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【神劇の旋律】ストラトス・チェロを手に入れろ

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【神劇の旋律】ストラトス・チェロを手に入れろ

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第十二章 ストラトス・チェロの行方 2

 その数日後。
 テスラの名声も手伝って、チェロのお披露目を兼ねたコンサートには予想以上に多くの人々が集まった。
 契約者たちも、あるものは演奏する側で、そしてまたあるものは客席で、演奏開始の時を待っている。

「ああああ……まさかテスラさんの、ストラトス・チェロの隣で演奏できるなんて!
 なんだかどんどん緊張してきた……どうしようフラメル!」
 そわそわと落ちつかない終夏を、ニコラは微笑ましげに見守る。
「そんなことを言って、ヴァイオリンを手にすればいつも通りに戻るだろう?」
「私もそう思います」
 白花の言葉に、終夏は首を横に振っていたが……実際、演奏が始まるとその通りになったのである。

「まさか、ストラトス楽団のチェロと同じステージに上がれるとは思いませんでしたね」
 犯人捕縛の際の演奏を聴いていた契約者たちに誘われ、同じくヴァイオリニストとして参加することになったアルテッツァ。
「いいんじゃない? またとない機会だもの、楽しみましょうよ」
 レクイエムの言葉に、彼は少し考えてから頷いた。

「もしできることなら、とは思ってたけど……まさか、本当にそんな機会が来るなんて」
 いまだに何が起きているか信じられないような表情を浮かべている東雲。
 今回のコンサートには歌曲も含まれており、彼がそれを歌うことになっていた。
「我がエージェントよ、落ちつかぬ時は我をもふって癒しを得るとよいぞ?」
「え? ああ、うん、ありがとう」
 言われるままにンガイを抱き上げてしまう辺り、やはり相当落ち着いていない様子であった。
 
「カメラ、マイク、よし……」
 このコンサートの模様を撮影する許可を得たのは優希。
 実際その映像が使えるかどうかはさておき、やはり「撮れるものは撮っておく」のが鉄則である。





 そうして、演奏が始まった。

 最初はチェロのお披露目の意味も兼ねて、ストラトスが作曲したチェロの独奏曲から。
 テスラの演奏によって、チェロが力強く、奥の深い音色を奏で始める。

(良い楽器、良い音色……それ以上の価値なんて考えられない)
 客席の隅で、カンナは幸せそうな笑みを浮かべていた。
 もともと彼女も音楽家であり、いろいろな楽器を演奏できていたはずなのだが、今は重度のスランプから抜け出せていないため、今回は演奏者としての参加を辞退していたのである。

「さすがはストラトス楽団のチェロ、いい音色じゃない」
 最後列の席に座るハーティオンの肩に腰かけ、満足そうな笑みを浮かべるラブ。
「そうだな。心に響く音色というのは、きっとこういうことをいうのだろう」
 その言葉に、ラブは楽しそうに笑った。
「そんなことは、どのマニュアルにも載ってないと思うけど。だんだんわかってきたみたいね」





 次の曲からは、ヴァイオリンの三人も加わり、一気に賑やかになる。
 ヴァイオリンの高音はチェロと比べて華やかさがあるが、その華やかさがチェロの音色を覆い隠すのではなく、逆にその味わいを際立たせていた。

「素敵な演奏ね……」
 曲の合間に、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)はしみじみとそう言った。
「そうですね……」
 隣で微笑む刀真にそっと寄りかかる。
「月夜?」
「ちょっとだけ、こうしていてもいい?」
「ええ」
 寄り添ったまま、目を閉じて演奏に耳を傾ける。
 感じられるのは美しい音楽と、隣にいる愛しい人だけ。
 そのひと時が、月夜には幸せだった。





「チェロを買い取ったはいいものの、それ以来一度もその音色を聴いたことはなかったのだよ」
 セニエ氏は、初めはそう言って笑っていた。
 だから、「『自分の』チェロの音色を聴いておきたい」というだけのことだろうと思っていた。
 そしておそらく、実際その通りだったはずだった。

 それだけのことだったはずなのに。
 気がつくと、セニエ氏は次第に身を乗り出すようにして演奏に聴き入るようになっていた。
 そして、そうなった理由は、クロウディアにもよくわかっていた。

 最後の曲を残して、クロウディアは無言で席を立った。
 もはやセニエ氏の結論を聞くまでもないことが、彼女にはよくわかったからだった。





 最後の曲は、歌曲だった。
 東雲の伸びやかな声が、楽器の音色よりも明確なメッセージ性を持つ言葉が、さらに聴衆の心をつかむ。
 そんな中でも、ストラトス・チェロの音色はさながら全てを包み込む大地のように終始存在感を発揮し続け、コンサートは大成功に終わったのだった。