました。
あなたは、ここでなにをされているのですか」

あなたをまっすぐに見つめるストレートな物言いの少女、フレデリカと、彼女の姉的な感じで穏やかな物腰の中にもどこか油断のならないものがあるルイーザ。
あなたが二人の質問にこたえようとしたところで、フレデリカとルイーザの間にいる小柄な少女が話しはじめた。

「私は、アリー・セレマ・ベヨベヨ・ウィッチクラフト」

「きみが、少女教祖様か。
なるほど、きみと同じ緋色の法衣を着た信者たちが血まみれになって戦っているというのに、お友達と逃げだすなんて、さすがだね。
潜伏する隠れ家もすでに用意してあるのかい」

「なんて言い方するの! あなた、何様のつもりよ」

「フリッカ」

あなたにつかみかからんばかりに前にでたフレデリカの肩をルイーザが押さえる。

「そうです。私がセレマ団のリーダーです。
仲間の人たちには、すまないと、本当にすまないと思っています。
あなたはコリィベルの人ではありませんね。
私は、ゆりかごにいる人は、スタッフも含めて全員、顔をおぼえているんです。
あなたは、外から、なにか目的を持ってここへやってきたのですか。それは、私やセレマ団と関係ありますか」

「アリー。こんなやつにあなたが話しかける必要ないわ」

ピンクの髪のおさな顔のアリーは、悲しげな表情でうつむく。
フレデリカがあなたをにらみつけ、ルイーザ、リリ、ララもそれぞれ、表情をこわばらせている。
自分のぶしつけな発言のために生まれたこの険悪な雰囲気をあなたは、楽しいと思う。
こうした空気に触発されたアリーが、すべてに責任を感じて、押しつぶされてしまえばいいとさえ。

(天ヶ原明が正体をあらわして、医療チームとセレマ団が本格的に衝突を開始した。ここでのボクの仕事は、もう終わったみたいだ)

誰かの声があなたの頭の中に響く。いや、少女たちの驚いた顔をみると、あなただけでなくここにいる全員がいまの声をきいたらしい。

テレパシーか?

あなたは、声の主を探してあたりを見回す。

(アリー。さよならだよ。
ボクにはまだしなくてはいけないことがあるのだけど、それはきみとは関係ないんだ)

アリーの緋色の法衣のポケットから、小さな白いねずみのような生物が頭をだし、床に飛び降りる。
ねずみは、一瞬だけ、アリーの顔を見上げ、頭を振った。まるで頷きかけたようにみえた。

「行かないで」

アリーがつぶやく。

(もうこれからは、きみはボクじゃなくて、ここにいる友達たちとやっていくんだ)

「そんな。私、どうしたら」

ねずみが走りだした。

「待って」

「行っちゃダメ」

追いかけようとするアリーの腕をフレデリカがつかんだ。アリーは駆けだそうとしたが、フレデリカは離さない。

「あの子は、ここでずっと私を助けてくれていたの。いつも一緒だったの。
私がいてあげないと、あの子は」

「それは。それは、違う。あなたが、あれと一緒にここでつくったのがセレマ団なのなら、それは絶対に違う。
セレマ団は、アリーを本当に幸せにしてないじゃない」

フレデリカは両腕でアリーを自分の方に引き寄せ、抱きしめる。

「あなたの側にはこうして私がいるから、あいつがいなくても、アリーがこれから困ることなんて、なんにもないよ」

旧友の腕の中で、アリーはしばらく呆然としていたが、やがて、フレデリカの肩に顔をうずめた。

「ゆりかごまで迎えに来てくれる友達が一人いるだけで、ベヨは十分、幸せだと思うのだ。
これからは、大切にしなくてはならないものを間違えないようにするのだな。
ベヨに関しては、これで一件落着なのだよ。
ユノがくるのを待っててやれないのは、かわいそうなのだが、リリはセレマ団の首謀者を逃がしておくわけにはいかないのだ」

アリーとフレデリカの抱擁を眺めていたリリは力強く宣言し、隣にいるララが小さく首を振る。

「だな」

リリとララは、小動物を追って走り去っていった。
あなたは、

フレデリカ、ルイーザ、アリーとこの場に残る→6−9
リリたちと小動物を追う→10−11

8−8

気がつけばすべては終わってしまっていた。
コリィベル2と3は無事接続し、運営団体幹部によるゆりかご開放宣言が放送されたのだ。
スピーカーからは、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)のデュェットで目覚めと祝福の歌が流れていた。
あなたの前には、白いドレスの品のよい少女、橘 舞(たちばな・まい)がいて、優しくほほ笑んでいる。

「そうなんですよ。
やっぱり大切なのは、話しあいですよね。
どんな人でも長所も短所もありますし、心を開いて、言葉を交わせば、必ずわかりあえると思うんです」

推理研の仲間たちとコントロールルームにきた彼女は、部屋の隅にいたあなたを目ざとく見つけると、近づいて話しかけてきた。
あなたが適当に相槌を打って、聞き流していても、舞は話し続ける。
どうやら、彼女は、暗めの雰囲気のあなたを心配してくれているらしいのだ。

「あなたは元気のないようにみえますけど、ここでなにかつらいことがあったんですか。
もし、私でよかったら、お話をきかせてください。
これから推理研のみんなと事件解決祝いのお茶会を開くんです。
ぜひ、あなたも参加してくださいね」

「僕には、きみのような人に話せる過去なんて」

「そんなことありません。
恥ずかしがらないで。つらい思い出は誰にもあるんですよ。私にだってあります。
きっと、乗り越えられます。
今日もここで私のお友達が過去を乗り越えて、私たちのところへ戻ってきてくれたんですよ。
あなたも同じです。お茶でも飲みながら、お話しましょう」

舞に誘われるままに、お茶会の会場へと足をすすめながら、あなたは血塗られた自分の過去からどんな話しをすればいいのか、真剣に考えはじめた。

END

8−9

クレア、鮪と別れて、あなたは戦部と行動を共にすることにする。

「私のスポンサーはかなりの資産家です。
報酬は期待していただいていいと思いますよ」

「僕はなにをすればいいんだ」

「私を守ってください。
大尉殿は、さすが大局をみながら行動されているようですが、私は単刀直入にゆきます。
貴殿は私の盾になってください」

「襲撃でもする気か。
なら、僕はたいして役に立てないな。
それに二人じゃ、人数が少なすぎる」

「いえいえ。一人いてくれれば十分ですよ」

戦部はあなたの背後にまわると、素早くあなたの両手首を背中で縛りあげ、口にもタオルを押し込んできた。

「う、ぐ、なにを」

「ですから、貴殿は、私が標的に近づくための盾ですよ。
これから、作戦終了まで私語は厳禁です。
いいですね」

戦部はあなたを連れて、所内を歩き、戦部自身が着ているのと同じ制服姿のコリィベルのスタッフに話しかけた。

「不審な人物の身柄を確保しました。
こいつは大石殿と直接、話をしたいそうです。
ヨン・ウェズリーの居場所を知ってるそうで。
ヘタに拷問するよりも、大石殿にお引渡しした方が早いかと思いまして」

あなたが黙って様子をうかがっていると、戦部は言葉たくみにスタッフたちをダマし、あれよというまにあなたを連れて、大石鍬次郎(おおいし・くわじろう)の前までたどりついた。
日本刀を腰にさげた黒のキモノ姿の男、大石は、あなたちと一定間合いを保った場所に立ち、それ以上は近づこうとしない。
生気のない瞳で大石はささやく。

「しゃべりたきゃ勝手にしゃべれよ。
俺のところにきたからには、どうなっても、なぁ」

あなたは息苦しさをおぼえた。
大石の放つ殺気が周囲の空気に染み込んでいるようだ。
この男は、いつでも人を斬れる。
相手が誰だろうと容赦はしない。
あなたは、自分の隣にいる戦部が、懐に入れた手に銃を握っているのも気づいていた。
戦部も撃つ気だ。
あなたは、

大石に寝返る→4−10

一人で逃げだす→5−10

8−10

「名前、か」

「こうしてここで会ったのも、なにかのご縁だとオルフェは思うのです。
お互いに自己紹介するのも悪くない気がするのです。
オルフェはコリィベルに慰問にきて、朗読などをしていたのですけど、殺人事件に巻き込まれてしまって」

「すまない。僕は自分の名前をおぼえてないんだ」

「そ、それは大変なのです。
じゃぁ、ここにいるのもなにか事情がおありなんですね」

話を途中でさえぎられたのに、人のよさげなオルフェリアは、気遣うように優しく尋ねてきた。

「名乗るほどの名前も、過去もないので、僕はおいとまさせてもらうよ」

オルフェリアの厚意に応じて、あなたは直立して、靴の踵を揃えて、頭を下げる。

「まぁ。姿勢よくって、綺麗なのです。もしかして、パラミタの貴族階級の方なのですか」

「僕の家の作法は、自由気まま、慇懃無礼です」

「変わった作法のお家なのですね」

オルフェリアは、しゃべり続けようとしたが、突然、響き渡ったパートナーの悲鳴に注意を奪われ、あなたから目をそらした。

「倒れたのはBBさ。
すぐに治療すれば助かるかもしれないよ」

あなたはオルフェリアの耳元でささやくと足早にその場を去った。
いざという時のための特製クッキーの効果に薄笑いを浮かべながら。

END

8−11

ステージの隅の暗がりにいるマジシャンに興味をひかれて、あなたは彼女の側へと歩いて行く。
悪夢めいたこのパーテイ会場では、マジシャンが独白に没頭し、隣ではエキゾチックな美女が一人で歌をうたい、踊っていても、不思議でない気がした。
東洋人らしき美女の歌声をBGMに、シルクハットをかぶったマジシャンが詩を読むかごとく、己の暗い過去を語り続けている。

「殺すしかない命もある。
そんな命でも、本人やある人にとってはかけがいのないもの。
それでも、大多数の人の幸福のためには殺すしかないと判断された命をワタシは奪った。
兵器のように。
あの頃のワタシは兵器だった」
彼女の物語は、暗く救いがなくて、あなた好みだった。
ずっと聞いていたいと思う。
BGMの歌が明るすぎるのがやや不満だが。
あなたは

マジシャンの独白を最後まで聞く→6−11 

コツコツとかすかな音が聞こえる。音の正体をたしかめにゆく→ 4−11 

陰鬱な空気に支配されている会場内でそこだけ、「な、なんだってぇ!?」などと奇声をあげ、盛り上がっている一団がいる。一団の様子をみにゆく。→9−12 

8−12

リネンの計画は、すでに実行段階に入っていた。
あなたは手伝いとして、ステージ上のイレブンが、リネンとフェイミィに襲われた時に、水晶玉が床に落ちてしまわぬよう、ステージ下に待機して、もし落ちてきた水晶玉を拾う係をやっている。
イレブンのいるステージにフェイミィがあがる。

「はぁーん。毒ガスで皆殺しだと。
やってみろよ、11号さんよ!
オレの剣とてめぇが水晶を叩きわるの、どっちが早いか勝負といこうじゃねぇか!」

剣をかまえ、イレブンを挑発した。
イレブンはフェイミィを見ず、水晶を頭上に持ち上げ、

「いまだリネン!」

フェイミィの合図を受け、アクセルブレスを発動したリネンが三十倍速モードで飛翔し、イレブンに体当たりし、さらにイコンを切り裂くという腕力で、追撃のストレートパンチ。
イレブンは、ステージの端まで吹っ飛ばされ、壁に激突した。
体当たりされた瞬間に、彼の手を離れた水晶玉は、ステージ下のあなたが見事キャッチ。
すべては事前の作戦通り。時間にすれば十数秒間の出来事だった。
あなたは拳大の水晶玉の中にある、紫の液体をみつめる。
気化させれば、数千人を殺せる毒薬らしい。

(消滅させるより有効な使い道はないだろうか)

知らぬ間にうっとりとした表情を浮かべていたあなたの手から、水晶玉を奪い取ったのは、長衣をきたドラゴニュートだ。

「我は、マデリエネ・クリストフェルション(までりえね・くりすとふぇるしょん)
これはそなたに持たせておくには、危険すぎる代物なのだよ」

マデリエネは素早く氷術で水晶玉を氷つかせてしまうと、懐にしまった。

「ここで、もし、もう一度、そなたに会うことがあれば、その時には言いたいことがある。会わねばそれはそれでよいのだがな。汐月が心配なのだ。行こう。カレヴィ」

「僕はカレヴィ・キウル(かれぶぃ・きうる)。きみにはもう会いたくないな。ここでなくてもね」

マデリエネとカレヴィは、毒ガスの恐怖から解放されたものたちが、一斉に出入り口に殺到し、混乱する会場の人混みの中に消えていった。

(竜人ごときが偉そうに)

おもちゃを取られたあなたは舌打ちをし、二人と同じく、ここからでるためにドアへとむかう。

END